日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(6)

森林保全2024.7.5

第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その2)

 本稿で紹介している宮崎県内で蔓延する違法伐採(盗伐)問題に関連して、司法の判断が下されたのは、前回、今回と紹介している宮崎県盗伐被害者の会会員の川越員(かず)さんの事件や、同会会長の海老原さんの事件に関与した林業仲介業の岩村進、松本喜代美が2018(H30)3月20日に有罪判決を受けたのが初めてのケースと考えられますが、2020年1月15日、ついに2件目の司法判断が下されました。
 宮崎地裁(下山洋司裁判官)は、宮崎市で発生した森林窃盗事件で犯行を手助けしたなどとして、森林法違反(森林窃盗)ほう助と有印私文書偽造の罪に問われた鈴木英明被告に懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年)の判決を言い渡しました*1
 一方、鈴木英明が手助けをしたとされる林業仲介業の富永悟被告は、偽造された伐採届書などを使い宮崎市の山林で所有者に無断でスギを伐採し、森林法違反(森林窃盗)を偽造有印私文書行使の罪で追起訴されていますが、2020年1月8日に宮崎地裁(下山洋司裁判官)で開かれたの公判において、その追起訴内容を認めました*2
 なお、その3件目になるであろう、「黒木林産」社長の黒木達也被告判決は2020年1月27日に出る予定です。

 今回も、宮崎県盗伐被害者の会会員の川越員(かず)さん、威尚(たけよし)さんの事件について、員さんが宮崎県盗伐被害者の会会長の海老原さんと行動を共にするようになってからの展開を紹介します。
※なお、被害当事者の川越員さんの了承を得て、実名で記述しております。

はじめに
 前回の最後に触れた2015(H27)6月5日、員さんが宮崎北警察署に2度目の訪問をしてから時計の針を進め、2016(H28)年10月21日に員さんが海老原さんや他の被害者の会会員とともに訪問したところから始めます。 なお、第一回で紹介した宮崎市瓜生野字ツブロケ谷の盗伐事件において、海老原さんが被害を受け、その被害に気付き、行動を起こしたのが2016(H28)年8月のことです。その直後に、員さんは海老原さんと出会い、行動を共にするようになったそうです。宮崎市瓜生野字ツブロケ谷の盗伐事件の犯人として、岩村・松本は有罪判決を受けましたが、員さんの事件も岩村・松本が関与しているものゆえ、第一回の事件の流れを振り返りながら説明していきます(表1)。

表1 2016年8月~2018年7月までの海老原明美さんの事件などに関連した動き
※宮崎県盗伐被害者の会会長海老原裕美氏からの聞き取りなどに基づきFoE Japanが作成

宮崎県盗伐被害者の会会員として再び警察へ
 2016(H28)年10月21日、員さんが宮崎北警察署を訪れた際、応対したのはH巡査部長でした。員さんはH巡査部長に被害届を提出しましたが、受理されませんでした。その後も員さんは海老原さんとともに同署へ被害届を提出しようと幾度か訪問しましたが、次の担当となったK警部補も員さんの被害届を受理することはありませんでした。
 ただし、幾度か訪問を重ねる中で、担当のK警部補の発言には興味深いものがありました。K警部補は海老原さん、員さん、他の被害者4名が同席する場で「(宮崎)県が悪い。海老原さんは頭がいいから誰のことかわかるでしょう」と発言したことがあったそうです。またその際K警部補から「海老原さんの案件と合わせて員さんの件も対応する」と明言したそうです。さらに訪問後の帰路においてK警部補から海老原さんに電話があり「海老原さんと員さんと平行して進める」と念押しをしたそうです。
 事実、宮崎県警はその後捜査に踏み切り、2017(H29)年7月19日に岩村・松本らの家宅捜査を実施し、10月5日、岩村・松本を逮捕しました。このタイミングで宮崎県警はK警部補が言ったとおり、員さんの事件についても一定レベルの捜査をしたのではないかと考えられます。
 しかしながら、この頃、員さん自身に宮崎県警が捜査に乗り出したことについて知らされるはずもなく、このことは後になってわかったことです。

