BUND/FoEドイツ エネルギーシフト・気候変動対策の現状と市民(報告その2)
3月23日から27日まで、BUND(ドイツ環境自然保護連盟:FoEドイツ)から代表のフーベルト・ヴァイガー氏ら3名が来日しました。
3月27日(火)に開催したセミナーの報告(その2)です。
「BUND(FoEドイツ)来日セミナー:脱原発・脱石炭・エネルギーシフトと市民参加」
▼詳細・資料はこちら http://foejapan.org/energy/evt/180327.html
報告その1はこちら「BUND/FoEドイツ 脱原発の歴史と最終処分場問題」
:https://foejapan.wordpress.com/2018/04/16/bund_energy_01/
●ドイツの気候変動政策・エネルギーシフトについて(リヒャルト・メルクナー氏より)
メルクナー氏も30年以上BUNDの活動に関わり、ヴァイガー氏とともに何度も東京や福島も訪問しています。
ドイツで脱原発と表裏一体続くのがエネルギーシフト・気候変動政策です。グローバル企業のシーメンスは2011年、原子力事業からの撤退を表明し、現在は省エネと再エネに取り組んでいます。省エネ、エネルギー効率化を進めたうえでの再エネ促進、これがエネルギーシフトの鍵なのです。
例えば、バイエルンの中心都市ミュンヘン(人口146万人)では2025年までに100%自然エネルギーでの電力供給を目指しています。100万人規模の大都市ではこれは世界初の試みです。2018年にはすでに一般家庭や地下鉄の電力使用分など約50%となる見込みだそうです。プロジェクトは、市のエネルギー公社(シュタットヴェルケ・ミュンヘン)が実施しています。大きなポテンシャルを持つのが風力発電で、市内での発電のほか、ドイツや欧州各地での風力発電プロジェクトに、シュタットヴェルケが出資するという方法も取られています。
またミュンヘンでは地域熱供給網が発達していて、現在も効率のよいコジェネレーションが用いられていますが、2040年までには地下2000~3000メートルの80~100℃の地熱を利用して熱供給も「自然エネルギー100%」に、さらに地下水を利用した地域冷房システムも計画されています。
こうした取り組みが、農村部だけではなくミュンヘンのような大都市で実現されるということは、大きな意味があるでしょう。
さらに近年、ドイツの福音主義教会(EKD: Evangelische Kirche in Deutschland)も気候変動問題に取り組み・発信をしていることは大きなことだと、メルクナーさんは言います。2017年5月にベルリンで開かれた「信徒集会(2年に1度の大会)」では、会場までの自転車ツアーが企画され、その際にベッドフォード=シュトローム常議員会議長も「我々自身が行動によって示さなければならない」と、化石燃料の自動車利用から自転車や公共交通機関へのシフトを例に挙げてコメントしたそうです。
2017年11月には、2020年までに温室効果ガスを40%削減するというドイツの目標を達成すべきとして、連邦政府に働きかけるとともに、教会での省エネなどの取り組みも掲げました。https://www.ekd.de/evangelische-kirche-fordert-sofortprogramm-zum-klimaschutz-30804.htm
これまで保守的とされてきて10~15年前までは原発も否定していなかったキリスト教会の、近年のこのような動きは注目に値する、今後も様々なセクターとの連携が欠かせないとのこと。
さらに、重要なことは、ドイツで2016年までに導入された再生可能エネルギーのうち「個人」と「農業者」が合わせて4割以上を所有し、4大電力会社が所有する割合は5.4%に過ぎません。(2016年までの再生可能エネルギー発電への主体別投資)
元ベルリン自由大学准教授の福澤啓臣さんからは、日本でよく誤って伝えられるドイツのエネルギー事情について補足がいただきました。
・ドイツの市場電力価格は、欧州各国と比べてむしろ安い。
・再エネ賦課金が高いとよく言われるが、2023年頃をピークにその後は下がっていく見通し。
