韓国政府に61団体が国際公開書簡:バイオマス発電に対する再エネ証書の発給停止を要請
2024年4月5日、韓国の気候団体SFOC(Solutions For Our Climate)が主導し、バイオマス発電に対する再エネ証書の廃止を求めた公開書簡を韓国政府に発出しました。同書簡には、FoE Japanを含む、気候変動や環境問題に取り組む18カ国・61団体が賛同し連名しています。
韓国では、2012年に導入された「再生可能エネルギー供給義務化制度(RPS: Renewable Portfolio Standard)」1に基づき、50万kW以上発電事業者は総発電量の一定割合以上を再エネで発電することが義務付けられており、義務供給量を自社で発電できない場合には、再エネ事業者から「自然エネルギー証書(REC: Renewable Energy Certificates)」を購入するなどして賄うことができます。RECを販売することで再エネ事業者の収入源となっていますが、RECには発電技術や燃料の種類などによって異なる「重み」(加重値)が設定されており、バイオマス発電の重みは太陽光や風力よりも高く設定されています。2013年には、5,000万トンの木材がバイオマス発電に使われ、バイオマス発電事業者は37億ドル相当のRECを獲得しました。
しかし、「再生可能」と銘打たれるバイオマス発電は、化石燃料よりも多くの炭素を排出する、炭素吸収源として極めて重要な森林生態系を破壊する、大気汚染や健康リスクの一因であるなど様々な問題を抱えています。韓国では今年、管轄当局である産業通商資源部(MOTIE)がRECの「重み」の改正を予定していることから、この書簡では、誤った気候変動対策であるバイオマス発電からの脱却を見据え、RECにおけるバイオマス発電の重みづけを廃止するよう韓国政府に要請しています。
詳しくは、原文(PDF)もしくは以下の仮訳 をご覧ください。
*本仮訳は、2024年4月5日にSolutions For Our Climateが発出した国際公開書簡 “South Korea must take the lead in climate action by eliminating Renewable Energy Certificates for biomass power" を FoE Japan が抄訳したものです。詳細や不明な点については、原文(英語・韓国語)をご確認ください。原文(PDF) はこちら。
仮訳
国際公開書簡:韓国政府は、バイオマス発電に対する再生可能エネルギー証書の発給を停止し、気候アクションを主導すべき
2024年4月5日
大韓民国 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領
産業通商資源部 安德根(アン・ドックン)長官
産業通商資源部 崔南浩(チェ・ナムホ)次官
私たち、以下に署名する61の気候および環境団体は、産業通商資源部(MOTIE)が今年実施する再生可能エネルギー証書(RECs: Renewable EnerygCertificates)の加重値の改正において、バイオマス発電に対する再生可能エネルギー証書を廃止するよう、韓国政府に要請します。バイオマス発電、つまり大規模発電所で木を燃やして電気をつくるということは、極めて多くの炭素排出と森林喪失をもたらします。バイオマス発電は、経済全体の脱炭素化を加速しながら、世界の再生可能エネルギー設備容量を3倍に増やすことに貢献するという韓国政府の目標を妨害する危ういものです。
バイオマス発電は、誤った気候変動対策。韓国では、見境なくすべてのバイオマスが「再生可能」と銘打たれ、RECの加重値は太陽光や風力よりも高く設定されています。しかし、木を燃焼すると単位生産電力あたりのCO2排出量は、石炭や石油、天然ガスよりも多く、大気から炭素を吸収するために極めて重要な森林生態系を破壊し、そのサプライチェーンのあらゆる過程で大気汚染や健康リスクの一因となります。バイオマス産業は、木が伐採された場所で新たな木が成長し、放出された炭素は再吸収されると主張しますが、このプロセスには数十年から1世紀を要する可能性があり、世界にはその時間がありません。現在の速度でバイオマスを燃焼し続けても、すでに減少している世界のカーボンバジェットを使い果たすだけです。
