日本にもあった違法伐採!! 波紋拡がる宮崎県の盗伐事件(8)
第四回 宮崎市田野町字荷物取地乙
これまでも紹介してきました「黒木林産」社長の黒木達也被告の裁判ですが、控訴審が2020年4月16日に福岡高等裁判所宮崎支部にて開かれます。一審で森林法違反(森林窃盗)の罪に問われ、懲役1年、執行猶予4年の有罪判決(求刑懲役1年6か月)を受け、即日控訴した黒木達也被告。二審はどんな公判になるのでしょうか?注目していきたいと思います。
今回は宮崎県盗伐被害者の会会員の橘美代子さんの事件を紹介します。
※今回も被害当事者の橘美代子さんのご了承を得て、実名で記述しております。
被害林地の概要
宮崎市内在住の橘美代子さんの被害林地は、現住所でいうと宮崎市田野町乙、宮崎地方法務局で入手可能な地籍図上では宮崎市田野町字荷物取地。隣接する都城市との境に近いところで、県道269号線沿いの青井岳自然公園や青井岳荘の付近ゆえ、宮崎市内からはだいぶ距離があります。
林地の地番は乙356-35(1,917 m2)、乙356-36(902 m2)、乙363(3,609 m2)、乙364-1(117 m2)です。合計面積は0.6545(ha)で、林齢は60年超で80年くらいのものもあり、被害本数は1,000本くらいとのことです。
被害の概要
橘さんの林地管理については義弟が林業に詳しく、彼の意見を参考にしていたそうです。その義弟が亡くなった後、2009(H21)年頃に被害に遭いました。最初、Nという林業仲介業者から「山を売らないか」という打診があったのですが彼女は断りました。すると次にIという別の林業仲介業者が訪れ、「土場(伐採した丸太の置き場)用に場所を借りたい」という理由で20万円を置いていったそうです。
その後、橘さんは友人から「お宅の山、伐られているよ!」という知らせを受けて、被害に気付きました。「土場用に」として認めた伐採でしたが、まさか林地丸ごと伐られてしまうとは思いもよらなかったそうです。
写真や地籍図から、被害林地のうち地番363と364-1は道路に近く、その奥まで伐り進んでいくためには必要な林地だったものと考えられます。
後日判明したことですが、橘さんの林地を含め伐採したのはY林業でした。このY林業は前回紹介した川越員さんと矢野育教さんの盗伐事件において、林業仲介業で有罪判決を受けた松本喜代美が手配した最初の、そして宮崎市に受理された伐採届に記載されていた伐採業者です。
現場検証で容疑者の林業仲介業者と遭遇
盗伐被害の後、橘さんは宮崎市の担当者と二度、現場で会いました。初回は被害直後で、橘さんご夫妻と市職員とで国道沿いの林地入り口付近から被害地を見て「伐採されていること」を確認した程度でした。二度目は市職員から連絡があり、現場に呼び出された形でした。そこには市職員2名と3人の被害者の方々、そしてなんと林業仲介業のIもいました。このとき橘さんはIが自身の林地の盗伐に関与していたことを認識していませんでしたが、市職員に対して「誰が犯人ですか?」と質問を投げかけたものの回答はなかったそうです。今になって思い起こせば、市職員らがIの関与について知らなかったとは考えにくく、「なぜ知らせてくれなかったのか」と市の対応に怒りを覚えています。
警察に相談、「名誉棄損で訴えられるよ」
被害についての相談や被害届を出すべく、橘さんは、はじめご自身のお住まいの近くの宮崎北警察署に行きましたが、「管轄が違う」として断られ、林地周辺を管轄する宮崎南警察署へ改めて相談に行きました。窓口にて「山が伐られている」と伝え、一通り話を聞いてもらったそうです。この時、橘さんは地籍図など関連資料を持参しました。このとき応対してくれた警官からは「(民事で)裁判しますか?」と聞かれたそうです。
二度目に宮崎南警察署を訪問した際は、刑事第一課のMが10分程度応対してくれました。このとき橘さんは林業仲介業者のIの名刺を持参し、Mに見せ「Iを調べてくれ」とお願いをしました。
