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企業の生物多様性に関する活動の評価基準検討委員会
パフォーマンス指標分科会 第2回 議事録
主催:国際環境NGO FoE Japan
日時:平成20年12月20日(土) 15:15〜17:00
場所:地球環境パートナーシッププラザ EPO会議室
出席者:
(委員)田中委員(分科会委員長)、足立委員、上田委員、大沼委員、岡本委員、坂本委員、佐藤委員、永石委員
(事務局)中澤、宮崎、能勢、攝待  (委員一覧

※下記の議事録には、用語解説のためWikipedia等へリンクしているものがありますが、あくまで参考であり、リンク先の情報は必ずしも当団体Friends of the Earth(FoE)の公式見解を表すものではありません。

委員長:生物多様性に配慮したいという企業側の論理に対して、外部評価するというのがマネジメント指標であり、企業側がどう考えているのかということは関係なく、企業活動の影響を客観的に評価するのがこのパフォーマンス指標だと考えている。これを踏まえ、本日は大体の骨組みが皆で合意形成できたらいいと考える。
また、時間もあまり無いため、この基準に対しどうしても言っておきたいことがあれば、この時間内で発言願いたい。
では、まず事務局よりパフォーマンス評価基準の概要説明を行います。

●パフォーマンス評価基準(たたき台)の概要
事務局パフォーマンス評価基準(たたき台)について説明(資料2を参照)。

委員長:では10分ほど、いまの事務局の説明に対し、質疑を行いたい。

委員:一点確認します。今の説明は、市民とかNPOが企業の活動を評価するということでよいか?

事務局その通り。

委員:生物多様性だとかCSRに関する言葉は最近目白押しでいろいろあるが、どうしても頭に入って来ない、ぴんとしない。ではここで何が問題なのかと言うと、市民に身近に解ってもらえる、という事がとても大事なことだということです。
これは提言だが、生物多様性は難しい言葉だが、すごく自分のこととして考えて企業を見ていくということを書けないか。身近なもの、目で見るもの、遠くのもの、原料を採取する、などそういうことを表現できないか。そういう視点で企業の行動を評価できないか。

委員長:前回も企業自身が生物多様性をどれだけ咀嚼しているか、そもそも生物多様性とは何か?という議論があった。今の意見は、ガイドラインに市民側がわかりやすいように生物多様性の意味を入れられないかということ。

事務局環境省が企業ガイドラインの中でもわかりやすい前文を書く予定である。この委員会の報告書でもわかりやすい説明を入れたいので、佐藤委員にぜひ提案いただきたい。

委員長:誰が企業のパーフォーマンスを評価するガイドラインを作るのか?

事務局基本的には市民、住民、NPO・NGO、外部から評価をするための基準と考えていただきたい。

委員:マネジメント委員会との兼ね合いだと思うが、いまマーケットの問題がある。医学用語でいう腹腔法の様な方法を使い生態系そのものを破壊しないで済むとか、そういうことを評価の中に入れておいたほうが、効果が高まるのではないか。
それからリサイクル、後で聞いてみたら、年間で2割くらい新古品があるという。イギリスでは小中学生は携帯電話をもたないようにするとか、ボーダフォンは作りすぎないようにしているとか、マーケティングのあり方そのものの問題もパフォーマンスに関わりがあると思う。

委員長:最初の話は、ある1つの基準のために、複数のやり方を示す事を義務付けるということでよいか?

委員:現状での生態系の破壊に対して、企業が破壊を起こさないような手法をとることをパフォーマンス委員で評価するという方向。

委員:先ほど別の委員が話していたこと、“市民がしっくり来る言葉”というのは、やはり凄く大事なこと。本来どうなってほしいかという視点が大事。それを実現しようとしたとき、企業が与えている影響はどうなのか、という視点で見ていくと良いのではないか。今日のたたき台をみて、技術的、手法的なことが多く、その辺が見えなくなってしまうのではと危惧する。技術は発達していくものだから今はできなくても、将来できるようになるかもしれない。だからそれよりも、本来どうあってほしいのかという事を挙げ、それを100点満点とし、それに対し今どれぐらいなのかという事を見て評価の仕方としてはどうか。
これにはもう1つ理由がある。よく“生物資源を持続可能に利用”というが、どこまでが持続可能で許容可能なのか。今の科学でもはっきりとはいえない。今やらなければいけないのは厳密なラインを引くことではない。本当に理想的なことを言っておき、合格ラインはそのつど考えていけばよい。
以上2つの理由により、もう少し大きな視点の議論が必要なのではないかと考える。具体的にどうやっていくかというのは、付記のような形でつけていけばよいのではないか?
たとえば、ノーネットロスを理想とするというのは良いと思う。“今現在それがちゃんと出来るか”という事は別にして、それを最終的なゴールにしよう、というのは良いと思う。

