【参加報告】東京湾石炭火力問題サミット in千葉「声を上げ続けることが状況を変える」
2018年10月27日午後、東京湾岸で進められている石炭火力発電所について考える、東京湾石炭火力問題サミットinが開催されました。
参加者は100人以上と会場がほとんど満席となる盛況。
会は東北大学の長谷川公一教授による基調講演、気候ネットワークの平田仁子氏による報告に続き、東京湾の会のメンバーである蘇我石炭火力を考える会、袖ヶ浦市民の望む政策研究会、そして横須賀火力を考える会それぞれのメンバーによる各地域の活動事例の報告がありました。
以下、各報告の概要です。
<基調講演>「石炭火力発電所問題と市民活動の意義」長谷川公一教授
- 2017年に提訴された仙台発電所(以下、仙台PS)の運転差止裁判は、石炭火力発電所単体の差止を求める日本初の訴訟。
- 仙台PSの請求理由は「大気汚染による人格権侵害」「気候変動による人格権侵害」「干潟への影響等、環境権侵害」。このうち、最も有効なのは「大気汚染による人格権侵害」。
- 訴訟および石炭火力に反対する署名活動を受け、被告(住友商事)が石炭火力発電からバイオマス発電に計画を変更。
- 仙台の運動の特徴は、事業者が完全なよそ者であったこと。
- 仙台運動の今後の課題として、個別被害をどのように立証するのか、その対策として、NOxの自主測定や地域での学習会等の実施。
- 石炭火力の「訴訟リスク」を健在化させたという点に、この訴訟の意義がある。
<総論>「石炭火力発電がなぜ問題か〜推進し続ける日本の問題〜」平田仁子氏
- パリ協定をはじめとした、温暖化対策に関する国際的な流れと日本の取り組みの概要。脱石炭は国際的な流れであり、日本の取り組みのレベルには大きな差がある。
- パリ協定での気温上昇を2℃未満に抑えるためには、新規の石炭火力発電所を建設する余裕は一切なく、今動いているものも止めていかないといけない。
- G7の主要国は脱石炭を宣言。COP23では、イギリス、カナダを中心に脱石炭を目指すPowering Past Coal Alliance(PPCA)が結成された。これに対し、日本は石炭火力を猛烈に推進。50基もの新計画を策定し、うち19基が建設開始。パリ協定のトレンドと全く逆な方向に動いている。
- 東京湾の3つの発電所計画について。5の排出シミュレーションによれば、東京湾沿岸のみならず、伊豆半島から栃木県、茨城県、太平洋まで影響が及ぶ。もっとも大きな健康影響の受けるのは千葉県。
- 金融機関の投資方針にも変更が相次いだ。しかし、「慎重に対応」「新規融資はしない」と表明した金融機関はそもそも石炭火力に対する融資は全くやっておらず、現状投資している金融機関は「政府援助の分は検討」とあまり意味はない。
- 東京湾の案件はアセスが終わりかかっているものの、訴訟、裁判、市民運動等の運動で今まで6基止まってきた。まだまだ私たちは止められる可能性がある。
<現地からの報告>
◆蘇我(蘇我石炭火力発電所を考える会/小西さん)
- 蘇我は、「あおぞら裁判」のまち。1970年代から川崎製鉄に対する裁判を起こした過去のある、今でも粉塵問題が深刻な地域。
- 蘇我石炭火力発電所計画を考える会は、2016年から活動を開始。今まで勉強会を開いたり、裁判を傍聴したりと様々な取組をしてきた。
- 現在計画中の石炭火力発電所は中国電力とJFEスチールによるもの。原発一基分の電力を発電予定であり、最新の超超臨界を予定している。
- 建設予定地のすぐ横には、双葉電子アリーナを始め、市民の健康のためにテニスコートや公園等、たくさんのスポーツ施設がある。また、防災の視点からも、災害の際は自衛隊の臨時基地ともなる場所でもある。また周囲には、たくさんの働く世代がすむ。
- 千葉県の発電・消費電力については、発電量の75%を千葉県外に売電。千葉市においても、75%を市外に消費しており、市内の消費分のうち、半数は産業部門である(2013年度統計年鑑)。自分達の使用する電力が足りなくなるのではとの心配の声もあるがそんなことはなく、自分達CO2排出量を抑えるためには、トイレおふたを閉めたりこまめに電気を消したりといった市民の涙ぐましい節電よりも、新たに石炭火力発電所を作らないこと。
- 住民の声としては、粉塵問題をどうにかしてほしいというものがもっとも大きい。アンケートのうち331名の回答という高い回答率であり、そのうちの2/3は住所・氏名を明かしている。
- アンケートで寄せられた意見としては、子どもの健康への心配、におい、汚れ等。中には車の上に鉄粉が積もり錆びるとの声も。
- 関心のない方にこそ、知ってほしい。力も足りない。残念に思うのは、住民も敵であること。建設計画者であるJFEからは町内会や祭りにお金をもらっていたり、議員や町内会にJFEのOBであったりことが多く、仙台の事例(建設計画者がよそ者であったため、地域住民が結束しやすかった)は羨ましい。計画者が“うちわ“であることが非常に難しくしている。なんとか外から、中からやっていきたい。
◆袖ヶ浦(袖ヶ浦市民が望む政策研究会/富樫さん)
