日本が議長国 今年のG7で何が決まった?現場からの報告と世界の市民の声
2023年5月19日から21日にわたり、日本を議長国として広島でG7首脳会合が開催されました。首脳会合ではウクライナのゼレンスキー大統領の訪日などが大きな話題になりましたが、気候変動・エネルギー問題についてはどのような議論があったのでしょうか。今回の記事では、気候科学や化石燃料ファイナンスの観点でG7各国に求められていることについて概観しつつ、成果文書である首脳コミュニケの内容について見ていきます。
最新の気候科学とG7に求められていること
2023年3月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の統合報告書が発表され、改めて気候変動を食い止めるために必要な行動とその緊急性が確認されました。報告書は、「すべての人にとって生存可能で、持続可能な未来を確保するために残された時間は、急速に短くなっており…今後10年間に実施される選択と行動は、現在、そして何千年にもわたって影響を及ぼす(SPM C1)」と述べています。その上で、気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃以下に(50%の確率で)抑えるには、2030年にはGHG(温室効果ガス)排出量を2019年比で43%削減する必要があり、2035年には60%削減する必要があるとしています(Box SPM 1)。
また、統合報告書では、化石燃料についても従来のIPCCの見解を再確認しています。特に重要なのは、「排出削減対策が講じられていない既存の化石燃料インフラから、1.5℃の温度上昇につながる残余カーボンバジェットを超える量の二酸化炭素が排出されると試算されている(SPM B.5)」という点です。これは、温暖化を1.5℃以下に抑えるためには新規の化石燃料インフラを建設することは許されず、既存のインフラも利用を停止していく必要があることを示唆しています。従ってG7各国も、新規化石燃料事業に対する経済支援を停止する必要があるでしょう。
G7の化石燃料依存
気候変動を引き起こしてきたというG7の責任は重大です。日本をはじめとするG7諸国は、化石燃料に多くの資金を投じ、結果として大量の温室効果ガスが排出されています。気候変動対策の緊急性と必要性が叫ばれる今でも、化石燃料開発に対するG7による新規支援は止まっていないのです。
Oil Change Internationalが発表した報告書によれば、2020年から2022年の間のG7各国による化石燃料への公的資金支援は730億米ドルに及び、同時期のクリーンエネルギーへの投資(286億米ドル)の2.6倍にもなります。
G7の中でも日本の化石燃料への資金支援額は非常に大きいものとなっています。同レポートによれば、G7の中で化石燃料への投融資額が最も大きかったのは日本とカナダです。しかしカナダは2022年末までに海外の化石燃料事業への資金支援を、2023年末には国内向けの補助金を終えると約束しているため、近いうちに日本が1位になるとみられています。
問題は、化石燃料に対する支援だけではありません。日本政府が国策として推し進めているGX(グリーントランスフォーメーション)やAZEC(アジアゼロエミッション共同体)といった経済戦略では、ガス開発を進めるだけでなく、水素・アンモニア混焼やCCS(炭素回収・貯留技術)などいわゆる「誤った気候変動対策」に大規模投資し、それをアジアなど海外に売り込もうとしています。これはアジア全体の脱炭素と気候変動対策を遅らせる戦略として、日本以外のG7諸国やグローバルサウス等から大きな反発を招いています。ではなぜ、ガス、水素・アンモニア、CCSは「誤った気候変動対策」で、気候変動対策を遅らせてしまうのでしょうか。
日本政府は石炭から再生可能エネルギーへの移行に必要な「繋ぎの燃料」としてガスを位置づけ、その必要性を訴えています。しかし、FoE Japanが以前こちらのページでまとめたように、そもそも1.5℃に温暖化を抑えるために私たちが排出できる温室効果ガスの量は非常に小さく、「繋ぎ」として新しいガス関連施設をつくる余裕はありません。例えガスが石炭よりも排出量が低くとも、1.5℃目標に向けて化石燃料利用を減らさなければならない以上、ガスはもうこれ以上推進できないのです。