委員:追加分コメントに、文化というのがあったが、元々日本人は質実剛健で贅沢を良しとせず、自然に沿った生活をしていたのだが、戦後5〜60年のうちにアメリカのマーケティングの手法で、いつの間にか余計なものを買っていく、と言うか“買わされている”という様な状態にシフトしてしまっている。そこのところを抑えていく事が“大きな視点”になるのではないかと思う。つまり今の生活や企業のあり方を変えずして生物多様性を保全するという見方の方が狭いのではという気がする。
ただこれはマネジメントで議論すべきだという事かもしれないが、パフォーマンス指標を考える場面でも無視出来ない視点ではないか。

委員長:仰る通り、企業がどういうスタンスでというのはマネジメント手法の課題である。我々のほうは、企業のスタンスがどうこうというのは別にし、淡々と“企業の活動や社会貢献などが生態系にどの様な影響を与えているか”というパフォーマンスを評価する手法を考えてゆきたい。
では、タイムスケジュール通り、今から直接、間接、社会貢献、順々に議論していきたい。まずは直接影響に関して、議論のポイントを事務局から説明してください。

●直接影響
事務局
直接影響については、最も議論していただきたいのは評価基準の最初のところ、足立委員からもあったように企業活動によって与えられる負の影響。元々生物多様性の価値が高いところでは開発しない。それ以外のところでは最小化し、どうしても残る影響については代償ミティゲーションを行い、ノーネットロス、ポジティブインパクトを目標として掲げることが「良いかどうか」、そこを議論していただきたい。

委員長:今の話に出てきた“ノーネットロス”とは、現状の生態系サービスの現状を維持すること。何らかの開発によって、何らかのサービスが損なわれたら、それをもとと同じように復元するということだと思う。ノーネットロスはプラスマイナスゼロということだが、昨今はこのノーネットロスというプラマイゼロからさらに進めて、「ネットゲイン」、即ち、生態系サービスの「維持」、「増強」、「創造」をプラスマイナスゼロではなくプラスにしていかなければならないということがヨーロッパやオーストラリアなどで言われている。
ノーネットロスという言葉は元々アメリカのミティゲーション制度の中で出てきたものだが、実はノーネットロスも、ネットゲインも実態的には同じ事である。そもそも生態学的に言えば、ノーネットロスということはあり得ず、人間の開発が存在するならば何らかのマイナスインパクトは避けられない。ただ、そこで異種の生態系と「トレードオフができる」という考え方ができれば、ノーネットロスやネットゲインということもできるということ。
この時代背景としては、1970年代にノーネットロス、ミティゲーションバンキングなどがアメリカ国内で盛んになり、EUが“Habitat Directive”というものを作ってから、ここ5年程の間に急速に、EU諸国内でも本格的にノーネットロスあるいはネットゲインということを考え始めた。それに伴い、アメリカで「代償ミティゲーション」と呼ばれてきた行為が“Biodiversity(生物多様性)オフセット”という言い方になって、EUやオーストラリアに伝播している。
世界での呼び方は色々あるが、残念ながら日本国内ではそういうことを考え始めたところ。そういう日本の企業でいきなりネットゲイン(総合的に見てプラス)に行くのか。それともまずはノーネットロス(プラマイゼロ)からいくのか。後者はこれからのCBD-COP10を踏まえると後ろ向きになってしまうかもしれないが。

