国連気候変動枠組条約・バンコク会議閉幕―パリ協定実施指針交渉の行方は

気候変動2024.7.10

Stack of booksタイ・バンコクで9月4日から9日まで開かれていた、国連気候変動交渉。主にはパリ協定を実際に実施していくための詳細なルールを定める国際交渉で、実施指針自体は12月ポーランドでの第24回締約国会合(COP24)で採択が目されています。

COP前の最後の公式会合であるこの会議では、各国の様々な主張は削らずに様々な選択肢の整理を行い、COPで本格的な交渉に映るためのたたき台を用意することが主な作業でした。その結果、306ページにわたる非公式文書が会合の終わりに準備されました。京都議定書の実施指針に相当する2001年のマラケシュ合意は240ページ以上の文書でしたが、ベージ数の多さはさておき、非公式文書に含まれている分野ごとの進捗のばらつきが今後の課題となってきます。先進国の望む緩和行動に関する部分だけが今度のCOPで採択され、途上国支援などが置き去りにされる懸念があります。会議閉会時に、議長たちに10月15日までにこの非公式文書をさらに整理し、COPでの交渉のたたき台の用意を託す旨が合意され、バンコク会合が終わりました。

これまで2年半の実施指針の交渉での大きな対立点は、差異化の部分です。言い換えると、先進国の義務をどのように実指指針に反映させるかという点が争点でした。気候変動枠組条約の文言に比べると表現は弱められましたが「共通かつ差異ある責任」の条約の原則はパリ協定にも引き継がれ、歴史的な責任に鑑み、先進国は途上国の対策を資金・技術面で支援することになっています。
ほぼすべての国が提出している2030年もしくは2025年までの国別行動計画(NDC)の定義について、今回も排出削減行動のみをNDCの中身とする先進国が、支援についてもNDCに入れるべきとする途上国提案を拒絶して紛糾するひと幕もあり、この部分は両論併記する形にとどまり、ほぼ進展がありませんでした。各国のNDCの進捗の報告義務を定める「透明性枠組み」の交渉でもやはり二分論が出ていますが、そこは議論が分かれる部分を分けることで非公式文書の一定の整理が進みました。

歴史的責任と公平性の問題は、単に原則論とするのではすまされない重要性を持っています。現在各国が提出しているNDCを積み上げるだけだと、世紀末までに3℃以上の気温上昇を招くとされていますが、これは途上国のNDCがきちんと実施されることを前提としています。多くの国のNDCには、外からの支援なしに実施不可能な部分があり、先進国が途上国への支援義務を果たさなければ、気温上昇の予測は3℃をさらに上回るでしょう。実施方針に支援の義務とその実施の方法を書き込むことはとても重要なのです。しかし先進国、とりわけ協定撤退を表明したアメリカが率い、日本もメンバーである「アンブレラグループ」は、先進国の義務を明示的に指針に表記することに強硬に反対しています。この溝は実施指針の交渉開始時点から深く、COP二週目の閣僚級の交渉まで持ち越されるでしょう。

NDCや透明性の議論のほか、バンコクで引き続き対立点となったのは、パリ協定作業計画にふくまれる途上国支援、とりわけ資金支援の報告に関するものでした。先進国は事後報告だけでなく、2年ごとに今後の支援規模を国連に提出することが協定文にありますが(9.5条)、先進国は提出の仕方は任意に留めたく、また協定前に約束した年間1000億ドルの途上国への資金目標が終わる2020-2025年以降の次の資金目標の定め方の議論にも反対しています。途上国の間で広がる被害や自国のNDC実施の計画立案には海外からの公的資金の見通しの情報が不可欠であることが途上国の要求の背景にあります。ここでもスイスやアメリカといった先進国が共同歩調で途上国の要求を突っぱねている状況が続いています。

途上国支援の要として設けられた緑気候基金(GCF)の資金は年内にも底を尽きる見通しです。7月のGCFの理事会では、やはりアメリカが追加増資の議論をとめてしまいました。資金支援でのトランプ政権の強硬姿勢に屈さず、実施指針の内容をさらに弱めることにならないようにしなければなりません。

COP24の直前から期間中、気候資金の隔年閣僚級対話、資金委員会の包括的気候資金の隔年評価報告、2020年までの先進国義務進捗に関する議題など協定実施指針だけでなく、重要な途上国支援の議論が並行して行われることになります。先進国は気候資金を2020年までに年1000億ドルに引き上げる目標の進捗を示す独自の報告を用意しているとも言われ、資金問題はポーランドでの議論の台風の目となります。

一方で途上国支援に民間資金の活用が叫ばれています。しかし、同時に貧しい国民を支える公共サービスの市場開放を求められる途上国にはもろ刃の剣です。先の見通しが立てにくい民間投資、さらには先進国にとって実施指針の目玉の一つであり4月以降議論に弾みがついている途上国での事業で得た削減量を自国のNDCに編入できるグローバル炭素市場が来年以降始動すれば、外からの市場の動向の影響で、途上国が政府主体で国内の長期的なエネルギー開発政策を定めることをますます難しくします。

公平性・先進国の歴史的責任を、途上国支援の面で実施指針に反映させることは協定全体の効果を左右する重要なことです。しかし、FoEグループは実施指針がさらに弱められた抜け道だらけの内容となると危惧しています。今年のポーランドでのCOPは、COP参加者とくに市民団体の活動を制限するような立法措置が取られていますが、引き続き、日本を含む先進国の歴史的責任と義務、原発に頼らない急速な化石燃料からの脱却/脱石炭、食糧主権、コミュニティーの権利とエネルギー民主主義、企業支配からの民主的スペースの奪回などをテーマに、働きかけやメディアアクションなどを行なっていきます。

(文:小野寺ゆうり 編:深草亜悠美)

 

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