日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(5)
県道に面した川越員さんの被害地。目隠しの一列残しもない。
第三回 宮崎市大字吉野字深坪(その1)
2019年12月13日、宮崎県内の伐採業者ではじめて森林法違反(森林窃盗)の罪に問われている「黒木林産」社長の黒木達也被告の論告求刑公判が宮崎地裁(今澤俊樹裁判官)で開かれました。検察側は懲役1年6ヶ月を求刑し、論告で「供述は不自然で一貫していない。故意だったことは明らか」と指摘。弁護側は「未契約の山林だと失念していたことによる誤伐だった」として無罪を主張しました*1。判決は2020年1月27日に出る予定です。
今回は、宮崎県盗伐被害者の会会員の川越員(かず)さん、威尚(たけよし)さん、そして矢野育教さんの事件を紹介します。この事件は本稿第一回瓜生野ツブロケ谷の事件において有罪判決を受けた岩村進と松本喜代美が関与している事件です。
※今回も被害当事者の川越員さん、矢野育教さんのご了承を得て、実名で記述しております。
被害林地概要
川越員さんの林地は2014(H26)年11月~12月に盗伐被害に遭いました。員さんが被害に気付いたのは伐採直後で、まだ丸太が搬出される前でした。林地の地番は130-1で面積は495m2(0.0495ha)です。土地の名義はご主人の川越威尚(たけよし)さん。
威尚さんは週1回程度は森を見回っていました。80年生くらいの林分で「3~4人で回さないと管理できないような良材」も数十本あったそうで、よく管理されていた林地でした。この林地は威尚さんの祖母が植えた山で、威尚さんも草刈など手伝いをしていたこともあり、とても愛着がありました。土地の境界の一列は間隔を狭めて植えらており、さらに「キンチク(蓬萊竹)」も植えられていて境界は明確でした*2。この林地の登記は平成19年に済んでいましたが地籍調査はまだ済んでいませんでした。
林地は本庄川付近の県道17号南俣宮崎線沿いに位置していて、通りからの目隠しとして一列を残すようなこともせず、まさに白昼堂々、盗伐が行われたところです。
盗伐発見後、伐採した張本人たちと遭遇
2014(H26)年11月、盗伐被害に気付いた数日後の出来事でした。員さんとご主人が被害現場を訪れると、県の耕地整理担当の方が草刈をしていたそうです。員さんたちはその方に「この林地、誰が伐ったんですか?」とたずねると「K林業ですよ」。なんと犯人と思われる事業者が判明したのです。さらには県の方がK林業に連絡を入れてくれ、少しの間に関係者が現場に勢揃いしました。K林業、Y親子、耕地に関する当該地区の役員で員さんのご主人の従兄弟、そして岩村進、その妻の岩村直枝、松本喜代美です。員さんたちは早々に盗伐の張本人と思われる面々と遭遇したのでした。
ここでの話の中で松本喜代美は「奥のほうに川越さんの山がありました」という発言がありました。つまり伐採する前から員さんたちの林地であることを認識していたのです。それを受けて員さんは松本喜代美に「なぜ境界の確認にこなかったのですか?きちんと確認すればうちの山は伐らずに済んだのではないですか?」と問うと返事はなかったそうです。もう一つ員さんが奇異に感じたこととして、書類上での確認をしたかったのか、松本喜代美とYの息子が話の途中でYの家に戻り、書類を持ってきたそうです。彼らはその書類を員さんたちに見せようとはしませんでしたが、結果として員さんは、K林業が伐採したことと、その伐採が極めて不当なものであろうことを認識したのでした。
その後、今度はK林業から員さんに「Yの家に岩村、松本がくるから」との連絡があり、員さんご夫妻とご主人の従兄弟を連れ立って、Y宅へ訪問しました。ここでの話もなぜ員さんたちの林地が伐採されたのかが明らかになる情報は得られませんでしたが、車椅子を使用しているYを松本喜代美と岩村直枝がサポートしている光景から、員さんは彼らが「親戚か」と感じるほどの親密な関係にあることを認識したのでした。
丸太搬出阻止のための看板を設置
不当に伐採されたことを認識した員さんたちは12月19日、現場に「この丸太を運び出してはならない」との看板を立て、明確な意思表示をしました。それを見たのか、翌12月20日、岩村進、その妻の直枝、松本喜代美の3人が員さんの自宅にきました。このとき岩村直枝が約30分ほどをかけて作成した直筆の書面を員さんに残していったそうです(図1)。
