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フィリピン・ニッケル鉱山開発・製錬事業
フィリピンにおける先住民族・農民リーダーの殺害に関する日本NGOの共同声明
(19団体・ネットワーク賛同)
2月6日(月)、フィリピンの大規模開発等の現場で、自分たちの土地の権利を生命をかけて守ってきた先住民族や農民のリーダーが殺害されるという深刻な人権侵害の状況について、日本のNGO 19団体・ネットワークから日本政府・企業、および、フィリピン政府に対し、以下の共同声明を発出しました。
同声明では、暗殺という許容しがたい人権状況を強く非難するとともに、日本政府・企業に対し、各殺害事件の早急な調査や先住民族・農民リーダーの保護など、人権状況の改善に向けた対応をフィリピン政府に要請するよう求めています。また、人権状況が改善されない場合には、日本が投融資を行なう現場で、土地や環境を守ろうとしている先住民族や農民リーダーに対する人権侵害の加担者になる可能性が否めないことから、投融資の停止や撤退を考慮するよう警告しています。
1月20日に暗殺された先住民族ママヌワの若きリーダーである”ニコ”こと故ヴェロニコ・デラメンテ氏(27歳)。同写真は、ニコが生前2012年5月にママヌワの仲間と中国系の鉱山企業に対して抗議デモを行なっていた際にインタビューに答えてくれたときのもの。このとき、彼は次のように語ってくれました。
「ここ(移転地)の生活はコンクリートの家で、電気やテレビもあって、よく見えるかもしれないね。でも、決して自分たちが望んでいた(発展の)形ではないんだ。ここでは農業もできないし、木も山に行かないとない。海は(鉱山サイトから流出した)赤土で汚れてしまって魚も獲れない。生活の糧がないんだ。」 「最初にこの地での鉱山活動を許した自分たちの年長者を責めはしない。でも、もしチャンスがあるのであれば、企業が鉱山のために先祖の土地を使うのを止めさせたい。」 ――彼の遺志を私たちはしっかり受け止めていきます。 |
以下、日本NGOによる共同声明です。
→共同声明のPDF版(日本語)はこちら 注:一部文書訂正のため、2月13日時点で更新
共同声明のPDF版(英訳)はこちら
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2017年2月6日
フィリピンにおける先住民族・農民リーダーの殺害に関する
日本NGOの共同声明
私たちはこれまで、フィリピンにおいて日本が関与する大規模開発事業が地元で引き起こしている環境社会・人権問題について関心を持ち、その問題の解決を日本政府・企業に働きかけてきました。そのなかで、日系企業が出資(脚注1)し、国際協力銀行(JBIC)も融資(脚注2)を行なっている地域である北スリガオ州クラベル町で、去る1月20日に起きた先住民族ママヌワのリーダーの殺害について、私たちは大変な衝撃を受けたことを表明するとともに、この暴挙を強く非難します。
カラガ地域・先住民族組織連合(Kasalo-Caraga)の活発なメンバーであったヴェロニコ・デラメンテ氏(27歳)は、タガニート・ニッケル鉱山開発・製錬事業の影響を受ける先住民族ママヌワのリーダーの一人で、日系企業を含む幾つもの企業が地元の先祖代々の土地で進める大規模なニッケル鉱山開発に反対し、ママヌワの権利のために闘ってきたことで知られていました。通称“ニコ”として親しまれた若きリーダーは、地域の人びとからこよなく愛され、尊敬され、自分たちの土地に対する権利のため立ち上がることの重要さをいつも先頭に立ち、コミュニティーに示してきました。
“ニコ”は1月20日午後12時半過ぎ、クラベル町カグジャナオ村プンタ・ナガ集落(脚注3)で、オートバイに乗ってやってきた2人組によって射殺されたとのことです。彼は、Platinum Group Metals Corp. (PGMC)が同地域で計画する鉱山開発の拡張について、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を先住民族として承認するか否かに関する調査のため、フィリピン先住民族国家委員会(NCIP)が招集した会合に出席しようとしていました。このFPICの承認については、すでに昨年12月に議題にあげられており、そこで“ニコ”は拒否する意向を示していました。その後、“ニコ”はこの拒否に関連して死の脅迫を受けていたとのことです。
