巨額の原子力賠償は国が負担? 賠償措置額が1200億円で据え置かれる理由とは? 原子力損害賠償法見直しにパブコメを!(9月10日まで)
>原子力委員会・文科省との会合報告はこちら
原発事故の賠償の枠組みを定めた「原子力損害賠償法」の改定案が、9月10日まで、一般からの意見公募(パブリック・コメント)にかけられています。しかし、この案では、原子力事業者が事故前に保険などで備える賠償金(賠償措置額)が1200億円にすえおかれることになっています。
東電福島第一原発事故では、現時点で見積もられているだけで7兆円をこす賠償金が発生し、この賠償措置額を大きく上回りました。
除染や事故収束にかかる費用も入れれば政府試算で21.5兆円とされており、この額はさらに上振れするとみられています。
事故後、東京電力を救済するため、国は「原子力損害賠償・廃炉支援機構」を設立し、国債発行による公的資金や、他の電力事業者からの負担金(もともとは私たちの電気料金)を「機構」経由で東電に流し込んでいる状況です。
これでは、事故を引き起こした原子力事業者の負担はほんのわずかですみ、結局は国民が負担するということになりかねません。
利益は企業へ、事故が起きたときの費用は大部分は国民へ…?
そんなことは許されませんし、事故のリスクも含めた原発のトータルなコストが認識されないことにもつながります。
ぜひ、みなさんからもパブコメを出してください。
>パブコメはこちらから(9/10まで)
>(参考)原子力損害賠償法の概要
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-6.pdf
◆パブコメ文例
- 1200億円の賠償措置額は引き上げるべき。支援機構を介しての支援を前提にしては、最終的には国民にしわ寄せが行き、モラル・ハザードを引き起こす。
- 原子力事業者を国が支援することを定めた原賠法第16条は削除すべき。
- 原賠法の目的(第1条)から「原子力事業の健全な発達に資する」は削除し、被害者の保護のみとすべき。
原子力委員会・文科省との会合報告
本日(9月5日)、国会議員や議員秘書、eシフト有志やこの原賠法の見直しについて、とりわけ、賠償措置額の引き上げをなぜ行わなかったかについて、原子力委員会事務局の内閣府、および原賠法を所管する文科省からご説明いただきました。以下、要点のみまとめました。
内閣府…原子力政策担当室
文部科学省…研究開発局 原子力損害賠償対策室
原賠法改正準備室
◆原賠法の見直しの経緯・スケジュール
<内閣府からの説明>
原子力損害賠償支援機構法附則第6条第1項に、原賠法見直しについて書かれている。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-3.pdf
これをうけ、副大臣会議において検討が進められたが、平成27年1月22日の会合で、専門的な検討を原子力委員会に要請することとなった。
これをうけ、原子力委員会では、「原子力損害賠償制度専門部会」を設け、20回の検討を行ってきた。
原子力損害賠償制度専門部会設置について・名簿
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo01/siryo1-1.pdf
現在、そのとりまとめを行い、パブコメにかけているところ。
公聴会については考えていない。委員・オブザーバーの中には、被害者を代表している人もいる。福島県副知事からのヒアリングも行った。
原子力委員会として、課題を整理し、今後、文科省に法改正の議論を引き継ぐ。原賠法の当面の改正においては、1200億円については改正しないという方向。
<文科省からの説明>
原子力委員会からの提言を受け、原賠法の改定案を作成する。国会にかける。原子力委員会の案がパブコメにかかっており、それをもとに改正案をつくるので、改正案のパブコメは考えていない。
◆なぜ、賠償措置額をあげなかったのか
<原子力委員会>
・専門部会において、あげたほうがよいであろう、というのが一応のコンセンサス。しかし、だれの責任でどういう負担するのかというコンセンサスは得られなかった。
・賠償は、事故を起こした事業者が担うべきであるが、その資力を超えた場合、どうするのか。支援機構による相互扶助により捻出するのか、もしくは一般税で補てんすべきという意見もあった。
・現在の賠償措置額1200億円は、民間の保険で措置している。しかし、大幅にこの額を引き上げられないのが現状。引受能力を超えている。国際的には、ほぼ最高レベル。
Q:引き上げられない理由は?
→保険会社に査定を依頼したわけではない。「日本原子力保険プール」からも委員になってもらっていただき、「引き上げられない」という意見をいただいた。
Q:保険料を引き上げても?
→通常の責任保険とは違う。原子力事故では保険金支払い額が巨額になるため、国内損害保険20社によって日本原子力保険プールが結成された。原子力保険はすべて「日本原子力保険プール」を通じて契約される。国際的なシンジケートがあり、そこでどこまでの金額を引き受けられるのかが検討されている。
Q:政府補償契約をあげるべきでは?
→民間保険でカバーできないものを政府が、という考え方。むしろ、そちらの方がモラルハザードになるという意見が多かった。
Q:第16条は事故を起こした原子力事業者を救うための仕組みとなっている。撤廃すべきでは?
→法的整理を行い、賠償額を捻出するというのもありうるが、議論としては、むしろ企業を存続させて、賠償させる方が被害者救済に資するという感じであった。
Q:支援機構の資金源は東電の特別負担金、電力各社の負担金。しかし、22兆円規模の賠償を支払うとなるとざっくり95年かかる。新たに同規模の事故がおきても、対応できないだろう。
→(明確な答えはなし)
Q:支援機構経由で東電に支払われている金額のかなりの部分は国債。これは国民負担では?
→国債については、返済されていくことが前提。確かに利子分は、国庫負担ではあるが…。
Q:原子力委員会の「賠償資力確保のための新たな枠組みの検討について」で挙げられている「第2レイヤー」の「保険的スキームの活用」「資金的な手当」とは何を想定しているのか?
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/songai/siryo18/siryo18-1.pdf#page=12
→「保険的スキーム」は、あらかじめ保険料をとる現行の保険的スキームの拡大。「資金的な手当て」は、賠償措置額を超える部分を国が支払い、あとから回収するというもの。
いずれも委員からは、ピンとくるという意見がなかった(から、パブコメの案にはのせなかったらしい)
◆最後に、私たちから第16条による国による支援は削除すべきと考えていること、第1条の原賠法の目的から、「原子力事業の健全な発達に資する」を削除すべきこと、また、国民的議論を行うために、公聴会を開いてほしいことを、重ねて申し入れました。