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アンブクラオダムとビンガダム (Written by Mさん、65歳)
乾期にあたるフィリピンの3月はかなり暑い。スタディツアー4日目はルソン島北西部ベンゲット州の山間を南流する延長200kmのアグノ川上流へ向かう。1950年〜60年代に世界銀行の融資を受けて建設されたアンブクラオダム(1956年完成、75000kw)とビンガダム(1960年完成、10万kw)の見学は、このツアーのハイライトのひとつである。
ダムの稼動年数は約50年とされている。完成後40数年を経たこの2つのダムの現状は土砂堆積が進行し、アンブクラオダムは使用不能となり、ビンガダムは浚渫を続けながら時々発電していると聞く。今、この2つのダムの下流の小さな村サンロケにアジア屈指の規模となる巨大ダムが建設中(2003年完成予定)だが、上流2つのダムの実態から新たに開発されているサンロケダムに対する提言を持ちたい思いで、暑さとホコリと悪路の山道を、ひたすらアグノ川とジープニーで辿る。
アンブクラオダムは土、砂礫、岩石を台形状に盛り上げて作られたロックフィルダム。40余年経た今、堆砂で底の浅くなった湖面は白っぽく、数隻の筏が浮かび、イサキに似たテラピアの養殖場として近隣の人々に活用されている。発電所も草叢の中に閉鎖されていた。静かな湖面下の土砂は雨期を迎えるたびに下流へと押し出されるにちがいない。偉容を誇るダムサイトのロックも崩れている。更にダム上流へとデコボコ道を20分走り"ここからダムが始まる地点"まで遡って驚いた。樹木もまばらな茶褐色の山肌を蛇行して駆け下りるアグノ川は白く光る土砂に埋まり、三筋ほどの細い流れが青くうねっているだけ。聞きしに勝る河床上昇である。ビンガダムの見学は許可がとれず山道から俯瞰するのみであったが、その中間域も土砂堆積がはっきりと見てとれた。アグノ川周辺の土地は急斜面で岩盤ももろいという。そして多くの鉱山を擁している。とくにビンガダムの下流でアグノ川へ流れ込む支流には大規模な露天掘りが操業中だ。鉱山開発による森林伐採が自然崩壊に拍車をかけている。大量の土砂の廃棄や汚染物質の川への投棄は、新たなサンロケダムへと流入していく構図となる。
この新旧のダムに挟まれたコルディリェラ地方には先住民族のイバロイの集落が多い。サンロケダムの建設により完全に水没するボランギット村も、土砂堆積の影響を受けるとされるダルピリップ村にも我々は民泊してきた。水牛と共に田畑を耕し果樹を育て、砂金採りで自活できた人々の暮らしが今、政府と日本企業のプロジェクトの前に消滅されようとしている。
日本における渡良瀬川の足尾鉱毒被害や天竜川水系の堆砂によるダム撤去を要求するまでになった泰阜(ヤスオカ)ダムの水害など、公害先進国である私達は経験者である筈なので、比国の規制の緩さの隙を突いて利益を得ようとする企業に日本政府が後押ししている真実に目を向けたい。現地で自然の恵みと共に暮らす人々の苦しみを知ることで、必要で、より良い開発を目指す知恵を、市民が手を携えて出し合いたい。
知らないことは加害者であることと、自然を人の手でいじり過ぎてはならないこと、地球のこの大地も大気も水も光もすべて自然からの贈り物として、謙虚に受けとる大切さを学べたツアーだった。
3月19日 > 3月20日 > 3月21日
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