犯人と思われる事業者が員さん宅周辺でお詫び行脚
 その後、再び時計の針は2018(H30)年7月5日まで進みます。この日、員さん宅は留守にしていて、近隣の方から「K林業が(その近隣の方のところにも)きて「(員さんのところにも)また来る」と言って帰った」との知らせを受けたのでした。翌7月6日、員さんは宮崎北警察署生活安全課に問い合わせの電話を入れると、応対したK巡査長は「K林業は吉野地区をまわり、お詫びをしている」との説明を受けました。この電話のやりとりにおいてK巡査長は「もし(K林業が)金といったらどうしますか?」と員さんに質問したのでした。員さんは「いらない」と返答。示談をさせられると思ったそうです。「金ではなくて泥棒を捕まえてください」と回答し、さらには「なぜ泥棒なのに捕まえないのですか?」とも問いかけました。そして「『(K林業に)もう自宅に来ないでくれ』と伝えてください」として電話を切ったそうです。

宮崎北警察署の警官、「示談金」の話を認める
 2018(H30)年7月18日、員さんは海老原さんらと共にあらためてK巡査長が言葉にした「示談金」の話について説明を求めるべく、宮崎北警察署へ行きました。署で応対したK巡査長は当初「金とは言っていない」と否定し、員さんらに「何時何分でしたか?」と聞き返してきました。員さんはその電話のやりとりをメモに残していたため、ほぼ正確に「お昼前でしたので12時5分前くらいです」と回答したところ、K巡査長は渋々自身の発言を認めたそうです。

 なぜ、このタイミングで犯人と思われるK林業がわざわざ員さんたちに再び接触をしたのか。表1を見ると、2018(H30)年3月に岩村・松本の有罪判決が出ていたり、4月には田村貴昭衆議院議員が国会・衆議院農林水産委員会で盗伐問題に関して2回目の質問をしています。この国会質問において林野庁は2018(H30)年1月に実施した調査結果に基づき、無断伐採が故意に行われた疑いのある事案が11件あることを報告しました。この質問の中で田村議員からは「行政絡みで(盗伐が)黙認されているのではないかとの疑念がある」との発言や、また田村議員の質問を受けた農林水産大臣からは「警察の対応を確認したい」旨の発言がありました*3
 こうしたことがきっかけとなり『宮崎県下の行政機関周辺からK林業へ「示談にしておくように」との指示が出たのではないか』という憶測は、それほど突拍子もないことではないように思われます。
 「なぜこんなにも警察は嘘つきなのか?」、員さんをはじめ、被害者の会のみなさんは宮崎県の警察に対して大きな不信感を抱いています。

有印私文書偽造を証明する書類を入手
 その後、2018(H30)年7月20日付けで宮崎市から個人情報開示決定通知書が届きました。届いた書類は宮崎市に正式に受理された伐採届と2014年10月14日付けの適合通知書。この伐採届出書は「届出人」が松本喜代美、「伐採後の造林に係る権原を有する者」がY、「伐採業者」がY林業となっていました。この伐採届の「森林の所在場所」の欄にYが所有する他の林地にあわせて、員さんの林地(130-1番地)が記載されています(以下に再掲)。
 なお、2015(H27)年1月16日に実際に員さんの林地を伐採したK林業が員さん宅を訪れ、残していった伐採届(再掲図左)は、宮崎市に正式に受理されていないため、正式な伐採届ではありません。また宮崎市に受理された伐採業者がY林業となっている伐採届について、後日、員さんが宮崎市森林水産課に確認をしたところ、Y林業は宮崎市に「白紙にした」と説明していたことが判明しました。
 これでようやく員さんの林地の伐採が「違法伐採(森林法違反)」であったことが公の資料を根拠として証明されたのでした。

