日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(9)

森林保全2024.7.5

第五回 国富町大字木脇(その1)

 2020(R2)年1月27日、宮崎地裁で懲役1年、執行猶予4年の有罪判決(求刑懲役1年6か月)が言い渡され、即日控訴した素材生産業の「黒木林産」社長の黒木達也被告。その控訴審初公判が4月16日に福岡高裁宮崎支部(芦高源裁判長)で開かれ、弁護側は無罪を主張し、検察側は控訴棄却を求め結審しました*1。6月18日、その控訴審判決が言い渡され、「誤伐だったという被告の弁解は信用できない」と結論付けた一審判決が支持されました。芦高裁判長は「被告は事件の約2か月前、仲介業者から売買契約が未締結との報告を受けており、失念するとは考えがたい」と指摘したそうです。この判決を不服として、弁護側は即日上告しました*2

 今回は、この黒木林産による盗伐被害を受けた家族の一人、宮崎県盗伐被害者の会会員の高野恭司さんの事例を紹介します。
 ※今回も被害当事者の高野恭司さんご了承を得て、実名で記述しております。

被害林地の概要
 高野さんの被害林地の所在は東諸県郡国富町大字木脇2534番地。面積は4,710m2(0.471[ha])。林齢は60年超で、被害本数は約200本でした。高野さんご自身は仕事の関係で宮崎市内在住ですが、ご実家は被害林地の近くで、高齢のお母さんがお独りで住んでいます。高野さんによると軽度の認知症と思われるような症状も見られる状態でした。

被害の概要
 高野さんの被害林地は黒木林産が伐採した約5[ha]の伐採現場に含まれる一筆です。この被害地には30筆以上の林地、および地域の共有林が含まれています。高野さんと宮崎県盗伐被害者の会の調べによると、その所有者の多くは近隣在住の方やその縁戚関係の方々で、24名の所有者(複数筆所有含む)が分かっています。そのうち2名はすでに他界されていて、県外の所有者は1名です。また伐採届が出ているケースが4件、伐採届が出ていない無断伐採が6件、確認できています。
 また、高野さんはこの約5[ha]の盗伐現場に隣接した水田を有しているのですが、盗伐行為のほぼ直後に来た台風による豪雨によって、伐採跡地が崩落し、林地残材が高野さん所有の水田に流れ込むという盗伐の二次被害も受けています。

事件のあらまし ~仲介業者との遭遇
 高野さんが初めて盗伐犯と遭遇したのは、2018(H30)年7月17日のことでした。その日の朝8時、高野さんの職場に仲介業のSが突然訪れました。当初、Sは高野さんのご実家のお母さんのところへ相談に行ったようでしたが、お母さんから高野さんの職場を聞いて出向いてきたとのこと。Sからは「林地を売ってくれ」と相談されましたが、高野さんは丁寧に断ったそうです。なお、高野さんは平素からお母さんに対して「何かあれば必ず(高野さんに)連絡するように」と言い含めておいたそうです。

 その後、9月6日の朝、Sから実家のお母さんのところに電話が入りました。「間違って伐った。夕方お詫びに行く」。お母さんはすぐに高野さんの職場に電話。高野さんはその日の夕方、仕事を終えてからお姉さんとともに現場を見に行きました。道から見える一列は残っているものの、山肌が見えていたので、すぐさま「盗伐」、「これは誤伐でなく故意だ」と確信したそうです。
 お母さんからは「Sが夕方家に詫びに来る」と聞いていたため、先方が来てしまえば、相手はプロだから「ごめんね」と言われて、わずかなお金を渡されて示談にさせられる、と直感し、高野さんは急ぎ高岡警察に連絡を入れたのでした。
 すると、ちょうどSと高岡警察の2名が同じタイミングでやってきました。高野さんはSを待たせ、駆けつけた警察官に事情を説明しました。その後、Sは「100%私が悪かった」と高野さんに詫びたものの、「これは演技だ」と思い、細かい話は聞かず、「わかりました。今日はお帰りください」とやり過ごしました。

 高野さんが冷静な判断によりこの事件をSらによる「ごめんなさい詐欺」だと見抜き、警察に通報し、Sをやり過ごすことができたのは、この時点でMRTテレビなどマスコミ情報などにより、ある程度「盗伐」の実態について把握していたためでした。

高岡警察と盗伐現場へ ~伐採業者と遭遇
 2018(H30)年9月7日、改めて高岡警察とともに現場検証に行きました。このとき黒木達也被告はまだ重機を操縦していたそうです。彼は最初「あっ!」とした素振りをやや見せたものの、その後は平然としていました。高野さんは図面こそありませんでしたが現場の境界についてはよく把握をしていたため、警察とともに尾根に上り、すでに打たれている境界杭について説明し、自身の林地の境界について主張しました。このとき黒木被告は図面を手にしており、「あんたがたのはむこうじゃわ」とか「あんたがたはちいっとじゃが」などと発言したそうです。高野さんは「ようそんなことを言えるものだ」と思ったそうです。
 後日談となりますが、2019(R1)年10月18日、宮崎地裁の第二回公判時に黒木被告はこのときのことについて「地図は持っていなかった」と事実に反する陳述をしたそうです。

