日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(4)
川越静子さんの被害林地。外から見える一列が残る。隣接するのは元市長の所有林と市有林
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その2)
現在、宮崎地裁で審理されている伐採業者の黒木達也被告の第三回公判が2019年10月28日に開かれました。黒木被告は弁護側とのやりとりの中で、20年前から伐採業を手掛けていることや、その間10件ほど無断伐採していたことを認めました。これは長年に渡る宮崎県の盗伐問題の深刻さを証明する重要な事実です。なぜなら2018年3月に有罪判決となった林業仲介業の岩村進と松本喜代美の審理においては、両名の常習性について否定されてしまったためです*1。
また、新たに西都市の元林業仲介業の鈴木英明被告が起訴されました。鈴木英明被告は3年前、宮崎市加江田の山林を伐採するため、伐採届などの書類を偽造し、有印私文書偽造や森林窃盗ほう助などの罪に問われています。この共犯者はすでに第二回公判が開かれた富永悟被告です(前回参照)*2。
いよいよ本格的に司法の目が宮崎県の盗伐問題に向きはじめたきざしを感じるニュースです。一日も早くこの深刻な問題の全貌が明らかにされることを望みます。
前回に続き、宮崎県盗伐被害者の会会員の川越静子さんの事件について、警察が告訴状を受理した後の顛末について紹介します。今回の話は単なる森林盗伐事件の域を超えた話になっています。
※なお、今回も被害当事者の川越静子さんの了承を得て、実名で記述しております。
告訴は不起訴処分に
2018年9月10日に告訴状が受理された後、11月8日、高岡警察署の四名によって実況見分が実施されました。その後、告訴を受けた場合に作成される調書に関して、被疑者のみならず被害者である静子さんに対しても何らかの連絡があるものと思っていましたが、約5ヶ月間、何の連絡もありませんでした。後に処分通知書が届く少し前の2019年4月14日、静子さんの息子さんが宮崎地検に呼び出されたのですが、このことを静子さんは知らされておらず、親戚で同じく被害者の会会員の川越員さんがたまたま静子さんの息子さんから聞いて知り得たのでした。そして4月25日、宮崎地方検察庁から通知があり、結果は「不起訴処分」でした。
この不起訴処分を受け、静子さんと宮崎県盗伐被害者の会は、本件を担当した宮崎地検のH副検事に面会を申し入れ、5月13日に接見し、驚くべき事実を知ることとなりました。
被害者が知らなかった想定外の事実
H副検事から知らされた事実は、(1)静子さんの息子さんは高岡警察と三回やりとりをしており、二回は息子さんが警察に出向き、一回は警察が息子さんの自宅を訪れていること、(2)息子さんに関する多くの重要な事実に関して調書への記載がないこと。これには、知的障害があること、身体障害者手帳一級や重度心身障がい者医療費受給資格者証などを受理していること、週三回、一回あたり6~7時間の人工透析を行っていることなどが含まれます、(3)盗伐被害のスギの本数は約400本でしたが105本とされたこと、(4)盗伐業者H林業は倉岡神社(宮崎市)の御神木の盗伐にも関与していますが、それに関して記載がないこと、(5)H副検事が宮崎中央森林組合に盗伐地の植林をするよう指示を出したこと、でした。
(警察の知的障害者への人権侵害行為)
(1)について。被害者は静子さんです。本来なら静子さんから事情聴取をすべきと考えますが、その静子さんに知らせることなく知的障害を持つ息子さんから聴取していたのでした。確かに第一発見者は息子さんですが、直接の被害者の静子さんに知らせないということはあり得ません。
H副検事への接見後、海老原さんが息子さんから直接お話を聞くことができました。息子さんは高岡警察から「一人で来てくれ」と言われたこと、二回目に警察に呼ばれたときに署名・捺印したこと、そして次に警察が自宅にきた際に再び署名・捺印したこと、そして警察から「調書を見てくれ」といわれ、漢字の読めない息子さんは困惑してしまったこと、が確認されました。普通一般の健常者であっても、警察に一人で取調べを受けるとなると、緊張したり、平常心とは異なる心理状態になるのではないかと思います。これを警察は故意に知的障害を持つ息子さん一人に強いたのです。
障害者基本法(昭和45年法律第84号)をはじめ、2014年1月の障害者の権利に関する条約への批准など、近年は障害者の権利やその擁護に関する法整備が進んでいて、知的障害者への配慮も進みつつある中、他方で知的障害者への警察の対応についても、さまざま議論になっています*3。
そうした議論を踏まえ、障害者基本法第一条、第四条の根底にある理念等を鑑みれば、今回、高岡警察が息子さんに強いた行為は知的障害者への配慮に欠けた、むしろ不適切な対応であり、知的障害者への人権侵害と考えられます。
(2)についても、警察の知的障害者に対する人権侵害の一端を裏付ける話です。H副検事との接見の場で、被害者たちは「もしも息子さんが知的障害を持つ身だと知っていたら4月14日に呼び出しましたか?」との質問に、彼は「知っていたら呼び出さなかった」と回答したそうです。
