第41回南極の海生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)に向けて
2022年10月24日~11月4日に、南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)の第41回総会が開催されます。FoE Japanも加盟する世界20の団体から構成される南極・南極海連合(ASOC)は、以下の6件の報告書・提言書を委員会に提出しました。
1.海洋保護区:世界的・地域的に喫緊なCCAMLRの課題
2.ASOC(南極・南極海連合)のCCAMLRへのレポート
3.漁船および極域で操業している長さ24メートル以上の漁船の安全対策のための国際ガイドライン
4.CCAMLRの意思決定プロセスに関するオブザーバーコメント
5.南極海におけるマジェランアイナメとオキアミのコネクティビティ(生態学的連結性)
6.より精密なオキアミ漁業マネジメント、モニタリングの強化、オキアミを基盤とした生態系を保護するための追加的措置
ASOCから提出した報告書・提言書(6件)の日本語サマリー
1.海洋保護区:世界的・地域的に喫緊なCCAMLRの課題
CCAMLR-41/BG/32
2009年にCCAMLRは、南極海における代表的な海洋保護区(MPAs)のシステムを2012年までに確立すると合意したが、それは10年過ぎた今も達成されていない。
ロス海に世界最大の海洋保護区を指定したことは、海洋保護におけるCCAMLR最大の成果であり、グローバルなリーダーシップの実例である。
しかしながら、審議中の3件の新たなMPA提案が、長年における交渉にもかかわらず指定に至らずにいる事実は、CCAMLRが南極海に海洋保護区ネットワークをつくるという自らの使命を果たせていないに等しい。
本ペーパーでは、CCAMLRの海洋保護区を世界規模の海洋の空間保護交渉の文脈で考え、今こそ、CCAMLRがふたたびグローバルなリーダーシップを発揮して南極条約海域での海洋保護を実現させるべき時が来ていると提起している。
ASOCはCCAMLRがただちに以下の行動をとるよう提言する。
- 現在提案されている3つの海洋保護区を採択すること
- ロス海MPAの調査モニタリングプログラムを承認すること
- 残る計画海域にMPAsを設定するためのMPA提案を前進させること
2.ASOC(南極・南極海連合)のCCAMLRへのレポート
CCAMLR-41/BG/31
ASOCは、今年のCCAMLR-41(南極の海洋生物資源の保存に関する委員会第41回年次会合)へ6本のバックグラウンドペーパーを提出している。各ペーパーはCCAMLRの重要課題をあつかっており、ナンキョクオキアミの漁業管理、海洋保護区(MPAs)設定、CCAMLRの意思決定プロセス、極域で操業する漁船について国際海事機関で採択されたガイドラインなどに焦点を当てたものとなっている。前回会合の閉会以後、ASOCとそのメンバー諸組織は、科学調査に対する資金提供、CCAMLRステークホルダー間の議論の機会の促進、数々の教育活動やアウトリーチ活動など、南極保護をサポートするさまざまな活動に関わってきた。
3.漁船および極域で操業している長さ24メートル以上の漁船の安全対策のための国際ガイドライン
CCAMLR-41/BG/34
2021年、国際海事機関(IMO)の海上安全委員会は、極域で操業する長さ24メートル以上の漁船の安全対策に関するガイドラインを承認した。CCAMLRメンバーもこのガイドラインを遵守することが重要である。このガイドライン策定に加え、IMOでの検討は、航海や航海計画に関する義務的規制の策定や漁具のマーキング、紛失あるいは廃棄された漁具の報告の義務化にも及んでいる。ASOCはCCAMLRに、こうした最近の動向に注目するよう求める。
加えて、ASOCはCCAMLRとそのメンバーに以下を求める。
- 上記のIMO新ガイドラインをCCAMLRウェブサイトでも閲覧できるようにすること
- CCAMLRの海域で創業するメンバー国の漁船がこの新ガイドラインに則るよう求めるCCAMLR決議を採択すること
- 長さ24メートル以上の漁船の航海および航海計画に関する義務的措置のIMOにおける承認と採択、およびその措置の発効日(2026年1月1日)を支持すること
