日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(16)
第六回 えびの市大字西長江浦(その4)
本稿は、被害者の方々からお聞きしたお話を、ほぼそのまま「被害調書」として残しておくことを主目的としているものです。前回(2021年9月)からだいぶ期間が空いてしまいましたが、実際に起きている国内の違法伐採=盗伐について、引き続きご紹介していきます。
前回の投稿以降、盗伐問題への対応に関して、国や国会、そして九州圏内の自治体にも動きがありました。今後、本稿でも詳細を紹介していきたいと思います。
- 2021(R3)年10月27日:林野庁による宮崎県森林盗伐現場視察
- 2022(R4)年3月16日:森林の無断伐採及び無届伐採防止に関する南九州四県連携 実施要綱適用(熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県)
- 2022(R4)年4月:伐採及び伐採後の造林の計画の届出(いわゆる伐採届)の様式改定
※森林法施行規則改正(2021(R3)年9月)に基づく - 2022(R4)年5月11日:田村貴昭共産党衆議院議員による国会質問
※宮崎県の現場再視察(2021(R3)年8月27日)に基づく
今回も志水惠子さん被害事例の続編をご紹介します。
※今回も被害当事者の志水惠子さんのご了承を得て、実名で記述しております。
えびの署のあきれた対応~前回からの続き
前回は、志水さんが2020(R2)年12月21日に苦情申出に関してえびの署へ電話で確認をした際に、電話口で口頭での回答を得たところまで紹介しました。今回は、前回説明が漏れてしまった、えびの署が志水さんの盗伐事件に関して時効成立と判断した根拠についての説明から始めます。
えびの署A警部(課長)が言うには、①盗伐被疑者2名は2017年2月~3月28日に伐採したと供述している、②捜査した結果、盗伐木材は都城地区製材業協同組合に1,300本搬入されている、とのこと。この1,300本の丸太について、志水さんは同組合に確認に行きましたが、組合トップの2名からは「木の本数なんか分かりませんよ」、「ここにはサイズに伐った丸太しか搬入されません」という素っ気ない回答でした。このことをA警部(課長)に伝えると「回答できません」と定番の言い訳に終始し、明快な回答は得られていません。
その後、12月21日の電話口でのやり取りにおいて聞き逃しがあったため、2021(R3)年1月8日、確認のためにえびの署の副署長H氏を訪ねました。しかしこの日のやり取りは極めて非生産的なものでした。志水さんが質問するとH氏が事実と異なる警察の見解を述べ、志水さんが事実を訴え&主張し、H氏は揚げ足を取るような回答に終始するといった具合で、挙句の果てH氏は部屋の照明と暖房を消して二階に上がってしまう始末。仕方なく志水さんはご友人と駐車場の車内で40分程度待った後、再び窓口にH氏との面会を依頼すると、H氏は出てきたものの、何も答えなくなってしまったそうです。あきれた志水さんは「こんな状態では供述調書なんて作れるわけはないでしょう」とH氏に問いかけるも返答はなかったそうです。
被害者に大きな負担 ~再び体調を崩した志水さん
そんなやり取りを経た後、えびの署から「供述調書を作りたい」との連絡がありました。こうした極めてストレスフルなえびの署とのやり取りにより、2021(R3)年2月下旬、志水さんは再び体調を崩しました。突発性難聴で、「うつ」の症状も併発し、一日中暗い部屋で過ごさねばならないようなこともあったそうです。
追加的な証拠を入手
その後、体調も少しずつ回復に向かう中で、志水さんはえびの署からの依頼に対応することにしました。これまでのやり取りの繰り返しを回避すべく、志水さんはえびの署へ行く前に、宮崎地方検察庁(本庁)の告訴・告発係に相談。「警察の調書に志水さんの反論と同意できない理由を記載してもらうとよい」との助言を得ました。
さらに追加的な証拠が必要と判断し、2021(R3)年3月8日、知り合いの素材生産業者の方に盗伐現場を見てもらい第三者の見解を求めたのです。結果は「切り株からは伐採後2年くらいしか経過していない。また古い竹と新しい竹とを比べれば一目瞭然で4年が経過した現場ではない」というものでした(写真1)。さらには伐採後4年が経過した切り株と盗伐現場のものとの比較により、その見解の裏付けも行いました。
