リニア工事の実態~大鹿村釜沢集落

開発と人権2024.7.10

長野県大鹿村釜沢。標高1000mにある鎌倉時代から続く自然と共生する美しい集落です。畑の脇を人一人通るのがやっとの細い急な坂道を息を切らしながら家にたどり着くと、昔ながらの古民家が出迎えてくれます。自分で手直ししながら大切に使う家、近くの森で取れる薪、斜面の小さな野菜畑。住民達がこの土地を愛し、ここでの暮らしを大切にして生きていることがうかがい知れます。利便性や利益の追求からは得られない豊かさを求め、この集落では県外などから移り住んで来た人々が少なくありません。

静寂と自然の音、人々の丁寧な暮らしから育まれる音のみが存在してきた釜沢集落に、2008年からリニア中央新幹線のトンネル工事のためのボーリング調査が始まり、その後の24時間ボーリング工事の騒音被害を受けて集落を離れて行く人々も出てきました。2017年末にはダイナマイトの発破が始まり、「ドーン」という住民が地震か、雷かと思うほどの振動と騒音が起こりました。これが昼夜を問わず続く中、元々脆弱な地盤の集落内では、落石や石垣の崩壊、コンクリートのひび割れ、雨漏りなどが生じました。しかしリニア工事との因果関係は認めらませんでした。「村の他の集落の人からは、そんなところに住んでいるやつが悪いと言われることもあります。でも、そんなところで発破作業すること自体がどうなのか」と、釜沢集落の前自治会長の谷口昇さんは憤ります。

現在、釜沢にはまた別の音が生じています。トンネル工事から排出される残土を積み重ねる鎮圧する音が響きます。かつて人工物がほとんど見えることのなかった集落の景色の中に、積み重ねられる残土の山、工事現場が見えます。JR東海は南信の自治体各地で発生土置き場受け入れの交渉をしていますが、現在までに長野県内のリニアトンネル工事から発生する970万立米の残土の行き場はほとんど決まってなく、行き場のない土は釜沢にも仮置きされています。田畑が残土で埋め尽くされていく中、いつまで「仮置き」されるのか住民の不安は募ります。住民の内田ボブさんは、以前は上空を飛んでいた「クマタカやイヌワシが見えなくなった」と心配します。谷間に発破音や工事音が響くここ2年ほどの間に生態系も変わってしまった可能性があります。

大鹿村では、リニア工事の影響は釜沢集落の問題だけではありません。2017年には、トンネル掘削の発破が原因で土砂崩落が起こり、大鹿村と村外をつなぐ重要な生活道路が寸断されました。大鹿村にはコンビニもスーパーもないことから、多くの住民は日々の買い物や医療機関受診、通勤等のために村外に通っています。代替ルートとされたのは、両側を崖に挟まれた離合の難しい細い道路。道路が凍結する時期でもあり、高齢者や運転に自信のない方は実質的に陸の孤島に閉じ込められた形になりました。

リニア工事の影響は物理的な影響だけではありません。JR東海が一方的に定めたルールによって、住民説明会から村のリニア対策委員である住民の同席を拒否したり、住民に十分な説明もせず、住民が納得していないまま「理解が得られた」ことになって進められていたりと住民の意思を尊重する姿勢は見られません。リニア工事による道路改良や道の駅の建設等の懐柔策とも取れる事業が持ち込まれることで、地域内に対立や分断も生じています。

これから本格的に工事が始まる青木地区。残土運搬や青木川の水量への影響が懸念されています。青木地区に実家のある紺野 香糸さんは、「山梨を見に行ったとき、本当にこんな風になっちゃうんだって思ったけれど、やっぱり実際自分の村もこんな風になってきちゃったんだって思う」と話します。「始まってしまったから諦めるしかないというのは違う。本当に長いものが始まってしまったから、それに向けて住民がどう感じていたり、どういう影響を受けるのか、私たちは知っておかなければならない。」

明日、6月30日(日)、大鹿村のリニア工事の実態について、都内でリニアの走る大田区で報告会を開催します。ぜひ住民の生の声を聞いてください。沿線では未だ工事が始まっていない場所も、土地収用が進んでいない場所も少なくありません。すでに工事が始まっている地域で何が起きているかを知ることで、今後の開発を止めることも可能かもしれません。

http://www.foejapan.org/aid/doc/evt_190630.html

 

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