また、水素・アンモニアは燃焼時に二酸化炭素を排出しないためそれを火力発電所で燃やすことで「脱炭素火力」が実現できると日本政府は喧伝していますが、これも間違いです。水素、アンモニアは大部分が化石燃料由来で、製造時に大量の二酸化炭素が排出されます(詳しくは、こちらのリーフレットをご参照ください)。これではたとえ燃焼時に排出がなくとも、結局二酸化炭素が排出されることになり、気候変動対策になりえません。さらに、アンモニア混焼はPM2.5の排出量を増加させ、健康被害が増加することも懸念されます。ヘルシンキに拠点を置く独立系研究機関、エネルギー・クリーンエアー研究センター(CREA)の最新の研究報告書によれば、20%の混焼でPM2.5の排出量は67%増加します。混焼率20%は碧南火力発電所で既に2023年に達成が予定されています。同報告書によれば、日本で数千人もの早期死亡の原因とされている大気汚染物質であるPM2.5排出が大量に増加することが懸念されます。
水素・アンモニア混焼と同様に、CCSも技術的にもコスト的にも大きな問題があり、気候変動対策として期待できません。現在発電事業として稼働しているCCSは世界でカナダのバウンダリーダム火力発電所のみしかなく[注1]、そこでさえ二酸化炭素回収率は6割に留まるという状況で、排出量削減という面からも問題です。
前述したように日本政府はこれらの「誤った気候変動対策」で「脱炭素火力」を実現すると主張して、これらの技術をガス火力発電所やガスターミナルなど化石燃料インフラと一緒にアジア各国に売り込んでいます。JICAの支援でインドネシア、バングラデシュなどのエネルギー基本計画等を作成し、その中に石炭火力におけるアンモニア混焼などを入れ込み、「誤った気候変動対策」を売り込もうとしています。しかしそれによって得するのは日本の商社や電力会社など一部の大企業のみで、現地の発電所近辺に住むコミュニティや気候変動による損失と損害を被る世界中の市民が苦しむことになります。
気候変動対策に真っ向から逆行する日本の対外的なエネルギー分野での支援は、アメリカやイギリス、カナダなどG6(日本を除いたG7各国)のみならずアジア各国をはじめとしたグローバルサウスなど世界中から反発の声が上がっており、今回のG7広島サミットを機になんと世界22カ国で60以上の抗議活動が実施されました(本記事の各写真参照)。
今年のG7の焦点
では、気候・エネルギー問題に関して今年のG7は何が焦点だったのでしょうか。昨年の2022年G7エルマウサミットでは気候変動対策に関して大きく3つの進展があり、2023年はこれらの合意をさらに強化することが期待されました。
2022年の合意の重要な成果の一つ目は、「国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速するという目標に向けた、具体的かつ適時の取組を重点的に行うことにコミットする」として、国内の石炭火力の段階的廃止に合意したことです。このコミットメントをさらに強化させるため、第一に石炭火力発電フェーズアウトの具体的な年限を明示すること、第二に石炭だけでなくガスも含めた化石燃料全般からのフェーズアウトへのコミットメントを示すことが今回のG7サミットで期待されました。
2022年の合意の成果二点目は、「2035年までに電力部門の完全または大部分(predominantly)の脱炭素化」に合意したことです。これはIEA(国際エネルギー機関)が発表した2050年ネットゼロシナリオ[注2]に沿ったもので、そのシナリオでは2030年に石炭火力発電が0%、2035年にガスが2%以下とされています。日本は「大部分」とは50%以上を意味すると解釈していますが、これはIEAなど世界の共通認識とは明らかにかけ離れています。ちなみにこのIEAシナリオやClimate Analyticsによると、日本など先進国は石炭火力発電を2030年までにフェーズアウトすることが求められており、前述した石炭火力発電フェーズアウトの年限の目安とされています。
2022年の合意の成果の三点目は、「1.5℃の気温上昇に抑えることやパリ協定の目標に合致する、各国が明確に定義した限られた状況を除いて、2022年末までに国際的に排出削減対策がとられていない(unabated)化石燃料電力部門への新たな直接公的支援を終了する」ことに合意しました。大雑把に言えば、いくつか条件がついているものの海外の化石燃料事業への公的な資金支援を2022年末に終えることに合意したということです。これは歴史的にG7が化石燃料に対し多額の資金支援をしている点を鑑みると、非常に重要な合意であることがわかります。
2022年のG7首脳会合は以上のように、いくつかの進展がありました。今回のG7会合では、これらの進展をどのように強化するのかが問われていました。また、水素、アンモニアの扱いも注目されました。日本は前述したように脱炭素火力として水素・アンモニア混焼を推進しています。日本政府はG7を通じてこれらの技術や自らのGXを世界に認めてもらうべく、文言に混焼を盛り込ませる方針でした。脱炭素を遅らせかねないこの混焼技術に対して厳しい文言が含まれるかが、今回のG7の追加の焦点でした。
