ケニア円借款案件(ソンドゥ・ミリウ水力発電事業)
衆議院・外務委員会 ODA調査団報告会

    →→衆議院外務委員会による調査議員団の派遣について
    →→調査議員団に対する日本のNGOの要望書(2001.08.28)をみる
    →→調査議員団に対する現地NGO連合体の覚書(2001.09.03)をみる

    →→衆議院外務委員会での政府答弁(2001.09.18)

    ■「衆院外務委員会 ODA調査団報告会」に参加して

     とき 2001 927日(木)

     ところ 衆議院第一議員会館

    報告したのは土肥隆一氏(民主)、下村博文氏(自民)、土田龍司氏(自由)、桑原豊氏(民主)の4名の国会議員。参加者は50名ほど。多くが国際協力銀行職員、外務省職員、そして与野党の国会議員だった。

    NGO・一般からの参加は、私たち含め5名。まず冒頭に視察団の各議員からの挨拶と簡単な報告がなされた。

    特徴的だったのは「実際にはダムではなく、環境影響も低い」点を強調したことと、「政治的思惑が賛成・反対の動きの中に入っている」と報告したこと。そしてその後、()日本工営の迫田至誠氏(ソンドゥ・ミリウ開発事務所長)による事業説明が行われた。

     

    コンサル会社現地所長からの説明

    現地の写真を用いて行われた迫田氏の説明は、なかなか分かりやすいものだった。しかしそこには、何とか事業を正当化し問題を最小限に見せようとの思惑が見える。

    例えば、環境配慮の点についてまず迫田氏は「発電は流れ込み式であり、日本の大正時代にもあったもので、環境にやさしい」と語った。

    確かに今回のソンドゥ事業で造られている“取水堰”は、ダム高18mの小規模なもの。大型ダムに比べれば、ずっとローインパクトだ。

    とは言え河道を遮断し取水する以上、下流の流量は確実に減少する。回遊魚の魚道は断ち切られるし、生態系だって変化する。運用の仕方によっては深刻な影響も生じうる。やはり「川は流れてこそ川」なのだ。

    さらに「木を切らずに残して工事道のほうを変えた」り、工事排水処理のための中性化プラントを設置しているなどの「環境配慮」について解説。

    また地元の小中学校や教会が建て替えられ、完成後は取水堰と橋が併用されるといった「住民メリット」を強調した。

    そして1月の「住民対話集会」で事業継続が支持されたこと、地元の「長老会」から13千人分の推進署名が提出されたことを報告。「住民は事業を歓迎している」ことをアピールした。

     

    報告に対する私たちの側の質問

    私たちは今回の報告に対し、次の6点を質問した。

    ::

    1 事業の実行可能性

    …水源である上流の森林で伐採が進んでいる。このままでは事業そのものが無意味なものになるのでは?

    2 重債務国ケニアの返済能力

    …ケニアは債務削減の対象国になっている。そんな国に新たな借金を背負わせても大丈夫? ローンを返ってくる保証はあるの?

    3 「技術委員会」の妥当性

    …問題解決のために設置された事業の技術委員会。でもNGOサイドからは、委員会は有効に機能しておらず、改善の必要がありとの声が出ている。

    その声にどう応えるの?

    4 事業の会計監査

    …不正な入札、汚職が発生していないかなど厳格な会計監査を導入し明らかにすべきでは?

    5 社会配慮の視点

    …人権侵害は依然として報告されてるし、立ち退き住民たちの生活再建のめども立ってない。いくら学校を建て替えても、生活できなければ学校にも行けないのでは?

    6 ODAの管理体制

    …NGOからの指摘がないと問題点が表面化しない。ODAの質を高めるための自浄装置として、もっともっとモニタリングやフォローアップの体制を整えるべきでは?

    ::

     

    質問に対する国際協力銀行や議員の回答は、必ずしも充分ではなかった。

    国際協力銀行側は、債務問題についてこう答えた。

    「ケニア政府は、債務削減を要求しないとたびたび明言している。ODAにはリスクがつきもの。地元の電力会社が電力を売ることによって日本からの借款を返済していくわけだから、これは確実だ」

    これに対し、フリー・ルポライターの横田一氏が反論。

    「フィージビリティ・スタディなどで返済計画も組まれ、収益率も相当なものと見込まれているというが、実はかなり大ざっぱなものではないか。日本道路公団などと同じで、机上の計算のような当初の計画どおりに行くことのほうが少ない。本当に確実なのなら、それに関する情報をすべてオープンにすべきだ。」

    横田さんの質問に対し、充分な答えは返ってこなかった。国際協力銀行は、年間約2兆5千億円もの資金を運用する世界最大規模の金融機関。これは世界銀行の運用額にも匹敵する。

