福島県県民健康調査委員会 甲状腺がん多発と被ばくとの因果関係で紛糾
7月8日、福島県「県民健康調査」検討委員会が開催され、その中で、甲状腺検査2巡目の結果、甲状腺がんやその疑いとされた71人について、「被ばくとの関連は認められない」とする甲状腺検査評価部会(部会長は鈴木元氏)の「まとめ」が報告されました。
NHKなどの報道では、「概ね了承」とされていますが、これは事実ではありません。甲状腺がんの発生率が地域がん登録で把握されている甲状腺がんの有病率に比べて「数十倍高い」としているのにもかかわらず、また、明らかに地域差がみられるにもかかわらず、それに関する評価が行われていないことに、「納得できない」「腑に落ちない」とする成井委員・富田委員らの強い発言もあり、委員会は紛糾しました。
「数十倍高い」
甲状腺検査評価部会まとめは、こちらです。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/336455.pdf
「先行検査における甲状腺がん発見率は、わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推計される有病率に比べて、数十倍高かった。本格検査(検査 2回目)における甲状腺がん発見率は、先行検査よりもやや低いものの、依然として数十倍高かった」とし、甲状腺がんの多発については認めています。 (←報道には乗らないのですが、結構重要なポイントではないかと思います)
また、地域別の悪性ないし悪性疑いの発見率については、「単純に比較した場合に、避難区域等13市町村、中通り、浜通り、会津地方の順に高かった」としています。
しかし、性・検査時年齢、検査実施年などのさまざまな要因が上記の地域差に影響を及ぼしているとし、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)で公表された年齢別・市町村別の内部被ばくを考慮した推計甲状腺吸収線量を用いて試算した結果、「線量の増加に応じて発見率が上昇するといった一貫した関係は認められない」として、放射線被ばくとの間の関連は見られない、としています。ちなみにこの分析は、実数データが付されていないため、外部専門家が検証できない状況となっています。また、県民健康調査で集計からもれている11人については分析の対象とされていません。
「4地域の間で明らかな差」
これに対して、成井委員(ハートフルハート未来を育む会理事長、福島県臨床心理士会推薦)は以下のように反論。
・(実際に執刀した)鈴木眞一教授は、過剰診断ではないと言っている。
・避難区域等13市町村、中通り、浜通り、会津、という地域区分は、当初の線量からしても妥当ではないか。この4地域の間で甲状腺がんの発見率に相当の差が生じている。確かに検査間隔や検査年度などのいろいろな要因が入ってくるが、それを排除した分析をやるべき。それなくして「因果関係がない」とは言えない。
・先行検査(1巡目)では、地域ごとに明確に差がでなかったのに、本格調査(2巡目)では、明確な差がでた。それはなぜなのか、検討してくださいと鈴木元先生にはお願いしてきた。地域区分をやめてUNSCEARのデータを使ったということだが、先行検査の手法は地域差の分析であった。なぜ同じ手法を継続しないのか。
以下委員の主たる発言です。
鈴木元部会長:4地域比較ができない理由は、同じ年度に測った年度で違う線量を比較して解析しているため。
成井委員:UNSCEARだって同じ。自治体の中でも様々な線量が含まれている。推定値に過ぎない。
鈴木元部会長:UNSCEARの線量評価の一番の問題は食べ物からのものを一律にしている点。今回使っているのはそれを差し引いたもの。
高野委員:先ほどの成井委員の発言で、鈴木眞一先生は「過剰診断でない」とはおっしゃっているというが、過剰診断は病理で発見できるものではないので、鈴木眞一氏は過剰診断の定義をご存知ないということ。(満田注:その時点での甲状腺がんが一生涯どのような挙動をするのか、手術時点ではわからない、一生涯、健康に影響を及ぼさないがんである可能性もあるはず、という意味だとおもいます・・・)
富田委員:因果関係がないという結論になるのは、腑に落ちない。「(甲状腺がんが)数十倍高い」「避難区域13市町村、中通り、浜通り、会津地方の順に高い」ということからは、事故との関係があるという結論になりそうだ。他の要因があるにしろ、「事故との関係がない」と言い切ることは強引。
稲葉委員:たいへん低い被ばく線量の中で分析をしている(だから統計的に有意な結果を得られにくい)、ということを明確にすべき。
春日委員:低い被ばく線量の中で分析をしていること、あくまで第2回目の検査を対象としたものであることを明確にする文章とすべき。
清水一雄委員:「関連はみとめられない」と言い切るのは早い。
星座長は、「座長預かりにしてくれないか」とまとめようとしましたが、春日委員がそれに反対。結論としては、座長が修文案を示し、委員がそれを確認する、というようなことになりました。
そのあとの記者会見で、成井委員は「座長あずかりにしたつもりはない」、富田委員は、「少数意見として意見を併記させていただくことになるかもしれない」と述べました。
