日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(12)

森林保全2024.7.5

第五回 国富町大字木脇(その4)

 2017年11月から翌年4月の間に宮崎県西都市内のスギ計179本を伐採させて盗み、2020年7月に逮捕、9月に起訴され、森林法違反(森林窃盗)の罪に問われていた宮崎市の伐採業者「朝日商事」元代表、現在無職の中原朝男被告に対して、宮崎地裁は12月15日、懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)の判決を言い渡しました。角田康洋裁判官は「被害者に誤伐と言うなど犯情は良くない」としました*1
 なお11月24日の論告求刑公判で、検察側は「根こそぎ伐採し、ばれたら弁償すればいいと考えており、動機に酌量の余地はない」と指摘し実刑を求刑、弁護側は「被害弁償を進めている。息子の支援を受け、林業から引退する」と情状酌量を求めていました*2

 今回は、これまで三回に渡って紹介した高野恭司さんの隣の林地の所有者で、同様に黒木林産の盗伐被害に遭われたTさんの事例を紹介します。

被害林地の概要
 Tさんの林地は国富町大字木脇2532番地。面積は700m2(0.07[ha])で500m2は平坦です。その理由は戦時中、兵舎が建っていたとのこと。土地入手の経緯は27年前、いとこから「林地を買ってくれ」との依頼を受け、購入したのだそうです。
 被害の状況については、第五回 国富町大字木脇(その2)で触れましたが、被害本数77本、警察による実況見分によって認められたのは13本です。

 Tさんの林地には2007(H19)年に境界調査が入り、境界は明確でした。さらに被害を受ける前、2014(H26)年に森林組合に依頼して「しっかり太らせていく」という計画の下、間伐してもらったばかりでした。Tさんは生まれも育ちも国富町で、現在も居住しています。頻繁に現場に足を運び山を見るのが楽しみだったそうです。したがって、一般論として盗伐被害の要因にあげられる「不在地主」、「経営意欲の低い所有者」、「地籍調査が及んでいない境界が不明確な林地」といったことには該当しない事例であり、そのような所有者でも被害に遭ってしまう、ということを強調しておきます。

まさか自分の山が被害に遭うとは?
 2018(H30)年5月に国富町役場では町の広報誌で見開き2ページの盗伐の注意喚起の記事を掲載しました。Tさんもこれを読み、「盗伐行為が横行している」ことを認識していましたが、さすがに自分の山が被害に遭うとは夢にも思いませんでした。しかもTさんは6月2日に現場を車で通ったそうです。そのとき伐採準備は進んでいて、H鋼で水路に橋を架けている様子を含め、準備作業を目撃していたのですが、自分の林地の被害と結び付かなかったようです。Tさんは「だから材を出されてしまってからではわからないのでしょうね」と振り返ります。「盗伐は人が入らない裏山とか奥山とか、見えないところでやるものだと思っていた。だから白昼堂々と作業を進めていって、ばれた場合は『誤って伐りました。ごめんなさい。示談金を払います』としてやっていたのだろう」。

「無届伐採」が判明
 2018(H30)年9月13日、Tさんも高野さんに続き国富町役場に情報開示請求をしました。結果は9月14日に交付され、「該当する関係書類は存在しません。理由は当該申請地における伐採及び伐採後の造林の届出書が提出なされていないため」というもので、いわゆる無届伐採が判明しました。
 その後、Tさんも国富町役場に「現場に来てくれ」と働きかけ、役場の担当者数名の現場視察が実現しました。その時、Tさんは台風24号の豪雨によりすでに崩れはじめている盗伐跡地を指しながら、その補償の可能性について役場職員に問うと「自然災害は補償の対象にはならない」との回答だったそうです。さらに「林地に盗まれずに残っている数本の樹木が倒れた場合はどうなるのか?」という問いに対しては「話し合いしかないのでは?」と完全に他人事のような回答で、親身になって考えてくれているような様子は微塵も見られませんでした。
 高野さんが警察とのやりとりをする中で、2018(H30)9月30日にTさんの林地でも警察の実況見分が実施されました。その後2回、計3回かかり、Tさんも都度立ち会い、切り株を指さした写真の撮影を警察から要求されることなどもあったそうです。

 ところが役場や警察の対応は遅々として進まなくなり、問い合わせをしても「難しいのですよね・・・」といった回答が続いたため、Tさんは宮崎日日新聞の「窓」に盗伐被害について投書もしました。