委員:確認しておきたいことがある。まずノーネットロスというのはまったく触らないということか。ノーゴーなども同じ様な意味かとおもうが、言葉の定義をはっきりさせてほしい。
また、トレードオフが本当に可能なのかは疑問だが、もしできるとしても、ノーゴーと、オフセットの結果のノーネットロスというのは全く違う事だと思う。
もう一点。歴史的な経緯で湿地のミティゲーションを見てみると、地域によって思想の違いが存在する。例えばアメリカで湿地を守ろうと言うと、まだ野生の湿地を保全するという意味合いが強かったが、欧州では人為的な手が入り荒廃してしまった湿地を回復するという意味合いが強かったのではないだろうか?
日本の場合は、全く手の付かない自然が存在するが、そこにノーネットロスとは言え手を加えるのか、あるいは里山のような二次林でトレードオフしようというのか、この二つはずいぶん違う。

委員長:これはケースバイケースだが、アメリカの場合、主に荒廃したところしか「代償ミティゲーション」の候補地に選べない様に法整備されている。ヨーロッパはアメリカほど厳格ではなく、むしろ今残されている里山のようなところを保全したりよりよい状態にしたりする事でもクレジットとしてカウントされる。
アメリカの中にもコンサベーション・バンキングなど、ミティゲーションの仕組みはいろいろあって、各法律によっても対象や目的がいろいろあり一概には言えないが、大きく分けるとアメリカと欧州はそういう傾向になる。

委員:バックヤードとしての後背地(潅木林や草地、湿地など)と、開発跡地としての荒廃地があると思う。開発跡地としての荒廃地は復元する事に異存はないが、通常のバックヤードとしての後背地は一見荒廃しているように見えても、生物の重要な生育生息地として開発すべきではないというのが前提にあるのではないか。その辺りの区別はしているのか。

委員長:代償ミティゲーションの候補地の話になるが、オフセットの候補地としてはバックヤードとしての後背地にそれなりの生態系が維持されていればそこは代償ミティゲーションの候補とすることは許されない。

委員:ノーネットロスを目指すという事だが、その前提になる、生物多様性上重要な地域の特定、いろんなレベルがあるのではないか。国、地域の行政が保護区としている地域、世界中のNGOがここは守るべきといっている地域など他にも色々あると思うが、保全上重要な地域というのがどのレベルのことか、いろいろな議論があるという事を背景として書いておくべき。また一般の人が判り易いものを目指すなら、人の手の入った地域には必ず何らかの影響があるという事を記載しておくべき。何故なら今の文書を一般の人が読んだ際、地区Aを開発しても、同面積の地区Bで回復すればよい、というように受け取られかねない。いくら現在の技術で出来る色々な評価方法で地区Aの評価が高いとしても、将来的に技術が発達し再評価した際、評価が変わるかもしれない。
それを考慮すると本当はノーロスが良いが、それができないなら、その事情を一般の人にも判り易く背景として書いておく必要がある。

委員長:これに関する書き方はもう少し工夫する必要があると思う。ただ誤解があると思うのは、ミティゲーションというのは回避、最小化をまず優先し、それが出来なければ代償という選択肢があるという事。いま仰った様にトレードオフありきではない。回避、最小化が優先。
これらが環境影響評価法に位置づけられた時にも、書き方に問題があったのかもしれないが、かなり誤解があるではと考えている。今、OECD諸国の中で、代償ミティゲーション、即ち、生物多様性オフセットを法的に義務付けていないのは日本だけと思う。つまり日本では開発して自然がなくなってもそのままで良いということになっている。それに対して、生態系への悪影響を回避しても最小化しても残されてしまう悪影響、即ち自然の立地の消失などに対しては、何らかの自然を回復しなさい、というのが代償ミティゲーションである。回避、最小化、代償というミティゲーションの種類と優先順位について、誤解が無いようにしていきたい。

委員:先程からノーネットロスの議論が続いているが、何についてのノーロスなのかが明確に判りにくい。絶滅リスクのノーロスなのか。生物多様性のノーロスなのか、とどういう風にでも取られてしまいかねないので、そこは明確に書くべきではないか。どういったものがノーロスなのか厳密には判らないが、絶滅のリスクを減らすという書き方などであれば、市民にも判り易いと思う。