フィリピンでは、この1月だけで、こうした先住民族や農民のリーダーが4名も殺害されています。1月5日に殺害された南コタバト州のチボリ民族のチーフテインは、パーム・プランテーション開発による先祖代々の土地の収奪の問題と闘ってきました。また、1月20日と25日には、西ネグロス州でサトウキビ農園労働者のリーダー2名が殺害されています。両者とも真の農地改革を目指し、小農民の権利のために闘っていました。
また、私たちの脳裏に依然鮮明に残っているのは、昨年9月7日のイサベラ州デルフィン・アルバノ町ヴィラ・ペレダ村でのアリエル・ディアス氏の殺害です。”マノン・アリエル”は、日系企業 が始めたイサベラ州バイオエタノール事業による農地収奪や農業労働者の問題に取り組んできたイサベラ州農民連合(DAGAMI)の代表をここ数年務めてきました。ヴィラ・ペレダ村は、同事業による農地収奪に対し、農民が徹底して闘ってきた場所でした。”マノン・アリエル”はその小柄な体付きからは想像できないほど、気骨ある、頼りがいのあるリーダーでした。
フィリピンでは歴代の政権下でも、国軍や大土地所有者・鉱山会社等の民間の傭兵などが関与する政治的殺害や強制失踪など、深刻な人権侵害が多発してきましたが、現政権下でもこうした人権状況が改善されていないことは非常に由々しきことです。自分たちの土地の権利を生命をかけて守ってきた先住民族や農民のリーダーに対し、これ以上、このような殺害行為や深刻な人権侵害が起きてはなりません。フィリピン政府は早急に以下の対応をとるべきです。
1. 独立した主体による各殺害事件の調査
2. 大土地所有者、鉱山会社等の庇護の下にある民間傭兵を含む加害者に対する調査と訴追
3. コミュニティー内外で続いている先住民族に対する嫌がらせや脅迫の停止
4. 土地や環境を守ろうとし、活動を行なっている小農民や環境保護リーダーの保護
5. 世界人権宣言、およびフィリピン政府が批准しているあらゆる主要な人権条約の遵守 (注:同項目の一部文書訂正のため、2月13日時点で更新)
また、私たちは特にフィリピンへ巨額の投融資を行なおうとしている日本政府、および、日本企業に対しても、こうしたフィリピンでの深刻な人権侵害状況について警告を発します。去る1月12日、安倍晋三内閣総理大臣は、ロドリゴ・ドゥテルテ・フィリピン共和国大統領との日・フィリピン首脳会談において、「政府開発援助(ODA)及び民間投資を含め、今後5年間で1兆円規模の支援を行う」ことを表明しました。(脚注5)
しかし、フィリピンの現状では、市民への暴挙とも言うべき重大な人権侵害が多発しています。こうした一連の殺害事件等は、犠牲者の周辺の市民に深い悲しみをもたらすだけではなく、自分の身に同様の事態が起こるのではないかと懸念する市民の声を圧迫する可能性は否めません。こうした状況下では、日本のODAの実施機関である国際協力機構(JICA)や海外への民間投資を支援するJBICの環境社会配慮ガイドラインの下、また、国際的にもグッド・プラクティスとして求められているような「地域社会の社会的合意」や「適切な住民参加」、「適切な住民協議の場」を確保する素地が損なわれています。
私たちは日本政府や日本企業が、フィリピンへの巨額の投融資を続ける前に、以下を行なうべきだと考えます。
1. フィリピンの人権状況の実態を把握し、フィリピン政府に対し、上記5点を含む早急な対応と人権状況の改善を求めるべき。
2. 状況が改善されない場合には、日本が投融資を行なう現場で、土地や環境を守ろうとし、活動を行なっている地元の先住民族や農民リーダーに対する人権侵害の加担者になる可能性が否めないことから、投融資の停止や撤退も考慮すべき。
私たちは、現在、フィリピンで起こっている許容しがたい人権侵害の状況に対し、日本政府、および、日本企業が思慮ある、毅然とした行動をとることを期待します。
以上
(以下、19団体・ネットワークが賛同)
(特活)アジア・コミュニティ・センター21(ACC21)
特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター(PARC)
特定非営利活動法人 APLA
「インタグの鉱山開発を考える」実行委員会