バイオマス発電は、気候変動と人道的危機に付け込んでいる。2012年に再生可能エネルギー供給義務化制度(RPS: Renewable Portfolio Standard)が導入されて以来、韓国のバイオマス発電は42倍に増加しました。これにより、バイオマス発電は風力の3倍以上となり、韓国で2番目に大きい再生可能エネルギー源となりました。2015年以降、韓国のバイオマス発電は、5,000万トンの木材を燃やし、37億ドル相当のRECを獲得しました。その結果、累積排出量は70MtCO2を超えたと推定されています。この木材のほとんどは、東南アジアやカナダ、ロシアの自然林や生物多様性に富んだ森林を含む、世界中から調達されています。特に、国際的な制裁を受けているロシア産木質ペレットの輸入は、ウクライナ侵攻以来8倍に急増しており、意図せずとも韓国を今も続くこの戦争を助長する国にしているのです。
炭素会計の抜け穴を悪用してもバイオマス発電が「グリーン」になるわけではない。時代遅れのIPCCのルールは、消費国がバイオマス燃焼による排出を省くことを許容し、バイオマスをゼロ・エミッション・エネルギーとして推進できるという幻想を作り出しています。この特殊な事情を最大限に利用し、韓国は2022年だけで、5.8 MtCO2の削減負担を生産国に実質的に転嫁しました。これほどの「隠れた」排出量は、政府が2050年ネット・ゼロ目標の一環として達成することを約束した、年間-8.4 MtCO2の国内の森林炭素吸収源の増大の大部分を帳消しにするものです。気候や人道的影響を他の国々に転嫁することをバイオマスによる削減効果と主張することは、国家レベルの気候不正義です。
バイオマス発電は、経済的利益をもたらさない。森林バイオマスは、最も高価な電気の燃料の一つであり、発電コストは太陽光や風力を上回ります。太陽光発電の世界平均コストは、10年前の11%に激減したが、バイオマス発電のコストは75%にとどまっています。韓国エネルギー経済研究所(Korea Energy Economics Institute)による、過去のRECの加重値に関する改定の分析は、韓国においても、バイオマス発電は太陽光や陸上風力よりもコストが高いことを示します。この高コストは、主に燃料となる木材のコストによるもので、貴重かつ限られた資源である木材の価格は上昇する一方です。世界的に、バイオマス発電は費用対効果や技術的革新への明確な道筋のない立ち往生している産業なのです。
世界はバイオマス発電の先へと進む準備が整っている。すでに2021年および2022年に、1000人以上の科学者が、韓国政府に対して、森林バイオマスへの支援を中止するよう要請しています。2023年には、パリ協定の第1回グローバルストックテイクで、2030年までに世界の再生可能エネルギー設備容量を3倍にし、森林減少及び劣化を根絶し回復に転じさせる必要性に合意しました。私たちは、今こそ韓国の気候変動へのコミットメントに背くバイオマス発電への補助金を完全に止める時であることを認識するよう、敬意を込めて韓国政府に要請します。再生可能エネルギーの拡大を妨げてきた、市場を歪めるこれらの補助金を撤廃することは、気候変動対策における韓国の評価を回復する一助となるのです。
韓国が世界の気候変動および生物多様性の目標達成に向けてリーダーシップを発揮することを期待し、私たちは韓国政府に対し、バイオマス発電の段階的廃止に向けた第一歩を踏み出すことを要請します。私たちは、韓国政府が今年の第4回REC加重値の改定を好機とし、バイオマスへの加重を廃止するため、以下のとおり勧告します。
- 原料の産地や燃焼方式に関係なく、すべての新規の商用規模のバイオマス設備に対するREC加重を直ちに撤廃すること。
- 2050年までに、2018年以前に運転を開始し暫定措置の対象となった設備に与えられている従来のREC加重を段階的に廃止すること。
- 2028年までに、2018年から2023年の間に運転を開始した設備に与えられている現行のREC加重を段階的に廃止すること。
- 参照:JETRO, ビジネス短信「再生可能エネルギー供給義務化制度(RPS)の義務供給比率の上限拡大」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/04/93237fc9ad382ec3.html ↩︎