【要請書提出】環境NGO5団体、住友商事に対し、ベトナム・バンフォン石炭火力発電事業の中止を要請
住友商事株式会社がベトナム・カインホア省で進めているバンフォン石炭火力発電事業(660MWの超臨界圧石炭火力発電2基の建設)に対し、気候変動影響や大気汚染、住民への情報公開の欠如などの観点から、2018年8月8日付で環境NGO5団体により事業の中止を求める要請書を提出いたしました。
500MW超の超臨界圧の石炭火力発電所はOECD公的輸出信用アレンジメントでは融資が制限されており、最近では、気候変動の観点から民間金融機関による石炭火力セクターへの融資を制限する動きも出てきています。気候変動の観点だけでなく、大気汚染や現地での住民参加の欠如などの面からも、住友商事は事業を見直すべきです。詳しくは要請書をご覧ください。
>要請書はこちら(PDF)
注:文中注釈はPDF版参照のこと
住友商事株式会社
代表取締役 社長執行役員 CEO 兵頭誠之様
ベトナム・バンフォン石炭火力発電事業に係る要請書
2018年8月8日
国際環境NGO FoE Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
メコン・ウォッチ
350.org Japan
拝啓
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
私たちは、気候変動対策や環境保全、人権保護・尊重の観点から、大規模開発事業のもたらす環境社会影響の回避・軽減に向けて、調査・提言活動を行なっている環境NGOです。
私たちは、貴社がベトナムのカインホア省においてバンフォン石炭火力発電所建設を計画されていると理解しています。現在、特に気候変動の観点から、新規の石炭火力発電所建設事業に対する投融資からの撤退が世界的に進むなか、貴社が仙台の石炭火力発電所計画を中止された動きは歓迎されるものです。一方、ベトナム等で貴社が新規の大型石炭火力発電事業を推進する動きは、世界の流れに逆行していると言えます。
また、私たちは、バンフォン石炭火力発電所事業が、気候変動のみならず、大気汚染の影響や地域住民の参加プロセス等の点において、輸出信用機関の環境社会指針や民間金融機関の赤道原則といった国際基準に違反していると認識しています。
したがって、貴社が以下に示す事項について精査し、気候変動・環境汚染を悪化させる同事業から撤退することを求めます。
1. 気候変動影響
2015 年にパリ協定が採択され、地球の平均気温の上昇を 1.5 度〜2度未満に抑えることが国際的に合意されました。国連環境計画(UNEP)の排出ギャップレポート によれば、新規の石炭火力発電所建設は、この目標と整合性を持たないことが明らかになっています。
エネルギー源の中でも、温室効果ガスを最も多く排出する石炭火力発電からの脱却は、国際社会がパリ協定の目標達成に向けて取組むべき共通課題となっており、金融・保険業界における石炭関連事業からの投融資撤退の動きも加速しています。そのような中、貴社が依然としてバンフォン石炭火力発電所の建設を推進しようとしていることは、明らかに世界的な潮流に逆行し、パリ協定の国際合意と矛盾するものであるとともに、貴社自身にとっても将来的に座礁資産を抱えるリスクを伴うものと言えます。
また、660メガワット(MW)の超臨界圧の石炭火力発電を2基建設するバンフォン石炭火力発電所の計画は、OECD 公的輸出信用アレンジメント(OECDルール) で公的支援の対象外となっている「500MW超の超臨界圧石炭火力発電」に分類されます。日本政府もOECDルールに則り、原則超々臨界圧以上の石炭火力発電設備のみ支援するとの方針を示していることから 、同事業は国際協力銀行(JBIC)や日本貿易保険(NEXI)の支援を受けることはできません。日本の大手民間銀行や保険会社等も、欧米につづき、新規の石炭火力発電所建設への支援を制限するセクターポリシーを規定しはじめており 、同事業が支援を受けることは益々困難な状況となっていると言えます。
貴社は、気候変動への影響を重視した世界の取組みに積極的に貢献する観点からも、また、自社のリスク回避の観点からも、同事業からの撤退を真剣に検討すべきときにきています。
2. 再生可能エネルギーの可能性
ベトナムでは近年、再生可能エネルギーの開発が進み、ベトナム政府が昨年発表 した「ベトナム・エネルギー・アウトルック 2017」には、2035 年までに 40GW の太陽光、 12GW の風力、3.7GW のバイオマス発電の開発ポテンシャルがあるとの推定が記されています 。バクリュウ省では国際協力機構(JICA)が協力準備調査を行った石炭火力発電事業の開発が、大気汚染への懸念などを理由に中止されました 。
ベトナムは気候変動脆弱性インデックスにおいて、常に上位に位置づけられている国であり、最も気候変動影響に脆弱な国の一つと言えます 。2001年から2010年の間には、異常気象や自然災害によって、平均1.5%のGDPに相当する損失が毎年生じています 。気候変動がさらに深刻化し、海面上昇、台風の巨大化、水害などが多発すればさらなる被害が予想されます。
エネルギーへのアクセスを確保することは、人々の権利であり、生活に欠かせないものです。しかし、エネルギー開発は現地の住民のニーズや意見、環境影響、気候変動、持続可能性に配慮したものであるべきです。
3. 大気汚染悪化の懸念
ベトナムでは大気汚染の問題が深刻になっており、石炭火力発電所からの排出も一因とされています 。石炭火力発電所由来の大気汚染が早期死亡率につながっていることも報告されており、ベトナムを含む東南アジア地域で現在計画中あるいは建設中の石炭火力発電所がすべて稼働した場合のシミュレーションによると、ベトナムは 2030 年までに ASEAN 諸国の中で汚染のひどい国の上位に位置づけられ、大気汚染による早期死亡者の数は年間 2万人にのぼると推定されています 。
国連の持続可能な開発目標(SDGs)においても、クリーンなエネルギー源のアクセス確保が掲げられています 。大気汚染物質を排出する石炭火力ではなく、持続可能で真にクリーンな代替エネルギーに投資すべきです。
4. 地域住民の参加・協議と情報公開の問題
現地からの情報によると、同事業の環境影響評価(EIA)が2018年3月に完了している にも関わらず、事業の影響を受ける地域住民には依然公開されていません。地域住民は十分な情報を提供された上での協議、つまり、同事業の意思決定プロセスへの参加ができない状況にあります。これは、貴社が同事業を実施するにあたり融資要請を行うであろうJBICの環境社会配慮ガイドライン が求める「カテゴリAに必要な環境社会影響評価報告書」の原則、および、三井住友銀行、みずほ銀行、三菱UFJ銀行等の民間銀行が採択する赤道原則の「原則5:ステークホルダー・エンゲージメント」の関連規定 に違反しています。
私たちは、貴社が以上に示した事項について精査を行い、同事業から撤退するという賢明な判断を下すことを強く要請します。
敬具
CC : 国際協力銀行 代表取締役総裁 前田匡史様
日本貿易保険 代表取締役社長 板東 一彦様
三菱UFJ銀行 取締役頭取執行役員 三毛兼承様
みずほ銀行 取締役頭取 藤原弘治様
三井住友銀行 頭取 CEO(代表取締役) 髙島誠様