・ドイツはフランスから原子力の電気を輸入していると言われるが、対フランスでは輸出のほうが多い。対外取引全体でも、輸出量が輸入量を大きく上回っている。
(詳細は資料参照)http://foejapan.org/energy/evt/180327.html
こうした事実が誤って伝えられて「ドイツのエネルギーシフトは失敗、うまくいっていない」と日本で言われることもあります。しかし、いくつかの「もっと改善すべき」政策はあるとしても、大きな方向性として脱原発・脱気候変動にドイツのエネルギー政策が向かっていることは間違いない、とヴァイガーさんも明確に否定しました。
●ドイツでのエネルギーシフトの受容と若者(マルティン・ガイルフーフェ氏より)
最後に、マルティン・ガイルフーフェさんより、気候変動と脱原発、若者の関わりについて話していただきました。ガイルフーフェさんは、大学在学中からBUND青年部の活動に参加し、現在はBUNDバイエルン州支部で政策提言や国際問題を担当しています。
ガイルフーフェさんはまず、「再生可能エネルギーの大幅拡大を支持するか」という2017年のアンケート結果を紹介します。結果、回答者の65%が「非常に重要」、30%が「重要」と答えていると言います。つまりドイツ人の9割以上が再生可能エネルギーの拡大を支持しているとのこと。長年の脱原発の世論と、気候変動に対する危機の共有が背景にあると言えるでしょう。
ドイツでは、2002年に脱原発が決められたあと、BUNDも含む環境団体は、石炭火力発電所の新増設に対する大きな反対運動がおこりました。その成果として2007年から2008年には41基(現在の日本の計画と同じくらい!)あった建設計画のうち、約半分の22基の計画が中止となりました。現在は11基の石炭・褐炭発電所が実際に建設中もしくは稼働しているとのこと。ただ、既設を含めると60基以上の石炭・褐炭発電所が稼働し、電源構成に占める割合は約40%あります。今後これをどのように減らしていくかは、ドイツの気候変動政策の課題でもあります。
現在、石炭火力発電反対運動には、若者グループも積極的に関わっています。2017年ボンでのCOP23(議長国フィジー)の際には、ボン近郊の石炭の採掘地でアクションが行われました。
また若者世代の間では、肉食を減らすことや飛行機の利用をなるべくしないこと、プラスチック利用を減らすことなど、ライフスタイルの根本的な変革も大きなテーマです。
実際に、ヴィーガンやベジタリアンは若者に多く、またヨーロッパ内の移動は飛行機を使わずにバスや鉄道を利用することが環境活動をする若者の間では広く実践されています。ガイルフーフェさんも、例えばペットボトルはほとんど買わない、肉は少なめになどできるだけ心掛けているそうです。
このように、幅広い世代、様々なセクターによる脱原発やエネルギーシフトを求める動きが、ドイツの環境・エネルギー政策を形作ってきたということができます。
それは、BUND(FoEドイツ)をささえる50万人の会員・支持者の圧倒的な広がりにも見ることができます。日本では、これほどの会員を抱える環境団体はまだありません。(FoE Japanへのご参加は大歓迎です!)
ただ、日本で脱原発・エネルギーシフトを求める市民運動が小さいかといえば、決してそうではありません。日本には各地にたくさんの草の根グループがあり、地域から地道に活動しています。脱原発、エネルギーシフト、子どもたちの保養、避難者支援、放射性廃棄物問題など、様々なテーマに取り組む団体がたくさんあり、連携の輪もあります。
「福島第一原発事故は非常に悲しいことだったが、そこから生まれたつながりもある。日本にもドイツにも、世界中で原発はなくせる。そこに向けて連帯していこう」ヴァイガーさんの力強い言葉で締めくくられました。
(吉田 明子)
「BUND(FoEドイツ)来日セミナー:脱原発・脱石炭・エネルギーシフトと市民参加」
▼詳細・資料はこちら http://foejapan.org/energy/evt/180327.html
報告その1はこちら「BUND/FoEドイツ 脱原発の歴史と最終処分場問題」
:https://foejapan.wordpress.com/2018/04/16/bund_energy_01/