司会 地球の友スタッフ佐野:
地球の友の佐野です。今日はソンドゥ・ミリウ水力発電事業のお話をしたいと思います。資料が2つありますのでご確認ください。現地を訪れた田中優さん、地球の友の松本から報告があります。最初にNHKのニュースをご覧ください。
(NHKニュースの内容)
ケニア政府がソンドゥ・ミリウ水力発電への融資を求めている。外務省は外交上の理由から前向きだが、財務省はケニアの債務問題から融資に消極的だ。世銀・IMFは融資を停止している。ODAの使い方が議論になっている。日本政府は分かりやすい形でODAのあり方を徹底的に議論する必要がある。
佐野:
最近日本政府が現地を訪問し、田中外務大臣が融資に前向きな姿勢を見せています。これから概要を説明します。ケニア西部のソンドゥ・ミリウ川に水力発電ダムを作るプロジェクトであり、日本工営が計画策定、これまで2回の円借款が供与されています。ソンドゥ川のマスタープランはJICAが策定しました。
指摘されている問題点は次のようなものです。流量変化のため、生態系や住民への影響、神聖な滝への影響。不当な立ち退き。工事現場へのアクセス道路周辺の粉塵被害。汚職。NGOメンバーへの銃撃・逮捕事件。社会環境上の問題があるプロジェクトに対して日本が借款を供与するのは正しいのでしょうか。またケニアは昨年11月に債務の繰り延べを受けています。本当にお金が返ってくるのでしょうか。
結論として、事業の必要性・妥当性について再検討が必要ですし、新規円借款か債務帳消しか考える必要があります。
田中: →→田中優さんの講演はより詳しい内容がご覧になれます!
ピースボートのついでにケニアを訪問しましたが、訪問時は危険な状況で、現地訪問が難しい状況でした。これは、田中外務大臣の調査後再検討という発言の後、青木大使が「日本政府はプロジェクトを中止する」という虚偽の情報を流し、現地の人々がNGOに反感を強めていたためです。現在は反対するグループはないと言われていますが、反対と言える状況ではありません。行くかどうか迷いましたが、現地に住むKさんと相談したり報道関係者から情報を集めたりした上で、現地に赴きました。ただし、建設地に近づくことはできませんでした。
問題点についてお話します。埃による被害は、砂利敷きの道路になっていてかなり改善されていました。水の汚染も手抜きが行われない限りは問題にならないでしょう。しかし川の流量変化によって、オディノ滝は確実に半年は干上がることになるでしょう。オディノ滝は、死の直前の人が来世について見に行く場所で、現地の若者は行かない場所です。各月の流量を見ると、乾季は十分に発電できず、下流に水を流すとコスト高になってしまう(イニシャルコストだけでも5.1円/kWh/10年)からです。滝を保護するために水を流すことは、採算上無理でしょう。ダムは流れ込み式で、高さで言うと堰です(16m以下)。
ソンドゥ・ミリウが6万kWの発電を行いますが、途上国の地域では、通常一世帯当たり100wh/日しか必要としません。これを供給するためには、発電所の近くで多くの変電施設が必要となり、効率が悪くなってしまいます。したがって、電気の消費地であるキスムまで高圧で運ばれることになります。これについて青木大使は、「現地の人がコストを負担するのであれば電気を供給する」と言っていましたが、変電施設の資金を調達できるはずもなく、現地には電気は供給されないと思います。
さらに電気消費のカーブには、一般家庭利用と産業利用の二つの消費があり、途上国の家庭需要では夜の照明需要が中心になります。ソンドゥ・ミリウの場合、産業利用が中心になるので、昼間は発電し、夜は貯水することになるでしょう。したがって、オディノ滝に水が流れることはないでしょう。
雇用についてKさんがスワヒリ語で聞くと、一部のコネのある人々が雇用されているだけで、一般の人は雇われていないと言います。また現地の人による市場も訪ねました。ぼられるような市場ではなく、今日とうもろこしを売ったお金で、その週のイモを買うような市場です。あまりお金には縁がないかもしれませんが、とても貧しいという印象はありませんでした。
スライドを見てください。乾燥した地域(ステップ)が続いていて、水力発電をするには水が少ないように思います。ナイロビ周辺はユーカリで緑化されていました。ケニアには大地溝帯があり、そこに湖ができています。企業による放牧。イギリス植民地時代からの茶畑が最大の外貨獲得源です。プロジェクト地近くには日本の国旗や日本工営などの名前が入った看板が立っています。ソンドゥ・ミリウは、ビクトリア湖の地溝帯脇の大地に降る雨を集めて発電するようになっています。東京と同じ降水量があるとされていますが、植生を見ると統計にあやまりがあるように思えます。
