環境問題と社会正義を考えるユースキャンプ
7月にYonug Friends of the Eearth Europe(FoEヨーロッパのユース。FoEヨーロッパから独立して活動しているユース団体)のサマーキャンプがあり、FoEJapanから深草が参加しました。
YFoEEは、イギリス、ノルウェー、キプロス、ドイツ、スイスなど様々な国から参加者が集う若者ネットワーク団体です。参加者は10代後半から20代後半にかけての若者で、目安としては27歳頃までがユースと呼ばれるようです。学生はすべてボランティアで参加しています。
基本的な活動として、決まったテーマ(食料問題、気候の公平性、生物多様性)でワーキンググループを作り、キャンペーンやイベントなどを行なっています。普段の会議は基本的にスカイプ(ネットを使った通話サービス)で行なっていますが、今回の夏のキャンプなど、年に2・3回はヨーロッパのどこかに集まり、対面の会議、アクション、イベント等を行っています。
余談ですが、EUの組織やヨーロッパの国の多くは若者の総合的な支援を担う省庁があり、中でもドイツの省庁は、インターンやボランティアをする学生にお金が入る仕組みを設けています。今回のキャンプもEUなどの資金援助を受けて開催されており、学生個人の金銭的負担はとても小さくなっていました。
私が参加したのは、近年毎年行われている、若者向けのスキルアップのためのキャンプです。今年はスコットランドで行われました。
私は、ひとりのユースとしてスキルアップを図ること、そしてFoE JAPANの一員として日本でもFoEの活動に若者をもっと巻き込むためにどうしたらいいのか学ぶことを目的に1週間のキャンプに臨みました。
ワークショップの始まりはジェンダーやレイシズムを学ぶこと
最初のセッションのテーマはDiversityとEquity(多様性と公平性)でした。
このワークショップには2つの側面があると感じました。
①環境問題への取組は一部のエリートが行なっている社会運動にすぎないという批判や、生活に余裕がある人がボランティアや社会活動を行なっているのではないかという意見が聞かれます。これらはほぼ誤解だと思いますが、一方で、今回のようなワークショップへの参加を検討する際に、ある程度の英語能力や経済的基盤がないことを理由に参加を見送る若者が多いことも事実だと思います。
このことを踏まえ、1つ目の側面として挙げられるのは、既に存在する社会構造のなかで、自覚の有無に関わらず自分がどれだけの特権を待っているのか、自分やその仲間が起こそうとしている環境のムーブメントを「自分たち」だけのものにしないためにはどうしたらいいのかを常に考えることが重要であるということです。これらを考えるためには、社会的構造の中から生まれてくる差別の問題、ジェンダー、レイシズムの問題に目を向けなければならないという意識から、多様性と公平性のワークショップが行われていました。
②2つ目の側面は、環境問題が単なる自然環境上の問題のみに留まらなくなっており、社会が抱える様々な問題と作用し合い、負の効果を増幅させ合っていることです。
気候変動が難民を生んだり、経済的・社会的基盤が弱い地域に廃棄物集積所建設や放射性廃棄物投棄が行われたり、貧困層が十分な食料や農地を確保できなかったりすることは、差別構造や貧富の格差がより一層拡大することにつながります。
少ない資源を巡って部族同士の争いがおきたり、本来は異なった責任を持つはずの先進国と途上国の両方に同じ価値を押し付けたりすることも、時に乱暴で正義に反します。
どのような気候変動や環境問題のムーブメントを作り上げていくかを考えるためには、この2つの側面を踏まえ、公平性や正義、ジェンダーなどの視点を取り入れ、学び、活動することが大切だというのが最初のセッションのメッセージだったように思います。
特権と責任
前述の①のトピックに重なりますが、特権(恵まれた立場)についての意識も重要です。
privilage(特権)のアクティビティでは、様々なバックグラウンドを持つ参加者が、ある部分では特権を持ち、ある部分では持たないという事を可視化していきました。
例のひとつに、ムスリムの人の食事が挙げられました。ムスリムの参加者は、自分の国では特権を持っているといえます。自分の国ではムスリムは多数派で、それゆえ社会の様々なデザインがムスリムの教えや生活に合わせてできているからです。食事に関しても不自由なくハラールの食事を選ぶことができます。一方で、スコットランドのようなムスリムが主流派でない国では、ハラールの食事を入手しにくいのが実情です。これは、ムスリムでない人が自分の心情や好みに合った食事を手に入れる事が容易であることとは対照的です。このことから、スコットランドではイスラム教徒は特権を持っていないと言えます。