図 偽の伐採及び伐採後の造林届出書(伐採届)
※第三回その1 図2の再掲

警察の調書では「和解」として処理
 再び、時計の針は進んで、2019(H31)年2月12日午後、員さんは、海老原さんやその他の被害者の方々と宮崎北警察署生活安全課に行きました。被害者の会会員の被害案件における「森林法違反」の案件に関して、宮崎北警察署が適正に捜査をしたのか否か、説明を求めに行ったそうです。対応したのはK巡査長らでした。
 その後、訪問のついでとばかりに「有印私文書偽造」を所管する刑事第二課に立ち寄り、員さんの件について問い合わせると、なんと応対したK巡査長から驚きの事実が判明しました。「員さんの件は調書ができている」。員さんらは「その調書を見せてくれ」と依頼し、K巡査長が「(員さん)一人で部屋に入ってくれ」というのを、員さんから「他の被害者も共に聞かせてもらいたい」と要望し、結果、員さん、海老原さんら皆で別室に入り、K巡査長から員さんの調書を読み上げてもらいました。
 その調書には「和解」の語句が記載されていました。員さんは被害を受けて以来、「和解」と表されるような行為や意思表示は一切しておらず、警察に対しても明確に「示談はしない。犯人を逮捕してくれ」との意思表示をしていました。このときまで員さんは「調書」の存在すら知りませんでした。当然、署名も捺印もしていません。被害当事者の知らぬところで、その当事者の同意なき調書ができあがっていたことが判明したのでした。
 さらに驚くことは、別室でK巡査長が読み上げていた最中に、さきほどまで面会をしていた生活安全課のK巡査長が突然部屋に入ってきて、その読み上げ行為を制止し、中止させたのでした。員さんたちは自身の事件に関する調書を最後まで読み上げてもらうことも叶わなかったのです。

 員さんらはこの一連の行為に納得がいかず、2019(H31)年2月26日、宮崎県警本部警務部監察課を訪れ、宮崎北警察署で起こったことや調書における「和解」について、「一体どういうことになっているのか」説明を求めると、応対したIとYの回答は、「宮崎北警察署K巡査長などから聞いているが『(和解というようなことは)言っていない』とのことだった」と、発言すら否定する始末でした。

盗伐被害にとどまらず、深刻な健康被害を受けることに
 川越員さん、威尚さんご夫妻は、盗伐被害を受けて以来、さまざま信じられないような出来事に遭遇しました。さらには信頼していた宮崎県や宮崎市、そして市民の味方と信じて疑わなかった宮崎県警や北警察署から傍若無人な行為を受け、それらを通じて蓄積したストレスは計り知れないものがあります。ついには健康すら害するに至ってしまいました。
 最初に威尚さんの調子が著しく悪化し、医療機関を受診したところ、診断は「ストレス」でした。2017(H29)年5月には手術を受け、ペースメーカーを体内に入れることを余儀なくされました。さらに病状は悪化し、腎臓も悪くして、今では週3回、人工透析に通っています。それまでやっていた米作りなどの農作業は一切できなくなりました。健康にとどまらず、生活の基盤すら損なわれてしまった状態です。
 員さんも2019(H31)年3月、調子が悪くなり医療機関を受診すると「蛸壺神経症(原因はストレス)」と診断され、即日入院をすることになり、20日程度の病院生活を余儀なくされました。そのときはトイレに行く以外は歩いてはいけない状態だったそうです。
 幸い、員さんは回復され、今は海老原さんと共に精力的に活動をされています。

最後に
 個人の所有物、資産である森林・林地を対象とした盗伐は、法治国家として行政機関や司法機関が果たすべき役割を十分に果たさず機能不全に陥った場合、その被害を受けた個人は、所有物の窃盗被害にとどまらず、重大な二次的健康被害や生活基盤を損なうような事態にまで影響することもある、ということを如実に表した事例です。
 市民生活や安全・安心を守るために存在しているのであろう、宮崎県下の行政機関や司法機関は、一体何を守ろうとしているのでしょうか?

今後も被害者視点で、宮崎の盗伐問題について注視していきます。(三柴 淳一)

*1 宮崎日日新聞2020年1月16日社会面
*2 宮崎日日新聞2020年1月9日社会面
*3 第196回国会 農林水産委員会第11号(平成30年4月18日(水曜日))議事録
http://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000919620180418011.htm

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その1)
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第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その1)
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