Tさんにも届いた「示談書」
 第五回(その2)で触れた高野さんに届いたN弁護士から内容証明での「示談書」は、Tさんの手元にも届きました。記載内容は77本、315,000円の支払いを明記した「詫び状」でした。高野さん同様、Tさんもこの通知には対応しませんでした。

刑事が終わったら民事で
 Tさんにお話をお聞きしたのは、まだ黒木林産の刑が確定する前のことでしたが、Tさんは刑事裁判が決着した後は、民事裁判で損害賠償を求めていくつもり、との考えを話してくれました。「黒木林産は裁判になっても、一度も挨拶にも詫びにもこない」。Tさんも誠意のかけらも見られない盗伐業者を許すつもりはないようです。

最後に
 本稿冒頭で触れた中原朝男被告が代表を務めていた「朝日商事」は、現在も宮崎県森林組合連合会が認定する合法木材供給事業者です。つまり黒木林産に続き宮崎県内で2件目の「合法木材供給事業者」が関与した盗伐事件の有罪判決となります。
 一方、宮崎県盗伐被害者の会の会員家族数は現在120で、これも「氷山の一角に過ぎない」と同会会長の海老原さんは言います。「黒木林産は国富町木脇の盗伐現場以外でも盗伐を繰り返している。朝日商事も同様」。

 このような状況下で生産された「合法木材」、その信頼性は極めて低いと言わざるを得ません。その信頼性の低い「合法木材」は、製材、集成材、合板などに加工され、「合法木材」として日本全国へ出荷されています。さらには宮崎県産スギも含め、近隣県の原木が鹿児島県志布志港から中国、韓国、台湾などに「合法木材」として輸出されています。現状の制度と取り組み状況において、「その中に盗伐材が含まれていない」と断言できるだけのトレーサビリティが確保されているとは、とても思えません。

 なお、無断伐採に関する国の調査(2020)*3によれば、2018年1月~2019年12月において市町村等へ相談のあった件数は、全国で95件、そのうち警察への相談件数は32件でした。その内訳において「伐採業者や伐採仲介業者が故意に伐採した疑いがあるもの」は7件で、うち警察への相談件数が3件となっています。その7件は全国を6ブロックに分けたうちの、北海道・東北、中国・四国、九州・沖縄で確認されています。また「境界の不明確または当事者の認識違いにより無断で伐採されたもの」については66件あり、全国6ブロックすべてで確認されています。本調査は本ブログ第三回(その2)で紹介したとおり、2017年12月の国会衆議院農林水産委員会における田村貴昭衆議院議員の質問に端を発するもので、2018年3月にされて以来、毎年継続的に調査されているものです。
 したがって、無断伐採や盗伐は宮崎県のみで起こっていることではなくて、全国規模で起こっていることは明らかです。人の良い、物言わぬ高齢者を狙う盗伐業者や仲介業者に対して、ようやく司法が「犯罪者」として認めるようになり、「盗伐=犯罪」と断言できるようになりましたが、行政による対応には、未だ大きな動きは見られません。特に宮崎県においては「宮崎県と県警は盗伐を擁護している。県警は被害者の言うことに耳を貸さない」と被害者の会会長の海老原さんは切り捨てます。
 こうした行政の対応について、2020(R2)年11月18日の衆議院農林水産委員会において、田村貴昭衆議院議員は「盗伐業者、こういう違法操業をしている犯罪企業に対して国の補助金が流れておったんですよ。そして、こういう司直の判断をもってやっと補助金の返還請求ですか。ちょっと生ぬるいんじゃないんですか。こういうことが今いろいろ起こっているわけですよ。それをずっと私は三年間言ってきた。林野庁、農水省の対応としては極めて甘いと言わざるを得ないと思います」と指摘しています*4

 これまで看過されてきた国内の「盗伐」問題。今後は、警察組織の「被害者に寄り添った」真摯で適切な対応、国、県、市町村による「より厳しい対応」が求められています。(三柴淳一)

*1 毎日新聞2020年12月16日 地域面
*2 宮崎日日新聞2020年11月25日 紙面
*3 林野庁(2020). 無断伐採に係る都道府県調査結果について(令和2年6月23日)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/keikaku/attach/pdf/200623-1.pdf
*4 衆議院農林水産委員会議事速報(未定稿)(令和2年11月18日)

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その1)
第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その2)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その1)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その1)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その3)
第四回 宮崎市田野町字荷物取地乙
第五回 国富町大字木脇(その1)
第五回 国富町大字木脇(その2)
第五回 国富町大字木脇(その3)
第五回 国富町大字木脇(その4)

 

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