委員:多様性の量よりも質が大事。多様であることと同時に、固有性が大事。単純に多様性だけではなく、砂漠とか荒地などは多様性は少ないが、ユニークな地域。もう一段大きなスケールで見る見方を入れる必要。

委員:先程の生物多様性の対象について確認したい。根底には生物多様性条約があると思う。つまり、生物多様性を守るべき対象は、生物多様性の保全、生物多様性の持続的な利用、遺伝資源の公正かつ衡平な分配である。したがって生物多様性は生態系保全だけでなく、人間による自然資源の持続的な利用に基づく社会や文化の保全も関わることから、生態学者も社会学者も連携しながら生物多様性を守らなければいけない。

委員:文化的な経済学的な視点も大事。ただ、何を具体的に指すのかがないとわからないのではないかということ。

事務局たたき台では簡単にしか触れていないが、アメリカの水質浄化法は湿地の持っている循環を維持する機能をマストとして、状況に応じて再生を行い、湿地の機能がプラスになることを目的としている。一方、絶滅危惧種法だと、種の絶滅リスクを減らせるよう、別の土地で生存できるようにすることで、永久的に保存する事を目的としており、それぞれの目的は明確に分かれている。
もう少しそういうことを説明したら良いと思うが、湿地のような生態系をノーネットロスするか、絶滅危惧種をノーネットロスするかは一概に決められないため、ステークホルダーが意思決定に参加するかどうか、すなわち地域の住民やNGO、いろんな人の意見を入れて意思決定をすること、そういう手続きを入れていくことも必要ではないかと思う。

委員長:ノーネットロスの対象を、具体的にしていく事は確かに必要だと思う。「生態系」のノーネットロスなのか、「生態系のサービス・機能」のノーネットロスなのか、「Habitat」のノーネットロスなのか。
これに対し従来の日本の環境アセスメントでは、「動物」、「植物」、「地形」、「水」などとバラバラにやってきており、その結果、それらの総体としての自然が守られないで自然が消失してきた。これらの要素をひとまとめにして、全体的に評価すべきということで「生態系」という評価項目が1997年環境影響評価法で追加された。そう考えると、Habitatというのは1つの判りやすい総合的な対象になるのではないか。生物が健全に住めるライフステージを更新していける「環境=Habitat」。人間のHabitatもこれらに含まれる。例えば先住民がどういうものを使い、食べ、利用しているか。そういうことも「Habitat」に入ってくるだろう。

委員:ノーネットロスに関してはそういう考え方もあると思う。ただ我々が評価出来るのは、非常に大きなものの中のごく一部の断面でしかない。それをどうやって統合していくか。上手に選べば包括的な評価を下す事は出来るかもしれないが、1種類とか2種類の生物種にとってHabitatということではなく、将来的に発展させられればという表現が必要なのではないかと思う。
ノーネットロスに関しては、そこには入らないという事とし、はっきりと分けた方が良いのではないかと思う。例えば“ノーゴーゾーン”とかいう表現にしてはっきり分けたほうが良い。

委員長:回避ということばにしても、“時間的に”回避するのか、“空間的に”回避するのか、又は“時間的にも空間的にも”回避する(中止)のかという考え方がある。ここにも優先順位を決める考え方がある。昔JBIC(日本国際協力銀行)がOECF(経済協力基金)だったころ、私が立地環境のチェックリストを作った。その中に今ここで議論している優先順位を整理して位置づけてある。野生生物や先住民も含んでいるフローがある。もう10年以上前で、少し古いが思い出したので、今回のガイドラインづくりに参考にして頂く事も出来ると思う。

委員:ここのところに図やチャートを入れたらどうか。環境省の企業活動ガイドライン検討会の資料には図が入っており、優先順位がわかる。回避とか最小化といってもなかなかイメージできないので。

委員長:それはそう言う方向でいくということでお願いしたい。

●間接的影響
委員長:それでは、間接的影響に入る。これはサプライチェーンと、直接影響に伴う二次的な影響があるという。まず二次的影響の検討に入るが、ここではどの様な点に留意すれば良いか。