宮崎南警察署、3度目の訪問時、再び応対者はMだったのですが、Mからは「Iに名誉棄損で訴えられるよ」と言われたそうです。この対応を受けて以来、橘さんは宮崎南警察署へ相談するのを断念しました。
とはいえ、盗伐被害に泣き寝入りするわけにはいきません。橘さんは宮崎市森林水産課へ幾度か相談に行きました。しかし宮崎市森林水産課では何も教えてはくれませんでした。被害地から最寄りの宮崎市田野総合支所にも相談してみましたが、得るものはありませんでした。その他近隣の農協などにも行ってみましたが、徒労に終わりました。
それでもあきらめず、橘さんは高岡町にある宮崎中央森林組合にも足を運び、「山が伐られた」と伝え、助言を求めたのでした。窓口の応対は不親切で十分に取り合ってもらえなかったそうですが、橘さんがあきらめて駐車場へ戻る際、職員の一人が駆け寄ってきて「誰にも言わないでくれ」と言い含めた上で、Iの連絡先を渡されたそうです。
宮崎県盗伐被害者の会の活動に合流、容疑者と無届伐採が判明
その後、橘さんとしては打つ手がなく、目立った動きは取れませんでしたが、「泣き寝入りはしない」という強い気持ちが引き寄せたのでしょうか、2017(H29)年夏、宮崎県盗伐被害者の会の海老原さんに出会い、活動を共にするようになりました。
そして2018(H30)年2月15日、盗伐被害者の会会員7名で宮崎県警察本部生活安全課生活環境課のK理事官・警部を訪問した際、やりとりの中で橘さんは「盗伐業者はわかりませんか?」と質問しました。その場での回答はなかったのですが、翌日の2月16日、宮崎市森林水産課のI係長から橘さんに電話が入り、「盗伐業者はY林業、林業仲介業者はI」という知らせを受けました。2009年に被害を受けて以来、ようやく容疑者が明確になったのでした。
さらに、被害者の会の支援を受け、橘さんも伐採届に関する情報開示請求を宮崎市に申請し、2018(H30)年7月4日、無届伐採が判明しました。
最後に
本ブログにおいてこれまで4つの盗伐被害事例を紹介してきましたが、この4つを紹介する上で入手した情報だけでも同一容疑者が複数の盗伐事件へ関与していることが確認できます(下表)。
表 これまで紹介した盗伐被害事例における林業仲介業者と伐採業者
注:表中、色付けした行の2件は本ブログ未紹介事件。また伐採業者の欄で*は山林転売前に受理された伐採届に記載された業者。最終的に伐採したのは*のない業者。
(出所)宮崎県盗伐被害者の会会員への聞き取り、および会の見解に基づきFoE Japanが作成
2018年3月に有罪判決を受けた岩村進、松本喜代美は4つの事件のうち3つに関与しています。今回紹介した橘さんの事件の伐採業者Y林業は、前回紹介した事件において、松本喜代美の有印私文書偽造に関与しています。また第一回で紹介した事件に関与したものの起訴は免れたY産業は約2年後、今度は自身で伐採届を手配する立場で事件に関与しています。
これらのことから、彼らは常習的に犯行に及んでいることは明らかで、「誤伐」ではなくて「悪質な盗伐(窃盗)」であることは間違いありません。またY産業が関与した事件は2018年9月で、岩村、松本が有罪判決を受けた後に発生していることから、「知り合いが有罪判決を受けたとしてもお構いなし」、もしくは「どうせ捕まらないし、捕まったとしても執行猶予付きゆえへっちゃらさ」ということなのでしょうか、抑止効果はまったく見られず、森林行政のガバナンスが機能していない、と言わざるを得ません。
これまでも繰り返し述べていることですが、違法伐採は「汚職・腐敗が蔓延し、ガバナンスが脆弱な途上国」に多いとされていますが、宮崎県、ひいては日本は本当に先進国なのでしょうか?
次回は、被害者の事件から少し離れて、国、県レベルでどんな「対策」が取られているのか、見てみたいと思います。(三柴淳一)