これは別のダムですが、同じ流れ込み式のダムで、落差を利用して発電しています。次は北海道のニ風谷ダム、失敗した例です。水位は約10mしかなく、もう砂で埋まり始めています。広大な面積を水没しただけに終わっています。一方これはスリランカのダムで、2000年以上も使われています。土砂を貯めないような工夫がされています。
次はブラジルのダム、砂に埋まって発電ができなくなり、街では停電が続いています。世界銀行の援助で作られており、世界銀行や援助した各国に責任があります。通常はV字型の谷をせき止めて水をためるのが通常です。この長野県のダムは、既に砂に埋まっていて、砂を全て浚渫しようとしています。砂を取って売っている業者がありますが、焼け石に水です。全部浚渫したとしても、再び10年ほどで土砂に埋まるでしょう。世界で最も短命だった記録は中国のダムで、1970年にできて72年に砂で埋まりました。日本でダムを作ろうとしているのは清流ですが、ソンドゥ・ミリウの水は泥だらけですから、水の流れを止めた場所ですぐに泥が堆積して、ダムを埋めてしまうでしょう。この写真では水がありますが、水が少ないときはもっと流量は少なくなります。ソンドゥ川の周辺の人々は生活をこの川に頼っています。またこの地域では、土壌の流出を防ぐ等高線農業を以前から行っています。水が東京ほど降るならこのような農法は行わないでしょう。これは街の様子です。今、アフリカのサハラ以南の地域ではHIV/AIDSが深刻な問題となっています。人口の20%が感染者だといいます。最後の写真ですが、これが電気の供給されるキスムの町の写真です。後ろはビクトリア湖。このあたりは最も開発が遅れている地域だと言われています。
私自身はこのプロジェクトは中止するべきだと思っています。まず発電コストが高すぎます。また他の発電方法があるのに、なぜこの方法をとらなければならないのでしょうか。『ネパリ・タイムズ』の記事によれば、ネパールでは数kW規模の小規模水力発電が全国で1000以上稼動しています。この小さいものは毎秒5リットルの水量で発電できるといいます。日本も水力発電機を援助しましたが、結局地域に根付かずに使われなくなっています。現地の人々のイニシアチブと、適正な規模の技術が普及の秘訣なのです。
ケニアでは国内メーカーが風力発電を作っています。また太陽光発電も売られています。京セラも現地で太陽光発電を売っています。この地域は水が少なく、水力発電に向きません。またダムは次第に土砂に埋まってしまうでしょう。したがって、水力より風力や太陽光を利用するべきです。太陽光はまだ高いですが、風力はコストが非常に安くなってきています。記事によれば、昨年原発20基に相当する風力発電所が世界に建設され、そのコストの最低は3.7円/kwhです。先程の5.1円よりはるかに安く発電を行うことができる可能性があります。したがって、水力ではなく他の発電方法を採用するべきでしょう。また家庭需要向けでは、より小規模で地域分散型の発電方法の方が効率が良くなります。
それ以上に問題なのは、ケニアの社会状況に合っていないことです。ケニアは重債務国であり、日本は中でも最大の債権国です。債務返済がGNPの10.5%に達しています。また通貨も下落しつづけています。社会指標を見ても、平均余命なども悪化しています。
日本は二カ国間ODAの3分の2が貸し付けです。これは、郵便貯金などによる財政投融資資金を利用しているためです。IMF・世銀が債務を返済させるために行ったのが「構造調整プログラム」です。これは、国の仕組を調整し、借金返済を優先させる政策で、通貨の切り下げ、福祉・教育・医療などの政府支出削減、換金作物への転換の推奨などを行わせます。この結果、国は貧しくなり、平均余命は下がり、乳児死亡率は上がることになります。ブラジルでは外貨を稼ぐために小麦やとうもろこし畑が大豆に変えさせられ、人々の食べるものが作られません。通貨切り下げで穀物輸入も困難で、栄養不足が深刻化しています。これは構造調整プログラムを受けている国、約百カ国共通の問題です。
ケニアでも同様で、例えばケニアでは外来患者の一部負担が構造調整プログラムによって導入され、外来患者が52%減り、負担がなくなると41%患者が増加しています。これを解決するため債務帳消しが議論されています。ケルンサミットでは2カ国間ODAの全額帳消し、ODA以外の債権の90%帳消しが決まりました。ところが、日本政府が決めた放棄額は、全体9000億円の債務の内4000億円だけでした。これは、ビルマ、ケニア、ベトナム、ガーナ各国が免除を受けるのを放棄したためでした。日本政府は「各国が債務救済を求めなかった結果」としていますが、NGOは「日本政府が不当な圧力をかけている」と見ています。
各国では債務帳消しを求めて運動が繰り広げられています。ナイロビでは合法的なマーチを行おうとしたにも関わらず、機動隊が襲いかかり、63人が逮捕されました。腐敗した政府はいますぐに金がほしいので、債務帳消しに反対しているのです。
ケニアでは250万人がHIVに感染していると言われていますが、AIDSの治療薬は高価で、一般の人々が手に入れることはできません。