事務局委員から事前修正があったところなので、まず“人文社会科学的な評価方法”について追加的にご説明いただければと思う。

委員:“人文社会科学的な評価方法”とは、企業活動が地域社会へ与える影響を含めるべきということ。これに関する評価軸はまだ確立されていないが、生物多様性条約第8条の中で伝統的な生活様式、知識や工夫などを促進する事が必要であると述べられているが、それだけでは判り難いため、東京大学の鬼頭先生の案を採用し、「地域社会の経済的側面」、「社会制度的側面」、「精神的側面」を人文社会学的な評価軸としたい。なお、括弧の中の部分は私が補足した。

委員長:日本の環境アセスメントだとそもそもこういう分野の評価は義務付けられていないが、欧米では通常「ソーシャルインパクトアセスメント」と称して環境アセスメントの中で義務付けられており、ある程度確立した仕組みがあるのでは。教科書もいろいろ出ている。これは基本的には積極的に取り入れる方向で良いだろう。ただそのための具体的な手法をどうするかは規定しなくても良いと思う。そういう視点が不可欠であり重要だということを紹介するレベルで良いのでは。

委員:社会的側面は直接影響に入れてよいと思う。むしろ二次的影響は連鎖的影響。たとえば、森林が無くなって副次的に生物多様性に影響を与える。そこはここで別に書いたほうがよい。

委員:私も同意。ただ、モニタリングという言葉がここで始めて出てきた。本来は一時的影響でもモニタリングがあるべき。

委員長:社会的影響は、基本的には直接的影響に全て入ってくると思うが、どこまでが直接的影響でどこからが間接的影響かという境界を明示するのはやはり難しく、そこにエネルギーを費やすのは得策ではない。直接、間接ということもあるが、長期的影響、短期的影響についてもわかる範囲で全て書くという方向が良いと思う。
次にサプライチェーンの話。ここでは、書いてある通り、原材料を入手・購入する際、それが生物多様性にどれだけ配慮されているものなのかをチェックすること。

委員:最近グリーン購入ネットワークでも、衣類など生態系に配慮した基準が入ってきたため、企業などでもそういう基準を取り入れてはどうか。グリーン購入法の中ではほとんど触れられていないので、そういうものが入ってくるような仕掛けにしないと企業はいくら活動しても浮かばれない。また、市民の視点で評価するということなので、市民に対するものの買い方、ということを追記でも書けないか。高評価した企業からのものを積極的に選択するとか、そういう自らの行動についても書いていかないと。

委員:ご指摘の点は重要。企業にとってもメリットがあるように。そういう事は行政側もすると言っているが、それを判りやすくするためのコミュニケーションは企業に努力を求めているのでは。
また、別の話になるが皆さんに質問したい。サプライチェーンといったときにどんどん上流までたどっていくという事をイメージするが、企業が直接管理できるのは通常一次サプライヤーだけで、その先まで辿っていくのは難しい。これをどこまで辿れば良いとするのか。ただ、だからといって全て一次サプライヤーに限定したのでは、骨抜きになってしまう恐れがある。企業の中には、重要な場合二次〜最上流サプライヤーまで見ているところがある。理想としてはここを目指してほしいと思う。

委員長:今の指摘は「ガイドライン」として“こうすべきだ”というものを作るのか、それとも「評価の仕組み」をまとめようとしているのか、その違いで皆さん迷う所があるようです。
“生物多様性に配慮したものを使うのが望ましい”というのは確かにその通りである。例えば、森林認証製品を使えばアピールできる方法があり、サプライ元が判らないモノは“判らない”ということが消費者に明示的に判るような仕組みを作ることが大事。あとのことは、一般消費者や社会がどう捉えるかということで、今回のガイドラインでは“どうすべき”という事はあまり議論しなくても良いのではと思う。

事務局元々はサプライチェーンに関し、購買者としての影響力を使って、生物多様性をどう進めるかという話である。とにかく出来るだけサプライチェーンを遡り、問題があれば代替案を考えてもらうというのが理想ではある。その理想を書いた上で、各企業がどれぐらい取り組んでいるかの“差”を評価として書いていく事になると思う。

