バイオマス発電をめぐる要請書提出ー環境負荷が大きい事業はFIT対象外に
本日、国際環境NGO FoE Japanは、「バイオマス発電に関する提言~FIT法の目的である『環境負荷の低減』の実現を」と題する要請書を、経済産業省、資源エネルギー庁、農林水産省、林野庁、環境省宛てに提出しました。
要請書では、多くの輸入バイオマス燃料は、栽培・加工・輸送・燃焼を含めたライフサイクル全体でみたとき、化石燃料に匹敵する温室効果ガス(GHG)を排出すること、森林減少などの土地利用転換を含む場合は、さらに膨大なGHG排出を伴うこと、また、悪臭や騒音などの公害によって、住民生活に悪影響を与える事業や、住民の求めにも関わらず燃料に関する情報開示が行われていない事業があることを挙げ、FIT法の目的である「環境負荷の低減」どころか、問題のあるバイオマス発電によって、地球レベル・地域レベルでの環境破壊が進行していることを指摘。これを防ぐため、ライフサイクルを通じてのGHG排出削減が十分期待できない事業、パーム油を燃料とする事業、放射性物質など汚染物質が含まれる燃料を想定している事業をFITの対象から除外すること、また、事業者に対して、環境影響評価の実施と、地域住民への十分な説明、情報公開、合意の取得を行うことなどを求めています。
「一般の市民の電力料金によって、森林を破壊したり、地域住民の生活を脅かしたりするバイオマス発電が進められることは本末転倒。こうした事業をFITの対象から外すべき」とFoE Japanはコメントしています。
現在、FITで認定されたバイオマス発電所の多くが、木質ペレット、PKS、パーム油などの輸入燃料に依存しています。たとえば、木質ペレットの輸入は、近年急増し、2019年は160万トンを超えており、今後も増加することが予想されます。一方で、バイオマス発電の燃料の生産に伴う森林や生態系破壊、ライフサイクルにわたるGHGの排出が報告されています。
FoE Japanは他の環境団体と連携して、資源エネルギー庁や林野庁のバイオマスFITに関するガイドラインの強化を働きかけていく予定です。
要請書(PDF、内容はすべて同じです)
>経産省・資源エネ庁宛 >農林水産省・林野庁宛 >環境省宛
バイオマス発電をめぐる要請書
FIT法の目的である「環境負荷の低減」の実現を
2020年7月14日
国際環境NGO FoE Japan
現在、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)により、バイオマス発電が急速に拡大しています。しかし、認定量の大部分は木質ペレット、パーム油、PKS(パーム核殻)などの輸入燃料に依存しています。
多くの輸入バイオマス燃料は、栽培・加工・輸送・燃焼を含めたライフサイクル全体でみたとき、化石燃料に匹敵する温室効果ガス(GHG)を排出します(注1)。また、森林伐採による土地利用転換を伴う場合は、生物多様性の破壊や化石燃料をはるかに上回る量のGHGを排出します。バイオマス発電は決して炭素中立ではありません。
また、公害によって、住民生活に悪影響を与えるバイオマス発電事業もあります。
京都府福知山市で稼働中のパーム油発電所では、騒音、悪臭により、住民の生活が脅かされています。福島県田村市における木質バイオマス発電所では、放射能濃度の程度が高い樹皮は使わないという事業者の当初の説明は翻され、住民が開示請求を行ったのにもかかわらず、燃料調達計画は一切開示されませんでした。放射能汚染を懸念する住民が提訴する事態となっています。
FIT法ではその目的に「環境負荷の低減」を掲げていますが、問題のあるバイオマス発電の促進により、地球レベル・地域レベルでの環境破壊が進行していることを危惧しております。
近年、資源エネルギー庁によるFIT認定に関する「事業計画策定ガイドライン」が強化され、とりわけパーム油の持続可能性に関して、RSPOとRSBの第三者認証による確認が盛り込まれました。これは大きな前進です。しかし、GHG排出の評価については新規燃料に限定されており、不十分です。また、最近輸入が急増している木質ペレットについては平成18年2月に林野庁が策定した「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」が使われ続けています。これは、合法性・持続可能性証明を事業者任せにしているともいえる内容で、抜け穴が多いものです。 私たちは、他のNGOと共同で、2019年7月「バイオマス発電に関する共同提言」(注2)を発表しておりますが、同提言も踏まえ、以下の通りFITに関する認定基準の見直しを要請します。
