【COP25 vol.4】 国際排出取引市場にNOを!気候正義に基づいたルールにYESを!

気候変動2024.7.10

COP25開幕以来、今回の交渉の大きな論点の1つであるパリ協定第6条の「国際排出取引市場(Carbon market)」に対し、市民社会が強く反対の声を上げています。

そもそも国際排出取引市場とは?

国際排出取引市場の仕組みとしては主に「キャップ・アンド・トレード(cap and trade)」と「カーボン・オフセット(Carbon offsetting)」の2種類があります。

「キャップ・アンド・トレード(cap and trade)」とは、国や地域レベルで排出できる温室効果ガスの排出総量枠(キャップ)を定め、その排出量を排出者(企業・事業等)に分配し、それぞれの排出者が余剰排出枠を売買(トレード)する仕組みのことを言います。

2つめの「カーボン・オフセット(Carbon offsetting)」は、吸収量もしくは排出削減量で他者の排出量の一部を相殺できる仕組みです(例:温室効果ガスを“排出”した代わりに、埋め合わせとして植林・森林保護等を行い、温室効果ガスを“吸収”する)。また、吸収もしくは排出削減できた分を削減クレジットとして、他の排出者に販売することができます。

国際炭素取引はなぜ問題?

一見、国際排出取引市場は温室効果ガスの排出量削減につながるように見えますが、全体としては排出する場所が変わるだけで削減にはならず、抜け穴を通じて逆に排出量の増加につながります。温室効果ガスの継続的な排出を認めることになるため、大規模な温室効果ガスの絶対量削減を遅らせるという大きな欠陥があります。

例えば「キャップ・アンド・トレード」は、排出者Aが自らの割り当てられた排出量より少ない排出で済んだ場合、余った量を他の排出者Bに売ることができ、排出者Bはもともと定められた排出量を超えて温室効果ガスを排出できることになります。

「カーボン・オフセット」の場合、前述のように、「カーボン・オフセット」によって生成された排出権は取引可能なため、キャップ・アンド・トレード同様、売り先の排出者に継続的な排出を認めることになります。また、同じ量の温室効果ガス排出を削減するにしても、先進国を中心とした多くの事業者は、費用を抑えるために途上国等で実施する事例が多く、そのほとんどが実質的な削減となっていなかったり、環境破壊や人権侵害が生じていたりしています。例えば、森林保全を行い、温室効果ガス吸収源を確保した分に見合う金銭的付加価値をつける森林劣化減少を抑えるREDD+(Reducing Emissions from deforestation and forest Degradation )という国際制度がありますが、この制度によって先住民族が住む土地の囲い込みが発生するなどの問題も発生しています。

(カーボン・オフセットについてのFoE Japanの見解はこちら

このような問題点を指摘するため、FoE グループはAsian People Movement on Debt and Development(APMDD, アジアの途上国市民グループ)やIndigenous Environmental Network(IEN, 先住民族グループ)、La Via Campesina(小農民連合)とともに記者会見を開催しました。

アジアの途上国市民グループのメンバーからは、

「(今までは京都議定書の下で国際排出取引市場の仕組みがあり、現在、パリ協定の下で京都議定書の国際排出取引市場に代わる仕組みについて議論されているが)私たちに必要なのは、新たな国際排出取引市場ではなく、国際排出取引市場の廃止です。 化石燃料は地中に留め、使用を減らし、自然と調和する形で環境を回復させていかなければなりません。」

とのコメント。

先住民族グループのメンバーも、

「パリ協定第6条は単に人権保護の観点が欠如しているだけではない。このまま(の6条の議論の流れ)だと気候変動対策が遅れ、破壊と企業による土地収奪につながってしまう。」

と訴えました。

また、La via Campesinaのメンバーは、国際排出取引市場に頼らない方法への舵きりの必要性が強調されました。

「国際炭素取引はむしろ気候変動を促進するだけでなく、小農民から土地を引き剥がす世界最大の犯罪。私たちはこの動きに対抗するために連帯し、アグロエコロジーを進めなければなりません。」

一方の交渉の動きは

COP25においては、今年6月のボン会合で合意した交渉ドラフトがありましたが、水曜日朝、議長により更新された交渉ドラフトが出てきた程度で、一週目は各国・各交渉グループの要求に大きな変化や議論の進展は見られていません。

国際排出取引市場における各国の考え方について、インド、中国、ブラジルは、京都議定書の下で実施されたクリーン開発メカニズム(CDM)で発生したクレジット(温室効果ガス排出権)をパリ協定の下でも使用できるようにすることを求めています。しかし、彼らの保有するクレジットの量はEUの年間排出量に相当する量で、さらなる大量排出が可能になってしまうことから、小島嶼国連合や途上国グループはもちろん、炭素取引を推進したいと考えているEU、日本なども強く反対しています。

また、一部の先進国は、人権とジェンダー保護をルールから除外するよう求めています。 もしこの要求が通過してしまった場合、人権を尊重するための措置が、事業が実施される国の制度にのみ委ねられることになってしまいます。

そのほか、米国等は国際民間航空機関(ICAO)で準備中のカーボン・オフセット制度(CORSIA, Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)との接続を主張していますが、航空業界からの排出量は莫大で、それを相殺しようとするとパーム油など大規模バイオマス燃料の推進などにつながり、森林破壊や土地収奪につながる可能性も高いと指摘されています。

国際排出取引市場に関する本格的な交渉については、2週目の閣僚級会合に委ねられることになりそうです。

NO to Carbon Market, YES to Real Solutions

FoE グループは、記者会見を共催した市民団体とともに、国際炭素市場の問題点をまとめています("CARBON MARKETS AT COP25, MADRID – A threat to people, politics, and planet –

また、気候正義や企業の責任追及等に取り組んでいる市民団体の1つであるCorporate Accountability International(CAI)によって、パリ協定第6条8項にて提案されている非市場制度(国際炭素取引や市場メカニズムに頼らない気候変動対策)も提案されています。"Real Solutions, Real Zero: How Article 6.8 of the Paris Agreement Can Help Pave the Way to 1.5°"

気候変動による損失や被害が顕在化する現在、気候変動対策は迅速かつ確実なものであるべきであり、炭素市場への依存は取り返しのつかない事態をもたらしかねません。

パリ協定実施期間においては、パリ協定の1.5˚C目標達成のために温室効果ガスの追加的な排出を許す余裕はなく、自らの温室効果ガスの排出は自分で削減することが重要です。そして絶対的な温室効果ガスの削減につながるルールの策定が求められています。

(高橋英恵、深草亜悠美、小野寺ゆうり)

 

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