静子さんや被害者の会では、告訴状が受理される以前から高岡警察署とのやり取りの中で、再三再四、「息子さんは知的障害者であり、彼には絶対に連絡をしないでほしい」と伝えてきました。その応対をしたK警部補、I警部補、Y巡査部長などは「絶対息子さんには電話はしない」と回答していたそうです。
それにも関わらず、高岡警察署は調書の作成にあたり、息子さんが知的障害者であることを十分に承知した上で、静子さんには知らせず、息子さんに「一人で来てくれ」と直接コンタクトを取り、警察署に二回呼び出して調書を作成し、署名・捺印を求め、さらには息子さんの自宅を訪れ署名・捺印を得て送検したのです。
その後10月21日に、静子さんと被害者の会は再びH副検事に面会し、その調書が「絶対に息子さんには電話しません」と言っていたK警部補の名前で提出されていることを確認しました。その際H副検事は「K警部補は息子さんが知的障害者であることを知らなかったと述べている」と説明したそうです。
なお、息子さんはこの一連の警察・検察とのやりとりの後、パニック障害をも罹い、一層体調を崩し、苦しい日常生活を余儀なくされています。
(不適当と思われる被害状況の見立て)
(3)については、被害本数の少なさに驚きと大きな不満が残ります。静子さんによると被害林地には約400本ありました。示談金が20万円なので、スギ一本当たり500円となります。農水省の平成28年(2016年)木材需給報告書によれば、スギ中丸太の年平均の素材価格は12,300円でした。市況には地域差もあり、一概には言えませんが市場手数料や伐採・搬出経費を差し引いても500円まで下がってしまうとは思えません。少なくとも静子さんが十分な説明を受けて納得した結果ではなくて強制的に受理させられたもの、さらにはその過程を考慮すると詐欺罪(刑法246条2項)に該当する可能性もあることなどから、到底妥当な額とは考えられません。
(盗伐業者の余罪を除外)
(4)について。宮崎県盗伐被害者の会会員でもある倉岡神社の宮司によれば、H林業は倉岡神社の御神木34本の盗伐にも関与しています。静子さんのケース同様、盗伐後、同神社の宮司に対して「植林する」と誓約書も残していますが、未だ履行していません。H林業の余罪、およびその常習性についてなぜ触れなかったのか、大きな疑問が残ります。
(被害者・林地所有者の合意なき植林)
(5)については、当事者の静子さんがまったく知らないところで、連絡もなしに「植林」が行われようとしていたことは、土地所有者への配慮を欠いた行為です。H副検事がその指示を出したのは、伐採業者たちが静子さんに示談金を持参した際に置いていった誓約書に基づいたもので、その誓約書の件が警察の作成した調書に記載されているためだと推察されますが、そもそも静子さんはその調書を一度も見ていないので、検討する機会すら与えられなかったのです。
この植林に関しては、別途静子さんと被害者の会が宮崎中央森林組合のN氏らと面会し、実際にH副検事から指示があったこと、その植林をN林業(処分通知書の被疑者欄に列記されている)に依頼したことを確認しました。仮に植林されたとしても、その苗木代を含む植林費用に関する負担について明確になっていないことや、その後の管理費についても補償の対象となるのか、土地所有者の静子さんの負担になるのか不明確な状況で、しかも80歳を超えた高齢の身を考慮すると、もはや管理不能との判断から、宮崎中央森林組合に「植林を中止してくれ」との断りを入れたのでした。
被害者が見ることもできない被害事件の調書
不起訴の根拠となった調書の作成過程における警察の知的障害者の息子さんへの行為は許しがたく、静子さんと被害者の会は、5月31日、高岡警察署に抗議し、調書の開示を求めました。このとき応対したI警部補、K警部補は「次回はお見せする」と回答しました。そのやり取りの中でK警部補から「息子さんは本当に障害者手帳を持っているのか?」との質問があったそうです。この質問についても静子さんは「警察は被害者の話にまったく耳を貸さない」と強い憤りをあらわにします。仮に「警察は常に事実確認を怠らない」というものであったとしても、事件直後の2016年から静子さんは繰り返し「息子は知的障害がある」ことを高岡警察署に伝えてきたためです。
「次回は見せる」との回答を受け、6月3日、再び高岡警察署へ行くと、今度はN副署長と、調書作成担当のK警部補の応対を受け、「静子さんと息子さんや娘さんご家族のみであればお見せする」という回答をしたそうです。その後、10月1日にも高岡警察署を訪問しましたが、応対したN副署長の回答は変わりませんでした。
のらりくらりと誠意の微塵も感じられない高岡警察署の対応について、静子さんは「嘘つきで泥棒よりも性質の悪い高岡警察署を絶対に許さない」と強い憤りを隠しません。盗伐被害者本人がその被害事件の調書を見ていない、見ることができない、という状況のまま、告訴や検察審査申し立てなどの司法手続きが終了してしまう。こんなことがあってよいのでしょうか?
