誰のための原発輸出?ウェールズの住民が来日

福島支援と脱原発2024.7.17

日立製作所が進めるイギリス・ウェールズでの原発建設計画。

このたび、FoE Japanの招聘で、同原発に反対する地元ウェールズの住民団体PAWBのメンバー3人が来日しました。3人は、福島を訪問。原発事故による避難、最近の被害をめぐる状況についてのお話を聞いたあと、富岡町などを訪問。人影がない町の様子や大量の除染廃棄物を見て、「このようなことが、日本でもウェールズでも、どこでも起こってはならない」と発言しました。

IMG_2227.JPG28日には、FoE Japanが多くのみなさまにご協力いただいて集めた署名5,823筆を、
経済産業省などに提出しました。ご協力ありがとうございました。

同日、FoE JapanとPAWBとの連名で、日立製作所に対して、原発事業からの撤退を求める要請書を提出しました。また、多くの国会議員との意見交換を行い、さらに、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)を訪問。福島、東京、大阪の3箇所で開催された報告会では、事業が、アングルシー島の美しい自然やウェールズの固有の社会に与える悪影響、放射性廃棄物の行き先が決まっていないこと、そもそも原発は必要とされていないこと、そうした事業が日英の両国民にリスクと負担を押し付ける形で進められている理不尽さを訴えました。

イギリス西部ウェールズ地方は、ケルト系独自の文化や言語が根付く地域。そのウェールズ北部・アングルシー島で、日本の日立製作所の完全子会社であるホライズン・ニュークリア・パワーが、原子力発電所の建設計画を進めています。

アングルシー島は人口約7万人の小さな島。ここにはマグノックスの原発が2015年まで稼働していました。ホライズン・ニュークリア・パワーはその横に新たに改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を2基建設する計画です。

FoE Japanでは2017年11月にウェールズを訪問し、現地住民の方々にお話を伺いました。また、2018年5月には現地の脱原発団体「People Against Wylfa B(ウィルヴァBに反対する人々、通称PAWB)」から3名のメンバーを日本に招いて、福島県の被災地訪問し、経済産業省などに対しては、公的資金を使わないように求める署名5,823筆を提出。FoEとPAWBの共同で日立製作所宛てに、同原発事業から撤退するように求める要請書を提出しました。

PAWBは、アングルシー島での新規原発(当時は「ウィルヴァB」と呼ばれていた)に反対するウェールズ・アングルシー島やその周辺に住む住民の方々で結成された脱原発団体で、1980年代後半に活動を開始しています。

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いわき市で意見交換

福島では、いわき市に避難されている方のお話を伺い、帰宅困難区域を訪問、脱原発団体の方々と交流や意見交換も行いました。

ウェールズから来日したメンバーの一人であるリンダ・ロジャーズさんは、日本とイギリスが多くの共通点を持つことに驚いていました。教師であるリンダさんは「アングルシー島では新たな原発事業がアングルシー島の唯一の未来であるかのように教えられている。ホライズン・ニュークリア・パワーは学校でもリーフレットを配布して、子どもたちに夢の職業であるというプロパガンダを行っている。」と話します。被曝と健康問題に関しても「イギリス政府は被曝による健康被害を認めていない。日本と同じだ。」と指摘。また、「経済的に貧しい地域に、「雇用が生まれる」と主張して原発を受け入れさせ、自然を破壊し人々を搾取する構造はウェールズでも福島でも同じ」と、現在「雇用創出」を理由に推し進められているウィルヴァ・ニューイッド原発建設計画の構造的な問題についても日本との共通点を指摘していました。

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日立前アクションでスピーチをするトモズさん

同じく日本を訪れたメイ・トモズさんは、ウェールズの独特の文化が危機に瀕している状況を「自分も絶滅危惧種のようなものだ」と話します。ケルト系のウェールズは、長年他民族の征服や侵攻を受け、16世紀にはアングロサクソン系のイングランド王国に征服(併合)された歴史を持ちます。併合を境に、ウェールズ独自の言語であるウェールズ語は公的な領域から排除されるなど(のちに改正)、文化的な抑圧もありました。

トモズさんは「ホライズン・ニュークリア・パワーは、環境・社会への影響調査を行わなくてはいけないが、言語文化に対して原発建設計画がもたらす影響についてのレポートの提出も必要だ。しかし、彼らはそれを拒否している。ホライズンは建設のピーク時には、約1万人の雇用が創出されるとしているが、そのうち1/4が地元“北ウェールズ”から雇用するとしている。つまり外部からたくさんの労働者が流入することにより文化的・社会的影響も大きい。言語についての影響評価を拒むということは、それがいいようもなく大きいとわかっているからではないか」と話します。

