アルゼンチンで開催されたリチウム開発に抵抗をする人びとのイベントに参加

2025年9月29日にアルゼンチン北部のカタマルカ州で行われた、リチウム開発に抵抗をする人びとによるイベント「Festival AMBIENTE Y PRIMAVERA LAS FUERZAS DEL RÍO(環境と春のお祭り 川の力/日本語仮訳)」に参加してきました。主催はOPSAL(Observatorio Plurinacional de Salares Andinos)[1]という団体で、アルゼンチン、チリ、ボリビアの3カ国の先住民族コミュニティ、NGO、学者等により構成されています。
リチウムは、再生可能エネルギーや電気自動車の蓄電池の原料として中心的な役割を果たすことから、脱炭素社会実現のための重要鉱物として指定されています。しかし、その採掘の現場では、そこで暮らしている人びとの生活や貴重な自然環境の破壊が行われています。「誰のため」のエネルギー移行であるのか、現状進められているものは果たして「公正」だと言えるのか、を改めて問う時間となりました。
アルゼンチン北西部、チリ北部、ボリビア南西部にまたがる地域は、リチウム資源が塩湖に豊富にあることから、「リチウム三角地帯」と呼ばれており、世界の53%[2]の埋蔵量があると言われています。これらの土地はアンデス山脈に位置し、標高が2,300~4,500mと高く、また降水量が極端に少ないため非常に乾燥した特徴的な場所になります。そうした中でも、この地域では山脈から雪水が地下を伝って流れてくるなどして、塩湖などの湿地が数多く存在し、特殊で豊かな生態系も育まれています。

リチウム資源はそのような塩湖の底奥深くを流れているかん水(リチウム等が含まれた高濃度の塩水)を井戸で汲み上げ、地上に広範囲に作られた蒸発プールにて約1年天日干しにし水を蒸発させ、回収する手法が主流です。太陽光のみで資源獲得が可能なため、電力使用が少なく環境にいい方法だとされていましたが、何千年もかけて蓄えられた貴重な水をあえて蒸発させる方法は、現地の水資源を奪い、地域の人びとや生態系に深刻な影響を及ぼしています。また近年では、高い水ストレスを考慮し、直接リチウム抽出法(DLE)も採用されていますが、塩湖の水位が低下し、抽出の過程で淡水と塩水が混ざるなど、影響の緩和に限界があるのも事実です。

これらの塩湖がある3カ国にまたがるアタカマ・プーナ地域では12,000年以上前から人びとが暮らしているとされています。何世代にもわたり、先住民族の方々が伝統や慣習を受け継ぎながら自然と共存、崇拝し守ってきました。今回のイベントでは、そのような環境で静かに、平和に生活を送ってきた人びとが、どのようにリチウム採掘により影響を受けているのか、その経験と抵抗について話がありました。当日は、同じくカタマルカ市内で政府と企業により国際リチウムセミナーが行われていました。リチウム開発の重要なステークホルダーである地域住民を排除しての開催に対抗し、より包括的でオープンな対照的な空間でイベントは開催されました。当日は人びとの講演の他、伝統や手作りの工芸品や地球に優しい方法で作られた飲み物の販売を始めとし、子どもたちが自由に絵を描けるスペースなどが広場で開放されていました。夜には、ステージで地元のアーティストの音楽と共に、参加者が自由に複数の輪を作りアルゼンチン伝統の「Chacarera」というダンスを踊り、イベントが締めくくられました。

講演の中で最も印象的であったのは、「環境に優しい鉱業は存在しない」という言葉でした。どのような採掘・加工方法であれ、必ず自然環境やそこで暮らす人々が代償を払うことになります。鉱山企業は「環境のため」、「環境に優しい」という言葉をよく使用しますが、長年鉱業活動の脅威にさらされてきた人びとは、そのような鉱業は存在しないと身を持って実感し、その言葉を伝えているのです。実際に、アルゼンチンのオンブレ・ムエルト塩湖(Salar de Hombre Muerto)で行われているリチウム採掘により、5km範囲に及ぶ近隣のトラピチェ(Trapiche)湿地が完全に枯れてしまった話も出てきました。[4]これまで先祖代々守ってきた土地がそのように変わり果ててしまったこと、自分たちで守り切れなかったことに深い悲しみと憤り、先祖に対して申し訳ないという気持ちが語られました。
また、パレスチナで起きていることについても言及されました。「自分たちの土地、アンデス山脈から、イスラエルが使用する武器製造のために鉱物が採掘されている。この事実は強い痛みを伴う。私たちはそれを許してはならない。」という言葉がありました。

アルゼンチン、チリ、ボリビアでは各国の政策や法令などの違いから、被影響コミュニティと鉱山企業、国家間の交渉の過程や方法も異なります。しかし共通して言えるのは、先住民族の重要な権利である「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」[5]が確保されず、反対の声をあげることに対して、国や企業などの権力者が結託し、人びとを沈黙させ、不当に犯罪化することです。また、鉱山事業の参入により、それまで相互に支え合い暮らしを送っていたコミュニティが、鉱業に対する認識の差から分断されてしまうこともあります。鉱山事業はグローバルサウスの国々に環境社会コストを内在させ、さらなる社会格差をもたらし、利益は外部、主にグローバルノースの国々や多国籍企業が持ち去るという構造で成り立っていると言えます。この事象は、「緑の植民地主義(グリーンコロニアリズム)」と呼ばれ、歴史的に不利な構造が現在まで続き、新たな形で台頭していることを表しています。
日本政府、企業も、地政学的リスクの高まりによる供給源の多様化を目指し、この地域のリチウム開発に参入しています。「脱炭素化」の政策の裏で、地球の反対側で暮らす人に深刻な影響をもたらしていることを認知し、行動を変える重大な責任が、日本に住む消費者である私たちにはあると考えます。地球が自然に再生、循環するキャパシティを超える速さの生産・消費・廃棄が行われているこの強い資本主義の流れの中で、私たちはどのように抵抗し、連帯していくことができるのでしょうか。FoE Japanでは、日本の市民の皆さんとともに行動を起こしていくためにも、現場の状況をより多くの方に知ってもらい、考え、話し合える機会を今後もつくっていきたいと考えています。現地の声を聞いていただけるウェビナー等の情報発信も行っていますので、是非ご参加・録画をご覧ください。
過去のアルゼンチン・リチウム採掘に関するウェビナーはこちらから。
(佐藤万優子)
注釈
[1] OPSAL. https://salares.org/
[2] Fornillo, Bruno. and Argento, Melisa. (2025). Todo sobre el litio, siglo veintiuno editores.
[3] The Economist. “A battle for supremacy in the lithium triangle”. 15/06/2017.
https://www.economist.com/the-americas/2017/06/15/a-battle-for-supremacy-in-the-lithium-triangle
[4] FARN. “Communities in Argentina, Chile, and Bolivia raise alarm over lithium mining impacts”. 11/03/2025. https://farn.org.ar/en/communities-in-argentina-chile-and-bolivia-raise-alarm-over-lithium-mining-impacts/
[5] UN Human Rights Office. “Consultation and free, prior and informed consent (FPIC)”.
https://www.ohchr.org/en/indigenous-peoples/consultation-and-free-prior-and-informed-consent-fpic