原発20~22%とは?ーエネルギー基本計画の素案を読む(2)
現在、「エネルギー基本計画」の改訂議論が最終段階を迎えています。「エネルギー基本計画」はおおむね3年に一度改訂されるもので、先日第6次計画の「素案」が発表されました。まもなくパブリックコメントが開始されます。
このブログでは第6次エネルギー基本計画(素案)について、「原子力」というテーマでその中身や問題点をみていきます。
今回のエネルギー基本計画素案でも、2030年の電源構成のうち原子力は「20~22%」という割合が維持されました。
しかし、2020年度、原発の割合は4%程度。2019年度は約6%でした。いったん再稼働した原発が安全設備の建設の遅れなどにより相次いで停止したことが原因で減少しました。
2030年、原子力で2割をまかなうのは、さすがに無理なのではないかと思いますが、政府はどのような想定をしているのでしょうか。
原子力20~22%の内容とは?
以下の表は、審議会「基本政策分科会」で7月13日に提示された資料からの抜粋です。現在ある36基の原発のうち、新規制基準未申請の9基を除いた27基すべて(表の4つ目まで)を設備利用率80%で動かした場合、年間発電量の合計は1,940億kWhとなります。
これを2030年の想定発電量(9,300~9,400億kWh)で割ると、その割合が20.6~20.9%となるのです。
「今後動く可能性と政府が想定している原子炉」27基とは、具体的にどの原子炉でしょうか?
再稼働に向けて「新規制基準適合性審査」の申請が行われているもので、以下の図でオレンジや黄色の色付けがされているものです。まだ建設途上の大間原発(青森県)や、10年以上動いていない浜岡原発(静岡県)なども含まれています。27基すべてが稼動するとは、非常に考えにくいものです。
未申請の9基は、柏崎刈羽原発1~5号機、東通原発、志賀原発1号機、女川原発3号機、浜岡原発5号機です。
2030年は今から9年後なので、原発もその分老朽化します。高浜原発1号機は運転開始からすでに46年、同2号機は45年ですが、2030年には、それぞれ55年、54年が経過することになります。このような老朽原発もフル稼働(設備利用率80%)しなければならないのです。
しかし、ここ最近の状況を見ても、様々な不祥事や故障、人為的ミス等により、原発の再稼働スケジュールが遅れたり、点検期間が長引いたりすることが相次いでいます。また裁判により運転差し止めになるケースもあります(注1)。
「稼働率80%」は、そういった不具合やミス、裁判による運転停止がほとんど起こらないという想定なのです。
これが果たして現実的と言えるでしょうか?
2020年の国内原子力発電所の運転状況が、総発電電力量449億7,520万kWh、設備利用率15.5%(全36基に対する割合)(注2)だったことを考えても、この想定に無理があることがわかります。
再稼働推進が強調された
上記のように、「20~22%」の想定は、実現可能性だけをみても大いに疑問のある「積み上げ」です。
また今回素案には、
「(p.64)原子力事業者をはじめとした産業界は、新たな連携体制として「再稼働加速タスクフォース」を立ち上げ、外部専門家を含め人材や知見を集約し、審査中の泊、島根、浜岡、東通、志賀、大間及び敦賀において、原子力規制委員会による設置変更許可等の審査や使用前検査への的確かつ円滑な対応、現場技術力の維持・向上を進める。」
ということが書き込まれました。
中立厳正な十分な審査を行おうとすれば、当然、時間がかかるものです。「再稼働加速」とうたうことは、そうした審査のあり方に、「早くしろ」と圧力をかけることになりかねません。
老朽原発の長期運転が視野に
20~22%の中には、運転開始から40年以上たつ原子炉の運転も当然想定されています。
福島第一原発事故後、原発の稼働は「原則40年」とされました。40年を超える原発の運転は例外的措置であり、一度に限って最長60年までの延長を申請できることになっています。しかし7月15日、「60年超の運転を可能とする案が浮上している」と報道されました(注3)。