「なぜ、ここまで急ぐのか」という記者の質問に対して、星座長は、「自分の任期中に結論を出したい」との一点張りでした。
UNSCEARの線量との関係の分析などについては、以下の資料にあります。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/336454.pdf
FFTVでこれに関し、OurPlanet-TVの白石草さんに解説してもらいました。
https://www.youtube.com/watch?v=C0EuWCpHSUs
本件に関しては、「あじさいの会」のメンバーや当事者が、福島県庁に要望書を提出しています。
甲状腺がん患者が福島県へ要望書?県民の意見の反映求め
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2406
甲状腺がん・疑い、218人に
今回は3巡目検査、4巡目検査の状況について報告がありました。
<3巡目>
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/336451.pdf
2次検査対象者 1,490 人のうち 1,081 人(72.6%)が受診した段階です。
悪性・悪性うたがい:24人(うち、手術実施は18人。すべて乳頭がん)
男9:女15
腫瘍の大きさは 5.6mm から 33.0mm
24人の前回検査の結果は、A判定が16人、B判定が5人
<4巡目>
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/336452.pdf
一次検査は対象者の35.4%、二次検査は対象者の52.6%が受診した段階です。
悪性・悪性うたがい:5人(うち、手術実施は1人、乳頭がん)
男2、女2
前回A判定は4人、B判定が1人。
これにより、1~4巡目および25歳節目検診の検査の悪性・悪性疑いは218人(うち良性1人)となりました。
全体像をみる上で以下のまとめが便利です。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/336460.pdf
甲状腺検査のお知らせ文
甲状腺検査のお知らせに記載すべきメリット・デメリットに関しても議論となりました。 資料はこちら。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/336456.pdf
ご覧の通り、メリット、デメリットについてがっつりかかれ、デメリットについては、それに対する取り組みが書かれています。
それでも、前回の甲状腺評価部会のときの文案からは少しやわらげられているかもしれません。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/330654.pdf
このときは、デメリットの最初の項目に以下のように書かれていました。
「将来的に症状やがんによる死亡を引き起こさないがんを診断してしまう可能性があります。
若い方の甲状腺がんは、一般的に重症になることが少ないとされています。自覚症状等で発見される前に、超音波検査によって、甲状腺がんを発見することにより、がんによる死亡率を低減できるかどうかは、これまで科学的に明らかにされていません。」
この件についても、委員からさまざまな意見が出されました。たとえば、ある委員からは、国際的にも甲状腺の一斉検査を行うべきでないことになっていることを明記すべきと発言。星座長もそうすべきと言っていました。
以下の富田委員の意見が、ことの本質を表しているのではないかと思いました。
富田委員:このお知らせをみて、「(デメリットが大きいから)やはり検査を受けるのをやめておこう」となり、そのあとで甲状腺がんになり、「あのとき検査を受けておけば」ということになり、福島県が訴えられるような場合があるかもしれない。自己責任と言ってしまってよいのか。 もし自己責任ということであれば、その旨明記すべきではないか。
こころの健康度などについて
平成29年度の「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の結果が報告されました。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/336444.pdf
p.13にある、気分の落ち込みや不安に関して支援が必要な人の割合など、心の健康に関する状況は改善しているようですが、県内にくらべ県外の人たち(避難者など)の要支援割合が高いという結果になっています。
心の健康は、生活の基盤の安定性と密接な関係にあるでしょうから、避難者への相次ぐ支援の打ち切りをしておいて、心の健康だけを支援(?)しようというのは、問題だと思いました。
ちなみに、p.17の放射線の健康影響の認識については、放射線のもたらす長期的な影響(後年影響)に関する認識についてきいています。
「可能性は高い」「可能性は非常に高い」とする人の割合は事故当初の平成23年から減少しているものの、平成26年以降は一定割合(32~33%)を保っているとのこと。福島県や国による放射能安全PRは、それほど功をそうしていないのかもしれません。(満田夏花)