ケニア円借款案件(ソンドゥ・ミリウ水力発電事業)
現地NGOの連合体 日本の調査議員団に覚書を提出(2001.9.3)


 →→衆議院外務委員会による調査議員団の派遣について
→→調査議員団に対する日本のNGOの要望書(2001.08.28)をみる

→→派遣団の調査に関する地元紙の報道
9月4日 「日本の調査議員団、発電所建設は問題なしとコメント」
9月5日 「地元NGO、ソンドゥ・ミリウ事業への反対姿勢を崩さず」

→→衆議院外務委員会での政府答弁(2001.09.18)
→→衆議院外務委員会 ODA調査団の報告会(2001.09.27)

 以下は、ケニアで9月3日に行われた現地NGOの連合体と日本の調査議員団による会合の席で、NGO側が提出した覚書。

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ソンドゥ・ミリウ水力発電事業を考えるNGO連合

 ソンドゥ・ミリウ水力発電事業への日本視察議員団向け覚書

2001年9月3日

 私どもソンドゥ・ミリウ地区の住民とともに活動するNGO連合は、日本議員団の訪問を歓迎します。

 また、ケニア民衆に対する日本政府の継続的なサポートにも感謝しています。 私たちは今回の日本議員団の訪問が、ソンドゥ問題が公平で正しい永久的な解決に向かう原動力となることを期待しています。NGO連合はこれまで、事業により影響を受けるだろう地域住民たちによって示された、数々の問題点が完全に解決に向かうことを目指して、活発な活動を続けてきました。

 しかしながら、何度も技術委員会の場でこうした問題の改善が提起されたにもかかわらず、影響地域の住民たちによって挙げられた問題に対し、事業者側が充分に対処してこなかったことは、とても残念なことだと感じています。それゆえに私たちは、事業が円滑に迅速で進められるためにも、そうした諸問題の解決に純粋に取り組むことを事業者側に再度求めたいと思います。

 このことを考慮したうえで、事業者側が緊急に取り組むべき課題として以下のものをあげたいと思います。

● 環境課題 Environmental Issues

 私たちNGO連合は、技術委員会報告は余りにも概論に偏っており、現実的かつ専門的な結論が導き出されてない、と感じています。それゆえ私たちは、大気汚染・土壌侵食・騒音・水質汚染・森林破壊・ダムによる川の生態系への影響・土砂堆積などの問題について独立した専門家に独自の調査を現在依頼中です。

● 灌漑と洪水防止 Irrigation and Flood Control

 NGO連合は事業者に対し、影響地域での洪水防止および灌漑事業の充実を求めます。これはさらなる環境破壊を防ぐうえでも役立ちます。事業により影響を受ける地域では、長年の土壌侵食により多くの溝ができています。効果的な環境影響調査と灌漑および洪水防止が住民に保証されなければいけません。

 こうした問題は、地域住民たちがこれから何年にも渡ってつきあっていかなければいけないものです。だからこそ、私たちは世界銀行に対してもこうした灌漑・治水事業への融資を求めてきたのでした。

● 貧困 Poverty

 次に私たちは、環境破壊と貧困とが分かちがたく結びついていることを指摘したいと思います。事業地での水や大気の汚染による疾病の増加が、地域住民に治療費や予防費の負担を強いています。皮肉なことに、貧困軽減のためにつくられた発電事業が、結果として住民をますます貧困に追いやっているのです。

● マウ森林とコグタ森林 Mau and Koguta Forests

 NGO連合では、ミリウ側流域のマウ森林の伐採計画についても注目しています。今後マウ森林をさらに伐採することを禁止した高等裁判所の命令にもかかわらず、マウ森林内にはすでに多くのひとが移住しており、違法な乱伐は今もなお続いています。

 さらに、トンネル工事のための舗装道路の建設によりコグタ森林が破壊されています。それによっ

 て地域の気候に悪影響を与え、洪水の危険性も増しています。私たちは日本議員団に対し、マウ森林でのいたずらな伐採に対する非難の意を伝えたいと思います。マウ森林はミリウ川の水源に位置し、この森で破壊が続けば水力発電事業そのものも意味をなさなくなるはずです。