 高岡警察は9月9日(月)に再度現場を訪れ、現場検証をしました。このときは国富町役場からも人がきており、高野さんも仕事を休んで立ち会いました。この日も黒木被告は平然としていたそうです。
 このとき担当の警官は「被害届については一週間くらいで受理する」という話でしたが、その後音沙汰はありませんでした。これも後日談になりますが、この理由について高野さんは「どこかからか圧力でもかかったのだろう」と推測しています。

 その後、高野さんは宮崎市役所等に問い合わせ、宮崎県盗伐被害者の会の海老原さんに連絡し、被害者の会に加入したのでした。

国富町役場へ情報開示請求、「無届伐採」が判明
 2018(H30)9月12日、高野さんは手元に図面がなかったので、役場と図書館に行って土地台帳を確認。被害地全体の状況を掴むべく、土地所有者名義や住所などを調べました。またその場で被害林地の伐採届の有無を確認すべく9月12日付けで情報開示請求をしました。
 結果はすぐに出て、9月14日付けで国富町役場より「公文書非開示決定通知書」が発行されました。非開示の理由は「該当する関係書類は存在しない」、つまり無届伐採だったことが判明しました。
 このときのことを振り返り、高野さんは役場の雰囲気がこれまでと違い、何か犯罪者扱いというか、敵扱いのような冷たい感じを受けたそうです。

伐採業者から連絡「境界を確認するから立ち会ってくれ」
 2018(H30)年9月27日、今度は黒木達也被告から高野さんの職場に電話がありました。「境界をはかりに行くから(確認するから)立ち会ってくれ」。山で示談に持ち込もうとしていることを薄々感じ、高野さんは「このまま立ち会うとやばいな」と思い「境界は打ってあったから間違うはずはない」として断りました。
 ちなみに、Sからの連絡は9月6日以降、一切ないそうです。

流れを変えた国会議員の盗伐現場視察
 今回紹介している国富町大字木脇の盗伐事件。30筆以上におよぶ大規模な盗伐で、犯人も無届伐採も明らかで、且つ台風による二次被害まで発生しています。しかし国富町役場や高岡警察書の対応は、これまで紹介してきた他の盗伐事件同様、被害者寄りの対応は見られず、そのまま時効を迎えてしまうことが懸念されました。
 2018(H30)年10月10日、その流れを後に大きく好転させる出来事が起こりました。宮崎県盗伐被害者の会からの働きかけもあって、田村貴昭衆議院議員の現場視察が実現したのでした。田村議員は国富町大字木脇の現場を含め、幾つかの盗伐被害地を視察し、帰京後、すぐさま衆議院農林水産委員会*3で質問をしました。この質問で田村議員は林野庁や警察庁の対応を厳しく追及。重ねて小里泰弘農水副大臣の地元鹿児島県出水市でも盗伐が発生していることを指摘し、「政治が解決すべき問題」であることを強調し、彼らに対応を求めたのでした。

 田村議員の国会質問が功を奏し、11月30日、小里泰弘農水副大臣、武井俊輔衆議院議員(自民党宮崎1区)が林野庁、宮崎県、国富町の担当者らと共に盗伐被害地を視察しました。現場は誰が見ても酷い状況であり、少なくとも専門家である林野庁職員の目にはそう映ったものと思われます。そのことが小里副大臣にきちんと伝えられたとすれば、小里副大臣から宮崎県自民党、宮崎県、宮崎県警などに「適切に対処するように」との指示が出たものと思います。平素、盗伐案件には極めて後ろ向きな高岡警察署もさすがに動かざるを得ず、適切な捜査が行われ、わずか「スギ丸太7本の窃盗行為」としてではあるものの、立件、起訴され、現在の審理に至ったものと考えます。

 ちなみに、本ブログ「第二回宮崎市高岡町花見字山口」で紹介した川越静子さんの盗伐事件、つまり知的障害者への人権侵害が疑われる行為があったのは、この高岡警察署です。

 次回は、本格的に動き出した高岡警察が下した判断、および起訴後の宮崎地裁での審理の状況などについて触れていきます。(三柴淳一)

*1 宮崎日日新聞2020年4月17日紙面
*2 宮崎日日新聞2020年6月19日紙面
*3 第197回国会 農林水産委員会 第6号(平成30年11月21日(水曜日))。なお、田村議員は過去にも盗伐に関して国会農水委員会で2回質問(平成29年12月12日と平成30年4月18日)をしており、国富町大字木脇の現場視察後は3回目となる盗伐質問だった。

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その1)
第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その2)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その1)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その1)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その2)
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その3)
第四回 宮崎市田野町字荷物取地乙
第五回 国富町大字木脇(その1)

 

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