【プレスリリース】「南極の海生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)」閉幕
南極南大洋連合(ASOC)は2020年10月26日~30日までオンラインで開催された南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)第39回総会閉幕をうけ、以下のプレスリリースを発出しました。
「南極の海生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)」:またしても活かされなかった、南極海洋保護のチャンス
新たな海洋保護区指定をせず違法漁業にも目をつぶって閉幕
南極・南極海連合(ASOC)
(翻訳: FoE Japan)
2020年10月30日:「南極の海生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)」第39回会合が今日、閉会した。新型コロナ流行の影響によりオンライン開催となり、議題も限定された中での開催であった。
CCAMLRは、南極における野生生物保護や気候変動へのレジリエンスを高めるための大規模海洋保護区の指定に関する権限を有する。しかし、今回の会合はこれらの問題についての議論を制限し、会議の焦点を漁獲許可の更新に当てたことで、CCAMLRの国際的信用に疑いをいだかせるものとなった。パインアイランド氷河の後退によりひらけた水域の保護に関して加盟国が合意できなかったこともその一例だ。同氷河は気候変動で急速に後退しつつあり、これにより海面上昇も観測されている。
また、ロシア船籍の船舶 F/V Palmer がロス海の保護水域で違法に漁獲をおこなっていた証拠をニュージーランド政府が提示したにもかかわらず、CCAMLR加盟国はこの船舶を違法・無法国・無規制漁業(IUU漁業)リストに加えることに合意できなかった。残念ながら、この船舶は何の制裁もなく今期の操業続行を許されるだろう。これまでCCAMLRがIUU漁業対策をリードしてきたにもかかわらず、彼らがこの船舶の操業が許されることに対してより強い態度をとらなかったことに「南極・南極海連合(ASOC)」は非常に強い怒りをおぼえる。
ASOC事務局長のクレア・クリスチャンは「CCAMLR会合がオンラインで実施されたことそれ自体は喜ばしいことです。しかし、議題が限定されてしまったことによって問題も生じ、またしてもCCAMLRが気候変動影響への取組や条約水域における海洋保護区ネットワーク構築への取組に失敗した年となりました。なお悪いことに、Palmer号の操業継続を許したことでCCAMLRはIUU漁業との闘いにおいても後戻りしてしまいました。」と語った。
地球に存在する氷の約90%、淡水の約70%が南極と南極海に存在する。南極の周極海流(南極環流)は全世界の海洋生物多様性を支えている。南極海ではナンキョクオキアミが海面付近で大気中の炭素を取り込んで海底へ運ぶ役目を果たしており、そのオキアミのはたらきで毎年海へ取り込まれている炭素量は自動車3,500万台分の年間排気量に等しい。
南極の氷はかつてない速度で溶けている。これは私たちの脆弱な惑星がいかに脅かされているかをはっきりと示す事例であると同時に、野生生物のみならず人間自らをも危険にさらしていることを示している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はわれわれに自然との関係修復が必要であることを示している。地球の健全さと気候に対する南極海の重要性は、明白に立証されている。
ピュー・チャリタブル・トラストの南極海保護ディレクター、アンドレア・カヴァノーは「全体的に見て、この重要な生態系保全について国際的なリーダーシップをとれなかったことに深刻な懸念をおぼえます。南極大陸の発見から200周年をむかえる今年、そして東西冷戦の緊張がもっとも高まっていた時期にこの大陸全体を守る目的で締結された条約である南極条約の発効60周年を来年に控えた今年、新規海洋保護区創設を決定するのはそれほど困難なことではなかったはずです。」とコメントしている。
WWFクジラ・イルカ保護グローバルリーダーのクリス・ジョンソンも以下のように述べた。「我々はこの困難な時代に力をあわせなければなりません。気候変動と生物多様性危機は去ってはくれません。違法漁業は根絶されねばなりません。南極海とその象徴的な野生生物とを守るための解決策も取組もすでに我々の手にあります。全世界に希望をあたえる時です。2021年、すべての政府に対して、人びとと自然のために協力し、リーダーシップをとることを強く求めます。」
グリーンピースUK、海洋部長のウィル・マッカラムは「これら各国政府は南極海を守る決定を先延ばしにする「スヌーズボタン(目覚まし時計を先延ばしするボタン)」をあと何回押そうというのでしょうか?この脆弱な原生自然をさらに搾取しようとする商業的利益に対して許可を与え続ける一方、それを保護する責任を果たすことには失敗し続けることで、人類の運命をリスクにさらしてしまっています。我々の惑星は、危機のなかにあります。もし各国が気候変動や数々の自然の非常事態に真剣に挑もうとするなら、早急な行動こそ必要です。多くの国々の代表団が最善の努力をしています。それでもなお、きたる年こそ政治家たちと各国のリーダーに海洋保護を優先事項としてもらうことが欠かせません。2021年を進展なき年とするなど、論外です。」
今会合のポジティブな成果として挙げることができるのは、将来の海洋保護区(MPAs)指定に対して多くの国が強い支持を表明したことだ*。オーストラリアとウルグアイは将来のウェッデル海MPAの共同スポンサーに署名した。ノルウェーとウルグアイは東南極MPAを提案する国々に加わった。韓国やブラジルも含めて殆ど全ての国々が、EUが提唱するMPA指定の重要性を是認するステートメントに名を連ねることに同意した。
「南極海の海洋保護区ネットワーク構築にむけた努力を主導し、2021年の指定を確実とするためのハイレベル外交を呼びかけているMPA支持の国々に私たちは感謝します。きたる年にCCAMLRがこの保全における金字塔を打ち立てることができるとの確信を私たちは持ち続けており、将来にわたって祝うことのできる南極の新しい記念日が生まれることを心待ちにしています」ピュー・チャリタブル・トラストの南極海保護ディレクター、アンドレア・カヴァノーはこう締めくくった。
*日本政府は表明しませんでした。
プレスリリースに関するお問合せ
- 英語でのお問合せは ASOC(Patricia Roy, email: patricia@communicationsinc.co.uk, Tel: +34 696 90 59 07 )まで
- 日本語のお問合せはFoE Japan(info@foejapan.org) まで