The International Coalition for Human Rights in the Philippines - Japan Chapter (ICHRP-Japan)
インドネシア民主化支援ネットワーク(NINDJA)
特定非営利活動法人WE21ジャパン・グループ(WE21ジャパン、WE21ジャパン大和・ほどがや・すみだ・海老名・旭・いずみ・藤沢・にのみや・かながわ)
国際環境NGO FoE Japan
ODA改革ネットワーク・関西
KAFIN Migrant Center(入間、浦和、川口、名古屋、飯能、横浜)(Kalipunan ng mga Filipinong Nagkakaisa, or Association of United Filipinos)
関西フィリピン人権情報アクションセンター
認定NPO法人 高木仁三郎市民科学基金
日比NGOネットワーク(JPN)運営委員会
特定非営利活動法人 日本ヌエバエシハ・ファウンデーション
NPO法人 ビラーンの医療と自立を支える会
フィリピン人権問題国際連盟 日本支部(JALISA)
特定非営利活動法人 フィリピン日系人リーガルサポートセンター
NPO法人 フリー・ザ・チルドレン・ジャパン
WAYAWAYA
連絡先:
国際環境NGO FoE Japan
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
Tel:03-6909-5983 Fax:03-6909-5986
送付先:
内閣総理大臣 安倍 晋三 様
財務大臣 麻生 太郎 様
外務大臣 岸田 文雄 様
国際協力銀行 代表取締役総裁 近藤 章 様
国際協力機構 理事長 北岡 伸一 様
在フィリピン日本大使 石川 和秀 様
住友金属鉱山株式会社 代表取締役社長 中里 佳明 様
大平洋金属株式会社 代表取締役社長 佐々木 朗 様
双日株式会社 代表取締役社長 佐藤 洋二 様
三井物産株式会社 代表取締役社長 安永 竜夫 様
伊藤忠商事株式会社 代表取締役社長 岡藤 正広 様
日揮株式会社 代表取締役社長 川名 浩一 様
H.E. Rodrigo Duterte, President of the Philippines
Hon. Jesus Dureza, Presidential Adviser on the Peace Process
Ret. Maj. Gen. Delfin Lorenzana, Secretary, Department of National Defense
Hon. Vitaliano Aguirre, Secretary, Department of Justice
Hon. Jose Luis Martin Gascon, Chairperson, Commission on Human Rights
(脚注1)北スリガオ州クラベル町タガニート地域で鉱山開発を進めてきたタガニート鉱山社(TMC:Nickel Asia Corporation(NAC)65%、太平洋金属33.5%、双日1.5%の出資比率)は、1989年に日本向けて初の商用出荷を行なって以来、操業を継続。採掘許可は4,862.7 haとなっている。また、同地域でニッケル製錬事業を進めるタガニートHPALニッケル社(THPAL)には、住友金属鉱山(75%)、三井物産(15%)、NAC(10%)が出資。THPAL事業の原料となる低品位ニッケル酸化鉱(Limonite)はTMCが供給している。なお、NACには住友金属鉱山が25%を出資している。
(脚注2)JBICは2011年7月5日、タガニート・ニッケル製錬事業を進めるタガニートHPALニッケル社と融資総額7億5,016万6千米ドル限度の貸付契約に調印。
(脚注3)鉱山開発により長年にわたり幾度も居住・生活場所を追われてきた先住民族ママヌワに対し、TMCとPGMCが提供した移転地。
(脚注4)2011年当初は、事業者であるGreen Future Inovation. Inc.(GFII)に対し、伊藤忠と日揮が約70%を出資。しかし、経済性を理由に日本企業はすでに撤退をしていたことが2016年に判明。
(脚注5)https://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea2/ph/page3_001951.html
(以上)