- ライフサイクルを通じての温室効果ガス(GHG)排出削減が十分期待できない事業、パーム油を燃料とする事業、放射性物質など汚染物質が含まれる燃料を想定している事業をFITの対象から除外すること
- 輸入木質バイオマスに関し、持続可能性・合法性の確認手法について具体的に検討し、ガイドラインに盛り込むこと
- 事業者に対して、環境影響評価の実施と、地域住民への十分な説明、情報公開、合意の取得を求めること
- 事業者に対して、事業のライフサイクルを通じてのGHG排出に関する評価およびその根拠、燃料の種類および生産地、持続可能性証明に関する情報公開を求めること
- 住民や第三者から、事業に関する疑義が提起されたときに、適切に調査し、解決するためのメカニズムを導入すること
要請の理由
1. ライフサイクルを通じての温室効果ガス(GHG)排出削減が十分期待できない事業、パーム油を燃料とする事業、放射性物質など汚染物質が含まれる蓋然性が高い燃料を想定している事業をFITの対象から除外すること
・ FIT法の目的は、「環境負荷の低減」となっている。環境負荷の低減には、GHG排出削減も含まれるはずである。FITが電力ユーザーの賦課金で成り立っている以上、十分な環境負荷の低減になっていることが求められる。
・ 多くの輸入バイオマス燃料が、栽培・加工・輸送・燃焼などのライフサイクルでみたときに、化石燃料と同等のGHG排出を伴っている。FITという公的な枠組みで促進する以上、ライフサイクルにおけるGHGの排出量が、化石燃料と比して十分削減されていることが必要であり、少なくともLNG比50%未満であることを要件とすべきである。
・ 具体的には、資源エネルギー庁として、産地・燃料別にGHG排出のデフォルト値を算出し、明らかに除外すべきものを示すべきである。グレーゾーンのものについては、事業者自身が、十分な算定根拠とともにGHG排出評価を公開することを求めるべきである。
・ とりわけ、パーム油は、土地利用転換のリスクが高く、土地利用転換を伴う場合には、森林生態系にも大きな影響を与えるとともに、莫大なGHG排出を伴う(熱帯林開発を伴う場合は約5倍、泥炭地開発を伴う場合は139倍)。RSPOなど第三者認証を取得していたとしても、RSPO(2013)は原生林など保護価値の高い生態系以外の森林開発は許容しており、RSPO(2018)についても、2018年11月以前の森林開発は許容しているなど、限界や抜け穴はある。また、RSPOはGHG排出に関して、基準を設けているわけではない。 耕作可能な農地が有限である以上、バイオマス発電の燃料としてRSPO認証油を使用することは、当該土地でつくられていた作物が追い出され、森林開発圧力となる「間接的影響」も考慮されなければならない。こうした理由から、パーム油を燃料とする事業はFIT対象事業から外すべきである。
・ 放射能汚染された樹皮や木材などの燃焼を前提としたバイオマス発電計画もみられ、住民から懸念の声があがっている。バグフィルターを付けたとしても、燃焼に伴い、放射性物質が付着した微小粒子が一定程度もれる。現段階では、燃料となる木質バイオマスの放射能濃度には規制がかけられていないため、高濃度の放射性物質が付着した燃料が燃やされる恐れがある。稼働中のモニタリングや灰の処分についても、事業者まかせとなっている。
・ 新規燃料については食料との競合は回避すべきことは事業計画策定ガイドラインにすでに盛り込まれている。しかし既存燃料であるパーム油は対象となっていない。既存燃料についても適用すべきである。
2. 輸入木質バイオマスに関し、持続可能性・合法性の確認手法の有効性について具体的に検討すること。既存の林野庁のガイドラインを強化、もしくは資源エネルギー庁の事業策定ガイドラインに統合すること