委員:金融の話は入れなくていいのか。金融は投資、融資すると言うことを通じて生物多様性に大きな影響を与え得る。こうなればどちらかというと間接影響で、評価基準の中に入れなくても良いのか。
もう一つはサプライチェーンの中で具体的に管理するときにどうするのかという事。一つの手法として、最近“地産地消”という言葉が聞かれるが、これは明らかに管理し易いだろう。さらに生物多様性を考えたときに地産地消を促進するという事は、生物の活動範囲、たとえば“流域圏”の概念などをきちんと復活させる事も出来るが、こういった発想は企業側からはなかなか出てこない。そういう意味で是非、“外部から”、“市民から”という立場で行うのであれば、“こうした方が、本当の意味で地域全体での生物多様性保全に繋がる”ということをサジェスチョンしてほしい。

委員長:流域圏など生態系の見地からも大変良いアイデア。先進的な具体例を挙げるようなコラムを書けば分かり易いのではないか。

委員:今の地産地消という言葉は農産物以外の事も含めているか?

委員:含めている。“農産物を含め”、である。

委員長:最初のコメント、金融についてだが、これは世銀やIFCなどの融資基準等を紹介すれば良いという事か。

委員:世銀やIFC(国際金融公社)も規程を持っているが、外国の銀行などでさらに厳しい規程を持っているところもある。そういうものを紹介する。

事務局そういう方向で修正する。

●間接的影響
委員長:
社会貢献。社会貢献といえども地域の生態系に影響はある。そこでそこにもモニタリングが必要ということか。

委員:「社会貢献」については「メセナ的な環境への社会貢献」と「本業における社会貢献」とは別に分けるべきではないか。
企業が計画する里山再生とか森林再生のための植林、野生生物保護といったメセナ的な環境への社会貢献活動が、真に正の影響を与えるかどうかは不確実なため、外部の学術機関等の協力を得て計画立案し、地域のNPO/NGOの育成を通じて住民と協働で行う事が望ましい。
また、この活動の進行に応じて、生物学的な面、人文社会科学的な面両方からモニタリングを行い、逐次活動にフィードバックした方が良い。これらに関する評価軸を入れたほうがいい。


事務局ご指摘頂いたように、社会貢献といえども、その中で直接的な影響、間接的な影響、モニタリングがある。これらの影響の考慮の仕方については前の部に充分書き込む予定である。この社会貢献の部分にも“よくモニタリングしてやるべき”と書く事にする。

委員長:事務局のまとめ方でよいだろう。その際、地域のステークホルダーに配慮。

委員:「社会貢献」は「本業における社会貢献」と分けるという事でよいのか?

委員:そもそも1ページ目の真ん中3番目で書いている社会貢献の定義がこれでよいのか。前に「“企業活動”とは利潤を目的としているもの」というような表現があったが、企業の定款に“利潤を目的としている”と書いているところは少ないだろう。それより“社会に貢献するため”とか“良いサービスを世の中に”とか書いている企業が多い。
ではここで言う社会貢献は何か。恐らく“本業の活動プロセスに含まれないもの”は全て社会貢献に含めていいと思う。本業の技術を使っても良いが、本業の活動プロセスに含まれないもの。事業活動の枠の中でやるものか、それ以外かで分ければよいと思う。

委員長:“直接影響”、“間接影響”は事業活動内、“社会貢献”は事業活動外という事でよいか。

事務局それが分かり易く書けるよう努力する。

委員:“社会貢献”とは、事業活動のプロセスに含まなくて良いのか。企業は社会のニーズを入れながらイノベーションを繰り返してゆく。それは主に会社の外から取り入れられ、そういうところに社員を出していくことで新しいものを取り入れる。これら企業自身のイノベーション活動全てを事業活動として認識するならば、我々が今“社会貢献”と呼んでいる活動も、いくつかの企業にとっては“持続可能な会社にするための本業である”という考えも出来る。

委員:しかしそういう活動は各社の事業計画の中には入っていない。別な言い方をすると短期的な利潤にはならない、長期的な利潤のことを言っている。それをいうときりが無い。今やっている主要な事業活動ではない、そこで売り上げをあげるものではないものを社会貢献と呼べば良いのではないか。