G7コミュニケのキーポイント
さて、以上の背景説明を踏まえ、今年のG7サミットの成果文書である首脳コミュニケの内容を見ていきましょう。コミュニケでは前述のIPCCの報告を踏まえ、「世界のGHG排出量を2019年比で2030年までに約43%、2035年までに約60%削減することの緊急性(政府仮訳、パラグラフ18)」が強調されました。この削減目標を達成するため、以降で具体的な行動について触れています。
1)化石燃料フェーズアウト
まず今年のG7コミュニケの重要な成果は、「遅くとも2050年までにエネルギー・システムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させるという我々のコミットメントを強調(政府仮訳、パラグラフ26)」するとして、化石燃料フェーズアウトに合意したことです。この「フェーズアウト」という文言に対して、日本はドラフトの段階から反対していましたが、イギリス、ドイツ、フランスの推しがあり最終文言に残されたとFinancial Timesが報じています。G7で化石燃料フェーズアウトの合意がなされたことで、今年の年末に開催される気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)においても同様のコミットメントがなされることが期待されます。
2)石炭の具体的なフェーズアウト年限
先進国は2030年までの石炭火力発電段階的廃止が求められており、G7でもそのようなコミットメントが期待されていましたが、残念ながらその文言は盛り込まれませんでした。
3)化石燃料への国際的な資金支援終了
今年のG7首脳コミュニケでは「..排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を、2022年までに終了したことを強調する」という文言が盛り込まれました。
しかし日本は未だに海外の新規化石燃料事業に対する支援を実施しています。日本の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)は、今年3月にもウズベキスタン共和国シルダリアII天然ガス焚複合火力発電事業に対する貸付契約を締結しました。新規のガス火力発電事業である以上、当事業は明らかに1.5℃目標に整合していません。
一方で、元々2022年のコミュニケの文章には抜け穴があることも指摘できます。例えば「排出削減対策が講じられていない(unabated)」という部分。IPCCでは「排出削減対策が講じられていない化石燃料」とは、「ライフサイクルを通じて排出されるGHGの量を大幅に削減する措置をとらずに生産・使用される化石燃料」を指すとし、例えば、「発電所から90%以上のCO2を回収したり、エネルギー供給から排出されるメタンガスの50~80%を回収するなど(IPCC AR6 SYR SPM, 脚注 51, 筆者訳」と明記していますが、G7首脳コミュニケでは明確な定義がされていません。それゆえ日本などが火力発電所に水素・アンモニア混焼やCCSを導入することで「排出削減対策が講じられた」とみて公的支援をする可能性を残しており、今後定義が明確化されることが望まれます。しかしそもそも、排出削減対策が講じられている、講じられていないに関わらず、新規の化石燃料事業は1.5℃目標に整合していないので、そのような事業に対する資金支援は認められません。
4)水素・アンモニア混焼の位置付け
日本は火力発電への水素・アンモニアの混焼を強く主張しましたが、コミュニケでは排出削減が難しいセクターにおいて使用されるべきとされ、日本の期待したような文言とはなりませんでした。水素・アンモニア混焼は、先述したように排出削減にならないため国際的にも懐疑的な意見が多く、アメリカのケリー特使も「長期的な脱炭素を遅らせる」として懸念を示し、イギリスとカナダの閣僚も反対を示していました。
実際、首脳コミュニケでは、「低炭素及び再生可能エネルギー由来の水素並びにアンモニアなどのその派生物は、摂氏1.5度への道筋と整合する場合、産業及び運輸といった特に排出削減が困難 なセクターにおいて、セクター及び産業全体の脱炭素化を進めるための効果的な排出削減ツールとして効果的な場合に、温室効果ガスであるN2Oと大気汚染物質であるNOxを回避しつつ、開発・使用されるべきであることを認識する(政府仮訳、パラグラフ25)」とされ、エネルギーセクターの利用については、「摂氏1.5度への道筋及び2035年までの電力セクター の完全又は大宗の脱炭素化という我々の全体的な目標と一致する場合、ゼロ・エミッション火力発電に向けて取り組むために、電力セクターで低炭素及び再生可能エネルギー由来の水素並びにその派生物の使用を検討している国があることにも留意する(政府仮訳、パラグラフ25)」と述べられるにとどまり、水素・アンモニアをエネルギーセクターで積極利用することに関してG7としての合意は得られなかったことがわかります。