・ 木質ペレットの輸入は、近年急増し、2019年160万トンを超えた(財務省貿易統計)。北米、ベトナムからの輸入が多い。今後も増加し続けることが予想される。
・ 北米において、生物多様性や先住民族の権利を脅かすような伐採、天然林の皆伐、残材ではなく丸太からの木質ペレットの生産が報告されている(注3)。持続可能性に関する認証にも多くの欠陥があり、認証の有効性を精査する必要がある。
・ 木質バイオマスに関しては、持続可能性・合法性の確認について、林野庁「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」(平成18年2月)を参照することとされている。しかし、当該ガイドラインは、FIT法施行以前のものであり、策定からすでに14年を経過している。内容としても、第三者認証のみならず「関係団体による認定」「個別企業の独自の取組」も許容している。持続可能性ワーキンググループで、パーム油に関して、いくつかの認証について、その内容が十分か否か踏み込んで検討されたのに比して、木質バイオマスについては事業者任せとなっており、甘いと言わざるをえない。
・ FSCなど既存の森林認証制度は、バイオマス発電燃料を想定してつくられたものではない。また、GHG排出に関して数値的な基準を設けているわけではない。
・ ベトナムからの木質ペレットに関しては、多くのバイオマス事業者がFSC認証されたものを利用しているとしている。本来は、インボイスやパッキングリストで輸入材がFSC認証材であることおよびサプライヤーがCoC認証を取得していることの双方の確認が必要となるはずであるが、実際には、サプライヤーがCoC認証を取得していることのみを確認しているとしている事業者が少なからずいる。CoC認証は流通管理での分別管理を認証しているのみであるが、そうしたことがガイドラインからは読み取れない。
・ ベトナムからのFSC認証ペレットの輸入に関しては、認証林面積から試算された生産量を大幅に上回る量が輸入されていたため、認証の詐称ではないかという指摘がなされていた(注4)。これに対しては、FSCジャパンがプレスリリースを発表し、「FSC認証制度上は認証林に由来しない他の原材料の使用も認められるため、認証林面積から試算された生産量と認証ペレットの輸入量の不整合が必ずしも認証偽装を示すものとは言えない」という見解を示した(注5)。一方で、FSC認証制度上は、一定の基準を満たした管理木材、農業残渣や建設資材廃棄物もFSCミックスとして認められているが、建設廃材が木質ペレットの原料にまぜられていたとすれば、FITのカテゴリーとして「一般木質」には該当しないことになる。このように、現在の認証制度をFITの持続可能性・合法性の確認として使う際には、留意しなくてはならない点も多い。
3. 事業者に対して、環境影響評価の実施と、地域住民への十分な説明、情報公開、合意の取得を求めること
・ 三恵福知山バイオマス発電所(京都府福知山市)では、騒音・悪臭で住民の生活が脅かされている。住民説明会で、事業者は「防音壁の設置で社屋外での騒音は50デシベル以下に抑える。臭いも植物油特有の軽く甘い匂いであり問題にならない」としていたが、実際は70デシベル以上の騒音が生じている。
・ タケエイが福島県田村市で進めるバイオマス発電事業では、当初、事業者は、放射能濃度が高い樹皮は燃料として使わないと説明していたが、その後、樹皮も使うことになった(注6)。また、放射能汚染を懸念する住民が燃料調達計画に関する情報開示請求をかけたのにもかかわらず、開示された文書はすべて黒塗りされている状態で、燃料調達計画は開示されなかった。また、放射性物質拡散対策としての追加で設置するとしたヘパフィルターの性能をめぐっても、事業者は性能基準を明らかにしなかった。その後、放射能汚染を懸念した住民が訴訟を起こす事態となっている。
・ 現在、「事業計画策定ガイドライン」には、「住民との適切なコミュニケーション」が盛り込まれているが、「適切なコミュニケーション」だけではあいまいである。住民への十分な説明および情報公開が不可欠である。
