【声明】日本政府は2050年「排出ゼロ」に向けた取り組みの加速を~誤った対策を進めることなく、真の省エネ・再エネ社会へ
本日の臨時国会において、菅義偉首相は所信表明演説の中で温暖化ガスの排出量を「2050年に実質ゼロ」にする目標を掲げました。日本政府はこれまで「2050年に80%削減(基準年不明)」「脱炭素社会を今世紀後半の早期に実現」としており、これをようやく引き上げたかたちです。
2018年10月、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動による最悪の事態を回避するためには世界の気温上昇を1.5℃までに抑えなければならず、そのために2050年までに温室効果ガス排出をゼロにすべきだと警告しました。
それから2年、「2050年に実質ゼロ」とする表明は、ようやくスタート地点に立ったものと言えます。「実質ゼロ」ではなくさらに踏み込んだ「排出ゼロ」を目標とすべきです。
各地の自治体はすでに、「ゼロカーボンシティ」をめざすことを相次いで宣言しています。企業などの気候変動への取組みも加速しています。日本政府がこれらの動きにブレーキをかけることなく、むしろ後押しをしていくためには、抜本的な方針転換が不可欠です。
地球の平均気温はすでに産業革命期から約1℃上昇しており、その影響は世界各地でみられています。日本国内でも気候変動により激化する災害の影響で、家や仕事を失う人、その後の回復がままならない世帯も増えています。そして何よりもこれまでほとんど温室効果ガスを排出する生活をしてこなかった途上国の貧困層が一番深刻な影響を受けています。日本は気候変動への歴史的責任の大きな国として、「気候正義」の考え方に基づき、国内での削減努力と抜本的な社会変革、そして持続可能性と人権に配慮した途上国支援を行うことが求められます。
私たちは、今こそ日本政府が気候正義の考え方に則った具体的な政策を打ち出すことを要請します。
1. 脱原子力・脱石炭火力で2030年目標の大幅引き上げを
日本が2020年3月に国連に再提出した気候変動に関する国別目標は「2030年までに2013年比で26%削減(1990年比で18%削減)」で、これは先進国の責任にまったく見合うものではありません。2050年排出ゼロを達成するためにも2030年目標の大幅引き上げが必要です。
所信表明演説でも「安全性を重視して原子力政策を推進」と強調されましたが、リスクと被害が大きく、コストも不確実性も高い原子力発電は、気候変動対策として位置付けるべきではありません。
「石炭火力発電政策を抜本的に転換」するならば、横須賀石炭火力発電所の新設をはじめ、いまだに新規建設を進め、非効率石炭火力の廃止も明確な道筋が見えていない日本の気候変動対策は早急に見直す必要があります。OECD諸国では、パリ協定の1.5℃目標を達成するために、2030年には温室効果ガスの排出量が大きい石炭火力発電の廃止が求められており、日本もそうすべきです。
原子力・石炭火力はすべて早期に廃止し、2030年に向けたエネルギー・気候変動政策を省エネルギーと再生可能エネルギーを主体とした方向に早急に転換する必要があります。
2. 誤った気候変動対策を進めてはならない
日本政府は「実質ゼロ」を目標に掲げていますが、「排出ゼロ」とすべきです。「実質ゼロ」である限り、海外との排出権取引やバイオマス発電など様々な方法で排出をオフセットし、実際には多くの排出を許してしまうということも起こりえます。また、いまだに技術が確立せず実用化する見込みのない炭素回収貯留(CCS)や化石燃料由来の水素、次世代原子炉などを「イノベーション」として位置づけることもすでに行われています。こうした抜け穴に依存することなく「排出ゼロ」を掲げなければなりません。
また、バイオマス発電についても「炭素中立」とされていますが、現在、海外からバイオマス用燃料の輸入が急増しており、燃料確保のために森林伐採や泥炭地開発などを伴うことも多く、結果的に大量の温室効果ガスを排出しています。こうしたバイオマス発電を専焼・混焼に関わらず推進するべきではありません。
3. 石炭火力発電所の輸出は完全に停止し、地元のニーズや人権を尊重した支援を
日本政府は本日の「2050年に実質ゼロ」の表明に先んじて今年7月に公表した次期インフラシステム輸出戦略骨子において、脱炭素化への移行方針等が確認できない国における石炭火力発電への公的支援は原則行わないとしました。しかし、この新方針では例外として高効率案件への支援を継続できる他、すでに相手国との話し合いが始まっている計画案件を対象に含めていません1。
パリ協定の1.5℃目標の達成に向け、世界の石炭火力発電所を2040年に全廃する必要があること、また、今後、相手国での大量のCO2排出を長期にロックインしてしまうことから、新たな石炭火力発電所の輸出支援は一切行われるべきではありません。
さらに、こうした計画案件は、相手国における電力供給過剰状態の深刻化や、再エネのコスト低下に伴う経済合理性の欠如、現地の環境汚染や住民への人権侵害など、様々な問題が指摘されています。気候変動対策やエネルギー・アクセス向上の取組みへの支援は、地域住民のニーズを十分に踏まえた上で、持続可能性と人権に配慮した形で行われるべきです。
4. 市民参加を確保し、透明なプロセスで「排出ゼロ」へ
現在、地球温暖化対策計画の見直しとエネルギー基本計画の見直しが始まっています。産業界に関係する委員が大勢を占める審議会での議論と非常に限定されたパブリックコメントでは、民主的なプロセスと言うことはできません。
気候危機の現実を目の当たりにし、若い世代をふくめ多くの市民が、日本の気候変動・エネルギー政策に大きな関心を寄せています。またすでに160以上の自治体が「ゼロカーボン宣言」をしています。これらの市民や自治体に十分な情報提供を行い、意思決定の重要なステークホルダーとして位置づけ、ともに具体策をつくっていくべきです。
以上
注釈:
1:国際協力銀行(JBIC)及び日本貿易保険(NEXI)が支援を検討中のブンアン2(ベトナム)、国際協力機構(JICA)が支援を検討見込みのインドラマユ(インドネシア)及びマタバリ2(バングラデシュ)の3案件は、今後も支援が行われる可能性があります。