かつて、タイガは無限の森であると言われていました。ロシアの作家、チェーホフは「この森がどこまで続くかは、渡り鳥しか知らない」と書いています。
タイガが果てしないものであるというこの感覚は、タイガを見た人間にとってはごく普通の感覚となり、ロシアでは多くの人々はタイガに対してこの感覚を抱いてきたようです。また、ロシアの人でなくとも、旅客機でシベリアの上空を飛んだことがあれば、広大な森が地平線まで絨毯のように大地を覆っているその様子を、見たことがあるかもしれません。統計の数字で見ても(第2話でご紹介したように)タイガが世界最大の森林地帯を形成していることが分かります。
しかしその無限に見えるタイガで、実は確実に破壊が進行しています。とくに、極東ロシアではタイガの破壊で現在までに次のような問題が起っています。
ソ連時代から極東ロシア各地でタイガの破壊によって生じてきた問題;
− 表土の流出、川の水量の減少、洪水の発生の増加
− サケ資源の減少
− 森林資源の質の劣化、局地的な減少("二次林"の増加、伐採の "奥地化" など)
− 野生生物の生息への影響、生息地の破壊・分断(例:トラの生息出来るタイガの減少など)
− 森林先住民族の暮らしへの影響
− 火災や病虫害の発生の増加(伐採の激化と火災発生の増加の関連性を指摘した報告もある)
− 特定樹種の減少(例:日本に高く輸出できたため集中的に伐採されたベニマツやタモなど※1
タイガの破壊を引き起こしてきたのは、町の建設や、鉄道、道路の敷設、農地開発、資源採掘、軍事演習、大規模火災、そして木材調達のための伐採などでした※2。その中でも、タイガを破壊する規模のとくに大きいのが、針葉樹を中心とする丸太の調達を目的としてソ連時代から極東ロシア各地で拡大された伐採です。いま、その伐採が日本に輸出するための木材を集めるためにさらに激化しようとしています。(このページの写真は日本向けのエゾマツを切り出すためにサハリン島で伐採が行なわれた箇所です。)
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