・ 法的に環境影響評価が義務付けられていなくても、FITという公的な枠組みで促進される事業である以上、自主的な環境影響評価とその公開を求めるべきである。
4. 事業者に対して、事業のライフサイクルを通じてのGHG排出に関する評価およびその根拠、燃料の種類および生産地、持続可能性証明に関する情報公開を求めること
・ 要請の「1.」において書いた通り、燃料生産地、燃料の種別によってGHG排出が明らかに多い事業は、最初からFITの認定対象から外すべきであるが、そうでないものについては、事業者が事業のライフサイクルを通じてのGHG排出評価およびその根拠を公開すべきである。
・ 住民および第三者が、環境社会影響や持続可能性について検証できるよう、燃料の種類、生産地、認証などの持続可能性に関する情報は開示されるべきである。現在は、パーム油については、第三者認証スキームの名称、発電所で使用した認証燃料の量及びその認証燃料固有の識別番号についての開示を求めているが、通常それだけでは生産地をたどることはできない。また、木質バイオマスなどについてはこうした記述がない。
・ 情報公開は、事業の信頼性向上や、問題ある事業の実施に一定の歯止めをかけるためにも必要不可欠である。
5. 住民や第三者から、事業に関する疑義が提起されたときに、適切に調査し、解決するためのメカニズムを導入すること
前述のように、三恵福知山バイオマス発電所、田村バイオマスエナジー発電事業など、住民から重大な疑問が提起されている。また、ベトナムからの木質ペレットについては、認証偽装ではないかという問題提起があった。事業がFIT法や事業計画策定ガイドラインに反していることが疑われる場合、住民や第三者による苦情や申立てなどを受け付け、適切に調査し、解決するためのメカニズムを導入すべきである。
注1)経済産業省委託 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「バイオマス燃料の安定調達・持続可能性等に係る調査報告書」(2019年2月)p.112
注2)ウータン・森と生活を考える会、環境エネルギー政策研究所(ISEP)、気候ネットワーク、国際環境NGO FoE Japan、地球・人間環境フォーラム、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、バイオマス産業社会ネットワーク「バイオマスに関する共同提言」(2019年7月6日)
注3)Stand. Earth, April 2020, Investigation – Canada’s growing wood pellet export industry threatens forests, wildlife and our climate;
Partnership for Policy Integrity and Dogwood Alliance, March 2016, Carbon Emissions and Climate Change Disclosure by the Wood Pellet Industry – A Report to the SEC on Enviva Partners LP
注4)一般社団法人環境金融研究機構「固定価格買取制度(FIT)のバイオマス発電燃料の輸入木質ペレットにFSC認証の大量偽装の疑念。ベトナムでは生産可能量の5.5倍も「認証」付与。バイオマス発電の持続可能性に疑問(RIEF)」(2020年5月23日)
注5)FSCジャパン プレスリリース「FSC森林認証制度をバイオマスの固定価格買取制度(FIT)に活用する際のご注意」
注6)政経東北2017年10月号「バイオマス発電計画で揺れる田村市大越町」、市民放射能監視センター(ちくりん舎)資料>トップへ戻る
【関連資料】
>「バイオマス発電に関する共同提言」
>声明:FITバイオマス発電に温室効果ガス(GHG)排出評価を!――学識者ら276人
>何が問題? H.I.S.のパーム油発電Q&A
>北米の木質ペレット生産地での環境・社会影響 タイソン・ミラー/Stand.earth 森林プログラムディレクター(国際セミナー:森林バイオマスの持続可能性を問う〜輸入木質燃料とFIT制度への提言における講演資料)