地球にやさしい、タイガの木?
さて、私達が注目しているのは、いま日本の木材業界や需要家のあいだで、北洋材が、"地球環境にやさしい木材"という位置づけをされて需要を拡大していることです※3。
たとえば、"北洋カラマツ"とよばれる極東ロシア産のカラマツ(主にダフリアカラマツ)には、"針葉樹合板"と呼ばれる合板の材料としての新しい需要が生じています。針葉樹合板は、ツーバイフォーと呼ばれる工法の住宅の構造部分などに使われる合板です。
日本で合板の材料といえば、今日まで主流となってきたのはマレーシアやインドネシアなどの熱帯雨林で伐り出されるラワン材(フタバガキ科の広葉樹。"ラワン"はタガログ語。マレーシア・インドネシア語では"メランティー")でした。しかし、このラワン材を日本が合板の原料として
− とくに、コンクリート建築の型枠として使い捨てにされるタイプの合板の原料として − 大量に輸入してきたことが、マレーシアやインドネシアに今日みられる熱帯雨林破壊に影響を及ぼしているという見方が次第にされるようになりました。内外の新聞などもこれを問題として取り上げるようになり、一部の環境保護団体などには、自治体に公共事業でラワン材を使った合板を使わないよう求めるなどの運動を起こしました。
こうした情勢に反応し、合板業界はラワン材の使用を減らすための方策として、針葉樹を原料とする合板の開発に取り組みました。
しかし、そのようにして合板の新たな材料となった針葉樹は、国産のものではなく、やはりより価格が安く − しかも国産の針葉樹よりも性質が均一で、大量生産品の原料に向く − 北欧産、ニュージーランド産、アフリカ産、そして北洋材でした。
そして、現在その中で圧倒的な比率を占めているのが、"北洋カラマツ"と呼ばれるロシアのタイガのカラマツです。
いま北洋材や北洋材を使った製品は、業界紙などで「環境にやさしい木」「熱帯雨林保護に貢献する、地球にやさしい製品」としてPRされています。
"熱帯雨林は伐採してしまうと再生しないがロシアの針葉樹林は伐採しても自然に回復する"("天然更新する")− "熱帯産の木材の使用を減らしてもっとロシア産の木材を使えば地球環境のためにもなる" − それが本当であるとすれば素晴らしいことです。しかし − 誰が、いつ、どうやって、それを確かめたのでしょう?
二年ほど前、私達はある日本の建築家からこういう話を聞きました。
日本への木材輸出は、ソ連時代は政府の外貨獲得手段のひとつとして位置づけられ、国営企業が独占的に行っていました。ソ連崩壊後は数百もの伐採会社や輸出会社が現れてタイガの木材を日本へ輸出するようになりました。タイガで丸太を伐り出して日本に輸出することが、この地方のビジネスマン達にとって最も手っ取り早く現金を稼ぐことのできる手段となった訳です。
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