COP25マドリード会議~気候危機はすでに私たちの目の前に
2018年に続き2019年も、世界各地で猛暑や大雨・洪水が起こっています。フランスやパキスタンでは記録的な熱波、アマゾンやインドネシアでの森林火災、日本でも昨年の西日本豪雨に引き続き、今年10月は連続して上陸した巨大台風によって大きな被害がありました。年々脅威を増す気候変動はもはや「気候危機」と表現されています。 にもかかわらず、なぜ大人たちはすぐに行動しないのか。そう訴え、2018年8月にスウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんが、たった一人でスウェーデン国会前で座り込みを始めました。その行動は世界中の若者を動かし「未来のための金曜日(Fridays For Future)」と呼ばれるムーブメントに発展しています。
そんな中開催された今回のCOP25でも各国の対策強化が注目された他、前回の会合で決定が見送られたパリ協定6条の実施細則に関する部分(いわゆる国際市場メカニズムに関するルール)、「損失と被害」が注目議題でした。
論点整理
>COP25マドリード開幕 – 気候危機を乗り越えるために今システムチェンジ
FoEインターナショナルによる初日の記者会見の様子はこちら
>COP25初日終了 – 政府によるチリ市民への弾圧への連帯を、そして市場メカニズムにNOを!
今回の交渉の大きな論点の1つであるパリ協定第6条の「国際排出取引市場(Carbon market)」に対しては、FoEグループや、先住民族グループなどが強く反対の声を上げています。一見、国際排出取引市場は温室効果ガスの排出量削減につながるように見えますが、全体としては排出する場所が変わるだけで削減にはならず、抜け穴を通じて逆に排出量の増加につながります。温室効果ガスの継続的な排出を認めることになるため、大規模な温室効果ガスの絶対量削減を遅らせるという大きな欠陥があります。また、さまざまな個別案件で人権侵害や環境破壊も報告されており、FoEグループは国際市場メカニズムに一貫して反対の姿勢をとっています。
国際市場メカニズム
>国際排出取引市場にNOを!気候正義に基づいたルールにYESを!
COPは通常、一週目から2週目頭にかけて技術的な交渉が行われ、技術的な交渉だけでは決められない政治決定が必要な部分が2週目後半に各国大臣レベルの閣僚を迎え話し合われます。
COP25の中間報告
交渉が閣僚レベルにうつる中、会場内では環境NGOや先住民族グループなど市民社会による大規模なアクション(抗議行動)が行われました。1週目の交渉では、重要な議題にほぼ進展はありませんでした。重要な議題に中には、歴史的に気候変動の原因を作り続けてきた先進国や企業に求められている、すでに深刻化しつつある損失と被害を受けているコミュニティへの資金提供も含まれます。その代わりに交渉の場から聞こえてくるのは、グリーンウォッシュ、間違った気候変動対策、そして抜け穴だらけの市場メカニズム等、気候危機をさらに加速させるような内容です。 さらに、先進国は人権保護メカニズム、ジェンダーアクションプランを市場メカニズムから取り除こうとしています。
このような状況に危機感を覚えた市民社会がアクションを企画。当初、参加者は会場内でスピーチを試みましたが、会場の警備の強い指示の下、外へ移動させられそのまま会場から追い出されてしまいました。アクションへの総参加者数は約320人。しかし、アクションに参加したしていないにも関わらず、イエローバッヂ(交渉の傍聴団体)の参加者は、この日の会場の出入りを禁じられることになりました。
期間中のアクション
>市民の警鐘は会場に響くか? 参加権利剥奪を伴った大規模抗議
また、日本の化石燃料融資に対する批判の声は、2017年のCOP23、前回のCOP24に引き続き、再び会場に響きました。
COP25は、終了予定だった土曜日から、月曜日まで会期を延長し終了しました。会議終盤、主要議題であった国際市場メカニズムや目標引き上げは合意に至らず、これらの論点は来年の中間会合に持ち越されることになりました。
既に発生・拡大している損失や被害に対応するため、途上国提案を基にした支援制度の強化が盛り込まれました。また、温室効果ガス排出の賠償責任を負わないとする文言を求めた米国の主張は途上国によって拒否されました。
国際市場メカニズムに合意がなかったことは、むしろ多くの排出を許すルール決定に至らなかったという意味であり、今後も国際市場メカニズムをめぐる戦いは続くことになります。
COP25閉幕
FoEグループが考える気候危機への解決策は、多国籍企業等の利益や経済成長を優先する社会から、自然やそれとともに生きる人々を中心にすえた持続可能で民主的な社会への抜本的な変革(System Change)です。
化石燃料事業、環境破壊を引き起こす原発や大規模バイオマス発電等の誤った気候変動対策、カーボンオフセットなど市場原理を利用した「解決策」、損失と被害への資金支援としての保険の導入は、気候変動対策にならないだけではなく、大企業や多国籍企業の力を強め、さらなる経済的な格差の拡大につながります。
これ以上の気候危機を防ぐためには、エネルギーの自治権を人々に取り戻し、経済活動においても遠くの資源を使うのではなく身近な資源を活用すること、森林を奪うのではなく先住民族の知恵による森林管理(コミュニティフォレストマネジメント)や森林農業(アグロエコロジー)を見直すこと、そして、気候変動への責任の公平性に基づいた目標の設定と利益に左右されない公的資金による途上国への支援することが必要です。
COPのプロセスやそこで行われる交渉や議論は複雑で、多くの場合透明性も確保されていません。来年以降のパリ協定実施に向けて、各国・各地域・地元での取り組みが重要になってきますが、国際的なルール作りが公平性や実効性、気候正義の視点を欠くものになってしまうと、さらなる気候危機をもたらす危険性があります。
また、適切な気候危機対策は公平な社会の実現につながります。社会の公平性と気候危機対策はお互いに切り離せない関係です。この”Climate Justice for ALL”というFoE グループのメッセージを、COPの場でも、そして地域レベルの取り組みでも訴えていきます。