イギリスへの原発輸出ー現地住民の声

福島支援と脱原発2024.7.17

イギリス・ウェールズ地方の北西部に位置するアングルシー島で、日立の完全子会社であるホライズンニュークリアパワーが新規原発建設計画を進めています。

この原発事業をめぐって、地元では、もともとの計画が浮上した80年代から、市民による原発反対運動が続いています。FoE Japanは2017年11月現地を訪問。事業の問題点を調査し、地元の声を聞きました。

アングルシー島は人口7万人ほどの小さな島で、18世紀には銅採掘が盛んでした。主な産業として、アルミ加工工場が操業していましたが、2009年に閉鎖し、現在は観光業や農業、そして地元の小さな企業が島の経済を支えています。

また、2015年までマグノックスの原発が稼働していましたが、2012年に2号基が、2015年に1号基が閉鎖。写真の中央に見える建屋が現在解体作業中のマグノックスの原発です。

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中央に見える灰色の建物がマグノックスの原発(ウィルヴァA)

ホライズンが計画しているウィルヴァニューイッド原発の建設は、80年代にウィルヴァB原発計画として浮上しました。しかし「新規原発はいらない」と声を上げた地元市民が現在も活動を続けています(注:ホライズンはもともとドイツの企業、EONとRWEのジョイントベンチャーであったが、2012年に日立に売却した)。

地元の脱原発団体「ウィルヴァBに反対する人々(People Against Wylfa B、PAWB)」の創立メンバーの一人であるディラン・モーガンさんは、ウェールズ語の書籍を扱う書店を経営する傍ら地元大学でウェールズ語を教えています。1988年にPAWBを設立し、以来ウィルヴァ原発反対活動を続けています。

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PAWBのメンバーらと

「88年に始めた活動は成功しました。中央政府は当時、ウィルヴァ原発の計画を凍結させたのです。しかし2006年、労働党のブレア政権で原発推進政策が復活し、それから10年以上に渡りウィルヴァ計画に再び反対の声を上げてきました。」

ディランさんが話すように、イギリスでは1950年代から継続して原発推進政策が進められ、アングルシー島での新規原発建設計画も80年代に持ち上がりました。しかし、90年代はじめに電力部門の民営化やエネルギー政策の見直しで、新規原発建設がストップされて以降、イギリス国内では1995年を最後に原発の新規建設はありませんでした。2006年、ブレア政権のもとエネルギー政策が見直され、原発推進の新たなエネルギー計画(エネルギー白書2007年、原子力白書2008年)が発表されます。

ディランさんは「原発は危険で、健康や環境を脅かすものだと思っています。また建設には莫大なコストがかかることから公的資金の投入なしにはプロジェクトは進まないでしょう。日本の公的資金が投入される可能性が報道されていますが、20世紀の時代遅れのテクノロジーに日本の公的資金を無駄遣いしてほしくないと思っています。」と話します。

ウェールズ訪問中、2度、住民の方と意見交換する場を設けてもらいました。集まったのは地元の脱原発団体(PAWB)のメンバーだけでなく、地元の緑の党のサポーター、FoEのローカルグループ、アングルシー島で働いている人々、また事業に関心はあるけど事業について特に立場が明確なわけではないという住民の方などです。

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アングルシー島に住むある夫婦の方は、「島の若い人は(仕事がないから島を)出て行く。若い人は雇用創出に期待している。個人的には賛成でも反対でもないけれど、福島の事故の話を聞いていると、心配」との意見でした。

地元のアングルシー議会は、原発計画に賛成しています。賛成の最も大きな理由が原発事業による雇用創出です。ホライズン社は建設時に多い時で9000千人の雇用、そして長期的には800名分の雇用を生み出すとしています。この「雇用創出」をめぐっては、様々な観点から懸念の声が上がっています。

アングルシー島に住むという高齢の女性の方は「建設現場では多くの低賃金外国人労働者が働いているのが実態。ウィルヴァ原発の建設にも外部から労働者がやってくるだろう。ただでさえ病院などのインフラが足りていないと感じるのに、九千人もの雇用を受け入れられるとは思わない。」と話します。

また「本土と島をつなぐ橋は2つしかなく、事故の時に避難ができるのか心配」とも指摘。

地元で行政職員をしていたグウィン・エドワーズさんは、PAWBのメンバーの一人。原発建設は長期的な雇用問題解決に貢献しないと警鐘を鳴らします。

「1960年代、最初のウィルヴァ原発建設のときにも雇用創出につながるといわれた。しかしアングルシー島はウェールズの中でも失業率の高い地域。原発に雇用を奪われた地元企業は倒産していき、地元企業が崩壊してしまった」

PAWBメンバーで医者のカールさんも原発産業が雇用を生み出すという論理について、否定しています。来日経験もあり南相馬も訪問したことがあるというカールさんは「日本でもイギリスでも共通に感じたのは、貧しい地域に原発を押し付け、結局なにも起こらなかった(=雇用問題は解決しなかった)ということ。雇用を生み出すというが、原発政策と地元での雇用創出はそもそも関係ない。」

PAWBのメンバーは、原発が雇用をうむという言説に対抗するために、地元経済や雇用に関する代替策の提言も行っています。

他にも、アングルシー島の美しい自然への影響や、長年続く農業への影響も挙げられました。アングルシー島の沿岸部は、ヘリテージコーストと呼ばれ、自然保護区域になっています。

PAWBの創設者の一人でもあるロバート・エリスさんは、地元の元獣医師です。「美しい海岸線をこれ以上壊されたくない」と話します。

新たな原発の建設にはさらに広大な用地を必要とします。用地取得は完了していますが、2011年には300年続いた農業を守る為、農家の方が土地を売るのを拒否し、地元の人々や環境団体もサポートしました

【農地売却に抵抗した農家のインタビュー(ウェールズ語のみ)】

抗議の結果、2012年、ホライズンは土地を買収するのを諦め、運動に勝利した農家により今でも農業が続けられているそうです。

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ロバートさん(中央)と土地買収に抵抗した農家の夫婦(写真:ロバート・エリスさん提供)

ホライズンは、機材納入や運搬のために新たに桟橋を設け、また建設作業者のために新たに合計4000人を収容できる住居施設を建設するとしています。また、新たな送電線の建設、アクセスロードの建設も今後行われる予定で、送電線の建設に反対する市民グループもあります(注:送電線を建設するのは、送電部門を管轄するNational Grid)。

アングルシー島出身で、長年平和活動を続けているシオネッドさんは、核兵器開発の観点から原発に反対しています。

「広島、長崎の悲劇をしり、原子力兵器のために開発されたこの技術に反対することを決めました。また、放射性廃棄物の問題も解決していません。将来世代にこのような遺産をのこすべきではありません。」

続く…

プロジェクト概要

ウィルファB原子力発電プロジェクト(ウィルヴァニューイッド原発、Wylfa Newydd)は、イギリス・ウェールズ地方北部、アングルシー島で二基のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)を建設するもの。発電設備容量は合計で2,700MW。ホライズンニュークリアパワー(日立の子会社)が事業主体。

事業名:ウィルヴァニューイッド
事業内容:二基のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)の建設(発電設備容量合計2,700MW)
事業主体:ホライズンニュークリアパワー(日立が100%株式所有)
総事業費:不明(約1.5兆〜3兆円と報道あり)
建設開始予定:2019年
運転開始予定:2025年

 

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