日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(2)

森林保全2024.7.5

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その2)

 前回に続き、宮崎県盗伐被害者の会会長の海老原裕美さんが被害当事者となった盗伐事件について、2017年3月にようやく被害届が受理された後の顛末について紹介します。

宮崎県初の盗伐事件にかかる実況見分
 まずは前回説明を割愛した部分を含めて経緯をおさらいします。2016年8月に海老原さんは盗伐被害に遭い、警察に通報した後、2016年11月に宮崎北警察署は海老原さんの被害地の境界や被害状況を確認する実況見分を行いました。林地の所有者であり自身で植林もされた海老原明美さんによれば約200本の立木があったそうですが、警察の見分結果は39本。見分に立ち会った海老原さんは「あまりにも本数が少なすぎる」と感じ、担当警察官に確認したところ、本数は切り株が目視で確認できたものに限られる、との回答でした。警察の実況見分は1日では終わらず、12月にも行われました。
 また同担当警察官によれば、このような盗伐現場の実況見分は、宮崎県でははじめてのことだったようです。海老原さん家族が被害に遭ったことを機に、彼の取り組みによって盗伐問題が公に取り扱われることとなり、宮崎県に蔓延する盗伐問題解決に向けた大きな大きな一歩だったことが伺えます。

警察の本格的捜査が実現、しかし結果は「不起訴処分」
 その後、警察は本格的に捜査に乗り出しました。宮崎北警察署の刑事第一課のK警部補が海老原さんに話した内容によると県警2名、宮崎北警察署5名、応援10名、合計17名体制で捜査をしたそうです。2017年7月19日には、警察は家宅捜査を実施。対象は11ヶ所で約400点を押収したそうです。
 そして前回も触れましたが、2017年10月、有印私文書偽造、同行使、森林法違反(森林窃盗)の容疑で岩村進、松本喜代美、他1名の計3名の容疑者が逮捕され、2017年12月19日には第一回公判が行われました。
 事態は全容解明に向けて好転しているかのように見えたものの、2017年12月28日付けで海老原さんに宮崎地方検察庁から届いた通知では、2017年3月に宮崎警察が受理した海老原さんの被害に関して「不起訴処分とした」との結果でした。

・・・? では岩村進、松本喜代美は一体何の罪で有罪判決を受けたのでしょうか?

 実は瓜生野ツブロケ谷では大規模な伐採(皆伐)が行われ、盗伐被害者は海老原さんのみならず、大勢の地権者が巻き込まれていたのです。

瓜生野ツブロケ谷の盗伐事件の全体像
 今回の盗伐事件のそもそものきっかけは、被害地における地権者の一人が伐採仲介業(いわゆる山林のブローカー)を営む岩村進に山林の売却について相談を持ちかけたことでした。岩村はその地権者の周辺の林地をまとめて伐採することを企画し、岩村の妻や松本喜代美と協力し、一帯の地権者を調べ、他の伐採仲介業者のYとともに買い付けの範囲を決め、山林の買い付け交渉を進めたようです。
 その範囲は大きく東側と西側に分かれ、面積はそれぞれ1.83(ha)と2.93(ha)、地権者数は4名と18名でした。海老原さんは東側の4名のうちの1人に該当します。
 岩村・松本らが山林の買い付けを進める上で、地権者の中には県外在住の方やすでに亡くなっている方が多いことが判明し、対象地におけるすべての山林の買い付け交渉が困難であると認識した彼らは、東側、西側ともに一部の山林の伐採届けを偽造したのです。
 さらにその後の手続きも実に巧妙に複雑になっていて、偽造した伐採届けに記載した届出人の伐採業者I社は実際には伐採をせず、他の伐採仲介業者Tに転売され、そのTを介して伐採業者S社によって最終的に伐採されたのでした。

 つまり、彼らの手口は、伐採対象地のすべての伐採届けを偽造するのではなくて、一部の山林買い付けにおいては、(買い付け価格の妥当性はさておき)合法的な行政手続きによって正式な伐採届け&適合通知書を入手し、それを根拠に周辺の山林を不当に伐採(盗伐)してしまうというものです。その違法性を問われた際は「境界がわからなかった」、「間違えた。故意ではない」など、いわゆる“誤伐”として言い逃れをするのです。
 今回の件で実際に伐採をしたS社について、海老原さんによると、岩村は「S社社長が今回の盗伐について裏で絵を描いた」と供述したそうですが、S社は警察から森林窃盗の嫌疑をかけられたものの、結果的には「お咎めなし」でした。

 本事件に関して、海老原さんのみならず宮崎市でも「伐採届を偽造して提出した」として、届け出に関わった岩村・松本を含む業者らが関与をした4件について2017年10月5日、有印私文書偽造・同行使容疑で刑事告訴しました*1。この4件とは前述した東側に該当するもので、そのうちの1件、海老原さん事案は不起訴でした。また宮崎市では2017年12月14日に追加で4件の刑事告訴をしています*2。追加の4件は前述の西側に該当するものです。東側の4件が起訴されたことを受け、市が2015年11月~2016年2月の間に提出した伐採届について調査をしたところ、この4件の偽造が明るみになったようです。2件は所有者が亡くなっており、残り2件は所有者の同意を得ていないことが確認されました。つまり宮崎市は合計8件の盗伐事件を告発したのでした。
 しかしながら宮崎地方検察庁が起訴したのは3件のみ*3。公判において他の5件は言及されず、岩村・松本に対して「常習性がない」との表現が適用されました。これは事実とまったく異なる表現、認識であり、宮崎地検の対応や判断についても、海老原さんは大きな疑念を抱いています。