- IMOの極海コードの履行に関連する経験を利用可能にすること、および、極域における船舶の安全と環境保全のさらなる検討の必要性を支持すること
- 漁具マーキングに関する規則がMARPOL条約付属書5に含まれることを確保するための作業、および、誤って紛失もしくは遺棄された漁具の義務的報告メカニズムに関する作業を前進、完了させるためIMOの作業に貢献すること
4.CCAMLRの意思決定プロセスに関するオブザーバーコメント
CCAMLR-41/BG/17
CCAMLRは、そのメンバーたちの長年にわたる働きにより、1982年の設立以来、世界をリードする南極の科学と保全措置の採択の最前線に立ってきた。
しかし近年、重要課題のいくつかにおいて、くり返しコンセンサスに加わらない1、2のメンバーが存在していることで進展が妨げられている。
コンセンサスベースの意思決定の、近年のこうした機能不全は、CCAMLRが条約第2条の定める保全目標を達成する上で困難を抱えていることを示唆しており、ASOCならびにCOLTO(Coalition of Legal Toothfish Operators, Inc.)はこれを深刻な懸念事項と捉えている。
本ペーパーは、委員会がシステマティックな不全によってコンセンサスを確保できない場合にもそれらの事項を進展させることが可能となる代替的アプローチを検討することをCCAMLRへ提案するものである。
5.南極海におけるマジェランアイナメとオキアミのコネクティビティ(生態学的連結性)
SC-CAMLR-41-BG-27
未だわかっていない部分は多いが、ナンキョクオキアミとメロ類(マジェランアイナメ、ライギョダマシ)のコネクティビティ(コネクティビティ:ここでは、ある生物種と他の生物種がその生息場所や移動・行動を通じて空間および時間の推移のなかでみせる生態学的連結性のこと)は、海洋保護区(MPAs)のデザインをふくむ空間の予防的管理を確保する上で決定的に重要性である。
メロとナンキョクオキアミの生活史の各段階における生息場所や繁殖期の移動経路、そして南極海における個体群の連結性に関する研究上の問いに答えるため、我々は現在一連のラグランジュ粒子モデルによる一連の実験を進めている。
このペーパーでは、我々の実施したオキアミについての初期の実験結果と本研究プロジェクトの次段階について紹介する。
現在進行中のこの取組へのフィードバックやコラボレーションを歓迎する。
6.より精密なオキアミ漁業マネジメント、モニタリングの強化、オキアミを基盤とした生態系を保護するための追加的措置
SC-CAMLR-41-BG-29
オキアミを基盤とする生態系には多大な不確実性があることを考慮し、オキアミ漁業の予防的管理が確保されるよう、ASOCは以下を推奨する。
1)CCAMLRの科学委員会(SC-CAMLR)は2019年に合意されたオキアミ作業計画を完了させ、CCAMLRはCM51-07に代わる新たな予防的保全措置に合意すること。
2)2022年に新しい保全措置(CM)が合意されない場合、科学委員会は保全措置51-07を更新し、新たな保全措置の策定を来年以降におこなうこと。
3)科学委員会は予防的な管理を維持すべきである。漁獲リミットの引き上げは、常に漸進的とすべきであり、新たな措置が捕食者の保護を改善することを示す科学的裏づけが得られ、かつ以下の要素のすべてがCCAMLRおよび科学委員会によって合意され実施される場合に限るべきである。
- 5年以上の間隔を空けずに定期的に科学に基づいた漁獲リミットの見直しをおこなうこと
- 漁獲リミットの設定にgRymモデルの用いられている場合、その定期的なテストおよび評価をおこなうこと
- オキアミと捕食者へのインパクトの定期的なモニタリング、およびCCAMLR生態系モニタリングプログラムの見直し
- 国際オブザーバーのカバー率を100%にすること
- 生態系と漁業のための回復力を持つよう、また、気候変動の参照エリアとして利用可能になるよう、D1海洋保護区(D1MPA)を指定すること
- 積み替えの透明性、モニタリング、報告を強化するため、積み替えに関する保全措置を改善すること
- すべての海洋性哺乳類と海鳥の混獲の緩和のため、WG-IMAF(漁業による偶発的な死亡に関するCCAMLR作業部会などを通じ、ACAP(アホウドリ類及びミズナギドリ類の保存に関する条約)やIWC(国際捕鯨委員会)、関連する専門家と協働すること
以上