ベトナム 原発計画を撤回!?-オールジャパンの売り込み攻勢の影で

福島支援と脱原発2024.7.17
ベトナムにおけるニントゥアン原発建設計画の白紙撤回の方針が報道されています。今日から国会で審議されるとのこと(注1)。
FoE Japanは、2011年からベトナムに建設される原発について問題提起を行ってきました。その一環として、先月、ベトナムを訪問。福島原発事故の経験を伝えました。
オールジャパンが売り込み攻勢をかける中、ベトナムのリーダーたちは冷静で賢明な判断をしたと思います。一方、移転を迫られた現地の人たちは…。ブログ記事にまとめました。
img_2248
原発建設予定地のニントゥアン省タイアン村に建てられた看板は、年月を経て、はげかかっている…

共同通信の報道によれば、ベトナム政府は、日本などの受注が決まっていたニントゥアンの原発建設計画を白紙撤回すると明らかにしたそうです。今日、国会に上程され、決定されるとのこと(注1)。
理由としては、財政難であることが挙げられていますが、原発のリスクについても言及されていました。

実は、先月、国会議員などが参加する原発に関する国際ワークショップに招へいされ、ベトナムに行き、福島原発事故の被害について報告させていただきました。

多くの人たちがふるさとを失ったこと、「原発さえなければ」と書き残して自殺した酪農家、除染・賠償・廃炉の費用がどんどん膨れ上がり、13兆円を超えたこと、東電は払いきれず、納税者や次世代が払うことになることなどを写真をまじえて報告させてもらいました。

終了後、ワークショップの議長を務めた国会議員が、「報道されていない福島の痛ましい状況がよくわかった」と話しかけ、握手をしてくれました。

ニントゥアン省の原発予定地は、ハノイから飛行機で3時間、車で1時間ほどの静かで平和な村。美しい豊かな海とふしぎな形の石と乾燥地の特異な生態系に囲まれており、人々は農業と漁業、家畜などで生計をたてています。

近くには美しい海を活かした観光拠点も多い、本当に本当に美しい土地です。

事業により移転しなければならないとされたタイアン村の人たちは、「国家事業だからしかたない」といいますが、「せっかく耕した農地やいまの暮らしを失いたくない」「本当は移転したくない」というのが本音なのです。

しかし、中には、「宙ぶらりんの状況はもういやだ。将来設計もできない。移転をするのかしないのか、はっきりさせてほしい」という人もいました。もう10年も、原発建設の話があるそうです。

新たに入ってくる原発事業により、雇用の増大に期待を示す人もけっこうたくさんいるという調査もあります。しかし、原発のリスクについてはもちろん説明なし。

翻弄されるのはいつも地元の人たちなのです。

それでも、私自身は、ベトナムのリーダーたちの慎重で冷静な判断を歓迎したいと思います。

日本は、経済産業省の補助金(「低炭素発電産業国際展開調査事業」)や委託事業で、28億円を原電に流し込み、F/S(実施可能性調査)を実施しています。その中には、復興予算の流用も含まれていました。さらにそれ以前には、東電が、経産省の補助金をつかってカーボンオフセット・クレジットの可能性調査をしていました。
ニントゥアン原発は、日本側が官民で売り込み、税金を使い、トップセールスを繰り返し、おそらくこうした巨大事業によって利権をえる人たちにくいこんで、かちとったものなのです。

原発はある意味、抜け出せない麻薬のようなものです。一度、巨大な利権が形成されると、にっちもさっちもいかなくなるのは、日本の例をみても想像できます。
地方分散型のエネルギー供給の仕組みも阻害されてしまいます。
そんな、「シャブ漬けエネルギー・システム」を、相手の国に売り込む。そしてその過程で多くの税金が使われた、という意味では、私たちにも責任があるのです。

ちなみに、ベトナムへの原発輸出は、日本側が政府系資金を貸し付けることが前提となっていました。しかし、ベトナムの対外債務問題も深刻です。ベトナムにとって日本は長年、最大のODA供与国。その大部分は「円借款」。ただし、ODAは原発には直接は使えません。送電線や周辺のインフラ整備、揚水発電などには、使われる可能性は大いにあります。
現にJICAはニントゥアン省における揚水発電事業に対して、協力準備調査を実施中です。もちろん、私たちの税金を使って。
ODA以外の公的資金の貸し付けも半端ではないでしょう。このままニントゥアン原発建設が進んでいけば、さらに巨額の債務が上乗せされたでしょう。

報道によれば、今日以降、国会でニントゥアン原発事業について審議されるそうです。情勢を見守りたいと思います。

関連記事>ベトナム・原発からの「勇気ある撤退」の理由とは

(満田夏花)

注1)日本受注のベトナム原発計画白紙 財政難理由、政権輸出戦略に打撃
(共同通信 2016年11月9日)
http://this.kiji.is/168978958645937661

 

関連するトピック

関連するプロジェクト