その後、その看板は員さんに連絡もなく撤去され、ほとんどの丸太はK林業によって搬出されてしまったため、12月25日、員さんは再び「丸太の運び出し禁止」の看板を立てました。すると同日、員さんのご主人の従兄弟とK林業が員さん宅に「耕地整理があるから丸太を寄せねばならない」と看板を取り外すよう説得にきたのですが、員さんは「その必要はない。丸太は腐っても構わない」と突き放しました。12月30日、再びご主人の従兄弟とK林業が「残りのスギを出させて貰えないか」と相談に訪れたのですが、員さんは承知しませんでした。しかしながら結局、看板は撤去され、スギ丸太はすべて搬出されてしまったのでした。
員さんたちは、伐採自体は現行犯ではなかったものの、伐木については明確な意思を示したにも関わらず、丸太の窃盗被害を受けたのです。
はじめて警察に相談
員さんは、最初の看板を立てた後、弁護士にも相談した上で12月22日、幼馴染の行政書士とともに宮崎北警察署へ相談に行きました。員さんは被害地が自身の土地である証明書類(被害地登記識別情報通知書、地籍図、課税明細書)を警察に提示し、被害を訴えましたが、警察は員さんの話は聞いてくれたそうですが、具体的には何もない対応でした。
伐採業者から渡された偽造伐採届
2015(H27)年1月16日、K林業が員さん宅を訪れ、伐採届(図2左)を手渡し「その書類を持って行って宮崎市森林水産課になぜ許可したのか聞いてこい」と言い捨てるように帰ったそうです。このとき員さんが手にした伐採届は偽の書類ですが、員さんにはその認識はありませんでした。
それが偽造伐採届であることは知らずに、員さんはその日のうちに宮崎市役所森林水産課へ行き、偽の伐採届と被害地の所有権を示す証明書類(被害地登記識別情報通知書、地籍図、課税明細書)を提示して「なぜ伐採を許可をしたのですか?」とたずねたところ、担当職員のAは「書類が提出された場合、受理しないわけにはいかない」と回答したそうです。この書類に“稟議の欄がない”ことに担当Aが気付かないはずはないのですが、ただ単に見落としだったのか、故意に見過ごしたのか、定かではないものの、これは行政の大きな失態だったといえます。このとき員さんはAに岩村進の名刺も渡し、悪質な仲介業者であることを伝えています。Aはその名刺もコピーしたそうです。
また員さんが担当Aと話をしている最中に、偶然にも松本喜代美が市役所を訪れ、窓口で印鑑のみを市役所職員に手渡しているのを目撃したのでした。員さんはとっさに「この人が悪質な仲介業者ですよ!」と大きな声で叫びました。しかしその場にいた十数人の市役所職員で反応する者は誰一人としていなかったそうです。
後日談として員さんは、あのとき担当のAが員さんから渡された伐採届を入念に吟味し、偽造であることを確認していれば、有印私文書偽造がすぐ判明したのではないか、あわよくばK林業を逮捕まで追い込むことができたのではないかと、市役所の不作為に怒りをあらわにしています。
再び警察へ、しかし「裁判したほうがよい」
2014(H26)年12月に相談して以来、警察からは何も音沙汰がなかったので、6月5日、員さんは再び北警察署を訪問しました。しかし驚くことに、窓口に行った途端に警察官が出てきて、開口一番「裁判したほうがいいよ」と発したそうです。員さんが持参した偽の伐採届をコピーする程度の対応はありましたが、それ以上話を聞くこともなく帰されてしまいました。ほぼ門前払いを受けた形です。このことを員さんは「駐車場に着くと顔とかよく確認できるのではないか?だから「誰か」を確認することなく、言葉を発することができたのだろう」と振り返ります。
盗伐被害者の会会長の海老原さんはこうした警察の対応について、「警察には『盗伐被害者は追い返せ』というマニュアルでもあるのだろう。刑事事件の民事事件へのすりかえが徹底されているとしか理解できない」と憤ります。
次回は、員さんが宮崎県盗伐被害者の会会長、海老原裕美さんと出会い、サポートを受けながら明らかにした事件の全容について説明します。(三柴淳一)
*1 宮崎日日新聞2019年12月4日紙面
*2 地元ではキンヂクとも呼ばれる。この地域では林地の境界にキンチクを植えることがよく知られている。
>第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その1)
>第一回 宮崎市瓜生野ツブロケ谷(その2)
>第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その1)
>第二回 宮崎市高岡町花見字山口(その2)