 この国とニャンザ地域には、無駄なものを造る余裕はまったくありません。この事業はケニアにとってあまりにも高い買い物であり、国家の開発計画からみても割にあわないものです。

● 土地の評価と改善費 Land valuation and improvement costs

 土地価格の評価とその支払については住民から多くの不満の声が寄せられています。土地改善費の査定もこれまで不透明な形で行われてきました。土地評価については独立委員会を設置し、移転住民すべてにインタューした上で適切かつ迅速な補償を行うべきです。土地評価者はさらに補償が不正に行われていないかについてもチェックする必要があります。

● 雇用および収入保証 Employment and economic opportunities

 私たちは技術委員会報告が、雇用と生計手段の機会の問題に一切触れていないことをたいへん残念に思っています。技術小委員会もこのことには触れていませんし、人事および採用の仕組みの改善についても論議が不十分です。

 以上の視点から、私たちは次の事項について提案を行います。

@ 労働基準監督所員の同席のもとでの労働者の募集と雇用
  
さらにニャカチ開発協会、ソンドゥ・ミリウ権利擁護グループ、ソンドゥ・ミリウ地区監視委員会などの地域の諮問委員会も住民の利益を守るうえで同席すること。影響住民すべてに平等な就業機会が提供されるべきです。

A 職業訓練を受けた青年、および女性に対する優先的な就労機会の提供

B 労働組合連合や電力労連の支援を受けた上での、給料水準や労働条件に関する
  
交渉を行う委員会を結成する権利を労働者に保証すること。そして労働委員会が定期的に労働条件や福利厚生について検査を行えるようにすること。

C 労働者の不満を拾い上げその改善を諮るための小委員会の設置

D 汚職や間違った雇用管理に対する責任者を置き、問題が発生した時には早急に対処できる態勢をつくること。

● 農村地域への電力供給 Rural electrification

 私たちは、キボス地区まで電力が供給された後に初めて地元への電力供給を開始する、と定めた技術委員会の報告を受け入れることはできません。地域への電力供給は最初から事業のなかに組むこむべきです。その際には事業現場への供給が最優先されるべきであることは言うまでもありません。事業によってつくられる電力は余りにも容量が大きく、近隣地域での供給には適していない、とケニア電力公社側の主張とは反して、専門家は電源近くでの電力供給は極めて簡単であると指摘しています。

 商業地域や保健所、学校、公民館などでへの電力供給は、事業を受け入れたことに対する地域への利益還元のひとつとして当然なされるべきです。地元にはこうした約束が事前になされており、だからこそ住民たちは事業を暖かく見守っているわけです。

● 道路建設 Road construction.

 私たちは、ツル・ディブオロおよびソンドゥ・クサ道路に対しても、当初の予定どおり完成されるべきだと考えています(これはケニア電力公社が計画している3.5km部分だけではありません)。さらに、ソンドゥ事業工事のための大型トラックの往来により損傷の激しいカティト・ケンドゥ湾岸道についても、再舗装が必要です。

● 保健センターの改善 Up Grading of Health Centres

 現存の地域の保健センターの設備および規模の改善についても要求したいと思います。これは事業による水質および大気汚染を原因とした疾病の大幅な増加に対処するためです。疾病の増加は、そのまま住民の経済状態の困窮化につながっています。これは治療費に多くの費用が必要とされるためです。

● 農村への水道供給 Rural Water Supply

 当初ケニア電力公社により、影響地域への水道管敷設および水の供給が約束されていたにもかかわらず、その計画が失敗に終わっていることを私たちは非難しています。その後、住民の健康状態が悪化したことにより、水道の供給は地域の緊急課題のひとつになっています。

事業への監査 Project Auditing

 私たちは、日本政府がソンドゥ事業の財政および環境面での調査を行うことを決定したことを歓迎します。そして事業が、国際的に認められた会計監査会社とケニアの会計監査院の両面から公正な監査を受けることを願っています。このことは即ち、日本国内の納税者のお金が正当に使われているのか、事業が一般のケニア国民および納税者に利するものであるのかを入念に調べ上げることを意味します。

