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フィリピン・コーラルベイ・ニッケル製錬事業
フィリピン・パラワン州および北スリガオ州でつづく六価クロムによる水質汚染
―日本企業が関わるニッケル開発事業周辺地での2018年乾季の水質分析結果(2018年9月)
リオツバ入江から見えるリオツバ・ニッケル鉱山開発地域と製錬所の煙突(2017年9月)
リオツバ・ニッケル開発地域から流れてくるトグポン川(2016年10月)
タガニート村から見えるタガニート・ニッケル鉱山開発地域と製錬所の煙突(2018年5月)
タガニート鉱山開発地域から流れてくるタガニート川河口での浚渫作業(2018年5月) (撮影:FoE Japan) |
FoE Japanは2009年から専門家の協力を得ながら、フィリピンで日本が深く関わっているニッケル開発事業(詳細は下表1を参照)の周辺地で継続的な水質調査を行なっています。これまで、パラワン州バタラサ町リオツバ、および、北スリガオ州クラベル町タガニートにおけるニッケル鉱山・製錬所周辺地域の河川水や湧水などで、日本の環境基準を超える六価クロムが検出されてきました。
以下で詳述するとおり、今回、2018年4月、および、5月に各地域で行なった水質調査の結果からも、両ニッケル開発地域における深刻な六価クロムの水質汚染の実態が裏付けられました。六価クロムは発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等も指摘される毒性の高い重金属であり、地元住民の健康被害等が起きぬよう未然防止の観点からも、早急かつ有効な汚染防止対策の確立と実践が事業者に求められます。日本の関連企業・関連政府機関は、地元政府機関の甘い監視や規制の下、『ダブル・スタンダード』で公害輸出をすることがないよう、日本国内と同等の基準遵守を積極的に確保していくべきです。
【地図】
パラワン州・北スリガオ州の日系ニッケル鉱山開発・製錬事業
表1:
パラワン州・北スリガオ州における日系ニッケル鉱山開発・製錬事業
* NACに対する住友金属鉱山の出資比率は25%
●パラワン州バタラサ町リオツバでの水質調査(2018年4月)
この10年間の水質分析の結果から、リオツバ地域のニッケル鉱山・製錬所周辺のトグポン川で、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」(以下、環境基準)(0.05 mg/L以下)を超える六価クロム負荷が、雨季にほぼ常時起きていることが明らかとなっています(下表2を参照)。
表2:トグポン川における六価クロム分析結果 10年間の推移 (Unit: mg/L)
(注:太字で記載した数値は、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」である「0.05 mg/L以下」を超えたもの。)
(*) 高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)による日本での分析結果。
(**) 六価クロム簡易検知管パックテストによる現場での分析結果
(***) 降雨出水時サンプル。六価クロムは上清、全クロムは濾液。
FoE Japanが行なった2018年乾季(4月)の水質調査結果では、これまでの乾季と同様、トグポン川での環境基準を超える六価クロム負荷は見られませんでした。これについて、専門家は、「今回の結果は、改めて六価クロムの発生原因は鉱山エリアおよびプロジェクトエリアにおいて雨水によって溶出されたものであることが確認されたことになる。」と指摘しています(詳細は水質分析結果の資料を参照)。
日本企業によれば、2012年頃から鉱石置き場のシート掛け、沈砂池の掘削、また、河川につづく沈砂池の出口付近における活性炭の設置など、六価クロムの流出を軽減する対策をとっているとのことです。しかし、現場では、2012年以降も雨季に日本の環境基準を超える六価クロムが検出される傾向に変化は見られず、こうした汚染対策が効果を発揮しているかは大変疑問です。
トグポン川は幹線道路に面しており、子どもを含む住民が比較的容易にアクセスできる場所にあります。健康被害を未然に防ぐ観点から、事業者は抜本的な汚染対策を策定するためにも、NGOがかねてより提案してきた汚染源の究明を目的とするNGOとの共同水質調査を受け入れるべきです。事業者の早急かつ賢明な判断が求められます。