- 袖ヶ浦で予定されている石炭発電所の計画について。計画者は東京ガスと九州電力。2015年の計画当初の電源は石炭火力だったが、2018年9月にLNG(液化天然ガス)へと燃料転換することを発表した。
- 立地の理由としては、東京湾に面し電力大消費地である東京に近いこと、東電袖ヶ浦火力の送電線の接続が容易なこと、そして石炭灰の処分先が近いことがあげられる。
- 袖ヶ浦の取り組みとして、「東京ガスを励ます会」という形で、建設計画者である出光興産を批判するのではなく“応援”する取り組みをしている。
- 具体的に、出光興産へは手紙を出している。手紙の内容は、石炭は気候変動的にも経営的にも衰退の可能性が高いこと、次世代の再エネルギーとして再生可能エネルギーに転換していくことが企業の繁栄に繋がるとのメッセージ。
- 手紙は社長のみならず、地域の所長にも出している。社長のみに提出した場合捨てられてしまったらそこで終わってしまうが、所長等にも提出し、読み手を増やすことで、自分たちが直面している問題を計画者内で取り上げてもらうきっかけを増やすことができたらと考えている。
- そのほか、ブログ、チラシ配布を実施してきた。
- 今後の課題は、若手を巻き込むこと。
◆横須賀(横須賀火力発電所建設問題を考える会/鈴木さん)
- 抱えている問題は蘇我、袖ヶ浦と全く一緒。ただし、横須賀は新規建設計画ではなく、以前から立地していた石炭火力発電所を立て直す(リプレイス)計画ため、合理化ガイドラインが適用されている。袖ヶ浦より後に計画が立ち上がったのに、今は袖ヶ浦を追い越し、今もアセスなしで解体が進んでいる。
- リプレイス合理化ガイドラインの影響により実態調査は全くされず、ペーパー調査がまかり通っている。経産省の審査の場合も、「これはリプレイスですね」と、作るということを前提で、その場所に石炭火力発電所が運転されることによって生じる問題については触れられない。
- そもそもなぜ止まっていたはずの横須賀の火力発電所を立て直すことになったかというと、横須賀は既存の港湾施設があるため、石炭の施設や送電線等、インフラ投資は不要であることが理由としてあげられる。
- もう一点の理由として、横須賀の地域経済の衰退がある。大きな工場の海外進出、造船業の衰退により人口減少が進み、石炭であっても経済を活性化させてくれたらありがたいという声がある。
- 課題は、準備所の事業者説明会にいかに住民に参加してもらうかが課題。今まで実施した2回のうち、両方合わせて410名が参加した。地元としては相当集まった方と思う。とくに、事業者が会場を設置した2回目は262名が参加し、参加者からの質問が絶えず、事業者が予定した時間の倍以上の時間を要するほど盛り上がった。
- そのほかの取組みとしては、学習会に注力している。火力発電所ができたらどのような経済効果があるのかという問題を取り上げた。横須賀市だけでなく逗子市からの参加者もおり、隣市の逗子市には固定資産税は入らないけれど、5はちゃんと降るという事実を逗子の人は知らないということから、9月16日(日)に逗子で勉強会を開催した。参加者が集まるかとの不安もあったが、会場満杯(50名の参加のうち、20名は高校・大学生)となった。
- 11月4日(日)は三浦市で新たな勉強会を開催予定。逗子での勉強会に参加した高校生が、農業も温暖化の影響があるのではという疑問をもったことがきっかけ。そのほか、11月28日(水)に鎌倉で、近日中に葉山でも勉強会を開催予定。横須賀市だけでなく、三浦半島の4市1町でセミナーが開催されることとなる。
- また、11月10日(土)に横須賀火力発電建設中止を求める署名定期集会を予定。
参加者からの感想としては、
- 石炭火力をめぐる訴訟や課題等について、改めて俯瞰的に捉えることのできる良い機会となった。市民活動があるからこそ、計画が中止になったり、次の計画を断念させることができているとわかって、元気をもらえた。
- 温暖化防止で2℃まで抑えるには1基たりとも石炭火力は新設できないという現実をもっと多くの人に知らせないといけない。
- 石炭火力発電の粉塵発生・空気汚染。なぜ東電が脇にあるのにJFEで行うのか。
- 袖ヶ浦の活動は単に直球の反対運動だけでなく、多角的な活動を組み立てているところが素晴らしいと思った。
- 横須賀の解体もアセスメントなしでスピードアップされ建設計画が進んでいると聞いてびっくりした。
- 難しいけれど、住民市民の声を集めてぜひ中止を勝ち取りたい。
といった声が多くありました。
以上にように、今回のサミットの各登壇者の報告は「市民活動があるからこそ、石炭火力発電所建設計画を断念させることができる、また、その可能性を信じている」という想いにあふれたものでした。横須賀ではすでに住民による自主的な勉強会が連鎖的に広がり、大きな流れをうみ出す可能性があると感じています。
着実に進行している石炭火力発電所建設計画ですが、まだまだ止められる可能性があると信じ、FoE Japanとして、引き続き石炭火力発電所建設計画の撤回を求める運動を支援していきます。
<今後のイベント>
11月4日(日)【三浦セミナー】温暖化でどうなる?三浦の農業 -横須賀の石炭火力発電所建設から考える−
11月10日(土)【横須賀】横須賀火力発電建設中止を求める署名提起集会
(高橋)