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フィリピン・コーラルベイ・ニッケル製錬事業
フィリピン・パラワン州に続き、北スリガオ州のニッケル開発事業周辺地でも水質汚染
――2012年4~5月の水質分析結果(2012年9月)
2012年9月
FoE Japanは2009年から、専門家の協力を得て、フィリピンのパラワン州バタラサ町で継続的な水質調査を行なっています。2012年4月下旬から5月上旬にかけては、そのパラワン州だけではなく、ミンダナオ島北スリガオ州のニッケル開発・製錬事業周辺地域でも河川水・飲料水等の水質調査を行ないました。
その結果、パラワン州で顕著な水質汚染が見られたように、北スリガオ州でも、6価クロムによる水質汚染が判明しました。6価クロムは発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等も指摘される毒性の高い重金属です。
【表・地図】パラワン州・北スリガオ州における日系ニッケル鉱山開発・製錬事業
場所 | パラワン州バタラサ町 | 北スリガオ州クラベル町 | |
鉱山開発 | 企業 | リオツバ・ニッケル鉱山社 (ニッケル・アジア社(NAC)60%、太平洋金属36%、双日4%) |
タガニート鉱山社 (NAC 65%、太平洋金属33.5%、双日1.5%) |
操業開始 | 1975年 | 1987年 | |
採掘許可 | 990 ha (2023年まで) | 4,682 ha(2034年まで) | |
製錬 | 企業 | コーラルベイ・ニッケル社 (住友金属鉱山54%、三井物産18%、双日18%、RTNMC 10%) |
タガニートHPALニッケル社 (住友金属鉱山62.5%、NAC 22.5%、三井物産15.0%) |
公的機関 | 第1製錬所 JBIC融資、NEXI付保 第2製錬所 NEXI付保 |
JBIC融資、NEXI付保 | |
操業開始 | 第1製錬所 2005年 第2製錬所2009年 |
2013年操業開始予定 |
これまでの水質分析の結果から、すでに、パラワン州南部のトグポン川では、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」(0.05 mg/L以下)を超える6価クロム負荷がほぼ常時起きていることが明らかになっています。
今回2012年4月下旬の現地調査では、トグポン川の6価クロムは、2011年10月、あるいは、2012年2月よりも低めでしたが、この点について、専門家は「降水量との関係性を示唆するかもしれない。」とコメントしています。トグポン川は、リオツバ鉱山開発鉱区を経由して流下する河川であり、また、コーラルベイ・ニッケル製錬所の排水を処理するテーリングダムからのオーバーフロー水も流入する河川であることから、事業者側は、6価クロムの生成メカニズムの解明と環境負荷実態の解明、および、汚染防止対策の確立など、早急な対応をとるべきです。
また、今回、初めて水質調査を行なったミンダナオ島北東部の北スリガオ州クラベル町でも、ハヤガボン川やタガニート川で、環境基準(0.05mg/L)を超える6価クロムが検出されました。これに関し、専門家は「ミンダナオ島のタガニート地区の6価クロム汚染が判明したことは極めて重要。パラワン島リオツバ地区だけでなく、熱帯地方特有のラテライト層を金属採掘目的で掘り起こせば、必然的に6価クロム汚染を招来するという普遍則の存在の可能性が増してきた。」と述べています。
ハヤンガボン川(2012年5月 FoE Japan撮影) | タガニート川(2012年5月 FoE Japan撮影) |
さらに、同町では、地元コミュニティーが飲料・生活水として長年利用してきたという河川、また、事業者であるTMCが先住民族コミュニティーに提供している生活水(※)(先住民族コミュニティーによれば、生活水としてだけではなく、飲料水としても利用)などからも、日本の「公共用水域の水質汚濁に係る環境基準」のうち、「人の健康の保護に関する環境基準」や世界保健機構(WHO)飲料水ガイドラインの基準(0.05mg/L)を超える6価クロムが検出されており、これらの水の飲料水としての使用の中止と早急な対策が求められています。
>2012年4月、5月の水質調査に関する専門家による詳細な分析結果とコメントはこちらでご覧になれます。
・大沼淳一氏(金城学院大学講師、元愛知県環境調査センター主任研究員)によるニッケル開発・製錬事業周辺地における水質分析結果分析結果
(現地調査期間:パラワン=2012年4月29日~30日、北スリガオ=2012年5月8日~10日)
・パラワン州水サンプル採取場所地図(2012年4月)
・北スリガオ州水サンプル採取場所地図(2012年5月)
(※)このTMCの提供している水については、事業者側によれば、「生活用水」として提供しているもので、飲料水については、事業者が逆浸透膜を通した高度処理のRO水を提供しているとのことです。
この点につき、FoE Japanからは、さらに以下の対応を事業者に求めています。
・飲料水、および、生活用水の水質分析結果についての情報公開(6価クロムの基準を超過している水を生活用水として配給していることも問題であるため)
・当該水の水源、6価クロムの汚染源、水質分析の結果、当該水が配給された期間、また、考えられる健康への影響等に関する地域社会への十分な説明