盗伐も宮崎県では“誤伐”に
 海老原さんによると、宮崎県においてこの“誤伐”が明るみになった際は、盗伐業者が巧みに示談に持ち込み、とても安価な示談金で手打ちになってしまうケースがほとんどのようです。
 宮崎県盗伐被害者の会会員で延岡市の被害者は、被害届を出そうと延岡警察に約1年半、幾度となく粘り強く熱心に相談を持ちかけたところ、S警部補からその被害者に直接電話があり1時間くらいをかけて「(直接伐採をした)M社が100万円を出すから示談にしなさい」とのやや恫喝まがいの説得を受けたそうです。実はこの被害者は、盗伐被害を受けるのが5回目だったとのこと。1回目は父親所有の林地が被害に。2回目は母親名義の林地。そして当事者所有の林地でも3回に渡る盗伐。さすがに業を煮やして被害届を出すに至ったそうです。
 また同じく会員の川越静子さんの事例では、静子さんの息子さんが盗伐業者の伐採行為を現行犯で発見し、警察に通報したにも関わらず、駆けつけた高岡警察署の警察官は盗伐業者を逮捕するどころか、その場で通報者に対して示談を勧め、示談書への指印を要求したのだそうです。
 次回、川越静子さんの事例を詳しく紹介します。

 本稿では推定無罪の原則に基づき、有罪判決を受けていない容疑者については、原則としてイニシャル標記としていますが、本稿で触れた仲介業者のYやT、素材生産業者のS社、その他、素材生産業者のS社、M社、K社、A社など、被害者の会会員の調べで確実に盗伐に関与している業者が判っています。中には業者自ら「俺が伐った。盗伐だった」といった証言をした事例もあります。驚くことにこれらすべての事業者は宮崎県造林素材生産事業協同組合連合会(宮崎県素連)によって合法木材供給事業者として認定されています。
 実は、被害者の会会員の中に、息子さんが警察官の方がいて、その方によると息子さんは「警察では誰も誤伐だとは思っていない。警察官で知らないやつはいない」という見解を示しているそうです。
 海老原さんは、盗伐に関与したすべての者が有罪判決を受けるべきだと主張しています。

不起訴処分を不当として検察審査会への申立
 その後、海老原さんは自身の林地の盗伐被害について、宮崎地方検察庁(担当はK検事)が不起訴処分としたことを不当とし、2019年2月5日、宮崎検察審査会へ審査申立を行いました。
 その結果、令和元年(2019年)7月11日、有印私文書偽造、同行使、森林法違反被疑事件として「不起訴処分は不当である」と議決されました。この議決により検察官に対して再考と再捜査が要請されました。今後の検察による再捜査の行方が大変注目されるところです。

宮崎県の盗伐被害者の特徴
 政府等から公に発表されている資料やその他報道等において、誤伐(盗伐)は地籍調査*4が済んでいないところで発生しやすいとされています。しかしながら、海老原さんの被害を含め、宮崎県盗伐被害者の会会員の被害事例において、そのほとんどが地籍調査が済んでいる林地でした*5。宮崎県の盗伐実態は、他県における一般論では説明しきれないほど深刻です。
 また、宮崎県被害者の会会員の事例を類型化してみると、そのほとんどが以下に該当します。(1)高齢の独り暮らしの女性、(2)家族は宮崎市内、または県外在住、(3)聴覚障害や知的障害など何らかの障害を持つ、または家族にそうした者がいる*6。いわゆる社会的弱者を狙った極めて卑劣な行為です。そして前回も触れましたが、こうした行為が過去10年間において宮崎市内で少なくとも836件も起こっているのです。
 こうした行為が長きに渡り見過ごされ、隠蔽されてきた宮崎県の森林・林業界の実態。これが森林・林業界だけのことなのか、それとも県下の警察を含む行政機関、検察・裁判所といった司法機関、そして宮崎県選出の国会議員を筆頭とする県・市町村議会議員といった立法機関のすべてに及ぶものなのか、まだその実態は明らかになっていません。さらに宮崎県に限ったことなのか否か、、、判断できる材料はまだまだ不十分です。
 いずれにしても、この状況は違法伐採が問題になっていて、汚職・腐敗が蔓延しているような途上国のものに匹敵します。この国は本当に先進国なのか、疑いたくなります。

 海老原さんの被害から実態が明るみになった宮崎県の盗伐問題。今後もしっかり注視していきます。(三柴 淳一)

第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その1)
第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その1)

*1 宮崎日日新聞2017年10月6日紙面
*2 毎日新聞 2018年2月9日
https://mainichi.jp/articles/20180209/k00/00e/040/214000c?_ga=2.2839344.1073703159.1567670225-1507165860.1567670225
*3 宮崎日日新聞2019年7月23日紙面
*4 多くの地域で地籍調査が行われておらず、平成26年度末時点における山村部の地籍調査進捗率は44%
http://www.chiseki.go.jp/plan/sansonkyoukai/index.html
*5 海老原さんの林地は昭和60年9月3日に地籍調査済み
*6 【横田一の現場直撃】被害者が語る森林盗伐の現場/辺野古違法な赤土投入20190108
https://www.youtube.com/watch?v=kqdmp_AorLo

 

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