法的手続きの整理
ここで本事件に関する法的な手続きを整理します。2018年9月10日に受理された告訴状は、2019年4月25日に不起訴処分となりました。静子さんはこれを不服とし、被害者の会会長の海老原さんを代理人に立て、5月27日に検察審査会に審査申し立てをしました。結果は予想に反して一ヶ月足らずのスピード決裁で7月11日、不起訴相当の議決となりました。この議決について、ある司法関係者は「委員の選定だけでも時間を要するのが通例だが、議決までほぼ一ヶ月で結論が出るのは異例。本当に委員会を開いたのか疑問」との見解を示しています。
なお検察審査会の議決の理由は「証拠不十分」。付言された検察審査会の意見は「本件のような事案の発生を今後防止するために、森林伐採開始時には、行政側の担当者が立会うなど行政機関が適切な対応を行われることを強く期待したい」。
まるで「行政が悪い」とでも言っているような物言いにも読めるものですが、いずれにしても、犯人の顔も名前も分かっているにも関わらず、この結果では被害者は浮かばれません。
最後に ~不可解な警察、検察の判断
静子さんが被害に遭った林地0.41(ha)の周辺の状況は、一方が元宮崎市長の所有林、他方は宮崎市有林となっていて、それらの森林は境界を侵害することなくきれいに残されています。このことから本事件は明らかに静子さんの林地を狙って伐採したものと考えられます。H副検事名で発信された処分通知書には、罪名「森林法違反」で5件の事件番号の記載があり、被疑者は5名です。0.41(ha)の伐採に5名も関わったと考えるよりは、むしろ、静子さんの林地も含んだ大規模な盗伐があったと考えるほうがしっくりきます。事実、現場の状況と地籍図を照合してみても、静子さんの林地の範囲を超えて伐採されています。つまり、本稿第一回で紹介した宮崎市瓜生野字ツブロケ谷の事例のように、静子さんのほか複数の被害者がいて、無断伐採のみならず、有印私文書偽造による伐採も含まれているのではないかと被害者の会では考えています。しかしその他の被害者がはっきりしていないため、その全容が把握できていません。
ところで本事件に関して、警察はどんな捜査を行ったのでしょうか?静子さんの告訴状が受理されてから不起訴処分が出るまで約半年が経過していて、被疑者は静子さんが直接会ったH林業、N林業以外に三人いたことを突き止めているわけで、警察はそこまでは捜査をしたものと理解できます。
海老原さんによると、2016年からやり取りをしている高岡警察の中で一人、興味深い発言をした警官がいたそうです。そのT警部は海老原さんに静子さんの事件について「高岡警察署をあげて捜査する。246条2項の詐欺罪に該当する可能性もあり、大きな事件になる」といったそうです。残念なことに、その後T警部は都城警察署に異動になってしまったとのこと。
憶測の域を超えるだけの確かな証拠はありませんが、この警察、検察の動きと県警・地検の重要ポストの人事の変遷には、何か関連があるのではないかと被害者の会では考えています。一体、宮崎県の県行政、県警、地検は、被害者の声に耳を貸すことなく、盗伐行為を黙認するような状態を放置し、本来すべきであろう「市民の安全・安心の確保」や「被害者の救済」をないがしろにして、何をしようとしているのか?何を守ろうとしているのか?疑念は深まるばかりです。
今後も被害者視点に重きを置き、宮崎の盗伐問題についてしっかり注視していきます。(三柴 淳一)
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*1 宮崎日日新聞, 2019年10月29日, 社会面, p25
*2 テレビ宮崎WEBサイト https://www.umk.co.jp/news/?date=20191113&id=01478
*3 全国手をつなぐ育成会連合会 権利擁護センター2014年度運営委員会編著, 『知ってほしい・知っておきたい ―知的障害と「警察」―』, 全国手をつなぐ育成会連合会.