ケニア円借款案件(ソンドゥ・ミリウ水力発電事業)
ソンドゥ・ミリウ水力発電プロジェクトとは?
1.
ソンドゥ・ミリウ水力発電所について
プロジェクトの概要:
ケニア西部キスム地方のビクトリア湖に注ぐソンドゥ・ミリウ川に建設されている水力発電用ダム(60MW,
30MW×2基、流れ込み式発電所)。ケニア電力公社が日本工営にコンサルタントを委託して事業計画が進められている。
本事業に対して1989年から2度にわたって国際協力銀行による円借款供与が行われており、鴻池組、ベデッカ、マーレー&
ロバーツの合弁会社KVMが工事を受注している。総工費は約200億円。1999年3月に工事が始まり、2003年完成予定。ケニア政府は影響を受けるのは約600世帯、190ヘクタールとしているが、実際にはソンドゥ川流域の20万人以上が事業によって影響を受けることになる。土地の収用や補償はケニア電力公社が担当している。
1985年には国際協力事業団(JICA)の支援によって本事業のマスタープラン「ソンドゥ川多目的開発計画」が策定されており、本事業は最優先事業として位置づけられている。
|
ケニアの地図
|
|
2.これまでの経緯
1985年 |
JICAの支援によって「ソンドゥ川多目的開発計画」マスタープラン作成。
|
1989年10月 |
ソンドゥ/ミリウ水力発電事業への技術協力(E/S)に6億68百万円の借款契約(部分ア
|
|
ンタイド)に調印。
|
1995年12月 |
ケニア政府より水力発電事業への円借款要請。
|
1996年 |
旧海外経済協力基金(現国際協力銀行)は審査団を現地に派遣。旧海外経済協力基金
|
|
の環境ガイドライン初版(1989年10月)に照らして審査し、借入人側が行う環境上の所要の措置等を確認。
|
1997年3月 |
水力発電事業の第1期分(土木事業の一部およびコンサルティング・サービス)に69億
|
|
33百万円の借款契約(L/A)に調印。
|
1999年3月 |
建設工事開始。
|
1999年8月 |
ケニアはHIPCイニシアティブを適用しない(債務削減の適応を受けない)との申し出が
|
|
あった。
|
1999年9月 |
第2期分への日本政府による借款供与についての「事前通報」。
|
2000年11月 |
パリクラブでケニアの延滞債務についてリスケジュール(10年の債務の繰り延べ)が決定。
|
2001年1月 |
第1回 プロジェクトサイトでの住民集会開催。技術委員会の設置。 |
2001年7月 |
第2回 プロジェクトサイトでの住民集会開催。技術委員会報告書作成。 |
2001年8月現在 |
第2期分への借款供与についての交換公文(E/N)の締約を検討中。
|
3.指摘されている社会・環境問題点
●
川の流量変化による社会・環境影響:
・ソンドゥ川から取水すると、その下流10kmは乾季と少雨季には現在の水量の1%弱となってしまう。流域生態系及び地元住民への影響は多大なものとなることが予想される。
|
|
・飲料水や家畜、漁業などのためにソンドゥ川を利用している地域の住民が、水力発電事業による川の流水量変化について知らされていない。
・川の流量変化により川に生息する魚や、魚の遡上など河川生態系にどのような影響があるのか十分な調査が行われていない。
・祖先の神がやどる神聖な場である「オディノの滝
」の保護策が検討されていない。
→→『オディノの滝の伝説』(地元活動家の報告)をみる
|
●
上流の森林破壊による水源確保の問題
・現在、モイ大統領によりソンドゥ・ミリウ水力発電事業の上流、ソンドゥ川の水源地帯であるマウ森林で大規模な移住計画が進められており、マウ森林の伐採が進んでいる。マウ森林の開発がこのまま進めば、ソンドゥ川の水源が破壊され発電に必要な水量が十分に確保されない可能性が大きい。
● 立ち退き等に伴う補償の問題:
・ 地元住民に代替地を選択する余地はなく、土地の買い上げ価格(45,000Kshs=約112,500円)は新しい土地を買うのに十分な金額(60,000Kshs=約150,000円)でないなど、不当な立ち退きが進められた。