また、ジェンダーに関しての例も挙げられました。ほとんどの場合、トランスジェンダーの参加者は、自認するジェンダーに合致した公衆トイレが見つかりません。私の場合は、自分を女性であると感じ、生物学的にも女性であるので、安心して使えるトイレがたくさんありますが、そうではない人は不自由を感じているということを考えさせられました。
参加者は、アクティビティの中で沢山の質問と向き合うことで、自分が持つ特権がなにかに気付いていきました。今まで目に見えていなかったけれど、自分が自然と享受していた特権を意識するようになったのです。
こうした意識は自然と、自分に課せられた責任を考えることへとつながっていきました。それは、自分たちが活動するときに使う「私たち」と言う言葉に、一体誰が含まれているのだろうか、と言う問題意識にも発展していきました。
学びを実践に活かす
これまでのアクティビティでは、社会構造や目に見えない差別などに目を向けてきました。こうしたことを意識しながら、いよいよ、気候変動問題にどう取り組んでいくべきか、気候変動や環境破壊がどのような社会問題を引き起こしているのかを考えていきました。
今回のワークショップでは、実際に地元の問題について学び、アクションを起こすところまで行いました。取り上げられたのは石油産業を中心として発展してきた、エディンバラ、グラスゴーに次ぐスコットランド第三の都市・アバディーンです。まずは、FoEスコットランドから地元の状況についてレクチャーを受けました。
アバディーンは私たちがキャンプを行った場所から車で1時間程度のところにあります。アバディーンは北海油田に由来する石油産業が盛んで、過去40年間、街の経済や生活のすべてが石油で回ってきたと言っても過言ではありませんでした。
しかし、この状況は近年になり一変しました。石油価格の下落などにより、2014年以降に6万5千人の雇用がイギリスの石油・ガス業界から失われたのです(https://www.theguardian.com/uk-news/2016/jan/23/aberdeen-once-rich-oil-city-now-relying-on-food-banks)。当然、石油産業に依存するアバディーンの人々も無関係ではありませんでした。街の基幹産業が弱体化しても、生活コストは減少するわけではありません。従前と変わらない生活コストを強いられた結果、今まで石油産業で生計を立ててきた労働者が貧困に陥っているケースもあります。
キャンプに参加しているメンバーの立場では、気候変動の観点を踏まえ、石油燃料からの脱却が必要であると言う見方は変わりません。ですが、アバディーンの実情と未来の方向性を捉えるとき、アクティビティで身につけた視点は今までの自分たちにはなかった新しい着想をもたらしました。その上で、コミュニティと環境にとってどのような変革が必要なのか、どのようなメッセージを伝えていけばアバディーンの人々とともに社会を変えていくことができるのかをディスカッションを通して考えました。そして実際に、「(コミュニティための)持続可能な雇用と(環境のための)持続可能なエネルギー」を達成するため、「JustTransition(公平な変革)」を求めて、アバディーンの石油ロビー会社の目の前でデモも行いました。
★まとめ:多様性と正義 〜「何を」ではなく「どうやって」〜
世の中には様々な問題がありますが、すべてを同時に取り組むことはできません。何か1つの問題に取り組むときに、その背景にある様々な力の問題、特権の問題、歴史、格差や貧困などを理解せずしては問題の本質を見失うのではないかと感じることがあります。原発の問題や、気候変動の問題、辺野古の問題もそうではないでしょうか。
問題を問題として取り扱うとき、「何を」という視点にばかり気を取られがちですが、「どうやって」その問題を取り上げるか、ということが重要です。それが「どうやって」その問題を解決に導くかの重要な糸口となります。
社会問題への取り組み方も、さまざまに変わりつつあります。差別やジェンダー、格差の問題に取り組むことが、環境問題への取り組みの成果となっているかどうか、定量的に判断する事は難しいかもしれません。しかし、問題の背景を的確に掴み、解決を図るには、異なる背景を持つ様々な人々が手を携えることが不可欠です。
社会運動が社会の様々な人々すべてを内包するものにしていくためには、苦しんでいる人や立ち上がろうとしている人々、セーフティネットからこぼれ落ちたり、人権侵害に苦しむ人々と共に活動していくことが重要だと思います。そして、社会全体が多様性と正義、何より民主主義に対してより繊細になっていくことがいつでも大切ではないかなと思います。
こうした気づきと学びを得られたこと、
そして何より、少しでも自分の責任を果たし、目の前の問題に対して取り込んでいこうという若者たちと1週間過ごし、刺激を得られたことは貴重な体験でした。
スタッフ・ふかくさ