委員長:社会貢献といえども、生態系に悪い影響を与えてはいけない、という意味合いで、抜き出して書いていることもある。

委員:ここで社会貢献を切り離している理由はもう1つある。日本企業の場合、今まで社会貢献的活動ばかりだった。それでよいのかという反省で、社会貢献という、事業活動と関係が薄い分野を切り離した。そういう意味で“事業活動との対比”はあるべきではと考える。

委員:企業の社会貢献活動は、環境影響報告書等の中で社会貢献としての枠組みに入れない傾向が最近見られる。単にお金を出して“社会貢献をしている”と主張するのではなく、“自社の専門能力の中でいかに貢献出来るか”等、きちんと定義するべき。単純な切り分けではいけない。

委員長:全体方向性としては、社会貢献を切り出していくが、説明を改善する。
予定の3つの検討を終えた。あと五分ほどあるが、これだけは言って置きたいということあれば。

委員:各委員の話している事がガイドラインなのか評価基準なのか判らない。先程の話に戻るが、ノーロスというものを完全保護(最大評価)とすると、これが評価になり得るだろうか?「ガイドライン」を作るのであれば理解出来る。それを目指せと書けば良い。しかし評価を下すとなれば、“何もしない”という事をどうやって評価するのか。つまり、“ここの地域で開発をしませんでした”、ということが評価できるのか。極論を言えば、ある地域が守られているとすれば、全ての企業が“そこで開発しなかった”ということで、高評価されることになる。ここは活動を評価する基準なので、そこに立った評価基準を提示すべき。
もう1つは、例えば影響を最小化する努力を行う際、開発行為の規模を縮小して最小化するのか、開発の規模はそのままで影響を最小化するのか。こういう事を書いてしまうと抜け道になるかもしれない。しかしこの “何らかの開発行為を認めた上での最小化の話”で、規模を最小化するのと規模は同じで影響を最小化するのとでどちらが良いのかという点で戸惑いを感じる。

事務局回避、最小化、代償の優先順位の中で、まず回避が可能かどうか考慮し、不可であれば最小化という流れである。最小化には、できるだけ影響が少ない技術を駆使するとか規模を縮小するとかが含まれる。最小化というのは、ゼロにするということでなくて、影響を縮小するということで通常使われている。

委員:最初の点については?

事務局:最初の点については、法的に保護されている所を回避したと言うのは論外だが、保護地域外で生物多様性に関し重要な地域だと判断し、開発を回避すれば(”何もしない”という判断を下すのは)一般から見ても評価ができると思う。

委員:マイナス評価をすれば判り易いのではないか。例えば開発を行えば−100点。何もしなければ(回避すれば) 0点。これなら企業側がいくらどこかを「回避した」と主張しても積極的なメリットにはならない。

●会場参加者からの意見・質問
委員長:会場からの意見、質問を受け付けたい。

傍聴者3つ申し上げたい。直接、間接を分けるのはいかがなものか。何故なら末端の消費者も加害者。特に日本は6億7千万トンの資源を輸入しているが、日本の外にあるサプライチェーンは関係ありませんという認識をしている。便利な生活を享受している加害者でもある。故に「間接」というのはおかしい。
もう1つは、現在の世界の環境経済学の潮流はサステナブルプライシング、定量評価の方向に進んで行っている。日本も是非そっちの方向に進んで行くべき。例としてはアラスカで大惨事を引き起こしたエクソンのバルディーズ号の裁判で、今年の2月に出た最高裁の判決は25億ドルの罰金であった。この様に海外では海洋生態系の評価をしているし、可能である。コンサベーションエコノミクスと呼ばれているが、こういう意味で定量評価していって欲しいと思う。
最後は、“何もしなかったときの評価(回避)”はポジティブに評価すべき。ルーマニアでの欧州最大の金鉱山開発をアメリカのニューモント社がやろうとしているのだが、汚い部分をカナダの会社にやらせ、住民、協会、墓地の移住、生態系の破壊等大変な被害を起こそうとしている。これをやめたら、“何十億ドルの価値を守った”という事で評価する。外部経済効果の評価として、“環境・社会に多大な良い影響を及ぼした”と評価すべき。