5)ガス投資
ガス部門への公的支援については、今回のG7サミットは後退したと言えます。首脳コミュニケでは「液化天然ガス(LNG)の供給の増加が果たすことのできる重要な役割を強調するとともに、ガス部門への投資が、現下の危機及びこの危機により引き起こされ得る将来的なガス市場の不足に対応するために、適切であり得ることを認識する(政府仮訳、パラグラフ26)」とし、地政学的な理由でガス部門への投資をする余地を残しました。ただしここで、「ロシアのエネルギーへの依存のフェーズアウトを加速していくという例外的な状況において、明確に規定される国の状況に応じて、例えば低炭素及び再生可能エネルギー由来の水素の開発のための国家戦略にプロジェクトが統合されることを確保すること等により、ロックイン効果[注3]を創出することなく、我々の気候目標と合致した形で実施されるならば、ガス部門への公的に支援された投資は、一時的な対応として適切であり得る(政府仮訳、パラグラフ26)」という条件がつけられています。ロシアから天然ガスを輸入してきたドイツなど欧州諸国がガスの他の供給源を探している現状を踏まえ、それをあくまで一時的であるとしています。
6)再生可能エネルギー導入目標
今回のG7サミットでは、初めて再エネ導入目標が示されました。首脳コミュニケでは「G7は、2030年までに洋上風力の容量を各国の既存目標に基づき合計で150GW増加させ、太陽光 発電の容量を、各国の既存目標や政策措置の手段を通じて、IEAや国際再生可能エネ ルギー機関(IRENA)で推計された2030年までに合計で1TW以上に増加させることも含め、再生可能エネルギーの世界的な導入拡大及びコスト引下げに貢献する(政府仮訳、パラグラフ25)」と記載されています。日本政府はこの合意を踏まえ、風力発電と太陽光発電の導入目標の引き上げを検討するべきです。
7)原子力発電について
首脳コミュニケでは、「原子力エネルギーの使用を選択した諸国は、原子力エネルギー、原子力科学及び原子力技術の利用が、低廉な低炭素のエネルギーを提供することに貢献することを認識する」という原子力発電に対して好意的な文言が盛り込まれましたが、これは大きな誤りです。
この10年、再生可能エネルギーのコストは劇的に下がり、原発のコストは上昇し続けており、今や原発は最も高い電源となっているため、原子力発電は「低廉」であるとは言えません。また、ウラン採掘から、燃料製造、運転、廃炉、核燃料の処分に至るまで、放射性物質で環境を汚染し、人権侵害をひきおこすだけでなく、トラブルや事故、放射能汚染、何万年も保管を要する核のごみといった原発のリスクやコストを考慮すると、気候変動の解決策にすべきものではありません。
なお、日本政府は、コミュニケに盛り込む文言の主語を「我々は」としたかったようですが、脱原発を達成したドイツやイタリアが難色を示し、上記のような限定的な主語にしかできなかったと報じられています。
まとめ
G7各国が気候変動対策のためにできることがたくさんあります。石炭火力発電からのフェーズアウト年限を決めてそこに向けて具体的な廃止計画を定め実践すること、排出削減対策が講じられているか否かに関わらず海外化石燃料事業に対する資金支援を終了すること、そして水素・アンモニア、CCS、原発など誤った気候変動対策の推進をやめ、徹底的な省エネと再生可能エネルギーの促進など真の気候変動対策を推進すること。G7各国、特に日本は世界中で実施された抗議活動で明らかになった市民の声に耳を傾け、以上のような気候変動対策を真摯に進めるべきです。
(長田大輝)
[注1] 自然エネルギー財団. 2022年4月. 「CCS火力発電政策の隘路とリスク」p.9
[注2] International Energy Agency. May 2021. Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector.
[注3] ロックイン効果とは、新規の化石燃料事業が建設、稼働する場合、投資を回収するためその後数十年の間稼働し続けることになり、数十年の二酸化炭素排出が確約されてしまう(ロックイン)こと。
参考文献
外務省. 2023年. G7広島首脳コミュニケ仮訳