【第5回スクール・オブ・サステナビリティ2報告】わたしが住みたい理想の街のあり方

気候変動2024.7.5

こんにちは!FoEインターンの佐藤です!

スクール企画最終回の第5回は、環境分野の通訳・ライターとしてご活躍されている熊崎実佳さんと、パッシブハウスジャパン代表理事の森みわさんをゲストにお迎えしました。

車が走らない地域づくり

まずは、ドイツの環境先進都市「フライブルク」における車のない社会作りについて、熊崎さんからお話を聞きました。

みなさんは、そもそも「車」の必要性について考えたことはありますか?

車は移動も簡単、そしてラクに荷物も運べることがメリットですが、デメリットには何が挙げられるでしょう。

私自身、デメリットというと「車=二酸化炭素排出!」の印象が強いのですが、それだけでなく実は車はものすごく場所を占拠する乗り物。車が道路を塞ぐだけではなく、車を止めるための駐車場自体も実は大きな面積を占めています。

その大きな面積を自転車用道路や、トラム(路面電車)の通路に当てたら一体街はどう変わるのでしょうか?

これを実現したのがドイツのフライブルクです。

フライブルクでは、「車から脱却した社会」を目指して、代わりに公共交通・自転車・徒歩を中心とした生活が営めるように地域がデザインされています。

フライブルクの交通政策としては、路面電車と自転車優先道路が張り巡らされており、そういった乗り物では移動がカバーできない地域には加えてバスも走っています。また、レンタル自転車の利用も盛んで、公共機関には乗り放題の定期券も作られているのです。このように、車に頼らない交通網が普及しているため、車なしでの日常生活も豊かで充実したものとなります。

そして、車なしで移動するのが理想ですが、そうはいかない人には「カーシェアリング」もよく利用されています。一家に車一台という広まった価値観から離れ、「そもそも車は本当に必要なのか」「車のない地域は具体的にどんな姿をしているのか」というような疑問に向き合い、解決策を生み出していったのがフライブルクです。

フライブルクのなかでも特に自動車を減らす取り組みに尽力したのが「ヴォーバン地区」です。

ここは、まず地区全体を袋小路にして通過交通(目的があって寄ったのではなく、たまたま通りかかった車の量)を無くすことで、交通量の削減が図られています。

そして、駐車場を自宅に併設する代わりに、共同の立体駐車場に移します。そうすることで自動車に乗るまでの移動が増えて必要なときに素早く乗れるという自動車の魅力が失われることで、それならトラムを利用し目的地の都市まで向かう方が効率が良いと考える人が増えました。

車の量を減らすことは、道路が誰もが使える空間に変わるということ。その分、路上に子どもが遊べるスペースが確保でき、これまでにない場所の使い方も生まれてくるでしょう。

また、徒歩や自転車の利用は車よりも、ご近所さんと顔を合わせる機会も増えるために、人同士の繋がりも生まれるそうです。

何より、車社会であったフライブルクで、「自動車のないまちづくり」を可能にしたのは一体誰なのでしょうか。

熊崎さんは、この答えは「市民」だとおっしゃいます。自動車産業というのはとてもロビイング力は強いため、産業政策にも大きな影響を与えてしまいます。

そのため、理想の街づくりを行うには政治家に任せておくままではいけません。トップダウンによる変化が期待できないとき、動き出したのがフライブルクの市民だったのです。

「車の量を減らしたい。自分たちの街を変えたい」この意志がどの地域よりも強く、そして実際に行動に移していく行動力があったからこそ、車依存社会を脱するという大きな変化がもたらされました。

このお話を聞き、権力を持っている大企業などに対してでも、市民が結束して行動を起こすことで求めていた結果が出たという、この事例にわたしも大変励まされました。

「Eco(環境)」も「Ego(経済性)」も両立できる家づくり

続いて、パッシブハウスジャパンの森さんからエコフレンドリーな建築「パッシブハウス」についてご説明いただきました。

私たちが住む日本では、この50年間で一人当たりのエネルギー消費量は3.6倍まで上がり、エネルギーを大量に消費する生活が営まれています。

エネルギーを温水のように使う私たちの暮らしのなかで、最もエネルギーが消費されているのが「給湯」そしてその次が「暖房」です。この暖房部分にメスをいれ、熱を逃がさない仕組みを作ったのがパッシブハウスです。

パッシブハウスは、「健康×省エネ×経済性」を両立させた新しい建築の形で、いまある普通の家よりも90%ほど熱を逃さないと言われています。

森さんは、「Eco×Ego= パッシブハウス」とも言えるとおっしゃいます。つまり、環境のために我慢をしたり何かを犠牲にすることなく気持ちよく過ごせる家が「パッシブハウス」なのです。

パッシブハウスの特徴としては以下のものが挙げられます。

①しっかりした断熱
②空気の漏れを無くすこと
③熱橋(熱が簡単に通り抜けるところ)をなくすこと
④良い性能の窓(三層ガラスなど)
⑤熱交換換気(熱を逃がさないで新鮮な空気を取り込む)
→これらを上手く組み合わせることで暖房のいらない家づくりが可能に

こんなに優れたパッシブハウスでも、たとえオール電化仕様で、巨大な蓄電池を積んだとしても冬のエネルギー自活にはなかなか難しいものがありました。

この課題の解決策の一つとして挙げられるのが”P2G(Power to Gas)です。

余剰の太陽光をストレージとして貯蔵することで、インフラにバイオメタンを戻すことができます。

スイスの独立した集合住宅やドイツの賃貸住宅でもこの仕組みの利用がすでに実現し、再エネをどうマネジメントしていくかが問われるこれからの時代に、非常に有望視されている住宅の仕組みとなっています。

細かい仕組みまで完全に理解することは難しいかもしれませんが「健康も守り、地球も守る」。そんな新しい住宅の選択肢に魅力を感じる人は多いのではないでしょうか。

人と違うことに自信をもつ

最後にお2人から、参加者へ向けて一言ずつ頂きました。

この日本社会では、人と違うことはとても目立つし、ネガティブな言葉をかけてくる人も少なくはありません。

しかし、森さんは「自分の考えを持ち、人との違いが生まれることは、自分自身が確立したことを示している」と仰っていました。そして、出る杭は打たれる状況のなかでも、自分を信じ守れるのは自分だけだと。
それと同時に、「できった杭は打たれない」という言葉もくださいました。もう周りが口を出せないほど突き抜けてしまえば、周りからの視線も変わります。自分の感性を信じてブレずに突き進むことの大切さに気付き、その勇気をもらいました。

そして熊崎さんからは、仲間を見つけることの大切さをお話しいただきました。他人を巻き込むことは、自分自身の強さになるだけでなくその周りに影響を与えることにもなります。自分の殻にこもって抱えすぎないで、同じ方向をもつ仲間とともに辛抱強く向き合い続けることの重要性を改めて認識しました。

今回の第5回が最終回となりましたが、最後まで参加してくださり、ありがとうございました!

毎回新しい知識を得ていくのが、私もとっても楽しかったです!

みなさんとまたどこかでお会いできるのを楽しみにしております!

(インターン 佐藤悠香)

▼第4回のプログラム
・車のない社会を目指して〜ドイツ・フライブルク市の取り組み〜(熊崎実佳さん、環境分野の通訳・ライター)
・誰も置き去りにしないエコハウスを!(森みわさん、一般社団法人パッシブハウス・ジャパン代表理事)
※ゲストスピーカーの講演のみ公開しています。


*過去のスクール・オブ・サステナビリティ2の報告ブログや動画はこちらからご覧いただけます。

https://www.foejapan.org/climate/event/school2021.html

 

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