わたしたちも関係している「食料主権」のお話 ~FoEアジア太平洋地域の森林・生物多様性グループ会議に参加して~
2017年8月5日と6日にパプア・ニューギニアで開催されたFoEアジア太平洋地域の森林・生物多様性グループと食料主権(food sovereignty)グループの合同会議に参加しました。この会議ではFoEインターナショナルにおいて共通課題として取組まれている「森林・生物多様性問題」と「食料主権問題」に対して、FoEアジア太平洋地域における重点活動項目等に関して議論する場です。
FoEアジア太平洋地域では、上記2つの問題に共通する課題として、大きくは森林火災問題(より具体的にいえば火災による煙害の問題)と土地収奪問題(land grabbing)に着目しています。そしてその解決の方向性として、FoEインターナショナルでは、コミュニティによる森林管理・経営(community forest management / governance)と生態系に配慮した農業(agro-ecology)との二つのコンセプトを支持しており、FoEアジア太平洋地域でどう取組むのか議論・検討をしました。
FoEグループが重要課題として捉えている「食料主権」。実は私もよく理解しませんでしたが、今回の会議でその理解が少し進みましたので、以下に報告します。
まず「農業」は英語でagricultureと表現されます。それをagri based culture(文化に根ざした農業)と読み替えることもできるかと思います。つまり、その土地の気候、風土、文化、慣習に適した作物、品種、栽培方法が存在している、ということです。また文化に根ざした農業を営むのは、その文化に慣れ親しんだその土地の人々が中心となっているものであり、そこには周辺環境や生態系に適応した彼らの文化・慣習に基づき蓄積された知見や技術が存在しています。世界中に存在する多様な文化の数だけ農業の形が存在している、と考えることができます。
この考え方と正反対なのが、工業的農業(industrial agriculture)です。大規模農業、プランテーション、モノカルチャーといった表現が一般的かも知れません。収量や効率性を重視し、農薬/除草剤、化学肥料なども投入することで、とにかく大規模に同品種の作物を栽培します。
ところが工業的農業の導入による「文化に根ざした農業」への負の影響は計り知れません。例えば、政府によって工業的農業に適した種子を保護するための法規制が敷かれたり、種子を認証する制度が導入されたりすると、従来使用していた種子が使用禁止になってしまうこともあります。工業的農業の作付面積を拡大するために、企業や政府、地元の有力者や政治家などが、土地所有者に対して契約農業を推奨し、文化に根ざした農業から工業的農業への転換を迫ります。こうした契約において詐欺や土地所有者に不利益な内容での契約が横行しており、土地所有者は農業労働者へ転落していきます。いわゆる土地収奪です。さらに工業的農業の用地拡大の対象は既存農地に限らず、人々の生活の糧を育む森林にも及びます。この森林の用途転換は森林火災の一因でもあり深刻な問題になっています。
したがって、工業的農業の導入・普及により、世界は徐々に「食糧選択の自由」が失われる傾向にある、ということなのです。「食糧主権」とはこうした背景を表すキーワードなのです。
工業的農業について興味深い資料があります。Friends of the Earth Europe (FoEE)、La Via Campesina、Radio Mundo Realが製作した動画ですが、これによると、世界で消費されている食糧のうち工業的農業によって生産されている食糧は、世界の75%の農地を使用しながらもわずか20%にしか過ぎません。80%の食糧は家庭菜園や小規模農業によってわずか25%の土地を使用して生産されています。
https://www.facebook.com/foeint/videos/10155308383245280/
工業的農業の品目は、食用としてサトウキビ、茶、カカオ、コーヒー、バナナ、大豆、とうもろこしなど、非食用のうち工業用としてアブラヤシ、天然ゴムなど、家畜飼料用として大豆、とうもろこし、青刈作物、牧草、かぶ、さつまいも、じゃがいもなど、バイオ燃料用として、サトウキビ、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、てんさいなどが挙げられます。
私たちも日々の生活の中で嗜好品や食肉の消費や工業製品の使用を通して、こうした生産物を消費しています。他人事ではありません。(三柴 淳一)