最近ツバルの海面上昇は起こっていなかったという報道がオーストラリアなどの報道機関から流れました。このことは、一時期南太平洋で大きな議論を引き起こしました。この報道の元となったデータの出所はNTF(National Tidal Facilit;国家潮位研究所)というオーストラリア政府出資の機関です。NTFはツバルの海面は年間0.9mmの上昇であると結論付け、南太平洋で開かれた温暖化関連の会合で、NTFはツバルで海面上昇は発生していないという発表を行いました。
(NTFのリリースはこちらをご覧ください。https://www.ntf.flinders.edu.au/TEXT/NEWS/tuvalu.pdf)
しかしこれは、データ解釈の違いにあると南太平洋島嶼プロジェクトでは見ています。NTF自身も正確な海面上昇傾向を知るには数十年の海面レベルの観測が必要としています。南太平洋大学のパトリック・ナン教授は通常でも、40年から50年は必要であるとおっしゃっています(FoE Japan 中島 との対談の中で)。
グラフをご覧ください。これは、ホノルル、アメリカン領サモアのパゴパゴ島、マーシャル諸島のクワジェリン環礁、ミクロネシアのトラック島で観測された海面レベルのデータです。南太平洋の各地で50年から95年ほどの長期にわたるデータが収集されているため、海面レベル変動の傾向(トレンド;グラフ中の直線)が見て取れる形になっています。この中で、ノイズとして5年単位くらいで上がっている時期もあれば、下がっている時期もあります。しかし、長期的なデータがあるため、トレンドとして海面は上昇していることがわかります。また、これを見る限り、10年間分のデータなど何の意味も持たないということもお分かりいただけると思います。海面レベル変動の傾向を見るには、少なくとも40年分ほどの長期的なデータが必要なのです。
ツバルにNTFの潮位計(SEAFRAME)が設置されたのは1993年で、これまで約9年弱のごく短期的な観測データしかありません。グラフを見ると、8年や9年といった期間が、正確な上昇傾向を導き出すのにいかに短いかがお分かりいただけるでしょう。しかも、ハワイ大学が設置していた潮位計(70年代後半に設置されたが現在は稼動していない。しかしツバル政府は資金拠出をして再開する予定(ツバル政府気候変動担当官セルーカ氏談))では約22年間の観測データで年間平均2.17mmなのに対して、NTFのSEAFRAMEが測った約9年間の観測データでは年間平均0.9mmと大きな開きがあるのです。
NTFはそうした短期的な海面上昇は起こっていないと結論づけるにはあまりにも時期尚早であることは承知の上で、その短期的なデータを公表し、ツバルの海面上昇は起こっていないとしていたのです。