・ 土地を失った農民たちに適切な生活補償は行なわれておらず、工事現場での雇用も優先されているわけではない。
●
工事現場での雇用・労働条件の問題:
・工事現場での組合の結成は硬く禁じられており、組合を結成するとすぐに解雇される。
・立ち退きなど事業によって直接影響を受ける人々、地域からの優先的な雇用が進められておらず、特に直接影響を受ける人々からの雇用は4〜8%にすぎない。
・工事現場のガードマンの給与(2,000Kshs/月=約5,000円/月)はケニアの最低賃金3,367Kshs/月(=約8,400円/月)を下回るなど、賃金が非常に低く押さえられている。
● 工事に伴う地域環境への影響:
・工事現場へのアクセス道路周辺の粉塵被害によって、子どもの喘息や肺病、工事現場近くで働く女性が片目の視力を失う、家畜が視力を失うなど深刻な事態が起こっている。
・工事の汚水が地域住民の農地に流れ込み土壌汚染が進んでいる。また、家畜が畑に溜まった工事の汚水を飲んでおりその影響が心配される。
・トンネル工事の開始後、涸れることはなかった小川や泉がすっかり涸れてしまった。このため飲料水や家畜に飲ませる水、畑の水も遠方まで汲みに行かなければならなくなった。
・工事現場へのアクセス道の整備は地域住民にも役立つだろうと住民は土地を提供したが、これらの道は地域住民に役立つどころか従来住民が使っていた道を破壊してしまった。
・特定の地域で大量の砂を採取したために土壌荒廃が進み、農地に適さなくなった。
● 保健衛生の問題:
・アクセス道での埃など工事に伴う健康被害が深刻で、環境アセスメント報告書でも事業に伴う水系伝染病やマラリア等の増発の恐れが指摘されている。
・トイレの汚物の回収も行っている同じタンク車で、アクセス道での埃を押さえるための水撒きを行っている。
● 汚職の問題:
・土地への補償金支払いの際に、土地所有者の一部の土地を土地所有者が全く知らない別の人に貸し出していたことにして、補償金の一部を借り手の名義で騙しとるというケニア電力公社による汚職が告発されている。
・ケニア電力公社の職員が雇用紹介の際に不当な仲介料を徴収している。
● 地元住民、NGOスタッフへの人権侵害:
・2000年12月26日、NGOのメンバーの一人、アーグイング オデラ氏が許可なくプロジェクトサイトへ立ち入ったとして暴行を受けた上に銃で撃たれて逮捕され、拷問を受けた。彼はその後留置所を転々とさせられ、7日間家族や弁護士との連絡も許されなかった。
・ 2001年1月24日の住民集会で工事現場での不当な解雇について発言した地元住民は、会場の外で数十人の若者にナイフで襲われた。若者達はケニア電力公社に雇われていたとの報告が地元住民から為されている。
・日本政府関係者、NGOなどに問題を指摘しないようにとのケニア電力公社による地元住民への脅しが続いている。
4.円借款供与における問題
@
社会・環境問題が指摘されている中で、円借款を供与することに問題はないのか。
A
事業の必要性、妥当性、正当性についての検証、評価は十分になされているのか。
必要性:時のアセス、計画アセス、社会的必要制、財政への影響など
妥当性:環境影響評価、土地利用との整合性、環境への影響、安全性
正当性:行政手続き、適正手続き、情報公開、関係者の参加、合意形成
B
ケニアは拡大HPICイニシアティブ適用が可能な国であり、かつ2000年11月のパリクラブで債務繰り延べが決定済み。また、干ばつの影響により経済状況の悪化、政府の能力にも問題もある。こうした国に新規の借款を供与して返済の見込みはあるのか。
結
論
|
@
継続案件ということにとらわれず、事業の必要性、妥当性、正当性について再度検証、評価を行ったうえで、事業への融資を再検討する必要がある。
A
ケニアの中長期的な経済発展に資すためには、債務削減がいいか、新規円借款供与がいいか、十分な分析をすべき。
|
|