供述調書作成は手書きで
2021(R3)年3月11日からいよいよえびの署において志水さんの供述調書の作成が始まりました。作成に際し、志水さんは容易に編集可能なパソコンでの作業ではなくて、手書き作業を要望し、受け入れられました。作業は一日3時間で4日かかりました。その内容には志水さんが主張する様々な事実、例えば、盗伐された林地内の樹木にはピンクのリボンが付けられていたこと、盗伐発見時に伐根には土が付いていたこと、A警部(課長)が言うような伐採後3年が経過したような林地ではないことなどがきちんと記述されました。
手書きを要望した理由の一つは、それが目視確認できることでした。しかしすべて満足とはいかず、えびの署は捜査資料に関しては一切志水さんに開示することはありませんでした。また2020年3月上旬に被害者の会会長の海老原氏が志水さんの盗伐に関して第三者に相談している事実は認められず、最後までえびの署は志水さんから盗伐相談があったのは2020年4月ということを押し通したのでした。
宮崎地方検察庁都城支部へ直接アプローチ
4日間に渡る計12時間をかけた調書は、2021(R3)年5月7日、えびの署から宮崎地方検察庁都城支部に送致されました。しかしながら、被害者の会のこれまでの経験から警察の対応に疑念を抱いている志水さんは、検察の判断をただ待つのみならず、宮崎地検都城支部のT副検事に宛て、警察に提供した資料に加えて新たな証拠となる資料2つを提供しました。一つはえびの市農林整備課の職員2名が2020(R2)年1月29日の直近に伐採しているという証言、一つはGoogle Earthの衛星画像で盗伐被害前の様子を示した3種の画像(2019年1月4日(伐採跡なし)、2019年10月30日(伐採後)、2020年2月21日(伐採後))です。この画像から伐採行為があったのは2019年1月4日以降から10月30日以前であることが分かります。少なくとも2019年1月4日までは伐採されていなかったことが判明しており、警察が時効の根拠としている2017年2~3月というのは事実とは異なるものです。
宮崎地検都城支部に資料を提供した後、志水さんはT副検事と直接電話でやり取りをしましたが、そのやり取りで幾つか志水さんが知らされていなかった事実が確認されました。
(1)不動産侵奪罪に関する実況見分の実施
志水さんの認識では、えびの署は盗伐に関するヒノキの林分に対する実況見分は実施したものの、畑にされた林分に対する実況見分は実施していないというものでした。ところがえびの署から検察へ送られた資料において、えびの署は不動産侵奪罪についても実況見分を実施し、調書を作成していたのです。
このことについては2021年10月20日、志水さんも西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)に確認をしたところ、九州支社宮崎高速道路事務所管理第一課長O氏から「旧道路公団の杭は20mごとにあり、志水さんの林地は畑になっている」との証言を得ました(写真2)。また畑部分の実況見分に関しても、えびの署の4名(A警部(課長)、署員S、他2名)とNEXCO西日本とで実施したことを確認しました。なおNEXCO西日本側では志水さんの亡父から土地を入手した記録や取得金額についても把握しており、開示してくれたのだそうです。
それにも関わらずT副検事は「森林法は時効で、不動産侵奪罪に関しては志水さんの森が盗まれた証拠がない」と回答したそうです。
(2)Google Earthの衛星画像は証拠不十分
志水さんが宮崎地検都城支部に提供した資料について、T副検事は「その資料は見なかった。不動産侵奪罪に関しては証拠が不十分である」と回答したそうです。志水さんは「では現場を見てください」と問いかけると、「現場に行きました」との回答。しかしながらT副検事は志水さんの多くの質問に答えられず、その受け答えからは現場を十分に把握、理解しているとは到底思えないものでした。なおT副検事は本来ならば「伐採届がないと伐採できない」ことすら知らなかったそうです。