 私たちはさらに、ケニア電力公社の汚職体質を象徴するような何百万円もの最近の財政スキャンダルについても、独立機関による会計監査が為されることを願っています。

 地域の産業振興 Affected Communities Economic Development

 ケニア電力公社および事業者は、地域の産業振興においても大きな役割を果たさなければなりません。例えば、地域の協同組合のために工事で使った備品・施設などをそのまま残していってはどうでしょうか。

 小規模農家や小売業者への回転資金の提供、また起業家への融資につながるような基金を影響地域に設置することも重要です。さらに事業によって生計の途を失ってしまった川船業の人たちにも地域での雇用機会が優先的に与えられるべきです。

 最後に、住民やNGOスタッフに対して今もなお続いている脅しや嫌がらせについても言及したいと思います。これは、いかに事業を理想的に進めるか、という視点のうえでも重要なことです。

 例えば前回のキスムでの技術委員会(2001年8月13〜14日)の際には、NGOから参加している委員の一人が「これ以上論争となるような問題を委員会に持ち込むなら、制裁を加える。」との脅しを受けました。さらにNGO連合のソンドゥ事業担当であったアーウィング・オデラ氏は、度重なる脅しや暴力により過度の命の危険にさらされ、ついには国外に脱出せざるを得ませんでした。

 私たちはこうした脅しや嫌がらせが、本事業における人権に関する記述を汚し続けていることを声を大にして主張したいと思います。

 今回皆さんが事業地を訪問され現在の進行状況を確認することを、私たちはたいへんうれしく思っています。しかしいっぽうで、地元住民との会談や、特に火薬倉庫が置かれていることで事業による悪い影響を受けているカサイェ地区、そして余り訪問がされないオディノの滝などへの訪問の時間も、最大限取っていただけるとありがたいのです。

● オディノの滝・文化地区 Odino Falls cultural site

私たちは、議員団の皆さんに地域の文化・宗教的聖地であるオディノの滝を、ぜひ訪れてほしいと願っています。このオディノの滝に関して、以下の点を指摘したいと思います。

▲ 地下トンネルへの川からの分水は、間違いなく滝への流水量の減少を招きます。常に滝の流量を一定に保つ上での、精密な調査研究を行いそのうえで堰での取水量を決めるべきだと考えます。さもなくば自然文化財としての滝が失われるだけではなく、同時に滝がつくる貴重な生態系をも失われることになるからです。

▲ また、ケニア国立博物館側がオディノの滝周辺を保護地域に指定しようとの動きもあります。これは地区で最近化石が発掘されたことによるものです。しかし、もし滝が破壊されてしまえば、これも意味をなさなくなります。

▲ もしオディノの滝が守られたなら、近い将来ここをエコツアーの拠点として地域の振興を図れる可能性があります。これは現在、構想段階です。

▲ さらに重要な点として、オディノの滝に関することは大変神聖な事項として、地域住民にとってはこれを外部の人間に話すことはタブーとされている、という側面があります。これは、住民たちが滝を「祖先の神霊が住まうところ」と信じているためです。

▲ そして上流の集水域に位置するマウ森林がこれ以上破壊されたとしたら、オディノの滝ばかりではなくソンドゥ事業そのものも危機にさらされるでしょう。

それゆえ、私たちはこの問題を最重要課題のひとつとして位置づけ、社会・人類学などの専門家がその解決に取り組むべきである、と常々主張してきました。今回の皆さんの訪問が、こうした問題に終止符を打つことを、私たちは期待しています。

事業が開始される前からの約束事項であった地元住民への様々な補償とサポート、そして環境影響調査や社会経済的な回復処置が、工事が終了する前までに実行されなかったとしたら、これは事業を善意で迎えた住民たちとケニアの国民すべてに対する重大な裏切り行為となることは、間違いないでしょう。

ありがとうございました。

NGO連合

アフリカ気候ネット
事務局長 グレース・アクム

 

 

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