来日メンバーの一人であるロブ・デイビーズさんも「雇用に関して、現地アングルシー議会は雇用創出のために計画に賛成しているが、ホライズンは約1万人の雇用のうち1/4を“北ウェールズ”から雇用すると言っているだけで、アングルシー島に創出される雇用はほんの一部。むしろ小さな島の社会インフラを圧迫するだけだ」と指摘します。

環境への影響も甚大です。ウィルヴァ・ニューイッド原発のために、古い原発が占める用地の約10倍の土地を利用する予定になっています。新たに利用される土地では、EUの保護種に指定されているキョクアジサシの生息地も発見されています。また、アングルシー島沿岸部の美しい自然環境は、保護区域に当たる部分も多く、観光業への影響も懸念されます。

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これはサンドイッチアジサシ(写真:メイ・トモズ提供)
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キョクアジサシ(写真:メイ・トモズ提供)
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アングルシー島の風景(写真:メイ・トモズ提供)

この原発建設計画をめぐっては、日英両政府による公的支援が検討されています。
日本政府は、東電福島原発事故を経てもなお、原発輸出を日本の成長戦略として位置付け、首相レベルのトップセールスを行ってきた背景があります。これまで、ベトナム、トルコ、インド、リトアニアなどへの輸出計画がありましたが、今の所プラントの輸出に至ったケースはありません。
日立製作所の中西会長は「日英両政府の積極的な関与が事業にとって不可欠)」と明言。また「投資可能だと説明することが難しくなったのは事実」であるとの認識を示し、民間事業として推進することは困難だと認めています(ロイター、2018/2/13)。自分たちで負いきれないコストとリスクを認識しているのであれば、事業から撤退すべきです。しかし、日立は政府支援を求めており、100パーセント出資する国際協力銀行による融資や、同じく政府が100パーセント出資する日本貿易保険による付保の可能性が報道されていますが、加えて何らかの形で公的機関が出資する可能性も報道されています。

 

イギリス側でも、なんらかの公的支援が検討されていることが報道されています。
イギリスでは、電力部門民営化以降、原発をエネルギーミックスの選択肢からはずす方針を打ち出します。ただし、新規原発建設計画をまったく否定するのではなく、建てるにしても原発建設には補助金は一切つけないという方針を持ってきました。2006年、労働党政権下で原発推進のエネルギー計画に方向転換しますが、そこでも「補助金はなし、原発は民間が行う」という方針を固持。しかし、やはり原発の巨大なコストは民間だけでは賄えず、現在では原発に高い買取価格を付けて、実質補助金のような形で、原発にイギリス国民のお金が流れています。ウィルヴァ・ニューイッド原発に関しては、高い買取価格設定だけでなく、イギリス政府による融資や出資の可能性が報道されており、イギリス国民にも大きな負担がのしかかってくる可能性があります。

PAWBのリンダさんは「イギリスでは緊縮財政。教育、医療、福祉など人々にとって必要なサービスへの支出がカットされる中、原発に手厚い支援をするのは間違っている」と指摘します。

日本では、福島事故が未だ収束せず、事故処理のコストは膨れ上がり、避難者は厳しい生活を送っています。放射性廃棄物の処理問題は、今も昔も解決していません。イギリスでも放射性廃棄物の最終処分地は見つかっていません。企業の利益や原発産業の意図のためだけに、原発に公的支援をする正当性はありません。むしろ社会的にも倫理的にも、そして経済的、財政的にも間違った判断です。

―誰のための原発輸出か。

地元の人々の声をないがしろにし、コストやリスクは人々に押し付け、企業の利益のために危険な技術を売るべきではありません。

*今回の住民招聘にあたって、ご寄付・ご支援してくださった方にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。また、福島、東京、大阪でお世話になりました、多くの団体・個人の方にも御礼申し上げます。

*署名提出などについて多くのメディアが報じました。以下はその一部です。

▼原発輸出巡り来日した地元・英の市民団体が反対訴え/テレビ朝日
http://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000128237.html

▼日立の英原発建設計画、地元住民が反対署名を提出/TBS
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20180528-00000047-jnn-bus_all

▼「他国に原発押し付けるな」英市民団体 日立に訴え/abemma TV
http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000128339.html

▼再生エネ技術こそ輸出を 日立の英原発計画 地元住民団体に聞く/東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201805/CK2018053102000154.html

※今回の住民の招へい費用をまかなうためにカンパを呼びかけています。
郵便振替口:00130-2-68026 口座名:FoE Japan
※通信欄に「ストップ原発輸出寄付」とご明記の上、ご住所、ご連絡先、ご氏名を
お忘れなくご記入ください。(領収書や活動報告をお送りいたします)

 

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