老朽原発の運転はとても危険なものです。劣化しても交換できないものが多いのです。たとえば圧力容器は交換できません。長い間、中性子が当たり続けて、材料の金属が劣化し、脆くなっていきます。地震などの緊急時に停止するするための装置が起動したとき、圧力容器が急激に冷え、割れる恐れがあるのです。原子炉の中と外をつなぐ配管や、一部の電気ケーブルなども交換することはできません。
素案には、以下のように「長期運転」を進めていく方向が書かれており、こちらも今後要注意です。
「(p.64)一方、東日本大震災後に原子力発電所の停止期間が長期化していることを踏まえ、メーカー等も含めた事業者間の連携組織が中心となり、保全活動の充実や設計の経年化対策、製造中止品の管理等に取り組むとともに、安全性を確保しつつ長期運転を進めていく上での諸課題について、官民それぞれの役割に応じ、検討する。加えて、メーカー等も含めた事業者間の連携組織が中心となり、トラブル低減に向けた技術共通課題の検討体制の構築や照射脆化等の経年劣化に係る継続的な知見拡充、安全性を確保しつつ定期検査の効果的・効率的な実施や運転サイクルの長期化を図るための技術的検討が始められており、こうした取組を引き続き進める。」
「原発依存度の低減」の表現は維持
原子力について、「福島復興はエネルギー政策を進める上での原点」として、反省と教訓に触れたうえで、
「(p.7)東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては、2050年カーボンニュートラルや2030年の新たな削減目標の実現を目指すに際して、原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する。」
と書かれています。
「可能な限り原発依存度を低減」について、産業界や電力業界は、この表現を削除すべきという要望を出していましたが、何とか維持されることとなりました。新増設やリプレースについて書き込まれなかったことは、原発廃止を望む全国の市民の声が、プレッシャーとなっていると言えます。
しかし、油断はできません。
素案発表後、7月30日に開催されたの資源エネ庁の審議会(基本政策分科会)でも、オブザーバーとして発言した経済団体連合会や日本商工会議所、そして審議会の複数の委員から、「新増設やリプレースについて書き込むべき」という強い意見が、改めて出されました。この段階でもまったくあきらめていないのです。
また、2050年カーボンニュートラルを視野に入れた表現としては
「(p.23)原子力については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく。」
と書かれました。
これは、「リプレースについても余地を残す表現だ」(産経新聞、注4)とも報道されています。総選挙が終わってから、3年後のエネ基改訂に向けて、原発推進の声がいっそう強くなることも十分に考えられます。
私たち市民も、パブリックコメントや選挙に向けて、「原発はフェーズアウトを」「新増設やリプレースは論外」の声を、あげ続けなければなりません。
(吉田明子・満田夏花)
注1:たとえば、いったん再稼働した川内原発、高浜原発の4基は、テロ対策施設(特定重大事故等対処施設)の建設の遅れにより、2020年には停止に追い込まれました(その後、川内原発は再稼働)。定期点検中の伊方原発3号機は、広島高裁による運転差し止め判断で、定期点検が終わっても運転再開できていません(2021年3月18日、広島高裁が差し止めを取り消し)。また、2020年12月4日、関西電力大飯原発3・4号機をめぐり、大阪地裁は国に設置許可の取り消しを命じる判決を出しました。国は控訴し、判決は確定していないため、ただちに大飯原発の運転を止めるわけではありませんが、今後、全国の原発に波及する可能性があります。
注2:原子力産業新聞、2021年1月8日「2020年の原子力発電設備利用率は15.5%」
注3:日経新聞、2021年7月15日「原発60年超運転浮上 建て替え見送り延命頼み」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA15CZB0V10C21A7000000/
注4:産経新聞、2021年7月6日「原発「必要規模を持続的に」 エネ基骨子案判明」
https://www.sankei.com/article/20210706-ZQBRWGADEVNBZJSLJ3EXPLUDTE/