日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(14)

森林保全2024.7.5

第六回 えびの市大字西長江浦(その2)

 林野庁は2021年3月30日の宮崎県盗伐被害者の会からの要請を受け、5月中旬に盗伐被害地視察を予定していましたが、緊急事態宣言の延長を受け、延期となりました。

 今回は、前回に引き続き、志水惠子さんの事件を紹介します。
 ※今回も被害当事者の志水惠子さんのご了承を得て、実名で記述しております。

宮崎県盗伐被害者の会を伴い再び現場検証
 残念な結果に終わった2020(R2)年4月27日のえびの警察署による被害地の現場検証。志水さんはこれに納得できず、宮崎県盗伐被害者の会の海老原会長に相談し、現場を見てもらうことになりました。5月5日、志水さん、ご友人ご夫妻、そして海老原会長とで再び現場検証を実施。この検証で海老原会長によって志水さんの林地の境界杭が確認されたのでした。多くの被害地を見てきた海老原会長は「志水さんの山は境界が公有地(日本道路公団、宮崎県、えびの市)に隣接しているため、被害者の中でも一番わかりやすい」。

えびの市役所との折衝、広範な「無届伐採」が判明
 5月8日に申請した情報開示請求の結果が5月18日に得られました。入手できたのは「公文書非公開決定通知書」で「公文書不存在」との記載のみでした。3筆(1195-1、1195-20、1216-2)とも同じ結果でした。いわゆる「無届伐採」であることが判明しました。
 志水さんらは、本件についてはすでに「無届伐採」であることが判明し、容疑者も明らかであり、市の責任が問われる問題であることや、海老原会長の被害事件「ツブロケ谷」のときのように宮崎市から刑事告発すべき案件なのではないか、伐採業者名を明らかにしてくれ、といった対応を求めました。しかしそれでも煮え切らない態度に対して、「市の責任を問うべく、志水さんからえびの市を訴えてもよい」と被害者側の強い意志を示すと、S氏が10分ほど席を外し、「立木所有者」と「造林者」の欄が黒塗りされた、伐採業者名のみわかる「伐採届」を持ってきました。黒塗りの理由は「伐採業者名を教えてくれとの依頼でしたゆえ」。その伐採届の写しを入手すべく、5月27日、再びえびの市役所を訪れ、二度目の情報開示請求を行いました。
 またこの新たな情報を逐一伝えるべく、5月28日、志水さん、海老原会長とでえびの警察署を訪問しました。対応者は前回同様、警部補M氏と現場検証で「伐った人に残りの木を売ったらどうですか?」と三度打診してきたS氏。この訪問は盗伐被害者の会としては初訪問だったゆえ、挨拶代わりでもありました。

 6月4日、志水さんの手元に「公文書一部公開決定通知書」が届きました(図1)。図2には志水さんの被害林地周辺の概略図を示します。開示された伐採届は2017(H29)年2月15日付けで申請され、3月23日付のえびの市農林整備課印が押されたものでした。これから幾つか重要なことが明らかになりました。(1)地番1195-21を伐採した業者名、(2)志水さんの林地3筆に隣接するその他の地番(1216-1、1195-9)の伐採届が出されていない、つまり「無届伐採」であること、そして(3)伐採期間です。
 まず(1)からこの伐採届が容疑者Iに関連していることがわかります。立木所有者欄は黒塗りですが、志水さんが入手している字図や土地登記簿から地番1195-21の所有者はIで、Mから2017(H29)年3月23日に購入したものであることは確認できています。(2)はIがMから購入した3筆のうち2筆が無届伐採だったことを意味し、志水さんの3筆を加えれば5筆の林地が無届伐採でした。1筆のみ伐採届を出して「合法化」し、広範に盗伐する行為の典型です。(3)は2017(H29)年3月30日~12月20日と記載されていました。志水さんが気付いたのは2020(R2)年1月29日でしたので、森林窃盗(盗伐)罪の時効3年の関係で実際に伐採されたのがいつだったのかがとても重要になります。

土地家屋調査士から有益な情報
 志水さんとT氏は商工会の会員で顔見知りでしたので、すぐに足を運ぶことにしました。志水さんが「市役所から言われたので」と切り出すと、T氏は繰り返し何度も「Iは悪いことばかりやっているのであいつは逮捕してもらわなければならない」、「木があっちこっちで伐られている。志水さんのすぐ近くのすごく大きな山も伐られている。その山主も相当怒っている」という情報を得ました。
 6月25日、今度はえびの警察署警部補M氏より電話がありました。M氏は「山を売ったMに話を聞きに行き、『何十年も山には行っておらず、境界が分からず、山には行かずIに売った』とのことゆえ、境界が分からない以上、事件として成り立たない」との見解でした。志水さんが「時効は2020年12月20日までですか」と問うと「時効は警察では調べようがない、分からない」。「伐採業者S社を調べれば分かりませんか?」と質問すると「S社はまだ調べていない」との回答でした。