結果から言えば、宮崎地検都城支部T副検事は、資料を見ない、被害者の話は聞かない、質問しない、という対応であり、えびの署A警部(課長)と同じ対応でした。被害者の会会長の海老原さんは「宮崎県内の警察機構と司法機関は、被害者の言う事は全て聞き入れないことを徹底している。今回のシナリオは警察が作ったものであろうし、事業者への取り調べなどしていないだろう。事業者も偽証罪などを加えられる恐れもあるため、警察には易々と嘘はつけないだろう」と警察、検察への不信感を露わにしています。
志水さんも宮崎地検都城支部にアプローチをした当初、電話にて「警察の調書は捏造されているので、検察が最後の砦だからしっかり捜査をしてくれ」と依頼したそうですが、「結局、都城支部は何もしなかった」と期待外れにがっかりしています。
田村衆議院議員、再び盗伐現場へ
志水さんの頑張りも空しく、2021(R3)年7月9日、宮崎地検都城支部から不起訴処分の通知が届きました。
森林窃盗罪の上に不動産侵奪罪まで明白な容疑者Iを野放しにしておく。こんなことが許されてよいのか?被害者の会ではこの事態を打開すべく、再び田村貴昭衆議院議員に働きかけ、2021(R3)年8月27日、田村議員の現地視察が実現しました。この視察において、ニンニク畑の周辺に実生のスギ、ヒノキの稚樹を発見。これは林地内の立木の樹齢が実をつける頃合いだった、つまり50~60年生以上だったことを証明するものです。またその成長度合からは伐採時期についても示唆するものです。伐採後4年が経過した伐採地であれば、3~4年生の稚樹が想定されますが、そのサイズには至っていませんでした。
その後、被害者の期待どおり、田村議員は2022(R4)年5月11日、衆議院農林水産委員会において、志水さんの被害現場視察に基づく国会質問をしました。以下、衆議院農林水産員会のサイトにおける議事録から抜粋したものを掲載します。
人の山林を無断で伐採して木々を盗み取る盗伐が後を絶ちません。大量の木が伐採された後に、植林はおろか、材木は置いたまま、路網も放置したまま。今述べてきたような災害の温床となります。 またしても宮崎県の事例を紹介するのですけれども、資料の2を御覧いただきたいと思います。上の写真は宮崎県串間市です。所有者、盗まれた杉の木が実に三千本。下は宮崎市高岡のところです。これは公道に面しているところで、大胆不敵といいますが、木を切られました。共に所有者の方は憤慨しておられます。 (中略) 取調べは警察の役割であります。警察庁にお越しいただいております。 盗伐は、れっきとした犯罪であります。この事例以外にも、例えば宮崎県のえびの市でこんな話を聞きました。私も見てきたんですけれども、ヒノキを二百本以上、勝手に切られた、その後、畑地にした、そしてニンニクとか牧草、イタリアンを勝手に植えておるんですよね。それで平然としているんですよ、切った人が。何でこういう犯罪がまかり通るのか。すなわち、捕まらないからなんですよ。 窃盗の上に不動産侵奪、これはひどいですよ。厳重に取り締まるように、立件するように繰り返して求めてきましたけれども、更に強化していただきたいと思います。 森林の無断伐採を防ぐために、宮崎県、熊本県、大分県、鹿児島県の九州四県は、立件されるなどとした悪質な業者をリスト化して、そして情報共有する取組を始めました。こうした県と連携を取って、取締りを強化していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○住友政府参考人 お答え申し上げます。 今委員御指摘がありました、熊本県、大分県、宮崎県及び鹿児島県を主体としてこうした情報共有が行われているということは、我々も承知をしております。 そして、都道府県警察においては、従前から、自治体や関係機関と連携をし、森林窃盗被害に関する情報共有、合同パトロールや取締りを行っておるところでございます。 そして、警察庁としては、昨年の十月に、林野庁の、先ほどもお話が出ておりましたけれども、新たな取組といったものを踏まえて、都道府県警察に、森林窃盗事案発生の未然防止に向けた関係機関との緊密な連携について改めて周知を図ったところでございます。 自治体等と一層連携を図りながら、森林窃盗被害に対応できるように、我々としても、引き続き都道府県警察を指導してまいります。 |
