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フィリピン・コーラルベイ/タガニート・ニッケル製錬事業
フィリピン・北スリガオ州でつづく六価クロムによる水質汚染 ―日本企業が関わるニッケル開発事業周辺地での2019年乾季の水質分析結果(2019年8月)
写真1:タガニート川上流側の鉱山の様子。降雨がなく、鉱山サイトで粉塵が舞い上がる様子(2019年8月) 写真2:ハヤンガボン川上流側の鉱山の様子。降雨がなく、鉱山サイトで粉塵が舞い上がる様子(2019年8月) 写真3:ハヤンガボン川上流側の鉱山の様子と地元漁民の漁船。(2019年8月) 写真4:タガニート川下流側で見られた浚渫機。川底の浚渫は続けられている様子。(2019年8月) |
FoE Japanが専門家の協力の下、2009年から続けているフィリピンでのニッケル開発現場周辺の水質調査も、11年目に入りました。
パラワン州リオツバ、および、北スリガオ州タガニートで、長年、日本企業が深く関わり操業しているニッケル鉱山・製錬所(詳細は下表1を参照)の周辺の河川水や湧水では、依然として日本の環境基準(0.05 mg/L以下)を超える六価クロムが検出され続けています。
六価クロムは発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等も指摘される毒性の高い重金属です。地元住民の健康被害等を未然に防止する観点からも、早急かつ有効な汚染防止対策の確立と実践が事業者に求められます。
地元政府機関の甘い監視や規制の下、『ダブル・スタンダード』で公害輸出をすることがないよう、日本の関連企業・関連政府機関は、日本国内と同等の基準を遵守するための積極的な対応をとるべきです。
【地図】
パラワン州・北スリガオ州の日系ニッケル鉱山開発・製錬事業
【表】
パラワン州・北スリガオ州における日系ニッケル鉱山開発・製錬事業
場所 | パラワン州バタラサ町 | 北スリガオ州クラベル町 | |
鉱山開発 | 企業 | リオツバ・ニッケル鉱山社 (ニッケル・アジア社(NAC*)60%、大平洋金属36%、双日4%) |
タガニート鉱山社 (NAC*65%、大平洋金属33.5%、双日1.5%) |
操業開始 | 1975年 | 1987年 | |
採掘許可 | 990 ha (2023年まで) | 4,682 ha(2034年まで) | |
製錬 | 事業者 | コーラルベイ・ニッケル社 (住友金属鉱山54%、三井物産18%、双日18%、RTNMC 10%) |
タガニートHPALニッケル社(住友金属鉱山75%、NAC*10%、三井物産15.0%) |
総事業費 | 第1製錬所 約1.8億米ドル 第2製錬所 約3.07億米ドル |
約15.9億米ドル | |
公的機関 | 第1製錬所 国際協力銀行(JBIC)融資 (7,031万5千米ドル) 日本貿易保険(NEXI)付保 第2製錬所 NEXI付保 |
JBIC融資 (約7.5億米ドル及び約1.08億米ドル) NEXI付保 |
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操業開始 | 第1製錬所 2005年4月 第2製錬所2009年6月 (年間生産能力計2万4千トン) |
2013年9月 (年間生産能力3万トン) |
●北スリガオ州クラベル町タガニートでの水質調査(2019年8月)
ハヤンガボン川とタガニート川の2箇所の河川水では、乾季で少雨ということを受けてか、前回などと異なり、日本の環境基準(0.05mg/L以下)を超える六価クロムは観測されませんでした。これは専門家も指摘しているとおり、野積されたニッケル鉱石から降水により六価クロムが溶出されるメカニズムがある可能性を示唆するものです。
一方で、ニッケルはこれらの河川で2地点とも日本の水道法の管理目標値(0.01mg/L)を超過する量が検出されました。
2018年12月の調査で、六価クロムに関して強い反応(約0.6mg/L)を示した湧水は乾季のため枯れており、今回は計測不可能でした。
今回は、その湧水に代わり、5月下旬頃から同地域のニッケル事業者(Platinum Group Metals Corp.=PGMC)が住民に配給支援を始めたという水(No. 4)を検査しました。結果は、日本の環境基準および水道法基準(0.05mg/L)とほぼ同じ六価クロムが検出されました。
住民の話によると、PGMC自身、「同配給水は鉱山からの水」だとし、飲料用としての使用を禁止しているとのことでしたが、飲料水を購入するようにしているとは言え、同配給水を料理、水浴び、洗濯に利用していることから、住民の安全な水の確保という観点からは、依然問題が残されている状況が見られました。
今回の水質調査の結果を受け、専門家は、以下の点を指摘しています(詳細は水質分析結果の資料を参照)。
・六価クロムはNo.4だけで検出された。日本の環境基準および水道法基準(0.05mg/L)とほぼ同じである。これが飲用を止められているとはいえ、デリバリー水としてタンクに供給されているというのは問題である。他の検体で六価クロムが検出されなかったのは明らかに乾期で降水がなかったためであろう。
・ミンダナオ島北スリガオ州タガニート地区全域にわたって、深刻な六価クロム汚染およびニッケル汚染が住民が生活用水や飲用に使用している浅い地下水を汚染していることが再び判明した。
・パラワン島リオツバ地区において同様の汚染が判明していることと併せて考えると、熱帯域のラテライト層の露天掘りが普遍的に六価クロム汚染を発生させているのではないかという仮説が成り立つ。
・ミンダナオ島におけるラテライト鉱山およびニッケル現地精錬プラントにおいて、一刻もはやく対策を立てて実行しなければならない。住民の健康被害及び内湾や沿岸域の生態系破壊が懸念されるからである。もし対策が立たなければ、プロジェクトの中止も考慮されるべきである。
・タガニートでは中国など複数国からの企業が同様の開発を行っており、何らかの開発規制を実現させるためには、国際的な連携と圧力、及び、フィリピン政府による毅然とした環境保全行政の実践が必要不可欠である。
写真5(左):ハヤンガボン川下流の様子(2019年8月)
写真6(右):タガニート村から見えるタガニート・ニッケル製錬所の煙突(2019年8月)
写真7(左):前回、2018年12月に調査したプンタ・ナガ移転地入口から左手に下った地点の世帯が利用していた湧水は枯れていた(2019年8月)
写真8(右):写真7のプンタ・ナガ移転地入口から左手に下った地点の世帯が、現在利用しているPGMCが提供した水タンク(2019年8月)
写真9(左):6価クロム簡易検知管検査は、いずれもタガニート川でNo. 2(左=反応なし)、および、No.6 (右=0.05>mg/L)(2019年8月)
写真10(右):6価クロム簡易検知管検査は、左から順にNo. 2(反応なし)、No.3 (反応なし)、No. 7(Trace)、No. 6(0.05> mg/L)、No. 5(0.05> mg/L)、No. 4(0.05 mg/L)(2019年8月)
>2019年8月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学元非常勤講師、中部大学元非常勤講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)による北スリガオ州タガニート・ニッケル開発・製錬事業周辺地域における水質分析結果(現地調査期間:2019年8月25日~26日)