現在ケニアは70億ドルの債務を抱えています。この上さらに新たな債務を抱えても、ケニアが返済することは不可能でしょう。一次産品の国際価格は下落したままですし、工業化しても、最大の市場であるアメリカは、軽工業の輸出自主規制を途上国に対して押し付けてきます。また途上国ではタダ同然の古着があふれていて、繊維関連の産業が伸びることができません。その結果、ケニアの抱える債務は返済されることはないでしょう。このような国にさらに200億円もの金を貸し付けることは間違っています。債務問題、発電方法のオルタナティブなど、トータルに見てこの援助は行うべきではないと考えています。
佐野:
ありがとうございました。ここで会場より質問を受け付けたいと思います。
質問者:
アフリカで水道関係の仕事をしています。今後反対を続けプロジェクトをやめさせるためにどのような活動を予定しているのですか。
質問者:
アジア太平洋諸島の水環境に関心があります。ケニアでは生活用水用のダムが必要だと思うが、考えられないのですか。
田中:
雨水を貯めて利用するとか、森を作っておくとか、他の方法を考えた方がいいと思います。ダムで貯水するとどんどん蒸発し、アメリカでは海に出る前に海水より塩分が高くなってしまっています。ケニアも半乾燥地ですから。
質問者:
乳児死亡率が上がり、就学率が下がっています。長期的な利益が考えにくく、ビジネスパートナーとして疑問があります。経済的に見ておかしいと思います。
田中:
援助は本来無償であるべきです。日本の税収は限られており、財政投融資からの金を貸しています。外務省は「返ってくると思って貸していない」と、これまで言ってきました。まるでポケットマネーのように返ってこないつもりで金を貸してきたのです。90年まではタイド援助中心で、日本企業のための援助でした。今でもJVという形で案件の80%に日本企業が関わっており、日本企業のために援助が行われています。
質問者:
円借款の議論でよく聞くのが、グラントだと被援助国に甘えが出る、円借款は自助努力につながると言っていますが。
田中:
日本の円借款の最大の借り手はインドネシア=スハルトで、第3位がフィリピン=マルコスでした。これらの国への援助が自立につながったでしょうか。答えは明瞭だと思います。
質問者:
事業に国民は反対しているのですか? 情報提供で状況を変えることはできないのですか。
田中:
まだケニアの人々はダムに幻想を持っており、反対派はごく少数です。現在のところ、みなダムの問題にそこまで興味を持っていません。
質問者:
200億円の援助ですが、6万kWというのは高いのかそれとも安いのでしょうか。5.1円と3.7円を簡単に比較できるのでしょうか。
田中:
コストはイニシャルコストを10年で割っているだけですから推定です。通常の水力発電と比較すると建設費が高すぎます。途上国の多くでは日本のコストの2分の1から3分の1で建設が可能なのに、このプロジェクトは日本並のコストがかかっています。
質問者:
中国の三峡ダム建設のことを大学のサークルで勉強していますが、現地では120万人という規模で移住が行われています。日本ではダムを見直そうという動きだが、日本政府のあり方に問題があると思います。具体的に開発機関や政府に対し何を訴えていこうとお考えですか?
田中:
三峡ダムは世界で3番目に土砂の流入が多い。土砂捌けを作ったが、ダム湖は640kmの長さがあり、排砂は不可能です。中国はダム大国です。今サミットで議論されているのは、地球温暖化に貢献するプロジェクトや、巨大ダム開発には金を貸さないということですが、アメリカの反対でつぶれそうです。日本は世界銀行以上のお金を貸し出しており、貸す側の責任が問われるべきです。日本もガイドラインを作るなどが必要でしょう。
地球の友スタッフ松本:
地球の友ジャパンでは、昨年12月、住民集会に参加した現地の記者が拘留されて以来取り組んできました。国会議員を通じた働きかけも行い、政府も真剣に対応するようになってきました。参議院と衆議院で3回ずつ国会質問を行い、田中外務大臣は慎重に検討すると言いました。1月に現地集会が行われ、問題解決のためのステークホルダー(利害関係者)が参加しての技術委員会設置が決まりました。日本政府はこの委員会で問題点を解決していくことができるとの立場です。しかし、債務、ダムの持続性など大きな問題は残ったままです。
第1期工事で堰とトンネル建設が終わり、第2期では水を戻す部分と発電所を建設することになっています。工事は日本の円借款が決まらないためストップしています。国会の審議を受けて、6月に外務省有償資金協力課長が現地を訪問し、地域住民が条件付でプロジェクトへの支持を表明しました。私が悩んでいるのは、地域住民がプロジェクト継続を要請している中、日本での反対を続けるべきかという点です。NGOへの圧力がかかっていますし、債務問題を認識しているNGOもあるが、現在は問題を解決しながらプロジェクトを進めていくという立場です。
