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土地収奪 ~フィリピン・バイオエタノール事業~
プロジェクト概要
目的:
①サトウキビを原料としたバイオエタノール製造・販売。
年間54,000kl、用途はフィリピン国内の自動車用ガソリンへの混合
②サトウキビ残渣からの再生可能エネルギー電力供給
最大19MW、余剰電力は外販。
場所:フィリピン・イサベラ州サン・マリアノ町(ルソン島北東部)
今後、サトウキビ栽培農地については、同州の他町等にも拡大予定
総事業費: 約120億円
事業者:
Green Future Inovation. Inc.(GFII)
・・・日本、フィリピン、台湾企業の出資する合弁会社。日本企業は伊藤忠商事、日揮。
ECOFUEL Land Development Inc.
・・・フィリピン資本。サトウキビ栽培・供給の役割を担うGFIIのビジネス・パートナー
栽培農地面積: 11,000ha。うち2,000haは企業所有、9,000haは農民と契約の予定。農民との契約形態は、①Lease Contract(土地賃貸契約)、②Growership Contract(栽培契約)
製造プラント:サン・マリアノ町マラボ村
敷地面積=31ha(うち4ha=発電所併設)
環境影響評価(EIA)後、環境許認可証明書(ECC)は取得済み
販売開始予定:2012年第1~第2四半期頃
問題点
●地元有力者等による土地収奪とサトウキビ栽培契約
・バイオエタノール事業のためのサトウキビ栽培の対象地域となっているサン・マリアノ町では、先住民族(カリンガやアエタ)や農民が、数十年にわたり、米、コーン、バナナ、野菜、果樹等を栽培してきたものの、「土地権利書」等のない公有地のままであるケースが多くある。そうした土地では、以前から、本来の土地利用者でない個人の名義による変則的な土地権利書等の発行や、土地シンジケートの介在による土地権等の喪失など、様々な形態の土地収奪が起こってきた。結果として、農民および先住民族が土地から追い出されるケースも見られた。
・現在、サン・マリアノ町では、そうした土地収奪が大規模化、また、加速化する様相を呈している。実際に、農民や先住民族が長期間利用してきた農地を地元有力者等が収奪し、バイオエタノール事業者とサトウキビ栽培用の土地賃貸契約をしているケースや、当該地を利用してきた農民らの合意なしで強制的に事業者
による農地の調査が行なわれているケースが見られる。なかには、すでにサトウキビの栽培が開始される等、農地の利用(米、コーン等の栽培)ができなくなったため、主生計を失い、生活の困窮化を訴える先住民族も出ている。
●農作物の転換
・バイオエタノール事業者は「未利用地のみをサトウキビ栽培に利用する」と説明しているが、これまで実際に土地賃貸契約がなされ、サトウキビ栽培が始められている土地の中には、上記のような地元有力者等による土地収奪のあった農地が含まれている。つまり、これまで長年にわたり、農民や先住民族が米、コーン、バナナ、野菜、果樹等々を植えてきた生産性の高い農地において、サトウキビへの作物転換が起こっている。また、バイオエタノール事業者は現在、米、コーン等を耕作している農民らを世帯毎に回り、土地賃貸契約の交渉を積極的に行なっている。このような生産性のある農地において、米やコーン等からサトウキビへの作物転換が増えれば、今後、食糧事情の悪化の可能性は否めない。
●不利な条件での農地賃貸と確約されない利益
・年間1ヘクタール当たり5,000ペソ(約10,000円)という安い土地賃貸料金が設定されているが、これでは生活の基本的なニーズも満たせない。それにもかかわらず、契約期間中も企業ではなく貸している側の農民が土地税等を支払うなど、農民に不利な契約内容となっている。したがって、バイオエタノール事業者が、
長期間にわたり農地を耕作してきたにもかかわらず、「土地権利書」等を取得していない多くの農民らのために、土地権利取得の手続きを進めると説明しているが、このような不利な条件下での契約であるなら、土地権利書を取得できたとしても、農民らの生活は困窮化する可能性がある。
・Growership Contract(栽培契約)の場合の企業による買取り価格が依然として不明であり、生活に十分な収入は確約されていない。
・年1回の収穫しかできないサトウキビではなく、米(年1~2回の収穫が可能)やコーン(年2回の収穫が可能)等の耕作継続を希望する農民は多い。
●サトウキビ栽培地における低賃金の季節労働
・バイオエタノール事業者によれば、11,000ヘクタールのサトウキビ栽培により、約3,000世帯の継続的な雇用創出が見込まれるという。しかし、フィリピンの他地域での多くのサトウキビ農園がそうであるように、サトウキビ栽培の農業労働は作付け期や収穫期における季節労働が一般であり、定期的な雇用ではない。
・上記で示したような土地収奪が行なわれ、すでにサトウキビ栽培が開始されている場所では、農業労働者の低賃金の問題や賃金支払いの遅れの問題が報告されている。
●適切な住民協議の欠如
・複数回の住民協議に出席した住民らによれば、当初、バイオエタノール事業者は、土地賃貸契約の内容について、年間1ヘクタール当たり20,000ペソ(約40,000円)との説明を口頭で行なっていたが、住民との議論もないまま、回を重ねる毎にその契約額を下げた。最終的には、住民からの不満や意見を取り入れな
いまま、契約額は5,000ペソ(約10,000円)にまで引き下げられた。
・事業者によれば、契約時に農民と契約内容や条件を話し合うということだが、実際には、契約書の雛形がすでに用意されており、農民が選択可能なのは契約年数のみである。
●契約交渉等における不十分な情報提供と説明
・住民協議の場や個々人との契約交渉時に、事業に関する説明用の書面や契約書等が一切配布されず、口頭での説明のみのため、事業・契約の内容に関して住民は十分に理解できていない。
・土地賃貸契約書は英語で、かつ、法律用語を多用したものであるため、地元農民にはその内容の十分な理解が困難である。(農民が理解できる言語・様式による説明用の書面が作成されるべき。)
●適切な住民参加が妨げられる恐れ
・サン・マリアノ町にはフィリピン国軍の駐屯地が、少なくとも8つの村に設けられており、2010年10月の村レベルにおける選挙の期間中、バイオエタノール事業に反対した農民らへの軍による嫌がらせがあったことが報告されている。
・バイオエタノール事業に関する反対意見を述べてきた地元農民組織のメンバーらが、政府の補助プログラムの受益者リストから名前を削除すると脅されるなどのケースが起きている。