写真左:トグポン川
写真右:六価クロム簡易検知管検査(Trace)の結果。(2018年 4月29日、FoE Japan撮影)
>2018年4月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学元非常勤講師、中部大学元非常勤講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)によるパラワン・ニッケル開発・製錬事業周辺地域における水質分析結果
(現地調査期間:2018年4月29日~30日)
・パラワン州水サンプル採取場所地図(2018年4月)
●北スリガオ州クラベル町タガニートでの水質調査(2018年5月)
タガニートでは、2013年2月以来の調査になりました。5年前の調査では、同地域のハヤンガボン川とタガニート川の2箇所の河川水で、日本の環境基準(0.05 mg/L以下)を超える六価クロムが検出されています。また、タガニート鉱山開発の影響を受ける先住民族ママヌワのコミュニティーが移転地で利用している水についても、継続的な六価クロム汚染の疑いのある水を住民が生活用水や飲用として使用している実態が指摘されていました。
FoE Japanが行なった2018年5月の水質調査結果では、前回の調査で一番高い六価クロム検出量を記録したハヤンガボン川で同検出量に減少が見られたものの、タガニート川では依然として環境基準を超える六価クロムが検出されました(0.15~0.2mg/L)。
先住民族ママヌワの移転地では、約30世帯が約2年間、生活用水や飲用として利用しているという海域近くの湧水で、六価クロムが日本の環境基準、および、水道法基準(0.05mg/L)を超過。また、同湧水、および、移転地近くの幹線道路沿いで汲める湧水で、ともに、ニッケルが日本の水道法の管理目標値(0.01mg/L)を超過しました(詳細は水質分析結果の資料を参照)。住民によれば、事業者は飲料水を定期的に提供してくれるものの、大勢の家族での日々の生活には足りないとのことでした。
専門家はこれらの湧水について、「住民が飲用を含む利用をしているだけに、早急な対策が必要である。」と指摘しています。日本企業によれば、利用できなくなっている移転地内の水タンク給水施設を早急に復旧したい意向とのことですが、各々の先住民族コミュニティーの要望、相互の関係性・事情を踏まえた迅速な対応・解決策が求められます。
また、専門家は、「タガニート地区全域にわたって、深刻な六価クロム汚染が河川水や住民が生活用水や飲用に使用している浅い地下水を汚染していることが判明した。」とし、パラワン州リオツバでのニッケル開発地域とともに、「住民の健康被害及び内湾や沿岸域の生態系破壊が懸念されるため、一刻もはやく対策を立てて実行しなければならない。もし対策が立たなければ、プロジェクトの中止も考慮されるべきである。」とコメントしています。
タガニートでは、日本企業だけでなく、中国などもニッケル鉱山開発を行なっていますが、日本企業は他企業とも連携しながら、六価クロムの生成メカニズムの解明と環境負荷実態の解明、また、汚染防止対策の確立と実践など、早急な対応をとることが求められています。
写真左:ハヤンガボン川上流側
写真右:先住民族ママヌワの移転地( 2018年5月23日、FoE Japan撮影)
写真左:No. 4 移転地近くの幹線道路沿いで水を汲む先住民族ママヌワの住民
写真右:六価クロム簡易検知管検査の結果。左から順にミネラルウォーター(反応なし)、No.4先住民族ママヌワの移転地近くの幹線道路沿いで汲める水 (Trace)、No. 2ハヤンガボン川(Trace)、No. 3先住民族ママヌワが利用している海域近くで汲める湧水(右中=0.075 mg/L)、No. 1 タガニート川(右=0.15 mg/L)(2018年5月23日、FoE Japan撮影)
>2018年5月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学元非常勤講師、中部大学元非常勤講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)による北スリガオ州タガニート・ニッケル開発・製錬事業周辺地域における水質分析結果
(現地調査期間:2018年5月23日~24日)
・北スリガオ州水サンプル採取場所地図(2018年5月)