まだ多くの問題が残っています。債務の問題。返ってくるかどうか分からないお金を貸すのか。もう一つはオディノの滝です。有償資金課長が確認できないと言っています。
それと汚職の問題。小学校を2校建てるのに6億円以上かかっています。しかしこれは日本政府の融資と直接は関係ないため、問題ないと政府は言っています。現地の一大国家プロジェクトに対して反対するのは極めて困難です。実際に問題が起こった際に、住民の声を聞く体制がケニア政府にあるのでしょうか。様々な影響緩和策はケニア政府の資金で行われるため、実際に実施されるのか不明です。また森林保護の問題も出ています。技術委員会で全ての問題が解決できるのでしょうか。
今後ですが、問題解決のために努力していきたいと思っています。今後どのような対応がありえるのか、皆さんの意見をお聞きしたいと思います。
会場:
ソンドゥ・ミリウの件では2つほど行動しました。連休中団体内の人から説明を聞きました。田中さんの説明で抜けている点があります。1つはなぜまだ円借款が決定していないか。理由はケニア政府が債務を返済できていないこと、国会で取り上げられたことです。技術委員会に関する住民からの申し入れを尊重するよう、162人2団体の署名を集めて担当課に伝えました。もう一つは、公共事業チェック議員の会で取り上げている。気にしている人がいるということが外務省に見えることが重要だと思います。モザンビーク水害の件で外務省に会いに行ったが、1000人の署名があれば無視するわけにはいかないと言われました。プロジェクトとしての有効性があやしいダムにお金をつぎ込むのはやめようというのが正しいと思います。もう1回第三者が入って調査を行うことが必要でしょう。地域の問題はあるけど、日本ではオルタナティブが見えないと運動が難しい。連絡先を集約することも重要でしょう。
質問者:
松本さんにお聞きします。今度JBIC(国際協力銀行)とNGOの協議で新しい環境ガイドラインが作成されるが、ソンドゥ・ミリウプロジェクトにうまく適用できるのでしょうか。
質問者:
田中さんに質問です。動いている水、特に泥水を止めると、様々な問題が出てきます。プロジェクトをやめさせるとお金が焦げ付くが、棒引きするしかないのでしょうか。担当者はエリートだけで言われたことを鵜呑みにしているのだろうが、このお金をどうするか、オルタナティブはあるのでしょうか。松本さんへ、現地のNGOをたくさん作って、問題点を知らせていく必要があると思います。
会場:
コンサルティング会社で働いています。今日の話で一番感じたのは、現地に行った人が報告し、情報を提供していけば、立場を超えて関心を共有し、やっていけるのではないでしょうか。今日は非常に参考になりました。
松本:
JBICは日本輸出入銀行とOECF(海外経済協力基金)が1999年10月に合併してできた機関ですが、これまで始まってしまったプロジェクトについて、止めることができずに悔しい思いをしてきました。このプロジェクトは始まる前に影響緩和策が検討されましたが、何一つとして実現していません。こうした問題はこのプロジェクトに限られません。合併を機に、情報公開や住民との協議を義務付けた国際的な水準の環境ガイドラインを策定させるよう活動してきています。また環境ガイドラインに向けた研究会では、モニタリング、契約に融資の停止を書くこと、住民がJBICに問題を提起できるメカニズムなどを提案しています。今後このような問題が起こらないよう何をできるか、皆さんと考えていきたいと思います。
田中:
スリランカのダムを見てきました。日本のゼネコンが受注し300億円以上がつぎ込まれましたが、まだ1滴の水も溜まっていません。土壌が悪く、穴があくとダムが一気に決壊しかねないので水を溜められたとしても危険になります。こうした日本のODAプロジェクトが山ほどあります。ただ、今回のソンドゥ・ミリウについては、ダムが埋まるかどうかは、水の滞留時間によるのではっきりは分かりません。
債務については、やはり免除するしかないでしょう。今回の件では、既に76億円融資し、これから106億円を融資する予定です。この追加融資はやめるべきでしょう。
様々な人が立場を越えて話し合うことはとても重要だと思います。今日の話がその一つになれば嬉しいと思います。今後も皆さんと連絡をとっていきたいと思います。
佐野:
こうしたODAや国際援助の問題は、官僚や専門家、役人だけに任せきりにせず、私たち自身、市民の手でチェックしていきたいと思います。ぜひ今後もご協力をお願いいたします。今日はありがとうございました。
→→配布資料「ケニアの抱える問題点」をみる
→→配布資料「ソンドゥ・ミリウ水力発電プロジェクトとは?」をみる
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