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000920820220511014.htm
宮崎地方検察庁(本庁)に最後の望みをかけて
田村議員の盗伐現場視察で高まった機運に乗り、2021(R3)年8月30日、志水さんは最後の望みをかけて宮崎地方検察庁(本庁)にアプローチ。これまでの内容に不動産侵奪罪、軽犯罪法違反、証拠隠滅罪、そして容疑者Iにつけられた作業道によって境界杭が壊された境界損壊罪を加えた「告発状」を直接提出しました。
この提出にもドラマがありました。志水さんは当日午前9時に窓口に提出したのですが、窓口で応対してくれた告訴告発係のM課長が内容を確認すると、別室にて入念に手直しを指示してくれ、結局午後7時半までかかって、ようやく提出したのだそうです。出来上がった「告発状」は志水さんに有利に働くようなものに仕上がりました。
その後、宮崎地検本庁M課長から告発状が正式に受理された旨の電話連絡があり、『一度不起訴処分の案件が再び受理されたことは宮崎県初で、全国でも異例』と言っていたそうです。そして、2021(令和3)年9月28日には検察審査会に審査申立をして、受理されたのでした。
その後、志水さんは2022年3月31日に実測図が入手できたことをM課長に電話で伝え、「後日、現物を持っていきます」と話をしていたのですが、残念なことにM課長は2022年4月1日付で福岡地検に異動してしまったそうです。
被害地に「立ち入り禁止」の看板を立てるも、、、
再び告発状が受理され、宮崎地検本庁を動かすことができ、わずかな望みを繋ぐ間、2021(令和3)年10月7日、志水さんは不動産侵奪被害を受けている盗伐被害地に「立ち入り禁止」看板を立てました(写真3)。ところが一週間もたたずに壊されてしまったのです(写真4,5)。怯むことなく11月に再び「立ち入り禁止」看板を立てるも、すぐに壊されてしまいました。そこで12月21日、今度はコンクリートで基礎を固めて頑丈な看板に仕立て上げたのですが、それもあっさりと引き抜かれてしまいました。
さすがに志水さんも黙っていられず、えびの署へ器物損壊被害を訴える告訴状を提出しました。これを受けてえびの署K警部補は容疑者Iを呼び出して確認をすると、Iは「看板が見えなかったから農機具がぶつかった」と供述したそうです。志水さんが写真を見せながら「これはぶつかった話ではないでしょう。切り裂かれていますよ」と問うと、K警部補も小さな声で「私もそう思います」と発言したのでした。
志水さんの他にもIによる盗伐被害者が
志水さんが一回目の「立ち入り禁止」看板を立てた後、10月19日にご友人の一人から知らせがありました。志水さんの被害地近辺で同様の盗伐被害者4名が明らかになったのです。その4名のうち3名はすでにIからわずかな示談金を受け取っていました。1名は志水さんをはじめとする被害者の会がサポートし、告訴状を宮崎地方検察庁に提出しました。また宮崎地検本庁にも告発状を提出し受理されたのでした。この詳細は次回、ご説明します。
止まない犯罪行為~容疑者Iは野放し状態
志水さんが所有地の盗伐被害に気付いてから1年半以上が経過し、その間、警察、検察の捜査が入っているにも関わらず、容疑者Iは犯罪行為を咎められることもなく、逮捕されることもなく、さらには大人しくなるどころか開き直ったように堂々と不法な土地利用を続け、土地所有者の警告の意を示す看板すら破壊する始末(写真6)。『宮崎県えびの警察署が犯罪者の捜査をしていないから、人の山を今だに耕すのでしょう。約二反の畑です。不甲斐ない、でも現実です』とは、志水さんの悔しさがにじみ出るような発言です。
なぜ、このような状態が放置されているのでしょうか?その答えが得られ、このような状態が解決されるまで、盗伐被害者の会の方々の苦難は続きます。FoE Japanも彼らを継続して応援していきます。(三柴 淳一)
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