委員長:ご意見は考慮して事務局で検討したい。
1つだけコメントしたい。バルディーズの件も、HEPの親戚で、HEA(Habitat Equivalency Analysis)で定量評価している。ここでも、オイルフェンスや漂着したオイルの除去や野生生物の救出など、環境への悪影響をできる限り、回避、最小化しても、どうしても残る影響に対しては、一定量のオフサイトにおける自然復元作業が義務付けられている。これは開発事業に伴う代償ミティゲーションとまったく同じ概念である。日本にはこのような部分はニュースとして流れていない。いずれにしても影響を定量化し、それの“どこをどうやってどれぐらい”補償するのかを明示することは、次の実質的な保全アクションにつながると思う。
またノーアクションをプラスに評価するというのは私も賛成。ただ、どの時点で企業活動を評価するのか、時点にもよるだろう。

傍聴者この基準の位置付けについて。いま2010年名古屋で第10回生物多様性条約締約国会議が開かれるという事で、企業が生物多様性保全をやれと言われているが、多くの経営者は何をやれば良いか判らない。その為この検討会が開かれているのだと認識している。だとしたら、企業が生物多様性保全活動をやっていくきっかけ、インセンティブになると良いと願う。
それを考えると、“企業がここにまとめられている事をやれば評価される”というものがここに書いてあると、環境保全部門担当者と違い、生物多様性の重要性を判っていない取締役会に説明出来る。どういうことをやれば評価されるのかということを示してくれればよい。例えば環境報告書をFoEの委員会が評価してくれるというようなことになれば、使えるクライテリアになると思う。
もう一点、直接的、間接的、サプライチェーンという言葉が出てきたが、私はISOの審査員もやっており、ISOではこういう整理をしているので、EMS(環境マネジメントシステム)をやっている企業の立場からしては馴染みのある使い方だと思う。ここに出てきたサプライチェーンに関しては、「どこまで辿って影響力を行使すれば、専門家が評価してくれるか」、企業にとってはそこが関心事である。衣料であれば、布までか、綿花までか、どこまで辿ったら良いのか。例としては、「自分のブランドに影響を与える原料までは、見てほしい」というのがあったと思う。

委員長:例えば、公害項目に対して環境基準というものが世の中にはあるが、“何をどうすべきだ”という絶対基準を作ったら、そのとたん、抜けや漏れが出てくる。もしくは形骸化してくる。要するに基準を上回る所まで行けば、企業は必要最低限のところで抑えようとするし、基準の対象になっていないものは何でもありとなってしまう恐れがある。その辺りは日本の公害対策のマイナスの経験があるので、敢えてはっきりさせないということも手なのだろうと思う。この委員会は、視点を提供する。最終的に評価するのは国民がやるというのが良いと思う。

傍聴者回避と最小化はマイナス評価が良いのではないかと思う。何故ならばでっち上げた悪影響の非常に大きな計画を中止したと称し、本当の事業計画と比較を行う事によって、プラス評価を下してしまう懸念があるため。
もう一つ、目標をノーネットロスとするか否かという点について。過去の環境の破壊の上に成り立っているので、時間軸をどう捕らえるか重要と思うが、過去に行ってしまった開発に対しても代償することをプラス評価する視点を盛り込んでも良いのではないか。100点満点中、200点というのがあってもよい。現状の開発だけでなく、過去の開発に対しても評価してあげる。

委員長:ある企業を捕らえて、現在の開発行為についてはプラスマイナスゼロだが、過去に森林破壊かなりやっているということになると、スタート地点がマイナスになってしまう。
理念としてはそれくらいであってほしいということだと思う。

傍聴者本来は原産地までトレーサビリティを確保するべきという考え方があると思うが、その企業がどれぐらい生物多様性にインパクトを与えているかという事を把握し、それによってホワイトとブラックに分け、判らないものは判らないとしてグレーと把握し、ブラックを避ける。このように、“サプライチェーンのモニタリングの仕方”は我々が提示すべきではないか。
ある企業は水の資源のために、工場の周りは色々やっているが、調達している原材料に関しては何も書いていない。聞くと本当はやりたいが、どうしたら良いか判らないと言う。そういう企業を後押しする方向で行って欲しい。

委員長:最終的な素案を事務局から出してほしい。

事務局全体の検討委員会が2月末にある。1月末を目標に素案を分科会メンバーに送る。

全員:ありがとうございました。

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