原発の事故賠償・廃炉費用を託送料金で回収? ~議論のその後
2016年度後半、福島第一原発事故の事故処理費用や賠償費用、さらにその他の原発の廃炉費用の一部を、2020年以降託送料金で回収、つまり、すべての電力利用者が負担するという方針が経済産業省より示され、大きな議論が起こりました。
FoE Japanも、パワーシフト・キャンペーンやeシフトと連携し、新電力の声を伝える、署名提出、パブリックコメントの呼びかけなど活動しました。
その後の議論をお伝えします。
<パブリックコメントの結果は・・>
1月17日まで実施されていたパブリックコメントをへて、2月9日に開催された「貫徹委員会」で若干の修正を加えた「中間とりまとめ」が了承されました。中間、という名前ですが、今後さらに議論があるわけではなくひとまずの結論です。
▼「電力システム改革貫徹のための政策小委員会 中間とりまとめ」
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/20170209002.html
パブリックコメントでは、1412件の意見のうち、託送料金への上乗せに反対する意見が相次いでおり、委員会の中でも大石美奈子委員から様々な意見を踏まえて継続審議すべきとの発言がありましたが、それ以上の議論はなく(市場整備、インバランス誤算定などの議題が議論の中心を占め)、「了承」されました。
▼パブリックコメント結果はこちら
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620216013&Mode=2
超党派議員が開催する国会エネルギー調査会(準備会)第62回(2月21日)でも、大島堅一氏、金子勝氏、飯田哲也氏から厳しいコメントがありましたが、十分な回答はありませんでした。
FoE Japanも参加し、
・本来は原子力事業者(電力会社)の責任である(このことは政府も認めている)
・電力システム改革の趣旨に反する
・国民の理解を得られていない
ことについて改めて確認・質問しました。170221_資料
▼国会エネルギー調査会(準備会)第62回(2/21)
http://blog.livedoor.jp/gempatsu0/archives/469245.html
<原賠・廃炉支援機構法の改正>
市場整備なども含み広範囲にわたる「中間とりまとめ」の中では、「福島第一原子力発電所の廃炉の資金管理・確保の在り方」として、廃炉に必要な資金を第三者機関に積み立て、その機関が廃炉の実施を管理・監督する新たな制度をつくることが書き込まれました。
このことから、「原子力損害賠償・廃炉など支援機構法の一部を改正する法律案」が国会に提出され、衆議院、参議院での審議を経て、2017年5月10日、参議院で可決されました。「改正原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」が成立し、福島第一原子力発電所の廃炉を実施するために、東京電力ホールディングスに対し、廃炉費用の積み立てが義務付けられました。
衆議院、参議院の経済産業委員会では、この法律案にともない、東京電力の廃炉作業の実態や、福島第一原発事故の現状や賠償について、また「過去分」の考え方、エネルギー政策など広く質疑が行われました。
衆議院経済産業委員会では、3月11日から4月12日まで4回の審査が行われ、4月14日に衆議院本会議可決(経過はこちら)
参議院経済産業委員会では4月17日から5回の審査が行われ、5月10日に本会議で可決されました。 (経過はこちら)
両院とも、採決の際には共産党議員の反対討論はあったものの「賛成多数」で採択されました。ただ、民進党・付帯決議は提案され、透明性の確保や説明責任、託送料金での回収は今回に限ることなどが書き込まれました。
これを受けて、東京電力ホールディングスと原子力損害賠償・廃炉等支援機構は11日、福島第一原発事故の費用増大などを踏まえた再建計画「新々総合特別事業計画」の認定を国に申請しています。
<廃炉にかかる費用>
廃炉にかかる費用については、2016年後半に「東京電力改革・1F問題委員会」で議論され、現時点で見積もれる範囲の事故費用の総額が21.5兆円、そのうち廃炉費用は8兆円とされました。
しかしこれは、30~40年かかるとされる燃料デブリの取り出しまでのもので、その後の処理費用は見積もられていません。賠償費用や除染費用も、さらに膨らむでしょう。2017年3月7日には、日本経済研究センターから「事故処理費用は50~70兆円になる恐れ」というレポートも発表されました。
この点は、国会での審議でも繰り返し取り上げられ、世耕経済産業大臣も、デブリ取り出し以降の費用は未定であるため、これ以上になることを認めています。
<今回の提案の概要と問題点>
↓東京電力改革・1F問題委員会資料「福島事故及びこれに関連する確保すべき資金の全体像と東電と国の役割分担」をもとに作成
国会の中でも多くの疑問の声が上がったことを共有し、また福島第一原発事故の事故処理や廃炉費用の一部が、2020年以降託送料金で回収されるという事実を認識しながら、市民・消費者として引き続き、エネルギー政策のありかたに声をあげていく必要があります。
(吉田明子)