    しかしその職員数は世界銀行の約1万名に対し、わずか約900名。その差は歴然だ。しかも環境・社会配慮に関わる職員数の割合は、さらに低い。個々の事業を、現地の住民や日本の納税者の視点から充分にチェックしモニターしうる態勢にないことは、否めない事実だろう。

     

    ”技術委員会”の問題については、こう答えてきた。

    「昨年11月の、NGOからの申し入れに沿って設立されたもの」「事業者および有識者、住民とNGO代表をも委員に含めた実に画期的なもので、日本でも聞いたことがない」

    しかし実は、この技術委員会に似たものは日本の公共事業にもある。ダム計画などに際して置かれる「審議委員会」がそうだ。こうしたものは地元の首長や議員、有識者などで構成され、事業の是非や在り方について議論する場となっている。

    もちろん事業に疑問を持つ市民グループの代表が審議に加わることもあるが、往々にして事業推進側の人物が委員の多数に選任されることが多く、「住民参加」を装いながらも結局はダム推進の“お墨付き提供機関”になることが少なくない。

    NGOが指摘するように、ソンドゥの技術委員会も様々な改善を行わなければ当初の目的である「民主的な話し合いと実効性のある提言」を達成することはできない。ぜひ、この辺り国際協力銀行側にも技術委員会の実質的な中身を、きちんとチェックしてもらいたい。

    また、NGOが述べている「技術委員会の委員長が、事業者であるケニア電力公社側の人物によって担われているため、公平性に欠ける」との問題については、「それはNGO側の勘違いだ。委員長をしているのは第三者の学者。問題はない」と議員たちは発言した。

    しかしそれこそ彼らの勘違いだ。実際には委員会の幹事(セクレタリー)を務めているのがラファエル・カピヨ博士であり、委員長(チェアマン)は電力公社側の人間が務めている。

    現地に赴任している(株)日本工営の迫田氏(いまは“休暇”で帰国しているのだそうだ)は、住民の状況について「年1度コカ・コーラを飲めるか飲めないか」「生徒も先生も教科書を持っていない」「必要なのは、仕事と現金と飲み水」「その日を生きるのにせいいっぱい」と報告した。

    参加していた上田清司議員(民主党)は「みんなハッピーで、それ行けドンドン、という空気になっているのでは。本当に住民は手放しで事業を歓迎しているのだろうか。水が必要なら、井戸を掘ることのほうが発電所建設よりも重要ではないのか。」と発言した。

     

    第U期融資への「布石」としての調査団

    最後に土肥団長は「今回の報告はあくまで報告であって、この事業を推進するとかしないとかに今後私たちが関わる、という意味ではない」と述べた。しかし議員団訪問を報じたケニアの英字紙によると、彼は現地で「今後、事業への支援のため衆議院議員および日本の納税者を説得する。」と発言したとされている。

    今回の調査団報告全体の感想として、調査した議員団とコンサル会社、そして国際協力銀行との間で、すでにソンドゥ事業への融資継続の方向に持っていこう、とのシナリオができているような印象を受けた。その意味で、今回報告会を一般参加OKとしたのは、NGO・市民との意見交換も充分行っているとの「実績」を作りたかったのかも知れない。

    調査団のひとりだった鈴木宗男議員(自民)は、この日報告会には出席していなかった。だが彼も現地で「この事業の完成を願っている。そして技術委員会報告を尊重し、賛同の意を表したい。」と述べたと報じられている。

    調査団が、実際に事業の工事現場を視察したのは、わずか4時間。NGOメンバーとも対談したとは言え、これだけの訪問で事業内容を客観的につかんだとは言いにくい。さらに結局住民たちとの直接の接触は無かったと聞く。現地を案内したのも、今回報告した(株)日本工営の迫田氏だ。彼はもちろん、今回の事業の推進者のひとりである。

    またNGOの主張の多くを「政治的な意図があり、間違ったものも多い」と断じた主張にも問題がある。元国会議員がNGO連合のメンバーにいるのは確かだが、だからと言ってNGOの主張すべてを「選挙運動だ」として切り捨ててしまうのは、あまりにも乱暴ではないだろうか。

    このソンドゥのケースは、日本のODAの“質”を問うひとつの事例としてたいへん重要な意味を持っている。立ち退き住民への補償や、人権問題などまだまだ解決されない課題も多い。第U期融資を決定する前に、考え直さなければならない事項が、いまだ山積していることを、外務省および国際協力銀行は認識するべきだろう。

 

  →→このプロジェクトに関するトップページに戻る