警察の執拗な確認行為
 この頃からえびの警察署は志水さんに対して執拗に質問を繰り返すようになりました。それまで窓口になっていたのは警部補M氏とS氏でしたが、2020年8月から警部(課長)A氏から志水さんに連絡がくるようになりました。A氏は何やら2017年2月と4月に強いこだわりを示していました。なぜえびの警察署は急に動き出したのか、なぜ2017年2月と4月にこだわるのか、A氏から明確な説明もなく、その真意ははかりかねますが、森林窃盗(盗伐)罪の時効期限と関連があるであろうことは容易に推測されるところです。
 本来であれば法に基づき捜査権が与えられている警察が入手すべきと考えられる情報について、その情報を知りようもない被害者の志水さんに一度ならず何度も問う行為は、被害当事者からすれば「嫌がらせ」でしかありません。実際、警察からの執拗な問い合わせや、呼び出しを受け、警察の行為は「志水さんを犯人扱い」しているように感じました。これによって志水さんは心身のバランスを崩し、体調不良に見舞われました。

 ここで簡単に整理しておきます。志水さんが盗伐被害に気付いたのは2020年1月29日。えびの警察署にはじめて相談に行ったのは2020年2月のことで6日から14日の間に1回、その後2月中にもう1回、計2回訪問しています。そして3回目の訪問が4月21日。容疑者Iが1筆だけ「合法化」した伐採届が受理されたのは2017(H29)年3月23日で、記載されていた伐採時期は2017(H29)年3月30日~12月20日。伐採届が正式に受理された日付から法的に伐採が認められるとすれば、その日付から3年後の2020年3月23日までが森林窃盗(盗伐)罪の時効期限と考えられます。
 現在えびの警察署は、志水さんの初回の訪問、つまりS氏が対応し、志水さんをほぼ門前払い扱いをした2020年2月中の2回の訪問のことを完全に無視し、3回目の訪問で警部補M氏とS氏の両名が対応した2020年4月21日を「志水さんが初めて警察に相談にきた日」という事実無根の主張を繰り返し、志水さんにそれを認めるよう強要しています。これについては次回、詳細について説明します。

打開策として告訴状を送付
 体調の優れないなかでも、志水さんの盗伐被害事件解明に向けた確固たる信念は揺らぎませんでした。事態の打開策の一つとして被害者の会の海老原会長の支援を得ながら8月24日、告訴状を作成し、宮崎地検検事正、宮崎地裁所長判事、宮崎県警本部長、えびの市長、宮崎日日新聞本社に宛て送付しました。その「告訴状」は「告発状」に修正されて9月14日に正式にえびの警察署に受理されたのですが、紆余曲折あったその経緯を説明します。
 告訴状送付の翌8月25日、宮崎地検M氏から告訴状受領の電話がありました。「えびの警察署に捜査をして貰えていますか?」と問われ、志水さんは「被害当初は捜査してもらえなかったが、最近は電話連絡がくるようになりました」と回答しました。
 8月27日にはえびの警察署警部(課長)A氏から連絡があったため、同署へ出向いて宮崎地検検事正、宮崎地裁所長判事、宮崎県警本部長、えびの市長宛てに告訴状を送付したことを伝えました。その足でえびの市役所農林整備課主任主事S氏も訪ね、同様の報告をしました。
 8月29日、再び、えびの警察署警部(課長)A氏より来署依頼があり、「提出されたのは“告訴状”だが、地権者は志水さんの母親であり地権者本人でないと“告訴”はできず、娘の惠子さんによるものであれば“告発状”であるべき」という説明を受けました。そこでA氏の指示に従い、「告訴状」を「告発状」に修正し、再びA氏に提出すると「新たな“告発状”の内容を再度検討し、受理の可否については追って返事する」との対応でした。これを受け9月2日、志水さんは念のために「告発状」を再び宮崎地検検事正、宮崎地裁所長判事、宮崎県警本部長、宮崎日日新聞本社に宛てて送付。さらに各所を訪問し「告発状」としての再送付したことを伝え、適切に受理してもらえるよう依頼をしました。その結果、えびの警察署A氏から「告発状を受理させて貰います」との電話連絡を受けました。このことは宮崎地検M氏にも報告しました。
 9月4日、その日体調を崩していた志水さんに、えびの警察署から電話があり「ご自宅にお伺いしてもよいですか?」。えびの警察署警部(課長)A氏、F氏が志水さん宅を訪れ、“告発状”は受理、“告訴状”は不受理とする旨、説明を受け告訴状が返却されました。その後9月14日、告発状に不備があったため、えびの警察署へ出向き、その修正後、差し替えたものが受理されたのでした。

 志水さんは「しばらく続いたえびの警察署の執拗な確認行為は9月4日を境に“ピタッと”止まり、態度も急変した」と精神的に厳しかったこの時期を振り返ります。

 告発状が受理され、ようやくえびの警察署が本格的に動き出しました。9月28日、えびの警察署警部(課長)A氏より実況見分実施の知らせがあったのです。次回は実況見分の様子とそれ以降も続く志水さんにとって不本意なえびの警察署のとのやりとりを紹介します。(三柴淳一)

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