意外に思われるかもしれませんが、日本人の暮らしはタイガに相当の"恩" を受けています。
戦後、日本の経済が猛烈な勢いで成長し始め、住宅建築その他に必要となる木材の量が年々増大していった時期、日本の政府や業界の人々がそれを乗り切る手段として選んだのは、北米の森林や旧ソ連のタイガで伐り出される丸太を低価格で大量に輸入して使うことでした。(つまり、これを読んでいるあなたの住まいも、戦後に建てられたものであるなら、どこかにタイガで伐り出された木の使われている可能性があります)
日本で建てる住宅の材料として見た場合、国産のスギやヒノキなどの木材のほうが日本の気候風土に適した良材と言えました。しかし国産のスギやヒノキは人間が世話をして育てている分、コスト高となり、価格では外国の天然林で伐り出される木材にかないませんでした。
ロシア産木材を扱う業界団体の副理事長であった人が当時を振り返ってこう述べています※1。
「戦後、日本経済の向上、貿易自由化に伴う企業整備、都会および地方の需要増並びにオリンピック景気など原因は豊富であるが、内地産針葉樹生産が著しく減退し、かつ原木高となったため内地製材業者は挙げて北洋材に転向し、資材確保に乗り出した」
"内地産針葉樹"というのは、国産の針葉樹 − 日本の人工林で育てられるスギやヒノキ − のことです。そして、"北洋材"というのは、旧ソ連/ロシア産木材の総称です。北洋材は、極東ロシアの伐採労働者達が冬のタイガで伐り出すエゾマツやカラマツなどの針葉樹材で、それが丸太の状態でロシアの港まで運び出されたところで日本の商社に買いつけられ、日本各地の港まで運ばれて、日本人の住む住宅の部材などに加工されてきました。