日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(10)
第五回 国富町大字木脇(その2)
2020年7月14日、新たな盗伐容疑者が逮捕されました。中原朝男容疑者は宮崎県西都市山田の山林で宮崎市在住の所有者の林地約1,300m2(0.13[ha])において、スギの立木77本を、中原容疑者の親族が経営する会社の作業員に指示して伐らせ、盗んだ容疑です*1。
そして9月4日、宮崎地検は中原朝男容疑者を森林法違反(森林窃盗)の罪で起訴しました*2。これで宮崎県内の盗伐事件で起訴されたのは5件となりました。
中原被告の初公判は9月16日、宮崎地裁で開かれました。検察側は冒頭陳述で、犯行当時、山林売買関係の会社役員だった中原被告が「周辺で山の買い付けをする中、被害者と連絡が取れないまま犯行に及んだ」と指摘。被告は起訴内容を認めました*3。次回の公判は10月22日に開かれます。
今回は、前回に引き続き、「黒木林産」の被害に遭った高野恭司さんの事例を紹介します。
※今回も被害当事者の高野恭司さんのご了承を得て、実名で記述しております。
高岡警察署から連絡、「供述調書を作るから」
小里泰弘農水副大臣、武井俊輔衆議院議員らが木脇の現場を視察したのが2018(H30)年11月30日。その後、間もない12月6日、高野さんに高岡警察から連絡が入りました。「調書を作るから署にきてくれ」。高野さんが高岡署に出向くと、県警本部からも人がきており、聞き取りを受けました。聞き取りは一度で終わらず、二度目は12月13日でした。いろいろと話をして、最後に被害届が受理されたそうです。
このとき警察から「お宅の被害は7本、被害額は52,000円」という説明がありました。高野さんはこれを容易に承服することができず随分と抗議をしたそうです。「林地は丸ごと伐採されており、200本くらいはあったはず」と高野さんは考えていましたが、警察からは「被害本数の出し方は切り株の数であり、切り株が残っていないものは特定できない。他の被害地でもそのように判断している」と説明され、「おかしいだろう、全部伐られているのに」と食い下がったのでした。しかし「7本でしか被害届は受理できない」と突っぱねられ、「あんまりやわー」と感じながらも渋々、「被害7本、52,000円」で受け入れるしかありませんでした。
高野さんは「県警はやっぱり誤伐にしたかったのだな」と、釈然としない思いです。
被害届が受理される前日に届いた「お詫び」
高野さんの被害届が高岡警察署に受理された前日、2018(H30)年12月11日付けの「お詫び」書が内容証明郵便物として高野さんのご実家に届きました。差出人は黒木林産(株)代理人のN弁護士で、示談の申し入れでした。示談金は立木代として35万円(4,000円/m3、スギ(45年生)170本相当)、および迷惑料(慰謝料)として5万円の合計40万円でした。
この「お詫び」書をどう見るか。立場によって見解は異なるでしょうが、当事者の高野さんは「40万円の示談金を取るか、被害額7万円を取るか」という選択を突き付けられたようなものだと感じたそうです。「普通なら示談を取るだろう」と高野さんもいいます。
高野さんや宮崎県盗伐被害者の会では、警察とつながっているN弁護士が示談で済ませるよう動いたのであろう、と考えています。警察が事を穏便に済ませ不起訴にするためか、それとも被害者をおとなしくさせるためなのか、本当の理由はわかりません。
しかし被害当事者にしてみれば「警察は悪人や盗人を捕まえる正義の味方」と考えていたため、「警察は盗伐業者をかばうために、ここまでのことをするのか」というように見えます。高野さんは「よくもこんな書類が被害届受理の前日に届くものか」と、呆れてものも言えない様子でした。
「被害本数7本」という報道がもたらすもの
高野さんの被害届が受理され、新聞各紙やNHKニュースなどで「盗伐容疑者逮捕」が報じられました。事件がマスコミによって大きく報じられたことは盗伐に関する関心が高まることが期待でき、喜ばしいことでした。
一方、「テレビで流す被害本数7本を聞いた人が『どうしてそんな本数で逮捕するのか』と知らない人は皆思うだろう」と高野さんは言います。ニュースでは「それ以外にも余罪がある(相当伐られている)」と付け加えてくれてはいるものの、やはり「被害7本」という文字や言葉は「ケチな話である」といった印象を与えるものであり、警察の被害内容確定においてはそうしたことも想定に入れているのであろう、と高野さんは警察の対応を疑っています。
宮崎県議会でも「盗伐」が話題に、その発言には??
