廃炉費用や事故処理費用― 拙速な議論による「託送料金」転嫁は電力システム改革の理念に反する

福島支援と脱原発2024.7.24

2016年9月、「原発の廃炉費用を新電力にも負担させる方向」とのニュースが、私たちを驚かせました。9月下旬の報道では、東電福島第一原発事故の廃炉・賠償費用と、既存の原発の廃炉費用と、あわせて8.3兆円にものぼる、とも伝えられました。

その後、9月27日より、経済産業省で「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」と「東電1F問題委員会」が設置され、議論が進むにつれ、話が具体的に見えてきつつあります。
1)福島第一原発事故の廃炉費用、賠償費用の件
(東京電力改革・1F問題委員会で議論)
2)廃炉会計制度と、解体引当金制度
(電力システム改革貫徹のための政策小委員会で議論)
と2つの議論があります。

これらを、「託送料金」のしくみなどを利用して回収できるようにしようという方向です。
その理由づけとして、
3)原発の電気を卸売り市場に流し、使いやすくする「市場整備」=ベースロード電源市場、非化石価値取引市場の創設など
(電力システム改革貫徹のための政策小委員会ー市場整備WGで議論)
の議論があり、
原発の電気を皆で使うのであれば、託送料金での回収は適当、という方向です。

 

「両WGにおける議論の関係性」
(総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 電力システム改革貫徹のための政策小委員会(第2回)資料5より)

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1)福島第一原発事故の廃炉・事故収束費用と賠償費用について
賠償費用もすでに5兆円の見通しから、除染・中間貯蔵の費用も含めて9兆円、それ以上にもっと大きく膨らむことが予想されています。
加えて、廃炉・汚染水対策の費用が2.2兆円もしくはそれ以上です。

・東電1F問題委員会資料:(10月25日 第2回会合開催)
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html

廃炉費用については、東京電力に責任を負わせる方向で議論されていますが、
巨額の費用の一部は、東京電力パワーグリッドの経営合理化によりまかなう案や、
託送料金への転嫁も提案されています。

また、原子力損害賠償支援機構への原子力事業者の支払い(一般負担金)についても、
「機構が発足する2011年以前にも、本来は積み立てるべきだった」
「過去に安価な電気をつかっていたが、事故賠償費用の積み立てがはいっていなかった」
として、「遡って負担を求めることが適当」と、事務局資料で提案されています。
今後も、「万が一」事故が起こった場合には・・・その賠償・収束費用の一部は託送料金で回収されるのでしょうか。

・電力システム改革貫徹のための政策小委員会 財務会計ワーキンググループ
11月16日開催の第4回会合資料
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/kihonseisaku/denryoku_system_kaikaku/zaimu/004_haifu.html

2)廃炉会計制度と、解体引当金制度について
これまで、原発の廃炉解体費用は、地域大手電力会社(旧一般電気事業者)が「解体引当金」として50年間で積み立てることになっていました。(今回の議論で40年に短縮する方向)
廃炉を決定した際に、規制料金の解体引当金の積み立ての一定額に達しないことで無理に延長することがないような制度が導入されていました。
・廃炉決定後にも、資産として計上し、減価償却をできるように(2013年の廃炉会計制度導入)
・その費用回収について、小売規制料金原価に算入できるようになる。(2015年の改正)
今回の議論で、これを託送料金に乗せられるように、という方向です。

対象はすでに廃炉が決まっている原発(6基:美浜1・2、島根1、玄海1、伊方1、敦賀1)で、
今のところ議論は6基についてのみですが、
今後、他の原発の廃炉についても同様の措置がとられる・・・という方向で議論が進んでいます。

さらに、引当金の総見積額について、「現行の算定式が想定しない個別事象を反映して柔軟性を確保」、つまり、廃炉総費用の上振れの可能性が示されています。

・電力システム改革貫徹のための政策小委員会 財務会計ワーキンググループ
11月2日開催の第3回会合資料
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/kihonseisaku/denryoku_system_kaikaku/zaimu/004_haifu.html

——
1)と2)の議論に共通して、
この「託送料金の仕組みを利用して費用回収」は、はたして適切なのでしょうか。
「新電力にも費用負担」「国民負担」と報道されていますが、
原子力の関連費用だけ「託送料金」の仕組みに入れられることは、
「公平な競争」という電力システム改革の理念にも逆行します。

いずれにしても、今回の議論で、
・福島第一原発事故の収束・賠償の費用は、現在の予定より大幅に膨張すること
・既存の原発の廃炉費用も、上振れの可能性あり
について、対策しなければならなくなったことが明らかとなりました。

事故の責任があいまいなまま、また原子力政策の見直しを伴わない国民への負担転嫁は、新電力事業者や国民を説得できるものではありません。福島第一原発事故の賠償・被害最小化を最優先として、東京電力の責任を明らかにし、莫大な費用がかかることが明白となった原子力発電については、これまで利益を得てきた事業者が責任を持って安全な廃炉に向けた対策を取るべきです。
またその費用は、第一に経営改善、その次に電気料金で回収すべきです。
経済合理性を欠く原発を、維持を前提として国民負担で支えることは、電力自由化の理念にも反し受け入れられるものではありません。

新電力各社からも、反対の声が上がっています。
FoE Japanも参加するパワーシフト・キャンペーンでは、「託送料金」への転嫁について適切と考えるかどうか、新電力各社にアンケートを実施しています。(11月末~12月上旬に取りまとめ予定)
また、下記の声明に賛同を募っています。ぜひご参加いただければ幸いです。
(吉田 明子)

【声明: 「原発コスト安」は嘘だった
-国民への8.3兆円負担転嫁ではなく、原発政策の転換を】
http://power-shift.org/info/160921/

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(参考)
・毎日新聞(10月25日)
「自主廃炉費 新電力負担 老朽化進み拡大も 経産省方針」
http://mainichi.jp/articles/20161025/ddm/001/010/152

 

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