今回の国富町大字木脇の盗伐事件では、高野さんのほか、もう一人の被害者が「被害13本」として高岡警察に被害届を受理されました。高野さんによると、県議会を傍聴したその被害者も日向市選出の西村賢議員(宮崎県議会自由民主党)の発言にとても驚いたそうです。以下にその発言を記します。
近年、林業が活況となり、それに合わせ誤伐・盗伐の報道も多くなってまいりました。ことし、日向市内の伐採業者が盗伐により逮捕される事件がありました。新聞報道などで私の知る限りでは、杉7本、杉13本の伐採を、当人は誤伐と主張し、被害者は盗伐と主張し、当事者間で示談を進めていたとのことですが、一転し、伐採業者の逮捕に至ってしまいました。係争中の案件ですから、具体的にこの場で触れませんが、この案件は、林業の未来や担い手の確保も含めて大きな影響があるのではないかと思います。 当然ながら、本県で過去に起こった、悪質なブローカーが行った契約書の偽造などの悪意のある犯罪は、許しがたいものでありますし、盗伐自体は許されるものではありません。過去に、県内の地籍調査の進捗を質問したことがありますが、地籍調査の済んでいない山林においては、境界の確定は難しく、先祖から相続した山林の場所さえ知らない相続人が毎年増加しているのが現実であります。無断伐採に間違いがあった場合、ほとんどの案件は穏当に和解がなされているとのことでありますが、今回のように刑事事件にまで発展することは、極めてまれなケースと考えています。広大な山林の伐採に際しての数本の誤伐は、業務の特性上、ある意味避けられないことではないかなと思いますが、そのような誤伐も絶対に許されない社会状況になれば、林業後継者の確保も難しくなります。森林法、県や市町村の規定によれば、純粋な伐採自体は、極端に広大な面積にならなければ、保安林以外は基本的に届け出だけで済む内容になっています。保安林であっても、許可を取得することによって伐採自体は禁じられてはおりません。その届け出と許可申請において、土地所有者の同意を得るということは求めておりますが、隣接者との境界確認などというものは特に求められていません。これは、山林の特殊性を考慮し、伐採・植林がスムーズに行われるように配慮されているのではないかと理解をしますが、今回の事件のような伐採業者のケースは、今後も起こりかねないと思います。 土地の境界も不確かな山林でのわずかな誤伐がもとで、訴えられたり、失業したり、廃業せざるを得ない状況に追い込まれることがあってはならないと考えます。そもそも、地籍調査の進捗を進めていくことが重要だと思います。その進捗も求めながら、また一方で、当事者同士の和解方法の確立というものも、今後検討していただきたいと思っております。昨日の有岡議員の質問とは真逆になるかもしれませんが、当然ながら、誤伐もいいことではありません。しかし、誤伐によって、その伐採業者が大きなペナルティーを受けることが、果たして宮崎県の林業の将来につながるのかということも、同時に考えていかなければならないと思いまして、この問題を取り上げさせていただきました。 |
注:上記文中の下線は筆者によるもの
(出所)宮崎県議会 令和元年11月定例会質問一覧. 令和元年12月3日(火)
(議事録209~211ページ)
http://www.pref.miyazaki.lg.jp/gikai/minutes/plenary/R01/201911-2-1203.pdf
この発言について、高野さんの見解は「警察が発表した誤伐の本数7本でどうして逮捕したのかを強調したかったのだろう」。
なお、この西村議員の質問で、宮崎県における無断伐採の相談件数を問われた宮崎県環境森林部長は以下のように回答しています。
県や市町村への森林所有者からの相談件数につきましては、平成26年度から本年10月末までに合計で125件となっております。直近の3年間では、相談された年に伐採されたものばかりではございませんが、平成29年度が42件、30年度が36件、令和元年度が10月末までに22件の相談件数となっております。 |
ちなみに国の調査によると、無断伐採に係る市町村等への相談等の件数は以下のとおりです。
調査対象期間 | 九州ブロック(件数) | 全国(件数) |
H29年4月-H30年1月 | 33 | 62 |
H30年1月-H30年12月 | 51(38)* | 78 |
H31年1月-R1年12月 | 43 | 95 |
*( )内は宮崎県の件数
(出所)林野庁. 「無断伐採に係る市町村等への相談等の件数」. 2018年, 2019年, 2020年の結果から筆者作成.
朝日新聞デジタル記事. 「他人の山林で盗伐、業者に有罪判決 「誤伐」主張退ける」(2020年1月27日)
https://www.asahi.com/articles/ASN1W3G0ZN1STNAB00L.html
上記の数値を比べてみると、全国の無断伐採に係る相談件数のおおよそ半数は九州ブロックに集中しており、且つ九州ブロックにおいても宮崎の件数が高い割合を占めていることがわかります。つまり宮崎県は全国と比較して特異な状況だと言えます。
こうした状況にも関わらず、高野さんの被害7本(実際は約200本)、もう一人の被害者の被害13本(実際は約70本)、加えて30筆のうち彼らを除く少なくとも4筆の被害本数の特定されていない林地が丸裸にされてしまったような伐採行為に対して、「杉7本、杉13本の伐採」を強調するような形で「数本の誤伐は、業務の特性上、ある意味避けられないこと」、「そのような誤伐も絶対に許されない社会状況になれば、林業後継者の確保も難しくなる」、「わずかな誤伐がもとで、訴えられたり、失業したり、廃業せざるを得ない状況に追い込まれることがあってはならない」といった西村議員の発言は、盗伐事業者を擁護する発言と見受けられます。さらに、このような発言を被害の実態や詳細を知らない人が聞いた場合、「その程度でなぜ逮捕するのか?」という感想を持つのが当然のようにも感じます。
このような社会背景が、「盗伐」を「誤伐」として押し切れる、さらには業者自ら「盗伐」だと言い切れるだけの「空気」というか「雰囲気」のようなものを作り出し、宮崎県の素材生産業者の界隈、もしくは森林・林業界に蔓延していることが推察できます。
次回は、起訴後の黒木被告の審理の状況などについて紹介します。(三柴淳一)
*1 宮崎日日新聞2020年7月15日 紙面
*2 宮崎日日新聞2020年9月5日 紙面
*3 宮崎日日新聞2020年9月17日 紙面
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